『追放者達』、分断される
「……しかし、ここがダンジョンだって事は確定みたいだけど、大した魔物も宝物も出てこないな……」
「まぁ、そこは仕方在るまい。この様な街中に出来たダンジョンだ。元々発生する原因となった魔力溜まりもそこまで大きくは無かったであろうし、何より状態が状態であったが故に、碌に中へと踏み込む者も居なかったであろうし、大した規模でも無いのであろうよ」
「……聞いた話によりますと、確かダンジョンとは周囲の澱んだ魔力溜まりや内部で亡くなられた方々を糧に成長してその規模を拡大して行く、と言う事でしたか……?」
「アタシが聞いた話だと、ダンジョンの中の宝物の類いって、そうやってダンジョンに喰われた連中が遺したモノだとか、ダンジョン自体が造り出したモノをわざと置いておくんだってさ。
本当かどうか知らないけど」
「わざと置いておく、なのです?」
「それは、擬似餌ってヤツだねぇ。ソレを餌にして、冒険者だとかみたいに、お宝目当ての連中を誘い込もうって考えなのかもねぇ。
ほら、オジサン達だって、魚釣りだとかをするときは、ミミズだとか糸屑から作った餌だとかを使うじゃない?それと一緒だよ。多分だけどね?」
暫しの休憩の後、それまでと同じ様な隊列を組んで慎重な足取りで進んで行く『追放者達』。
だが、その雰囲気は決して悪いモノでは無く、最初期から変わらない緊張感を保ちながらも、和やかに会話するだけの余裕までもが生まれていた。
そんな彼らにとって、休憩後の最初の関門であった階段も、既にヒギンズが飛び込んでいながらも特にトラップが発動する様な事は無かったし、戻ってくる時も無造作に降りて来ていたが特に何も無かった為に、一応警戒はしながらも特に仕掛けられてはいないのだろう、と言う前提で進んで行く。
しかし、彼らに油断は無く、慎重かつ大胆に進んで行き、例の踊り場まで何事も無く到達した。
そして、それまでと変わらずにアレスがスキルを発動させ、周囲にトラップが無いかどうかを探りつつ踊り場から二階部分へと繋がる階段へと足を掛けたその時であった。
突然、彼の背後、具体的に言えば隊列中央付近に罠察知と危機察知の両方が反応を示し、彼の脳裏に警鐘を鳴り響かせる。
「……不味い!時間差出現型のトラップだ!全員そこを動くな!!」
「……へ?って、うわぁ!?」
咄嗟に警告の声を挙げたアレスだったが、時既に遅かったらしく、隊列中央にいたタチアナが気の抜けた声を挙げると同時に、全員が収められてしまう程の巨大な魔法陣が彼らを中心として展開されてしまう。
「……くっ!?これは……転移トラップ!?皆、誰でも良いから、近くにいるヤツと手を繋げ!分断されるぞ!!」
「何!?くそっ!!
ナタリア嬢、こちらに!!そなたらも当方の近くに寄るのだ!!」
「あぁ、もう!なんでこんなダンジョンに、そんな面倒臭いトラップがこんな嫌らしい形式で仕掛けられているのかなぁ!?
