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追放せし愚か者達・1

注※多少不愉快になるかも知れない表現が在りますのでご注意下さい

 


 カンタレラ首都アルカンターラから数日の距離に在る、カンタレラ第二の大都市アルゴーの中央に存在する高級宿『咲き誇る世界樹』。



 一泊するだけで金貨が数枚消失し、その上で宿泊するには一定以上の家格か、もしくは公共の身分証明にも成る冒険者ランクでBランクに至っている事が『最低条件』として求められる、最上級の宿。



 サービスは当然一級品であり、提供されている部屋や食事は下手な貴族のソレよりも上等と噂されるその宿の一室は、数日前から陰鬱な空気が漂っていた。




「…………なんで、なんでだよ……なんで、そんなに嬉しそうにしてるんだよ……そんなに、オレ達から離れたかったのかよぉ………なんでだよぉ……!」



「…………あり得ない、あり得ないあり得ないあり得ない……あそこは、あそこは本来なら『奴隷でも構わないから棄てないでくれ!』と私の足にすがり付いて来て然るべき場面だったハズ……なのに、なのに何故ああまでアッサリと受け入れて、その上で嬉しそうにして去っていくなんて、あり得ない……あり得ないあり得ないあり得ない……!」




 片や、整ってはいるものの男勝りな攻撃気質が滲み出ている顔を涙で濡らしながら、肩の辺りで切り揃えられた蒼い髪をした女性。


 片や、虚ろな視線で宙を睨みながら、絶えずブツブツと何かを呟きつつ爪を噛み、その冷たさすらも感じさせる美貌と腰まで届く程に長く伸ばした真っ赤な髪を振り乱している女性。



 その二人は、数日前に、自分達が所属している冒険者パーティーから、一人の幼なじみを追放していた。



 とは言え、その幼なじみは正式にそのパーティーに所属していた訳ではない。


 あくまでも雑事を行い、討伐や探索と言った諸々の事柄についてのサポートをさせる為に、依頼に帯同させて居ただけだ。



 実際に戦闘を行わない様な人員を、敢えてパーティーには加入させずに留め置く事は、ギルドでも特認されている事なので特に違法と言う訳ではない。



 ……が、だからと言って何かにつけて罵倒し、特に欠点も無いのに叱責し、在らぬ責任を押し付けて謝罪させる、と言った行為の数々が正当化されて良い理由にはなりはしない。




 …………例えそれが、悲惨な環境の孤児院で育ってしまったが故に情緒が育ちきらず、子供の様に好意を示す方法を知らなかったが故の行動であったとしても、だ。




 そして、その好意を抱いていた相手を、普段の自らの行動から下手に出られている事が気に入らず、発破を掛ける事も兼ねていたとは言え、口裏を合わせてまで口にした下らない嘘で失ったのは、あらゆる意味合いにて『自業自得』と言わざるを得ない。



 ……しかし、その様な事実は『連理の翼』のメンバーである『剣姫アリサ』と『賢者カレン』の心には届かず、理解もされず、ただただ二人は最近は見せる事が少なくなった満面の笑みを浮かべて去って行く幼なじみの背中の幻想に向けて、虚空へと散って行くのみの言葉を紡ぐ。





「なんでだよぉ、どうしてだよぉ…………お前だって、オレ達の事好きだったハズだろうがよぉ……!

 それなのに、なんでそんなに嬉しそうに逃げて行くんだよぉ……!!」



「あり得ない、あり得ないあり得ない……あそこは、どう考えても、私とアリサに服従と心酔を誓って、永遠に私達から離れない離れられない状態に成るハズだったのに……そうなる様に、仕向けていたって言うのに……なんで?なんで?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで?????

 なんで?なんで私達から逃げて行くの?私達の事が好きだったハズなのになんで?私達も彼を愛していたし可愛がってもいたのになんで?なんでなんでなんでなんで?????」





 彼に、アレスに対しての追放を言い渡してからの数日間。彼女らはこの部屋から一歩も出る事無く、常に虚空を睨みながら、それぞれで呟き続けるのみ。



 故に、彼が既に得難い『仲間』を見付けていた事も、彼女らが扱き下ろしていた様に無能な存在では無かった事も、彼にとっては既に自分達が『どうでも良い存在』へと成り果てている事にも、未だに気付くことは無く、ソレを知って行動に出るのはまだ先に成るのであった。







 ******







 暗く湿った洞窟の中に、二つの荒い吐息と駆ける足音が響き渡る。



 その足音のリズムは千々に乱れており、荒く乱れた吐息には隠し様の無い『恐怖』が混ざっていた。




「…………くそっ!何故だ!?どうしてだ!?足手まといは、もういないと言うのに!!」



「あぁ、もう、一々煩い!!そうガンガン叫ばれると、様子見に徹してた魔物まで寄ってくるじゃないの!!」




 自らの感じていた恐怖をまぎらわそうとするかのように、先を走る狼系の特徴を持つ獣人族(ベスタ)の男性が声を挙げると、ソレを咎める様にして、それ以上の声量にて抗議する獣人族(ベスタ)の女性には狐系の特徴が出ているのが見て取れた。



 言わずとも理解されているかも知れないが、彼等こそ先日兄にして婚約者であったガリアンから全てを奪い取った本人である『グズレグ=ウル・ハウル』と『サラサ=ナル・ウルゼン』その人であった。



