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自分語り~聖女の場合~

連続投稿四本目です

 


 ――――え、えぇと、こうして指名されてしまったと言う事は、次は私が話す番と言う事でよろしいのでしょうか……?



 あ、やっぱり、そうでしたか……。


 どうにも、教会での暮らしが長かったせいか、こう言う事柄にはまだあまり馴染みが無くて……。



 ……やはり教会の関係者なのか、ですか?


 えぇ、その通り『でした』よ?


 見ての通り、私は冒険者ギルドに所属もしておりますが、大本の所属としましては教会になります。出向神父、と言う形に近いでしょうか?


 ……まぁ、それも過去の話になってしまいますが……。



 さて、では、アレス様とガリアン様に倣いまして、私も自己紹介から始めるべきでしょうか?


 あ、でも、その前に追加で注文してもよろしいでしょうか?


 皆さんも、手元のジョッキが空いていますし、ね?



 すみません、注文お願いしま~す!


 ……じゃあ、エール三つと、このドラゴン・ファイア・ウイスキーを瓶でお願いします。えぇ、瓶で。



 ……え?そんな強い酒、一体誰が呑むつもりで注文したのか、ですか?


 そんなの、私が自分で呑むに決まってるじゃないですか。


 皆さんには、今まで呑んでいたのと同じのを注文しておきましたよね?


 私、アルコールを嗜む時は、出来るだけ強いモノが良いと思うのですよ。


 昔から、教会の晩餐で興されたワインを口にする機会は在りましたが、どうにも私には軽すぎてジュースでも飲んでいる気分にしかなれなくて……。


 それ以来、嗜む時にはメニューに在る酒精の強いモノを頼む様にしているのですよ♪



 だって、どうせ呑むのでしたら、楽しく美味しく頂ける方が良いじゃないですか?



 あ!来た来た!


 じゃあ、すみませんが頂きますね♪



 ……っ、っ、っ……はぁ、美味しい……♪


 この、強めの酒精が喉を駆け降りる感覚と、ドラゴンの肝臓を漬け込んでいる事で付く独特の風味が堪りませんねぇ……♪


 多少お高めですが、それでこそ冒険者としてのお仕事を頑張る原動力にもなりますし、何よりお仕事明けに口にするお酒がより美味しいモノになるのも素敵です……♪



 …………あ、もう、半分になってしまいましたか……。


 一瓶の容量がもっと在れば良いのですが、そうなるとお値段の方が中々に手の出ないモノになってしまうのが悩み処ですねぇ……。


 まぁ、この量が、次を楽しみにしながら今回を十二分に楽しめる量なのだと思うことに致しましょう。



 ……さて、では、先のお二人に倣って、私も自己紹介から始めると致しましょう。



 私の名前はセレン。セレン・ヘイズと申します。


 年齢は……そう、ですね……。アレスさんやガリアンさんの様な短命種の方々の基準で申しますと、大体二十歳前後になるかと思います。えぇ、その辺りになりますが、なにか……?


 何も無いのでしたら、良いのです。えぇ、何も無いのでしたら、ね?



 種族の方は、この耳をご覧になればお分かりかと思われますが森人族(エルフ)となっております。そして、職業ですが、神からの祝福として『聖女』の職を過去に賜りました。



 ……えぇ、私が教会にて神の僕となっている切っ掛けは、私が教授の儀式にて『聖女』の職を神より賜った事だと言っても良いでしょうね。



 皆さんもご存知かと思いますが、私が賜った『聖女』は神官系の最上位に位置する、光系統であれば蘇生を含めた全ての回復魔法や結界と言った防御補助に加え、ある程度にはなってしまいますが攻撃系を含めた魔法の行使を可能にする稀少職です。


 かつて魔王が世を脅かし闇の底へと誘おうとした時、天より遣わされた宿命の勇者様と共に魔王を討ち果たした仲間の中にも『聖女』の職を賜りし者が居た、と言う教えが伝わっている事は、教会の教えに普段から触れ合う機会の少ない方々でもご存知かと思われます。



 ……え?そんな教会のお偉い聖女様が、なんで冒険者なんて事をやっているのか、ですか……?



