『栄光の頂き』の崩壊~終~
「………………では、次は当機の番、だな。簡単には、終わってくれる、なよ……?」
そんな言葉と共に掲げられた指が振られ、ソレに合わせて長剣を構えた騎士団が、包囲した彼らへと目掛けて殺到して行く。
急激に動きを滑らかなモノとした上に、数十から数百に及ぶであろう数の騎士達が、一糸乱れぬシンクロした動きにて殺気も敵意も感じさせる事無く襲い掛かってくるその光景に、僅かながら腰が引ける思いをするサイモン達『栄光の頂き』。
しかし、そうやって棒立ちのまま膾にされなければならない理由は無いし、寧ろ反撃してはならない理由にも思い当たる節が無いために、振り下ろされた刃を回避して、それぞれの得物を振るって反撃に転じて行く。
「…………くっ!?この!食らえっ!!」
前衛として日頃から刃を振るうサイモンをして、回避しきる事が難しい程に鋭い剣閃を回避し、お返し、とばかりに『不変鉱』と『真銀』との合金によって作られた自慢の得物を振るって反撃する。
しかし、その一撃は攻撃を放った騎士が返して来た刃にて直撃する事無く防がれてしまう。
その事実に衝撃を受けていると、今しがた斬り結んでいるのとは別の個体が彼目掛けて刃を振るって来た為に、一時的にとは言え後退して体勢を立て直さざるを得なくされてしまう。
構え直した得物を掲げていると、今度は背後から複数の騎士が手にした得物を振りかぶり、大きく踏み込んで攻撃を仕掛けて来た為に、そちらはギリギリまで攻撃を引き付けてから紙一重で回避すると、体勢が崩れた所を狙って刃を振るい、その全てに対して攻撃を加えて行く。
装甲の上からの攻撃とは言え、流石にダンジョン産の特殊効果付きの魔剣の類いでは無いしても、名工と呼ばれる職人の手によって鋼鉄よりも遥かに頑強な素材で作られた、一般的に見れば十二分に『逸品』と呼べるだけの代物だ。
余程振るう側の腕が悪くないか、もしくは余程鎧の方が頑丈でもなければ、今しがた起きている様にバターを熱したナイフで切り裂いている様に軽々と斬り裂く事はそう難しい事ではないだろう。
当然、その下に在る身体に対しても、通常であれば手当ても無しに起き上がる事は出来ないか、もしくはそのまま息絶えるのが妥当であろう程の負傷を与えているハズだ。
………………与えていた、ハズ、なのだが……。
「…………なっ!?おいおい、嘘だろう!?
こいつら、さっき、切り捨てたばかりだろうがよ!?」
……そう、つい先程鎧ごと切り裂き、背後にて動けなくなっているハズの騎士達が、まるで何事も無かったかの様な動作にて、サイモン目掛けて再び手にしていた刃を振るって来ていたのだ。
慌ててその攻撃を受け止めるサイモンだったが、予想外の方向から考えてもいなかったタイミングにて攻撃された事により、体勢を整えてから受ける事が出来無かったので受け流す事が出来ず、その場に押し込まれて足を止められてしまう。
鍔迫り合いに持ち込まれたサイモンは、力を込めて押し込んできている騎士を弾き飛ばそうとする。
……が、彼を押し付けている、鎧を切り裂かれて内部の覗かせているその騎士は、仮にも『Sランク』の地位にあり、一般人から見れば最早『超人』と呼ぶ他に無い程の身体能力を誇るサイモンをたった一人にてその剛力を押し返し、あまつさえその場に縫い止めて見せていた。
その事実に愕然とするサイモンは、自らの目の前に晒されている騎士に着けた傷口から出血していない事に漸く気が付く。
確かに、多少手応えが変では在った様にも思うが、確実に鎧ごとその下に在った身体を切り裂いたハズだ。
であるにも関わらず、ぱっくりと開いたままになっている目の前の傷口から、一切の流血が見られないなんて事があり得るハズが無い!?
なんて考えに集中してしまっていたサイモンは、鍔迫り合いから力の掛け方を変えられていた事に気付くのに遅れ、組み合っていた相手によって腹に蹴りを入られてその場から蹴り飛ばされてしまう。
その過程で、偶然開いていた傷口の中を覗き込む事になったサイモンは、その内部には肉と骨とが在るのでは無く、何やら紐の様なモノと金属製の棒の様なモノが覗いている事に気が付いた。
そして、蹴り飛ばされた先にて、偶然とは言え同じ様に転がされて来たグラニアとモルガナの二人と一ヶ所に固まる事になりながら、吐き捨てる様に言葉を口にする。
「…………『傀儡』、だと……?
こいつら、全部『傀儡』だって言うのか……!?」
「………………ご明察、とでも言おうか?それとも、漸く気付いたか馬鹿め、と罵られる方が、お好みかな……?
