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『追放者達』、未調査区域を探索する

 



「……そう言えば、リーダー。今回当方らが引き受けた二階の調査だが、この階層はほぼ未調査との話であったが、どの程度は探索されておるのだ?流石に、この周辺位は終えているのであろう?」




 階段を登りきり、以前と同じく隊列を組んで探索を始めようとした時に、最後尾に着く予定のガリアンがアレスへとそう問い掛ける。



 これからどの程度探索を続ければ良いのか、最低どの位は探索しなければならないのか、と言う事は気になって当然の事では在るし、他のメンバー達も気になっていたらしく、口を挟む事も急かす事もせずにアレスへと視線を集中させる。



 アレスとしても、その辺の説明はするつもりだったのか、アイテムボックスから渡されている資料と配布された未完成のマップを取り出して捲り、内容を確認して行く。




「…………あーっと、取り敢えず、この階段付近は探索出来て無くもない……みたいな感じ、かな?

 んで、二階の極一部だけはマップにも起こされてるけど、コレはあんまり当てにしないで良いと言うか、あんまり考えなくても良いかな?」



「……あっ、オジサン分かっちゃったかも。

 その『判明している極一部』って、オジサン達からリーダーに伝えた情報を元に書かれた部分なんじゃないの?」



「オッサン大正解~!

 ……で、そんな事情も在りますんで、ほぼ何にも分かってないのが現状かな?」



「え、えぇ……?何ソレ、ヤバ過ぎじゃないの?」



「まぁ、割りと難易度が極悪級に近いかも?

 あ、それと、分かってる事が一つ在ったよ。この辺に仕掛けられてるトラップだけど、どれもこれも一撃で即死して塵しか残らない位の火力が在る上に、下手をすれば斥候職の連中ですら気付かずに引っ掛かるレベルの隠蔽が掛けられてるみたいだから、一応注意しておいてね?

 下手しなくても、死にかねないから」



「…………なぁ、当方持病の仮病でお腹が痛くなってきた故に、退散させて頂いても良いかな?」



「……あ、アタシも!なんか、急に生理来ちゃったみたいだから、アタシも帰って良いかな?良いよね!?」



「……はいはい、正直言えばオジサンも帰りたいけど、そうも言ってられないでしょ?

 ナタリアちゃんも、自分も乗っかった方が良いのかな?とか、どんな言い訳なら冗談だと受け取って貰えるかな?とかで悩まなくても良いからね?この二人も、半分は冗談のハズだから」



「……ここは、ボクも言っておくべき場面かと思ったのですが、違うのです?」



「まぁ、君が言うと冗談に聞こえ難い、って言うのも在るのは否定しないけどね?

 でも、オジサンの知ってる冒険者って言うのは、こう言うヤバそうな場面でこそ下らない冗談を飛ばして、ソレをくそ下らない!と笑い飛ばして精神的な均衡を保つモノさ。

 だから、ある程度なら参加しても構わないんじゃないのかなぁ?多分だけどね?」



「ちなみに、本当に体調が悪いのなら早めに申し出ておけよ?

 何処にトラップが在るか知れない様な場所で催したくは無いだろう?

 少なくとも、俺は何時自分の尻の下でトラップが炸裂するのか知れない様な場所で、ズボンを下ろして気張る様な真似はしたくないし出来る程に肝が太いつもりは無いからな?」



「えぇ、その通りかと。

 言って頂けさえすれば、大概の事であれば治して差し上げられますよ?

 まぁ、ソレが仮病の類いであれば、少ぉしばかり痛い『お仕置き』を受けて頂く羽目になる、かも知れませんけど、ね?」



「「……あ、やっぱり気のせいだったみたいなので、大丈夫です!」」



「ふふふ、ならば良いのです。えぇ、良いのですよ?」




 口許を隠して上品に笑って見せるセレンだが、その雰囲気と目が笑っていなかったので、半ばふざけて仮病を申告したガリアンとタチアナ以外のメンバー達も、『仮病は使わない様にしよう』と固く心に誓っていた。



 そんな、半ば殺伐とし始めていた空気を変えるべく、アレスがわざとらしく手を打って音を響かせる。




「……はい!その話題はここまで!

 取り敢えず、探索を開始するぞ!隊列はさっきも伝えた通りに以前のままで!その代わりに、今回は足元に十二分に注意を払う様に!

