第5話 現実に存在しない物
「そういえば、二人は何か食べたの?」
配給のところに居なかったけれど、他の場所でも配給があったんだろうか。
転移してきたタイミングは同じだろうから、何も食べていないかも知れない。
「食べる……」
「お腹が空いたことがないからぁ、食べるのも楽しみだよ~」
「不便にしか思えません」
まぁ、食べる必要があるのは不便かも知れない。
生き物が活動する根源的な問題とも言えた。
「これから、また街に行って情報収集してくるからぁ、お金を手に入れてぇ、それで何か買うのかなぁ?」
「マスターは食べたのですか?」
アイが心配そうに聞いてくる。
「助けてくれたところで配給があったから、それを食べたよ」
「良かった。今の自分たちでは、食糧を手に入れることが難しいので」
火を起こすことが出来るなら、狩りとか山菜を採ってくる手もあるけれど、ちょっと危険だ。
毒のある植物や、危険な生き物のことを何も知らない。
「お金があればなぁ、何かいい手はないのかなぁ……マスターにはホテルに泊まって欲しいし」
「そうですね、そうできればそれが安全ですが、野宿するならば街が一番危険でしょう」
足を引っ張ってしまっている……でも、どうすればいいか思い付かない。
「あれ……待って」
そこであたしは、アイを見てひとつ疑問に思う。
そういえば……。
「どうかしましたか?」
「アイの持っている銃って、どこから手に入れたの?」
フォルムとしては、映画やアニメに出てきそうな銃で、現実にこんな銃は存在しないだろう。
弾丸が飛び出す穴が六角形だし、何か赤外線のような光線が出るのもおかしい気がする。
「そうですね……」
アイとマイが二人で顔を見合わせている。
どちらが説明するか、どう説明するか、そんな目配せをしているんだろうか。
「マスター。現地のマフィアや兵士などが、やっきになって転移者を統制しようとしています」
「うん、あたしも見たからわかるよ」
兵士達は、転移者から物を買い取ろうとしていたし、配給を行ったりもしている。
マフィアというか、ごろつきも何かを探しているようだった。
「転移する際、何かひとつを持ち込めるようで、現地人はそれを利益にしているようです」
「さっきマスターに話した通りだよねぇ」
「うん、それで、あたしは二人を連れてきたんだと思う」
「銃や車などを持ち込んでいる者を見ましたが、超常的な力を持ち込んでいる者もいるようでした」
マフィアが探していたやつなんだろうか。
超常的って、どんな力なんだか。
「超能力がOKな時点でわかるかもなんだけどぉ、これって、現実に存在しない物でも持ち込めるみたいなんだよぉ」
「え……?」
現実……この場合、地球のことだけど、存在しない物でも持ち込める?
「マスター。持ち込める物は現在過去未来、それも宇宙的単位で持ち込めるようなのです」
「どういうこと?」
「試してないからわからないけどぉ、きっと宇宙船でも持ち込めちゃうと思うんだよねぇ」
「宇宙船!?」
「どうしてそんなことがわかるのかと言いますと……」
二人はどこからとも無く変な物を取り出した。
アイは、支えなくても角で立つキューブのような物。
マイは、宙に浮かんでいる、不定形の水銀みたいな物。
「自分は、未来のアイテムが詰まったキューブのような物を」
「マイは、異星人のアイテムが詰まった空間を」
「持ってきました」
「持って来ちゃった」
「…………」
そんな滅茶苦茶な……。
でも、これも……何となくわかるような気がした。
これは、きっと……あの、過去の改ざんが拙かったんだと思う。
過去の改ざん……そう、あたしは過去の改ざんという、恐ろしいことをした経験があった。
明日(8/5)より1話ずつ投降していきます。
よろしくお願いいたします。