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『追放者達』、『不変鉱大亀』を撃破する。が……

 


 援護としてナタリアが放つ光の矢の雨の下、従魔達を伴ってアレスがぬかるんだ地面を駆けて行く。



 その姿は、最初の奇襲を仕掛けた時とは異なりスキルによって隠蔽されてはおらず、首を伸ばして高い位置から見下ろしている『不変鉱大亀(アダマスタートル)』からは、無傷で残された右後ろ足に向かって移動しているのが容易に視認する事が出来ていた。



 大した負傷では無いとは言え、確実に自らの肉体に手傷を負わせて苦痛を与えた相手である、と認識している『不変鉱大亀(アダマスタートル)』にとってそれは容易に看過できる事ではなく、当然の様に攻撃に備えて対処するべくそれまで折ったままとなっていた膝を伸ばして立ち上がり、アレスが目標として定めていた右後ろ足を振り上げてから体重を掛けて振り下ろす!



 すると、『ズドンッ!!』と言う轟音と共に周囲に振動が走ると同時に、某のスキルの影響を受けてかぬかるんだ地面に満ちている泥や水や石やその他が、急速に『波頭』と表現しても間違いでは無いであろう規模に迄成長してから広範囲へと広がって行き、接近を試みていたアレスへと向けて殺到してくる。



 当然、アレスも素人ではない。


 泥にまみれる事も、泥水を頭から被る事も、多少大きな石をぶつけられる様な事があっても、別段怯みはしないし厭いもしない。何せ、別段死ぬわけでも無いし、汚れたのならば後で洗えば良い話なのだから。



 ……しかし、足元が弛い状況で、更にそれらを助長する様な環境へと変化させられた上に、目を始めとした感覚器官へと多大な影響を与えるであろう砂利混じりの泥水を顔面に浴びる事は、戦闘中かつ敵を目の前にしている状況では致命的である為に、空いている方の腕で目元を庇いながら、舌打ちを溢しつつ迫り来る泥水の波へと突っ込んで行く。



 水だけではなく、土と言う固形物を加えられた事によって物理的な重みを増している波頭へと、真っ正面から飛び込んで行くアレス。


 その足は、足元の悪さも相まって、掛けられる重量によって思わず後退りそうになるものの、その場で辛うじて踏ん張る事には成功するが、必然的に前には進む事が出来ずに縫い止められる事となってしまう。



 当然の様に、ソレを狙って仕掛けていた『不変鉱大亀(アダマスタートル)』がその隙を逃すハズもなく、単純にして最速かつ破壊力絶大な攻撃である『踏みつけ』を行う為に、足を振り上げて彼の頭上へと影を落とす。



 一方、わざと泥水の波頭へと飛び込んで見せたアレスは、狙い通りに距離を詰めつつ片目とは言え守り抜く事に成功していたのだが、不意に自身の頭上に影が掛かっている事と、目の前に聳えているハズの足が無い事に気が付いて、咄嗟に回避を試みようとする。


 ……が、その足はまるで地面へと『固定』されてしまったかの様に動く事を拒否し、アレス本人もその場でつんのめる様にして体勢を崩してしまう。




「なんっ!?…………ぇ、まじで?」




 突然の事態に、思わず慌てた声を出しながら自らの足元を確認したアレスの視界に、不自然に地面へと沈んでしまっている自身の足が飛び込んで来る。



 それは、まるで底無し沼や流砂に呑まれつつ在る様にも見え、少しずつながらも現在進行形にて彼のブーツが地面へと沈んで行くのが見て取れた。




「…………嘘ん!?こいつ、土と水の魔法かスキル使ってやがるぞ!?ただのデカイ亀の癖して、二属性持ちとか生意気に過ぎるだろうよ!?」




 そう分析し結論着けたアレスは、慌てて足に魔力を込めて『不変鉱大亀(アダマスタートル)』のソレに対抗すると、半ば力任せに地面から足を引き抜いて見せる。



 ソレに対して『不変鉱大亀(アダマスタートル)』は、その目潰しから拘束までの一連のコンボに対して絶対的な自信が在ったからか、驚愕によってその目を見開いて一瞬とは言え固まってしまう。


 しかし、その一瞬程度では流石のアレスも攻撃範囲からは逃れきる事が出来ず、『不変鉱大亀(アダマスタートル)』の方も流石にその程度で外してやるつもりは無いらしく、即座に着弾点を修整してアレスへと攻撃を当てる事に注力し続けた為に、照準を外すこと無くアレスへと目掛けて足を振り下ろし続ける!



