第1話 知らない街中で
初めまして、この作品が初投稿となります夕綺柳と申します。
いたらない点もあるかと思いますが、よろしくお願いいたします。
「あれ……?」
目が覚めると、そこは見たことのない街の中だった。
いくら女子力が低いとは言え、卒業した高校のジャージ姿で街中に立っているのは恥ずかしい。
18年間、ファッションにこだわった記憶はないけれど、だからと言ってなんでもいいというほどには割り切れていないのだ。
「それにしても……」
ここは一体どこなんだろう?
あたしは、ベッドで寝ていたはずなんだけど、いつの間に起き上がったのか。
靴は……去年買った自分の靴を履いている。
「夢遊病……かな……?」
もう結構日が高い。
朝……という時間帯では無さそうだ。
「時間は……わからない」
いや、問題なのはそこじゃないだろうと、自分に突っ込みそうになる。
「…………」
ちょっと……いや、かなり変わっている街並みだった。
少なくとも、今までに見た覚えはない。
ぶっちゃけ日本と言うよりも、どっかの外国みたいなところだ。
周りを行き交う人はたくさんいるが、外国人がとにかく多い。
というか、ハロウィンの渋谷みたいなコスプレをした人もたくさんいた。
「取りあえず、交番を探そう」
見た限りでは、近くに交番はない。
縁日の出店みたいなところで、串焼き肉を焼いている人に声をかけてみた。
「すみません、この近くに交番はありますか?」
肉を焼いていた外国人のおじさんは、あたしの方をチラッと見る。
何とも言えない表情だけど、言葉が通じていない可能性もあるな。
「ここは日本じゃないよ、だから交番もないんだ」
少し寂しそうに、おじさんは呟いた。
良かった。言葉は通じている。
「日本じゃない?」
日本語を話しているクセに、おじさんは変なことを言っていた。
自慢じゃないが、日本から出たことは一度しかない。
だから、ここは日本だと断言できる。
「僕は、日本に住んでいたアイスランド人だけど、ここは日本でもアイスランドでもないよ」
「おー、アイスランド! オーロラが見えるんですよね! 世界初の女性首相の国!」
あたしは、友達が極端に少ない。
でも、ひとりぼっちが好きなわけでもないのだ。
友達を作る努力をしたこともあったけれど、上手く行ったことはなかった。
だから……外国人なら友達になれるかも知れないと思って、色々な国の情報を集めたりしていたのだ。
「オーロラは小さいものならよく見られるよ……君は日本人だよね」
「はい、そうです」
おじさんは、難しい顔をしながら肉を焼き続けている。
何か言いたそうだけど、それはため息に変わってしまっていた。
「君は、ずいぶんと出遅れてしまっている」
出遅れている?
なんの話だろう。
「少し心配だけど、僕は店を離れることができない」
「おおっ、さすがアイスランド人は親切です! イエース、イエース!」
「すごく心配ですね……」
おじさんは難しい顔を、更に難しくしてため息をついた。
「外国人には関わらない方がいいですよ、メチャクチャしています」
「外国人って……」
通りには、たくさんの外国人が行き来している。
メチャクチャはしていない。
「ああ、ここの現地の人の事じゃない、アメリカ人とか色々いるだろう?」
「平気ですよ! あたし、外国人に詳しいですからね!」
海外の反応とか、日本すごい番組とか、ちゃんとチェックしている。
浪人しちゃってるけど、大学に合格したら留学生の友達を作る予定だ。
「…………」
でも、おじさんの心配そうな顔に変化はない。
正直に言うと根拠の無い自信だと思うけど、多分大丈夫だよ。
「起きていることを理解するために、見ておくと良い場所があります」
「見ておくと良い場所?」
意味がわからなかったけど、あたしは素直に、おじさんが教えてくれた場所に向かってみた。
「なにこれ……」
木の板で作られた大きなボードが、街の広場にいくつも並んでいる。
それは、探し人のメモがところ狭しと並べられている大きな伝言板だった。
名前が書いてあり、ここに連絡が欲しいとメッセージが付けられている。
誰々が無事です、誰々を探しています……。
そんなことが書かれたメモで、伝言板が埋め尽くされていた。
「…………」
日本語じゃ……ない?
見たことのない、象形文字のような記号の羅列だ。
なのに……知らない文字のはずなのに……全て読める。
「これって……」
街を歩いている鎧を着た人や、魔法使いみたいな人はコスプレじゃない。
この伝言板は、はぐれてしまった家族や恋人を探しているものだ。
ここは日本じゃない。
というか、多分地球ですら……。
「…………」
ごくりと、唾を飲む音が重く響く。
あたしは……どこか、違う世界に迷い込んでしまっていて、それはあたしだけじゃなく、もっと広範囲に行われていて、それで……。
「ここで……みんなで、生きていかないといけないんだ」
本日は三話分を投降いたします。
よろしくお願いいたします。