 ……まぁ、当然理由は在ります。それも、一つではなく幾つか。



 その中でも最大の理由としましては、やはり昨今囁かれている魔王の復活です。


 コレは、ほぼ事実である、との事が確認されており、それに備えてかつての魔王討伐の際に参戦した『聖女』の職を持つ私を強化する為に、常に実戦に近く在れる冒険者として活動しつつ、各地での魔物の被害を防ぎ、民の安寧を守る、と言う事を第一義として掲げて活動しておりました。


 …………そう、活動、していたのです……。



 …………えぇ、この様な言い方をすれば、否応無くお気付きになられたとは思いますが、私もお二人と同様に追放されたのです。


 しかも、パーティーからだけでなく、教会からも『背信者』『偽聖女』の烙印を押されて、ね……。



 ……ふふ、こうして考えてみれば、不謹慎ですがお二方と私とは似ているのかも知れませんね。


 アレス様は功績を奪われた上で身一つでパーティーから追い出され、ガリアン様は婚約者と後継としての地位を奪われて追放されたとの事でした。



 ……具体的に、私が『何』を『誰』に奪われたのか、ですか……?



 ……それは……いえ、そう、でしたね……。


 この場は、偶然とは言え同じ様な境遇の者が集いし場。


 であるのならば、先のお二人に倣い、私も胸の奥に溜まった澱を吐き出す事を、神は良しとしてくれるでしょう。きっと、ですけどね?



 ……では、私が『誰』に『何』を奪われたのか、お話し致しましょう。



 とは言え、私が奪われたモノはお二方程に得難いモノであった訳ではありません。


 ただ単に、後から来た『聖女を名乗る者』により、それまで冒険者としてパーティーを組んでいた皆と、教会で築いた地位を奪われた、と言うだけの事でした。



 彼女が何処の出自なのか、私には詳しい事は分かりません。


 何せ、突然教会の上層部から『この者の身柄を聖女たるそなたに預ける』との通達と共に、いきなり送られて来たのですから、知り様がありませんでした。



 多少不審に思いながらも、それまでそれなりの間組んで来たパーティーである『新緑の光』の他のメンバー達も彼女を受け入れ、同時に見目の整っていた皆の事を彼女も気に入った様子だったので、取り敢えず彼女から話を聞きつつ様子を見る事にしたのです。



 とは言え、私の思惑は一部しか達する事は出来ませんでしたけど。


 何せ、教会から派遣されて来た彼女『サイトウ・シズカ』は私が話し掛けると目を潤ませて縮こまるか、もしくはわざとらしく泣き出して近くに居た他のメンバー達へと助けを求めるか、もしくは他のメンバーが居なければ全力で無視して反応すら返そうとして来ない様な、変わった娘だったのですから。



 そんな状態だったが為に、碌に彼女の事を知ることは出来ませんでしたが、私と二人きりでいるときは貝の様に口を閉ざしたままとなるのに、他のメンバーがいる時はまるで別人の様にペラペラと舌を回していたので、何かと漏れ聞こえて来たのですが、それによると彼女は『稀人(まれひと)』であるみたいでした。


 えぇ、皆さんも知っての通り、『稀人』とは、別の世界からこの世界へと迷い込んで来た方々の総称です。


 その原因は様々で、人によっては元の世界へと帰還なされた方もいらっしゃる様ですが、その『稀人』様方に共通なさっているのは『通常よりも強力なスキルや職業を宿し易い』と言う事です。



 ソレを耳にしてからは、私も彼女を積極的に戦闘へと参加する様に促しました。


 何のスキルや職業であったのかは当時から今に至るまで私は知りませんでしたが、それでも使いこなすにしても強化するにしても、実戦にて使用するのが最も効率良く強化する方法だったからです。アレス様には、無駄な説明になってしまったかも知れませんが。



 ですが、それはあくまでも彼女を思っての事。


 彼女が元居た世界がどの様な世界であったのかは定かでは無いですが、ここで生きて行くのであれば、最低限自らの安全は保証出来る様になっておかないと、容易く生命を散らす事になりますので、私はソレを防ぎたかったのです。