 流石に、その段に至っては効果が薄いから、見られては不味いから、等と言ってはいられなくなった為に、急速に展開した魔法陣から至近距離にて振り下ろされつつあった足の裏目掛けてアレスが魔法を放つ。




「……くそっ!

『紅蓮よ、炸裂せよ!『紅蓮の爆裂(クリムゾンバースト)』』!!」



「「「「グルルルルルルルッ!!!」」」」「ヴォォオオオオッ!!!」




 アレスが放った魔法が『不変鉱大亀(アダマスタートル)』の足の裏にて大爆発を起こすと同時に、本来の姿へと立ち返った従魔達が他の足へとタイミングを合わせて体当たりをする事により一気にバランスを崩した『不変鉱大亀(アダマスタートル)』は、至近距離で発生した爆風によってアレスが大きく後退した事も相まって、目標としていた彼から大きく外した場所に足を振り下ろしただけでなく、大きく体勢を崩して半ば引っくり返る様な形となってしまう。




「今だ!出し惜しみせず、一気に畳み掛けろ!!」




 ソレを好機と見たアレスが、『不変鉱大亀(アダマスタートル)』が倒れ込んだ事によってめり込んでしまっている地面へと氷魔法を使用して凍結させる事により、その場から起き上がれない様に固定して行くと同時に、彼の号令に従ってガリアンとヒギンズが得物を手にしながら再度距離を詰めて行く。



 そして、ヒギンズは龍闘法によって龍気を纏った状態で、ガリアンは手斧による斬撃では無く盾による全体重を乗せた打撃を選択し、それぞれ甲羅の隙間と足の付け根の部分へと攻撃を叩き込んで行く。




『ギィガァァァァアアアアアッ!!!』




 まるで亀が発したとは思えない程の大音量にて周囲の空気を震わせた『不変鉱大亀(アダマスタートル)』は、それまで必死に起き上がろうとしてもがき回していた足の内の攻撃を食らったモノを力無くだらりと地面へと向かって垂れ落としてしまう。



 神経か骨でも逝ったのか、それともただ単に打撲によって一時的に筋肉が動かなくなったのか。



 それは不明であったが、それでもそれまで地形すら変える程の勢いにて盛大に暴れ回っていたのが、精々が気性の荒い暴れ馬、と言う程度にまで勢いが落ち込んだ為に、チャンスだ!とばかりに前衛を担っていたメンバー全員でその身体に飛び乗って行く。



 蓄えられた『不変鉱(アダマンタイト)』の大半が蓄えられているのはあくまでも甲羅の背中側。ならば、腹側からならば、比較的攻撃は通るのではないのだろうか?



 そんな考えからの行動であったのだが、試しに得物を振り下ろして見れば、確かに生物の一部位とは思えない様な硬度ではあったのだが、別段『硬すぎてどうにも出来ない』と言う程に硬い訳では無く、かつ皮膚や肉の様に生体特有の柔軟性を持っていない箇所であった事もあってか、意外な程に容易く刃がめり込み攻撃が通って行く手応えを感じられた。



 その事実から察するに彼らの予想は的中していたらしく、各自で振り落とされない様に踏ん張りながら得物を振るって行く。




「……おら!この!喰らえ!良くも泥まみれにしてくれやがったな!!」



「ぬん!ふん!てぇい!!

 ……しかし、『神鉄鋼(オリハルコン)』製の武具を用いても、こうまでしないとまともに攻撃が通らぬとは、一体どんな身体の構造をしているのであるか?」



「ふっ!はっ!そいっ!!