タチアナちゃん!オジサンに掴まって!!」
一瞬だけとは言え意識に空白を作らされてしまったアレスだったが、瞬時に立て直して展開された魔法陣を読み解き、どんなトラップが発動しようとしているのかを解析する。
それにより、展開された魔法陣は転移系のモノであり、内部に掛かったモノをダンジョンの内部にランダムに転移させる、と言う効果であるらしい事が見てとれる。
故に、皆へと警告を飛ばすと同時に、完全にバラバラに転移させられるよりは誰かしらが一緒に居る方が良いだろう、との判断から皆へと指示を出し、自身は隊列的に一番近くにいたセレンへと手を伸ばす。
すると、セレンの方も事態の深刻さに気が付いていたのか、それともアレスの咄嗟の指示で反射的に身体が動いていたのかは定かでは無いが、アレスの方へと一歩踏み出して手を伸ばしており、特に打ち合わせなんて無かったハズなのに自然の二人の手と手が絡み合う。
そんな偶然の出来事に驚愕しながらも、視界の隅の方ではタチアナがヒギンズに飛び付く様な形でしがみついている姿と、長身を誇るガリアンの背中にナタリアが背負われ、彼の足元や周囲に集まって固まっている従魔達の姿が写り込んでおり、どうにか最低限の二人組が前衛・後衛の組み合わせで出来ていた為に、若干の安堵を覚えるアレス。
とは言え、何処に跳ばされるのか分からない転移トラップに引っ掛かってしまっている、と言う事態に変わりは無い為に、脱出出来ればソレにこした事は無い!とセレンの手を引いてアレスは魔法陣からの脱出を試みる。
戦列の先頭を進んでいた二人であった為に、階段を降りるよりも登る方向へと進んだ方が脱出しやすくなっていたが、ソレは同時にまだ探知も解除もしていないトラップが仕掛けられている可能性の在る方向へと突き進む、と言う事でも在る。
が、ソレで多少ダメージを負おうが、回復役のセレンが一緒であればどうにかなる!との判断により、半ば強引に突っ切る事を決断し、決行する!
…………が、そうして一歩大きく踏み出したのと同時に、彼らの足元に展開されていた魔法陣が一際大きく、強く光を放ち、込められていた空間魔法を陣の内側にいた彼らを対象として発動させてしまう。
その光に呑み込まれる寸前、アレスはリーダーとしての指示を皆へと下した。
「取り敢えず、生き残る事を最優先に!集合場所はこのエントランス!コアを見付けたらぶち壊せ!原因を見付けたら確保しろ!
皆、生きて戻れよ!!」
「承知した!」「アンタも死ぬんじゃないわよ!」「リーダーさんもご無事に、なのです!」「若いんだから、オジサンよりも自分の事を心配しなきゃダメだよ?」
そんな皆の返答を聞きながら、光へと呑み込まれて行く『追放者達』のメンバー達。
数秒後、魔法陣から放たれていた光が消え、描かれていた魔法陣がその力を喪って消滅した時には既に、その場には誰一人として残されてはおらず、ただ無人のエントランスと踊り場が広がるのみであった。
******
暗く、冥い部屋の中、一枚のガラス板の様なモノが置かれていた。
そのガラス板には不思議な事に反対側が透けて見えてはおらず、他には何も無いハズなのに、覗き込めば何処かの景色や光景が、まるで自らの目でその光景を見ている様な錯覚を覚えさせられる程に鮮明に描き出していた。
しかし、そのガラス板に描かれているそれらは絵画では無いらしく、まるで誰かの視点から物事を見ているかの様に変化し、動き回っている様にも見える。
「…………あ~あ、結局バラバラには出来なかったか。
まぁ、でも良いか。最後にする事は変わらないんだから、前とは違う展開を楽しむとしようか!」
そんな、見るからに貴重かつ希少であろうガラス板を、無造作に覗き込んでいた一つの影が、愉しそうでありながら酷くつまらなさそう、と言う大きな矛盾を抱え込んだ様な表情と仕草をしながらガラス板から離れる。
その手には、目の前に設置されているガラス板と良く似た手のひらサイズの道具が握られており、ソレを指で撫でたり叩いたりして行く。
「……こいつらは、ここに跳んだか。なら、コレをくれてやるとしようか!こっちはここなら、コレがよいかな?こいつらは、ここか。だったら、コレが一番面白い事になりそうだ!
……さぁさぁ、精々僕を楽しませてくれよ?ヒトの住み処に土足で上がり込んで来た、無礼な侵入者さん達?あっはははははははははははっ!!!」
満足の行く結果が出たのか、目の前のガラス板と手に持つ道具から放たれる淡い光に照らされたその顔には、確かな狂気と隠しきれない程の愉悦が浮かんでいるのであった。
分断された彼らの運命は!?
そして、最後の高笑いする人影の正体は如何に!?
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