…………これらは全て、当機の同型。指揮官機としての、当機の能力さえ在れば、未だ自我に目覚めぬ、意思無き人形とて、人間が『一流』と呼ぶ冒険者に対しても、これこの通り、と言う事だ……」
「…………随分と、ふざけた事を言ってくれるのね?
これから、私達に敗れる事になるのに、余裕綽々その物と言った風だけど、本当に良いのかしら?」
「………………敵機の性能は、既に把握出来ている。その上で、諸君らの採りうる手段では、当機を破壊する事は勿論として、我が配下たる『機巧騎士団』を打倒する事は、不可能だと判断した。
それが、純然たる事実だが、何か問題が在るかな……?」
サイモンからの言葉に応えていたゴライアスの言葉に、負けじと噛み付いて行くグラニア。
しかし、当のゴライアスはソレに応じるつもりが無いのか、それとも既に『意味がない事』だと割り切ってしまっているのか、グラニアからの口撃に特に堪えた様子も無く、軽く流されてしまう。
ソレに瞬間沸騰して激発したグラニアが、今度は周囲に展開する、ゴライアス曰く『機巧騎士団』に対して広範囲に渡る大規模魔法を発動させようとして手にしていた杖を掲げて見せるが、瞬時に背面に居た騎士の一体が駆け寄り、サイモンが反応して見せるよりも早くその杖を掲げた腕を斬り飛ばし、別の個体が斬り飛ばされたソレを杖ごと瞬く間に切り刻んでしまう。
「…………なっ!?いやっ!いやぁぁぁぁぁぁああああっ!!??」
「「グラニア!?」」
職業柄痛みには慣れているハズのグラニアだったが、流石に純後衛である彼女に部位欠損の痛みは初めての経験であった上に、目の前で直前まで自らの一部であったモノが無惨な肉片へと変えられてしまった、と言う事態に恐慌を起こし、何をするでもなく傷口を押さえて悲鳴を挙げ続ける。
そんな彼女に、モルガナは同性の仲間であり、同じくパーティーを移籍する事を画策している仲間として心配から声を挙げ、サイモンは支援火力が失われる事を危惧して二人同時に駆け寄ろうとするが、先程と同じ様に予備動作を感じさせない不自然な程に滑らかな動作にて飛び込んで行き来た騎士二体によって打ち据えられ、それぞれ手足の骨を折った状態にてグラニアが踞る場所へと転がされてしまう。
「…………馬鹿なっ!?俺達は、『栄光の頂き』!この国でも、有数の冒険者だぞ!?
その俺達が、こんなにあっさりと、負けるなんて有り得ないだろう!?」
「………………何を、言っている?負ける時は、負ける。それが、動かざる真実、だ。
……まぁ、この程度、ならば、ここに来るまでの間に、遭遇した、連中の方が、まだまだ手応えが在った気もする、が……」
「…………とは言え、この程度の相手に我らがこれ以上時間を掛ける必要は在るまい。
せめてもの情けだ。痛みの無い様に、一瞬で終わらせてやろう」
そう、彼らの頭上から、神鳴りの様な重低音を響かせたスルトが、それまで組んでいた腕を解いて拳を握って振り上げる。
そして、ソレを十メルトを越える高さから、彼らへと目掛けて真っ直ぐに振り下ろして行く。
ソレを目にしたサイモンとモルガナは、踞ったままのグラニアを見捨てて自分だけでも助かろうと、どうにかして逃れようと足掻くものの、足の骨を折られてしまっている関係上そこまで大きく動く事が出来ず、特に狙いを修正されていないにも関わらずに拳が作り出す影から逃れる事が出来ずにいた。
「…………畜生、畜生畜生畜生!なんで!?なんで俺がこんな目に!?
俺は、俺は選ばれた人間なんだ!その選ばれた人間が、他の奴から女も金も名声も奪って何が悪い!?
俺は、俺はこんな所で終わる様なにんげんじゃあ――――」
「…………嫌、だ。嫌だ。嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!!
ウチはまだ、やりたい事が沢山在るんだ!こんな屑の誘いに乗ったばかりに、失ったモノをまだ取り戻していないのに!?
なんで、なんで!?もう、目の前まで来ているのに――――」
「…………あ、あははっ!そうよ、これは夢よ。
そうでないなら、なんで私はこんなに酷い目に合っているの?現実なら、そんな事在るハズが無いんだから、これは夢よ。
……さぁ、早く目覚めないと。そうすれば、私の隣でヒギンズが、彼があどけない寝顔を見せていてくれるハズなんだか――――」
ドンッッッッッッ!!!
着弾の衝撃だけで、近くにいた『機巧騎士団』が姿勢を崩す程の威力にて振り下ろされたスルトの拳は、その場所にクレーターと見間違わんばかりの大穴を開けると同時に、彼ら『栄光の頂き』を物言わぬ真っ赤なシミへと変貌させるのであった……。
取り敢えず『栄光の頂き』へのざまぁはここまで
次回から主人公達サイドに戻ります
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