 そもそも、生き物として云々を魔物に対して言い出したらキリが無いんじゃないのぉ?でも、こいつらはオジサン的には『実はゴーレムの一種なんじゃないのか?』って疑ってはいるけどねぇ!」



「「「「グルルルルルルルッ!!!」」」」「ヴォォォォオオオオオッ!!!」




 各自で『神鉄鋼(オリハルコン)』やソレに匹敵する素材で出来ている(と思われる)武具を振るい、当たるを幸いに周囲を切り裂いて行くアレス達。


 流石に『不変鉱(アダマンタイト)』で強化されているとは言え、性能的には同格である『神鉄鋼(オリハルコン)』を素材として使い、その上で『天鎚』の異名を取るドヴェルグの手によって鍛えられた武具を、達人と呼んでも間違いは無いであろう腕前を持つ者達が振るっているのだから耐えられる道理は無く、ほぼ一方的に攻撃され続ける、と言った状態が暫しの間続けられて行く。



 しかし、『不変鉱大亀(アダマスタートル)』も腐ってもSランクの指定を受ける程の魔物であるが故に、そのまま諦めて大人しく討伐される、と言う選択を取るハズもなく、それまで徐々に小さくなりつつあった動きを急に大きなモノへと変化させ、自らの身体の上に乗って暴れ回っていたアレス達を振り落としに掛かる。



 咄嗟の事態に、各自で近くに在った突起にしがみついたり、得物を甲羅へと突き立てたりしてその足掻きを遣り過ごそうとしたのだが、唯一アレスだけがその中で足を滑らせて振り払われ、上空へと打ち上げられてしまう。




「クソッタレ!あの時、泥さえこびりつかされていなければ!!」




 つい先程、『不変鉱大亀(アダマスタートル)』のスキルによって足首の辺りまで泥まみれにされてしまっていたアレスは、靴裏の凹凸すらも粘り気の強い泥によって埋められてしまっていた為に踏ん張りが効かず、こうして一人撥ね飛ばされる事となってしまったのだ。



 とは言え、別段言う程の高度まで飛ばされた訳でもなく、かつ下は比較的柔らかな湿地帯。ならば、そこまで大事にはならないだろうし、いざとなればセレンに回復を頼めば良い。



 そう考えていたアレスだったが、打ち上げられた高度が頂点に達して下降を始めた辺りで真下に居た『不変鉱大亀(アダマスタートル)』がその首を大きく伸ばしながら、亀とは思えない程に鋭く大きな牙が生え揃った口を開いて彼の元へと迫って来る。


 ……どうやら、空中では体勢を整える事も碌に出来はすまい、と言う亀らしからぬ小賢しい考えに至っていたらしく、恐らくは先に潰せる処から潰してしまおう、と言う事なのだろう。


 現に、どうにかしがみつき続けているメンバー達は、必死になって自分達の方へと注意を向けようとして足元を斬り付けているし、後衛の女性陣も慌てて全力で攻撃して注意を引こうと試みていた。



 それらを総合して鑑みると、敢えて彼の状況を飾らずに表現すれば、これはアレスにとって致命的な出来事である、と言えるだろう。




 …………だが、当のアレス本人は、これは掛け換えの無いチャンスなのでは無いか?と空中にて身体を捻って姿勢を整えつつ、魔法陣の構成を準備しながらそう考えていた。




 外からは含んでいる『不変鉱(アダマンタイト)』の影響で碌に物理も魔法も通りはしない。


 なら、内側からならどうだろうか?口の中とかなら、普通に魔法も効くのでは無いだろうか?




 そんな思い付きと共に、最悪死んでもセレンに蘇生させて貰えばソレで良い、との考えから得物を握り直し、自らが放てる中でも最大威力の魔法を準備しながら開け放たれた口へと目掛けて落下して行くアレス。



 ……そして、彼を迎える様に首が追加で伸ばされ、ソレに合わせて並んだ牙に当たらない様に身を捩り、少しでも負傷を減らして内側から破壊してやる!と意気込んでいた正にその時。




 ………………ヒュパンッ!!




 突如として発生した風切り音と共に『不変鉱大亀(アダマスタートル)』の伸ばされた首へと斬撃が飛来し、その首をほぼ両断する事により一撃で絶命させてしまうのであった……。





一体、何処の誰がそんな事を……?(すっとぼけ)



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