『追放者達』、打ち上げする
「取り敢えず、精算してきたぞ~」
そんな台詞と共に、仲間の元へと帰還するアレス。
その手には、受付へと向かって行く時とは異なる小袋が、またしても別の要素にてパンパンに膨らんでいた。
「うむ、ご苦労であったなアレス殿。遅かった様だが、どうかしたかね?何か、トラブルでも?」
「いんにゃ?言う程の事でも無いよ。ただ単に、依頼に無かった事なんだから、その辺寄越せ、って言ってみただけだったからね」
「……それは、大丈夫なのでしょうか?
その手の事であまり強くごねると、ギルドの方からの心象が悪くなるのでは……?」
「まぁ、大丈夫じゃないですかね?俺が言ってた事は、俺達が行ってた場所を調べれば簡単に本当の事だって分かるし、俺達が引き渡した被害者達も、多分嘘は吐かないでしょ?なら、大丈夫じゃない?
それに、俺達があんな事する羽目になったのは、そもそもの話が向こうの調査不足なんだから、ソレを大した被害を出す前に片付けてやった俺達に対してどうこう言える様な立場じゃないでしょ?」
「でも、そうだったとしてもどっかで適当に握り潰されたりしない訳?コレって、立派な『醜聞』ってヤツでしょう?」
「そこはほら。確りバッチリ人目の在る場所で、他の連中にもわざと聞こえる様に事を大きめにしてきたから、大丈夫じゃない?
ここで俺達への報酬を渋ったり、俺達を消したりしようモノなら、冒険者からのギルドに対しての信頼はがた落ちじゃ済まないぞ?下手をすれば、支部の一つや二つは無くなる羽目になるんじゃないの?」
「「「じゃあ、大丈夫 (か)(だな)(ですね)」」」
そこで一旦会話を切った四人は、未だに待機していた元被害者達に一度はギルドの方に事情を説明する事を約束させてから解散させ、街へと繰り出して行く。
既に昼時は過ぎ掛かっており、通りに面した店の数々は掻き入れ時の最後なのだから、とより一層声を張り上げている。
「らっしゃいらっしゃい!うちは『安い』『早い』『旨い』がモットーだ!来て損はさせないよ!」「ここいらじゃ珍しい海魚を使ったスープ、後少しで売り切れだよ!」「角兎のスープ、牛鬼のステーキ、豚鬼の煮込み、どれもパン二つ付けて銅貨五枚から!安いよ!!」「新鮮な暴れ鶏の丸揚げは如何!酒の飲み放題も付けて大銅貨一枚だ!!」
それに惹かれつつ、取り敢えず昼飯もまだであった事もあり、四人で何処かに入る事にする『追放者達』。
「さて、何処にする?
俺としては、まだ昼だけど一杯やりたい気分なんだけど?」
「当方も同じく。
ただ、意見を言えるのであれば、先程聞こえた謳い文句の中に、中々惹かれるモノが在った、とだけは言っておきたいの。
具体的に言えば、今は鳥を食したい気分だ。可能だろうか?」
「そう、ですね……。
教会の教えでは、日が高い時間からの飲酒は制限するべき悪徳だ、との教えでしたが、私は既に教会とは無関係ですから構いませんよ♪」
「アタシも、別に構わないよ。
でも、アタシとしては、今はお酒よりもご飯を優先したい気分かな。お腹空いちゃったし」
「なら、さっき丁度良さそうなのが在ったから、そこにしようか」
丁度良く、鶏と飲み放題を売り文句にしていた呼子に声を掛け、店へと案内させる四人。
到着した先で、店員にチップとして銅貨を何枚か握らせ、個室へと案内させる。
そして、思い思いの料理や酒等を注文してから、料理が運ばれて来るまでの間に、報酬を受け取ったアレスがその内訳を説明して行く。
「取り敢えず、依頼の基本報酬として豚鬼一頭に付き銀貨二枚で七十二頭討伐したから金貨一枚と大銀貨四枚に銀貨が四枚。
次に、豚鬼の素材の売却費として、鎧にも使われる皮が一頭に付き大銅貨一枚、食材になる肉が大銅貨二枚、精力剤に使われる睾丸が大銅貨二枚で一頭丸々で大銅貨五枚での買い上げとなったから、計大銀貨三枚と銀貨六枚になった。