 ……それで、右側の通路と左側の通路、どっちからが良い?」



「……両方行くのは確定なのね……」



「一階と同じ様な造りになっているのであれば、こちらも最終的にはここに戻ってくる事になりそうではあるが……」



「なら、右側の通路からにしておくかい?

 一応、前回オジサンとタチアナちゃんとで通った道だから、途中までなら地図が出来ているんじゃないのかな?

 それに、解除の仕方までは分からなかったけど、一応発動したトラップの位置と種類、後は発動条件くらいなら覚えてるから指摘する位の手伝いは出来ると思うけど?」



「あら?でしたら、そちら側から始めた方がよろしいのではないでしょうか?」



「なのです!ボクもそう思うのです!」



「ふむ?なら、そうするとしようか」




 そんな訳で、『追放者達(アウトレイジ)』のメンバー達は、ヒギンズとタチアナが数日前に爆走した方の通路を、彼らとは逆走する形で辿って行く。



 半ば専門家と化しつつあるアレスによる先回りしての罠探知と、実際に経験して見切りを済ませているヒギンズによるアドバイスにより、当時とは異なり鼻歌でも歌える程に安定かつ安全に探索を進めて行く。




「あっ、ソコの床にスイッチが仕掛けられてるから気を付けてよ?発動するとドカンッ!と行くからね?」



「もう解除してあるから安心しなされ」



「じゃあ、そっちのは?」



「ソコはこれからだけど、一応気付いてはいたぞ?

 アレでしょ?壁に動きを感知する仕掛けが在って、それに連動して天井から何か降ってくるってトラップのヤツでしょう?」



「…………あぁ、アレね……。

 正直、アレが発動した時は生きた心地がしなかったわよ……」



「…………案外と、苦労したのだな。そなたも……」



「……案外と、ってのは余計よ。

 と言うか、そう言う言い方をするってことは、アンタも……?」



「…………あぁ、そうだな。リーダーが居らぬが故に、当方の頑丈さにかまけて耐えきる、世間的には『漢解除』と呼ばれるモノをする羽目になって、な……」



「……アレは、背後から見ている事しか出来なかったボクが言うのも烏滸がましいかも知れないのですが、中々壮絶な光景だったと思うのです。

 実際、あの日の夜は、あの時の光景が夢に出て来て夜中に飛び起きたのです……」



「まぁ……!

 それは、さぞや辛く厳しい道のりであったのでしょうね……。

 私は、ガリアン様の決断と行動に、ただただ感服するだけでございます」



「……いや、その様に讃えられる様な事では無く……それに、急にその様に言われても、その……困るのだが……」



「……これは、失礼を致しました……」



「……ふふっ、大丈夫なのですよセレンさん。

 ガリアンさんは、急に誉められて照れてるだけなのです。そうなのですよね?」



「………………ノーコメントで……」



「……ふふっ、可愛い♥️なのです♪」



「……いや、確かに安心してくれて良い、とは言ったけど、背後でイチャコラされると気が散って仕方無いんだけど?

 それに、ここダンジョンぞ?危険地帯真っ只中ぞ?良くそんな余裕が在るな、おい?」



「そうそう、仲の良いのは良いことだけど、そろそろ完全に未調査の区画に入って行くから注意してよぉ?

 お喋りに夢中で突然現れた足元の仕掛けに気が付かずうっかり踏み抜いて全滅、みたいなオチはオジサン勘弁願いたいからねぇ」



「流石に二回もしないわよ!!」



「……えぇ~?本当にござるかぁ~?」



「……ぶっ!?」「…………ふ、ふふっ……」「……ぷすっ……!」「なははははは!こりゃ一本取られたね!!」



「むきぃーーーーー!!!!」




 前科の在るタチアナの言動に対し、半ばふざけて返したアレスの突っ込みにより、メンバー全員に笑いが伝播して行く。



 それにより、知らず知らずに溜まっていた精神的な疲労が押し流され、全員が心持ちを新たにしながら未調査区域に挑む事が出来る様になるのであった。















「……まったく、俺の功績の為とは言え、俺以外の男とあんなに楽しそうに会話するだなんて、コレは後でお仕置きが必要かな?

 待っててね、直ぐに迎えに行って上げるから、さ。まぁ、まだ名前も知らないけど、それは深い仲になってから聞き出せば良い事だし、別に大丈夫だよね。クククッ!!」






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