四人、意見の同一を果たす
互いに自分語りを終えた後、四人は示し合わせた様に雑談を開始した。
「……しかし、あんたみたいな獣人族って魔物にも似たようなの居るよな。アレってあんた達的にはどう見てるんだ?」
「……どう、と言われてもな……。
『人狼族』である当方としては、外で『人狼』に遭遇した処で只の敵である、としか見ておらぬのだが……」
「別段、同族、って訳でもないんでしょう?」
「失敬な!?それは、当方らにとってはかなりの失言に当たるぞ!?
そなたとて、似たような身体的特徴を持っているから、と言う事で『淫魔』と同じ様なモノだと扱われるのはごめんであろうよ!?」
「…………あ、うん、それは最悪だわ。悪かったわよ……」
「…………まぁ、貴女の場合、一部が明確に異なるので、間違われる事は無いかも知れませんが……」
「……あ゛?テメェ、今なんつった?お゛??
テメェが種族的にあり得ない位にデカイだけで、アタシの年頃ならコレが普通だって言うんだよ!?むしろデカイ方だってんだ!!
あれか?さっきの意趣返しか?おぉん??」
「さて、なんの事でしょうか……?
それと、私の場合、貴女と同じ様な年頃の頃には既に今と大差無い大きさにはなっていましたよ?ウフフッ♪」
「…………コロス、ゼッタイニオマエダケハコロス……!」
「……あら?良いのですか?私であれば、何を食べていたりだとか、どんな運動をしていたのかだとかを経験則として知っているので、的確……かどうかは保証しかねますが、取り敢えずのアドバイス位は出来ますよ?
何せ、こうして実績が在りますので♪」
…………タッユン……!
「…………お、お姉さまーーーー!!」
「……この手の話題に野郎が入らない方が良いって言うのは、自身の経験から理解しているけど、流石にチョロすぎないか?タチアナのヤツ。
あと、個人的にはタチアナも十分なサイズ感が在ると思うんだが……?」
「……当方としても、その意見には同意だ。
そして、女性と言うモノは、常に同性とは張り合いたい生き物だと承知しておく方が良かろう。特に、自らには無いモノを持っている相手には、だ。
そして、個人的な意見を述べるのであれば、当方としてはタチアナ穣がもう少し成長してくれると、割りと好みの体型になると思われる」
「……じゃあ、セレンとかに迫られたら断るのか?」
「それはそれ、と言うモノよ。当方とて男。しかも、まだ枯れる程には年を食ってはおらぬ故に、特定の相手が居なければその手の誘いに応じるのに否やはせぬよ」
「……総受けする男って、アタシあんまり好みじゃないんだけど……?」
「英雄色を好む、とは申しますが、流石に手当たり次第に見境無く誘われるがままに、と言うのは些か好ましくは思えませんね……」
「…………こう言う時だけ団結するのね、あんたらって……」
そんな風に雑談を続けていると、付けていた注文が各自に運ばれて来る。
追加のつまみや酒の他にも、シメとしての皿や甘味までもが運ばれて来ていたが、注文したハズの四人の誰もがそれらに手を付けようとはしていなかった。
……むしろ、そうして皿が運ばれて来た事により、それまで暗黙の了解として避けていた話題が、一斉に四人の口に昇る事になる。
「…………さて、こうして注文が来た訳だが、あんたらに一つ言いたい事が在るんだが、良いかな?」
「……うむ、当方は構わぬよ。
と言うよりも、当方にもそなたらに言いたい事が在るのでな。それを聞いてくれると言うのであれば問題ない」
「あら、奇遇ですね。私からも、皆様にお伝えしたい事がございましたの」
「…………まぁ、そうね。アタシも、別に良いわよ。
もっとも、アタシはアタシで言いたいことは在るし、多分それはアンタ達のソレと同じだろうしね」
「…………じゃあ、答え合わせも兼ねて一斉に言ってみるか?」
「意義なし」「えぇ、良いですよ」「構わないわよ」
「なら、行くぞ?せーの!!」
「あんたらを追放したパーティーメンバーって馬鹿じゃねぇの!?」「そなたらを追放したパーティーは愚か者しかおらなんだのか?」「皆様を追放なされたパーティーの方々は、まだ無事にいられるのでしょうか?」「アンタ達を追放したパーティーメンバーて余程の馬鹿か、もしくは目が節穴だったんじゃないの?」
「「「「………………いやいやいやいや……!」」」」
全員が全員、それぞれの言葉で各自が語った来歴に対しての感想を述べたのだが、全員が全員即座に否定する言葉を口にする。
それは一見他の面々の言葉を否定し、自らの苦労こそが最大のモノである、と主張したいのかと思われるかも知れないが、実際の処としては真逆のモノだと言っても良いだろう。
「いやいやいや!俺なんかが抜けた処で、あいつらがどうこうなるハズが無いだろう!?
むしろ、役割的に考えればほぼあいつらと被りつつ在った俺と違って、ほぼオンリーワンだったあんたの抜けた穴の方がデカ過ぎるだろうよ!?
ドラゴンやジャイアントの一撃を防ぎきる盾役?