 とは言え、男性の方はガリアンにはあまり似ている様には見えない。



 何故なら、兄であるガリアンが全身美しい銀毛に覆われたフルフェイス型の獣人族(ベスタ)であるのに比べ、彼は辛うじてフルフェイス型の獣人族(ベスタ)ではあれども何処か雰囲気からしてやさぐれている様子であり、その毛並みもくすんだ灰色をしていてあまり美しさを感じる事が出来ない外見をしていた。


 サラサの方に至っては、そもそもが狐系とは言えフルフェイス型ではなく、外見的には稲穂色の長い髪に切れ長の目尻をした狐顔の、美人……と言えなくも無い女性の只人族(ヒューマン)に耳と尻尾を着けているだけ、と言った様な風体となっていた。



 こうして見てみれば、グズレグはガリアンと本当に兄弟であったのか疑わしくもなるし、サラサに至っては同じ獣人族(ベスタ)なのかすらも怪しく思えて来る。



 しかし、それはあくまでも獣人族(ベスタ)としては大した問題ではないし、彼らに取っては十分に似ている故に問題にはならないのだそうだ。



 何でも、彼等は遺伝の関係で、ガリアンやグズレグの様に獣に近い見た目をして産まれてくる者と、サラサの様に人に近しい見た目で産まれて来る者に二分されるのだとか。


 そこに親の要素はあまり関係無く、人寄りの両親から獣寄りの子供が産まれて来る事も、獣寄りの両親から人寄りの子供が産まれる事も多々在る事例なのだそうだ。


 特に両者で違いは無いそうなのだが、獣寄りの者は身体能力に優れ、人寄りの者は魔力関連の才能が開花し易い、と言った程度の差は在るらしい。




 そんな二人であったが、何故にこうして逃げ惑っているのか、と言えば、話は至極簡単。


 かつてのパーティーメンバーであり、足手まといとして追放処分にしたガリアンが居なくなった事を記念して、高難易度の依頼を受けて来たから、である。



 自分達には不要な、ただただ立っているだけの案山子を追放したのだから、自分達の攻撃はより一層素早く敵を倒しきれる事間違いなく、自分達の目の前には栄光へと繋がる道のみが拓かれていると、そう認識しての魔物の討伐依頼だったのだが、当然の如く失敗。


 本来ならば、盾役であるガリアンが徹底的に壁として立ち回って、漸く勝ち目が見えてきたであろう相手に、バカ正直に真っ正面から挑んだ処で勝てるハズも無く、こうして恥も外聞も何もかも放り出し、現場である入り組んだ構造となっている洞窟から脱出するべく走り回っている、と言う訳なのだ。



 ……とは言え、それはそうなって当然の話。



 何せ、彼等は自らの力で強者と言えるだけの実力を誇っており、過去に挙げた手柄もソレによって獲得したモノだ、と思い込んでいるが、その実としては大半以上が追放されたガリアンによってもたらされた戦果であり、あくまでも彼等は結果的に鑑みればオマケ程度の事しかしていない。


 しかし、当のガリアンが殊更手柄を主張する様な事をして来なかった為に、彼等も実家も勘違いを起こし、こうして現在に至る、と言う事だ。




「えぇい、一々煩いのはそちらであろうが!毎回毎回、ただただ喚き散らすだけで碌な献策もせず、後になってグダグダと泣き言を溢すのは貴様の悪い癖だぞ!

 女であるならば、黙って男の後ろを着いてきて、指示された事を確実にこなしておれば良いのだ!何も考えも手段も無いと言うのであれば、黙って足を動かしていろ!!」



「なによ、一々偉そうに!ガリアンを蹴りおとして、実家にわざと嘘の情報を流して、漸く継嗣になれたって程度の人が、巫女であるわたくしに指図しないでくれないかしら!?

 やっぱり、ガリアンを追放したからこうなったんじゃないの!?バカな事を実行した責任は、いったいどうやって取るつもりよ!!」



「あぁ!?女ごときが、自分の意見に逆らってるんじゃねぇよ!

 それともなんだ?ここに置いてけぼりにされたいのか!?あぁ!?」



「あぁ、またそうやってわたくしだけを悪者にする!

 そんな事ばかりしていたから、継嗣の候補にも上れなかった事にも気付かないのかしら!?」



「なんだとテメェ!?」



「きゃあ!!!!狼藉モノ!!!???」




 周囲の状況も考えず喚き散らし、終いには命を預ける仲間に対して手すら上げ始める二人。



 以前であれば、割って入って宥めた者が居たのだろうが、その者は既にここには居ない。



 それに気付く事も無く、同時にそうやって喚く事で何が起きるのかも考えが及ばない様子の二人が周囲の状況に気が付き、小便処か二人揃って糞まで漏らしながらどうにか脱出するまでは、そこまでの時間は掛からなかったのだそうだ。





 そして、彼らが自らの力だと誤認し、不要だと切り捨てた相手が新たな仲間と共に名を上げ始めていた事を知るのは、もう少し経ってからの事となるのであった。

次話から次の章に入る予定です


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― 新着の感想 ―
[良い点] 閑話で追放した側がこうして落ちていく様を読むのが、なりより好きなので今回もニヨニヨしながら読ませて頂きました。 ありがとうございます。
[気になる点] 継子と連呼されている事。 「継子」とは血の繋がらない子供。義理の子供の事。 決して、「後継者となる子供」の事ではない。
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