最後に、『豚鬼君主』の方は、こいつは依頼には入って無かったけど、上位種って事で討伐報酬が後から出るって話だけど今は置いておくとして、上質な革鎧に使われる皮が大銀貨五枚、人気食材かつ高級な食材の肉が全部売れば金貨で一枚、一発必中を可能にするって話の強力な精力剤になるらしい睾丸が金貨で二枚。肉は半分しか売ってないんで大銀貨五枚になってるから、計が金貨三枚で、総計して金貨で四枚、大銀貨が八枚って処になってる。
今の所で何か質問は?」
他の三人が、それぞれで特には無い、と言う意思を表明する中、小袋から取り出した大陸共通硬貨を種類毎に重ねて並べて行くアレス。
彼等の今居るカンタレラ王国を含めたカリュドーン大陸の共通硬貨は、最小から順に銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨、大白金貨、光金貨となっている。
これらは、単純に十枚毎に種類が上昇する事になっており、日常の様々な場面にて広く流通している。
……とは言え、世間一般的に流通している、と言えるのは、精々が金貨迄。それ以上となると、中々庶民ではお目にかかる機会が巡っては来なくなる。
何故なら、扱われる額として、大きく成りすぎるからだ。
基本的に、銅貨一枚在れば最低限からの買い物は出来なくは無い。
当然、その額で賄えるモノなんて、質が悪いか、もしくは殆ど量が無いかの二択になる。
そして、一日分の糧を金額に換算すれば、大体大銅貨が一枚も在れば、余程大喰らいであるか、もしくは高級品にでも手を出さない限りはどうにかなる、と言うのが一般的な家庭の話。
故に、必然的に世間で最も馴染みの深い硬貨は銅貨や大銅貨と言う事になる。多少大口の買い物をする際には銀貨を使う事も在るだろうし、貯金として大銀貨を蓄えておく事も在るかもしれない。
……が、金貨以上となると、基本的には一般人が扱う事は滅多に無くなってしまう事になる。
何せ、最も使われる銅貨に換算すれば一万枚相当だ。
余程裕福な家庭か、もしくは商家でもない限りは基本的に一生に一度扱うか否か、と言った処だろう。
それ以上の金額になる大金貨以上となると、言わずもがな、と言った処になる。
もっとも、それはあくまでも一般家庭であるならば、と言う仮定の話。
冒険者の場合、腕次第にはなるが金貨以上の硬貨にもそれなりに接する機会が増えて来る。
武具の購入や整備、各種消耗品の仕入れ等々による支出はそれなり以上の金額になるし、受けられる依頼のランクが上がって行くにつれて報酬として懐へと入ってくる収入の額も、同じ様に上昇して行く事になるからだ。
とは言え、装備の更新はそこまで頻繁に行う様な事ではないし、基本的にその日に稼いだ分はその日の内に使ってしまう、と言う主義のバカ者も少なくは無いので、冒険者だからと言って=金持ち、と言う訳でも無かったりするのだけれど。
そんな事情もあり、皆の目の前で硬貨をカウントして確りとその存在をアピールさせたアレスは、余計な目撃者を出す前にさっさと硬貨を小袋へと仕舞い込むと、その直後に到着したジョッキを手に取って掲げ、リーダーとしての音頭を取る。
「各自への分配だとか、パーティーとしてプールしておく分はどれくらいにしておくのかだとか、決める事はまだまだ在るけど、取り敢えずは今日の依頼を無事に終えられた事に乾杯と行こうか!乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
そして、冒険者パーティー『追放者達』として初の仕事を終えた彼等は、互いにジョッキをぶつけ合わせると、その中を満たしていた冷えたエールを喉へと流し込むのであった。
取り敢えず、パーティー結成編はここまで
次回、閑話(?)を挟んで次の章に入る予定です
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