『追放者達』、『不変鉱大亀』と戦闘を開始する
前回の更新にて通しで二百話に到達していました
これも皆様が読んで下さっているお陰です
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今回は少し短めです
「…………成る程、アレがそうか。『丘程の大きさ』『黒緑色の甲羅』『甲羅から競り上がる同色の結晶』『不自然な迄に全身を覆う刺』。
手元の資料によれば、ほぼ間違いなくアレで合っているハズだ」
手にしていた紙束と、目の前で泥の中へとその頭を突っ込んで何かを貪っている様子の巨体とを行き来させ、間違いなく討伐対象として指定されている魔物なのかを確認して行くアレス。
その表情と視線とは一切の妥協や間違いを許さない、と言わんばかりに鋭く対象へと向けられており、確実に対象である、との確信が得られるまでその行き来は数分近く行われていた。
一応、とは言え目の前の巨体が討伐対象である、とアレスの中でも確信を抱けたのか、自身のアイテムボックスに手にしていた紙束を突っ込むと、一人登っていた木から飛び降り、近くにて待機していたメンバー達の元へと移動して行く。
「取り敢えず、俺が見た限りだとアレが討伐対象として設定されていた『不変鉱大亀』で間違いは無さそうだ。
特徴はひたすらに大きくて硬くてタフ、それと体格に見合っただけの怪力だそうだ。それ以外は魔法も使えなければ特別変わった能力を持ち合わせている訳でもないらしい。
まぁ、あくまでもまだ確認はしていないから、もしかしたら突然口から謎の破壊光線でも発射して来たりするかも知れないけど、それはそれ、って事で取り敢えず討伐するけど、準備は良いか?」
「「「「「応!」」」」」
「元気なお返事ありがとさん。じゃあ、取り敢えず行こうか」
何故か弛い空気にて同じく弛い言葉にて応じたアレスは、腰に差していた得物を抜き放つ。
そして、支援術士であるタチアナから各種支援術を受けて身体能力を向上させると、今度は自らが習得しているスキルを複数発動させて気配と姿を隠し、一人先行して討伐対象である『不変鉱大亀』へと向かって近付いて行く。
最初こそ、ぬかるんだ地面に残る足跡や、必然的に立てられてしまう足音によって『ハインド』を始めとした各種スキルの効果が破られる可能性を考えて恐る恐る、と言った様子で進んでいたアレスだが、『不変鉱大亀』が食事に夢中になっている事もあってか気付かれた様子が見られなかった為に、少々大胆な領域にまで速度を上げて更に接近して行き、ほぼゼロ距離まで肉薄し、姿を隠したらままの状態で手にした得物を大きく振りかぶる!
『…………ギッ!?ギァァァァァァアアアアアアアッ!?』
アレスが振り下ろした刃により、左後ろ足の踵に相当する部分に大きな切り傷を負う事となった『不変鉱大亀』は、まるでドラゴンのソレと聞き間違わんばかりの絶叫を周囲へと響き渡らせる。
その叫び声の中には、当然みずからの強靭な皮膚と肉を何かが突然切り裂いてダメージを与えて来た、と言う事も含まれているのだろうが、ソレに匹敵する位の割合にて唐突に、何の前触れも無く攻撃された事への驚愕も含まれていた。
何故なら、『不変鉱大亀』と言う魔物は、背中の甲羅に結晶と言う形にて『不変鉱』を生成する事は有名であり比較的知られている事なのだが、甲羅以外の皮膚や骨と言った部位にも微量ながら『不変鉱』が含まれている事はあまり知られている事柄では当然無い。
そんな、僅かな量を鉄に混ぜたとしても、下手な鍛冶師が仕上げた『真銀』の武具に匹敵する程の強度を誇ると謳われる『不変鉱』を、多量に、とは言い難いながらも確実に含んでいる『不変鉱大亀』の皮膚が切り裂かれてダメージを受けたのだから、驚愕によって叫び声を挙げたとしても、何の不思議も無いと言えるだろう。
そんな『不変鉱大亀』の咆哮を耳にしたガリアンとヒギンズが、足元が弛んでいる中をそうと感じさせない足取りと速度にて駆け出して行き、一気に彼我の距離を詰めて行く。
そして、ガリアンは斧を、ヒギンズは槍を構えて駆け出した勢いのままにアレスの攻撃によって左後ろ足の膝を突く形となっていた『不変鉱大亀』へと突撃し、それぞれ右前足の脛に当たる部分と、左前足の膝関節へと目掛けて手にした得物を繰り出した!
『ガァァァァアアアアアアッ!!!?』
その痛みと、先程とは別の襲撃者までもが存在している、と言う事実への怒りと驚愕に染まった叫びにて周囲の空気を震わせ、遠くまでその叫び声を轟かせる『不変鉱大亀』のその姿に、先制攻撃を成功させた三人は作戦が上手く行った事による歓喜の表情を浮かべる…………なんてこと欠片も無く、寧ろ苦虫を噛み潰した様な苦々しい表情を浮かべて一様に『不変鉱大亀』の事を睨み付けながら、奇しくも同時に呟きを溢す。
「「「…………浅過ぎる。予想以上に、硬すぎる(である)ぞ、こいつ……!?」」」
……そう、最初に振り下ろしたアレスの刃も、肉が薄く防御力の低いハズの箇所を狙ったガリアンの斧も、必然的に稼働する重要な関節である膝を狙って突き出したヒギンズの穂先も、確かに皮膚を切り裂き肉へと到達し、『不変鉱大亀』へと確かなダメージを与える事には成功している。
……が、言ってしまえばその程度のダメージしか与えられていないと言う事になる。
タチアナからの支援術を受けて身体能力が爆発的に高まっている状態である彼らが、本来であれば軽く両断出来ても不思議では無い位の勢いと威力を込めた状態で斬り付けて、それでもなおその程度の負傷しか与えられていないと言う事なのだ。
別段、手加減した訳でも、様子見の攻撃であった訳でも無い、致命傷となりうる箇所でこそ無かったが、それでも本気で放った攻撃だったのだが、その結果は『多少大きな裂傷』と言う程度のモノとなってしまっていた。
その事実に、思わず歯噛みするアレス達前衛組三人。
元より、魔法に対して高い耐性を誇るのが特徴の一つでもある『不変鉱』。
そんな『不変鉱』を背中の甲羅に蓄え、微量ながらも全身に纏っている状態である『不変鉱大亀』に対して、直接的な魔法は頗る通りが悪い。
故に、後衛として後方に待機している女性陣からは、タチアナからは妨害術を飛ばす事も出来ず、セレンも精々が回復魔法を送るか、もしくは簡単な光魔法にて目眩ましをする程度しか手出しが出来ない。
ナタリアに至っては、監督役として『栄光の頂き』が監視している為に、従魔達を本来の姿に戻して参戦させる事も出来ず、装備を装着させてアレス達の支援として『不変鉱大亀』の周囲を駆け回らせ、時折攻撃を仕掛けて注意を引く撹乱程度の手出ししかさせる事が出来ないでいた。
…………これは、ちょっと不味いかな……?
そんな思いが彼らの脳裏を過るが、だからと言ってその程度で絶望する事も、諦める様な在るハズが無く、前衛として直接的に戦っているアレス達は、むしろ歯応えの在る相手だ!と言わんばかりに口許を歪めながら、比較的攻撃の通りやすい場所を探すかの様に、特に合図する事も無く三人で散開して手当たり次第に攻撃を仕掛けて行くのであった……。
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