 …………しかし、それにより私へと返ってきたのは、彼女からの感謝の言葉ではなく、パーティーを組んでいたメンバー、前衛として盾役も兼ねていた『騎士』のブレット。遊撃手でお調子者だった『軽戦士』のカレル。寡黙でしたが私には優しかった『狩人』のロビン。私と同じく魔法特化の後衛で、様々な魔法理論の意見を交わした『魔導師』のデビット。そんな、彼らからの憎悪にまみれた視線と言葉でした。



 彼らは、口々に私が彼女を不当に虐げた、と弾劾しました。


 詳細は省きますが、心優しい彼女に命を奪う事を強要した、不慣れな彼女に無理難題を押し付けた、こちらにまだ慣れず心細い思いをしているのを理解した上で彼女からの声かけを無視した等々、と言った数々の『罰せられて当然』な行為を行った、として私に彼女への謝罪と賠償を要求してきたのです。



 ……流石に、ショックでは在りました。


 何せ、それなりに長く組んでいたメンバーでしたから。



 全員男性で、多少デリカシーが足りない部分も在りはしましたが、だからと言って私の事を私からの主張すらも欠片も耳に入れずに断罪しようとしている者達とは姿が重ならなかったので、外見や声がそっくりな別人なのか、とも一瞬疑いましたからね。



 ですが、私を罪人の如く忌々しい視線にて睨み付け、彼女を護る騎士であるかの様にして立つ姿を見れば、否応無く本物なのだと理解させられました。



 その後、幾つかのやり取りの後、彼女は弱々しい様子を装い、涙を流すふりをしながら私に、自分へとそれまでの行いを悔いて地に額を突いて謝罪するか、もしくはこのパーティーから追放されるのかを選べ、と迫って来ました。



 なので私は、パーティーからの追放処分を選択しました。



 それから暫くの間は、取り敢えず彼女から離れて元々持っていた教会の地位と聖女としてのブランドを利用し、各地にて人々を救う活動を続けていました。それまで私が直接癒して来た方々は、方々に居られましたので。



 ですが、突然教会の本山から、私が今まで挙げてきた功績と聖女としての地位を彼女に譲る様に、と言う通達が来たのです。



 当然、私は断りました。


 何せ、実際に癒した相手が誰なのか、どの様に癒されたのか等は、私がそうではないと否定した処で、覆り様の無い事だったからです。



 …………ですが、指示に対して私が『否』を突き付けてから数日の後、突然教会本山が




『サイトウ・シズカを新たな聖女と認定した。それにつき未だに聖女を騙るセレン・ヘイズを『背信者』『偽聖女』として認定し、同時に教会から破門する事を宣言する!』




 とのお達しを各地に散らばる教会を通して周囲へと通知を出したのです。そして、それは驚く程の速度と、不可解な迄に『真実の情報である』と言う認識にて周知される事となりました。



 …………そうして、聖女としての地位と名声も一瞬で全てを奪われ、長く暮らしてきた教会からも私は追われる身となったのです。




 ……如何でしたか?私の、自分語りは。


 聞いていて面白いモノでも無かったでしょう?



 ……さて、そろそろ時間も良い処ですし、皆さんも順調にジョッキを空けられた様子ですので、貴女のお話しでそろそろ締めをお願い出来ますか?


 大丈夫ですよ。私と詰まらない話ですら、この席では十分な肴として扱われた様子でしたので、凡そどの様なお話しでも通用はするかと。


 ですのでどうか、貴女の番を無駄にはなさらないで下さいませ。



 ……さて、では、私は話疲れてしまいましたし、喉も渇いてしまったので、最後にもう少し注文すると致しましょう。




 すみません、店員さん!このドラゴン・ファイア・ウイスキーもう一本お願いします!!

次で連続投稿は終わりの予定です

楽しんでもらえれば、よいなぁ……


面白い、かも?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価等にて応援して頂けると励みになりますのでお願いしますm(_ _)m

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