そんなの、一流の盾役だとしても不可能に近いぞ?ソレを追放した?なに考えてんだそいつら?」
「……いやいや、当方は確かに硬いが、言ってしまえばそれだけに過ぎない。むしろ、他にも同じ様な事が出来る者は多く居るハズだ。
それに、あまり意見を否定したくは無いが、役割の重要性、希少性を言うのであればセレン嬢の方が該当性が高い。
蘇生術すら行使を可能にする回復役なのだぞ?それを、似たような事が出来るから、と後から来た者を優遇するとは愚か者の所業と言わざるを得まいよ。
まぁ、当方としては、そもそも似たような事すらも出来るのかどうか疑問に思っているのだがね」
「いえいえ、そう言って頂けるのは大変嬉しいですが、あくまでも私は只の回復役でしかありません。それに、私に出来る事は『聖女』であれば、他の誰でも出来るハズの事でしか在りません。
他の方々が傷付かなければそもそも出番が在りませんし、何より軽度のモノであればパーティーの方々は皆様習得されておりましたので、あのパーティーでは私の重要性は然したるモノでは在りませんでしたから。
むしろ、重要性や希少性を言われるのでしたら、タチアナ様の方が余程でしょう?
天より賜った職の枠の内側に在りながら、それでも自らの特色を出すだけでなく、更に有用性すらも示して見せるのですから、私よりも余程優秀と言えるのではないでしょうか?」
「……いや、アンタ頭大丈夫?さっきと人格変わりすぎてない?
てか、優秀とか言うのなら、アタシよりもそっちのアレスの方がより優秀で重要でしょうよ?
元々素質の低いハズの『探索者』から上級職の『暗殺者』にまで上り詰めた事だとか、最低の『剣術』と『魔術』から始めたにも関わらず今では『剣王術』に『大魔導術』?有り得ないでしょうよ!
おまけに、明言はしてなかったけど、冒険者にとっては必須のスキルはどうせ一通りは習得してるんでしょう?その上で誰もが嫌がって見て見ぬフリをする雑用にも全般的に対応出来るなんて、そんな万能性『有り得ない』通り越して『頭おかしい』レベルよ?少しは自覚した方が良くない?」
「「「「いやいやいや!!!」」」」
基本的に罵倒されたりするだけで、時折掛けられる褒め言葉も上部だけで言われているのが丸分かりだった四人にとって、互いに掛けられている言葉を受け入れる事が出来ずに思わず否定してしまう。
しかし、全員が全員、自ら以外の能力は凄い事だ、と言う事を認めた発言をしていて、そう思って言っている事を言われた側の方も理解してしまっている為か、徐々に羞恥や気恥ずかしさ回り始めた酒精やらで顔を赤らめて行く四人。
常日頃から幼なじみ達に役立たずだと罵られて来たアレス。
後先考えずに突撃するだけの弟とヒステリックな婚約者に挟まれて疲弊していたガリアン。
信頼していた仲間と組織にアッサリと掌を返されて全てを失ったセレン。
努力の全てを無駄な事だと断じられて棄てられたタチアナ。
そんな四人だからこそ、他の面々が本気で自身の事を評価し、まだ話をしただけに過ぎないのに認めてくれているのだと言う事が、否応なしに理解出来てしまっているのだった。
……それ故だろうか。
多少の気まずさを含んだ沈黙が支配していたテーブルに、彼がこんな言葉を追加で落としたのは。
「…………なぁ、俺から、あんたらに提案が在るんだけど、良いか?
ここに居る面子でパーティーを組む、って言うのはどうだ?
俺達、割と似たような境遇だから、少なくとも暫くの間は仲良く出来るんじゃないかと思うんだ。
それに、能力的にも、他のパーティーなら大黒柱として中心に居て然るべき、みたいな面子ばかりだ。そんな面子でパーティーを組んだら、面白い事になるとは思わないか?」
アレスからの言葉に、思わず固まる三人。
しかし、その次の瞬間には、程度の違いは在れども三人揃って、悪戯を思い付いた子供の様な笑みを浮かべて行く。
「…………成る程、確かにそれは良いな。当方としても、この場限りの出会いにしておくのは勿体無いと考えていたから、その提案は大賛成だ。
今回は、他の面々も能力的にも人格的にも信用できそうだし、どこまで行けるか楽しみにしてみるのも一興、と言うモノよ」
「……あらあら、随分と急で強引なお誘いですね。でも、私個人としては中々に魅力的なお誘いです。
私としましても、皆様とはこれっきり、と言うのは些か寂しいと思っておりましたので丁度良いですね!それに、皆様となら、辛い事の多い冒険者家業も楽しめそうですしね♪」
「……まぁ、毛むくじゃらと耳長の意見と同じなのは気にくわないけど、確かにこの面子と組むチャンスを逃すのは惜しいわね……。
前衛も兼ねた万能遊撃に、ガチガチの前衛盾。ある程度攻撃もこなせる回復役と、各自を支援する後衛のアタシ、か……。案外と、バランス取れてそうなのよねぇ……。
……よし、決めた。じゃあ、アタシもアンタ達と組む事にするわ。だから、間違っても棄てたり裏切ったりするんじゃないわよ!」
その返事を聞いたアレスは、無言で笑みを浮かべながら、中身の残ったジョッキを掲げる。
すると、他の三人も彼の意図を読み取って理解し、同じく笑みを浮かべながら、そのジョッキに自らのソレをぶつけ合わせるのであった。
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