『追放者達』、巨大『粘性体』と死闘を繰り広げる
「がはははははっ!漸く、漸く我の出番と言うモノよ!なれば、ここは先ずは我が行かせて貰うぞ!!」
そう啖呵を切って真っ先に突撃を敢行するのは、その肩に巨大な戦斧を担いだガシャンダラ王。
最前衛での殴り合いに特化している彼は、行き道はともかくとして巨大『粘性体』から逃れる際には特に何も出来てはおらず、歯痒い思いを噛み締める事しか出来ていなかった。
それ故なのか、自身が得意な盤面にて思う存分に暴れられる、と言うシチュエーションに大いに奮い立っているのか、もしくはそれまで出番が無かった事へのフラストレーションをぶつけられる事に興奮しているのかは定かではない。
……が、それはそれとして大変に猛った表情を浮かべた実に『良い顔』にて驚く程の速度にて距離を詰めたガシャンダラ王が、その肩に担いでいた戦斧を振りかざすと、自然災害と等しい勢いと大質量にて迫る巨大『粘性体』へと目掛けて、それまでの加速と女性の胴程も在る豪腕から繰り出される腕力の全てを乗せた一撃を振り下ろす!
…………ゴガァァァアアアンッ!!!!
……すると、確実に人が振るえるサイズの鉄塊を振り回した程度では起こし得ない程の、最早『爆音』と言うのに相応しいだけの轟音と爆裂が巻き起こり、ガシャンダラ王が居た周辺を真っ白に染め上げるだけの土煙が立ち上ぼり、その姿を覆い隠してしまう。
もっとも、その一撃が桁外れの威力を秘めていた事は、遠目に見ても小山程度の体積を保ち続けていた巨大『粘性体』の姿が若干小さくなって見えた事から、少なくともサイズが違って見える程度にはその巨体を後退らせる事が可能であった事が窺えた。
その事実に、アレス達前衛が内心でドン引きしながら距離を詰めていると、風に流されて土煙も晴れて行き、そこから当然の様に無傷の状態で肩に斧を担いだガシャンダラ王が良い笑顔を浮かべながら現れると同時に、先の一撃で大きくその身体を削り取られ、色も相まって中々に生々しい傷口を露にしてしまっている巨大『粘性体』の姿が彼らの視界に写り込んで行く。
まるで、山に突如として現れた崖を彷彿とさせる様な巨大でデコボコとした傷口から、体液と思われる赤いドロドロとした液体を滴らせる巨大『粘性体』。
遠目に見る限りでは、その体液は自立して『粘性体』として活動を始める様子は見られないし、そうして流れ出て行く事で、心無しでは在るもののその巨体が縮んで来ている様な気もするが、そうして開かれた傷口は徐々にその表面を蠢かせ、変形させる事で治癒と修復を同時に図っている様子であった。
「不味い!?再生し始めているぞ!」
「……色々な意味で当方では足りぬ!
誰か行けぬのであるか!?」
「残念だけど、オジサンにはこんなに距離が離れていても大打撃を与えられる様な手段なんて無いんだけど!?他に誰か居ないの!?」
「がはははははっ!残念ながら、今ちょっと我も動けん!流石に、最初手から大技を使いすぎたな!と言う訳で誰か頼んだぞ!」
「なら、オレに任せな!!」
未だに魔力が回復しきれずに魔法を放つ事に躊躇いが在るアレスに、装備の重量によって速度が足らず、元来盾役である事から攻撃力にも難の在るガリアン。未だに先の無茶のダメージが抜けきっていないヒギンズに、大技を放ってしまったが故にその反動にて追撃を放つ事が出来ないガシャンダラ王と、他の候補が全滅していた事と、この様な危機的な状況を解決して見せればアレスからの評価も上がるハズ!と言う下心から、気勢を挙げて啖呵を切って見せるアリサ。
特に反対する言葉も向けられなかった為に、そのまま自分の手番だと認識したアリサは、その場で急停止すると手にしていた得物を顔の前へと掲げ、まるで祈りでも捧げているかの様な姿勢と雰囲気を纏い始める。
すると、掲げられたアリサの長剣に本人の闘気が集中して行き、まるで発動直前まで整えられた大魔法を前にしている様な異様な圧力を感じる様な空気へと変化を起こす。
更には、掲げられているその刀身は可視化される程に濃密な闘気を纏い始め、まるで刀身その物が発光している様にすら感じる見た目へと変化を遂げて行く。
「…………おいおい、もしかしてアレを使うつもりか……?
……まぁ、それくらいしないと、あの巨体は削りきれなさそうなのは事実だが……流石にやり過ぎじゃないのか……?」
昔馴染みのその行動を目の当たりにしたアレスは、彼女がこれから何をしようとしているのかを理解しているらしく、若干ひきつった表情にて呟きを溢す。
それに釣られた、と言う訳でもないのだろうが、それまで損傷の回復に努めていた巨大『粘性体』が唐突にその行動優先度を変更し、身体を変形させてアリサへと目掛けて無数の槍の様な触手を伸ばて行く。
半ば本能的な反応として、突如として圧力が高まったアリサに対しての注目が高まったからか、もしくはそれ以外の行動理念として『戦闘力=栄養価』とでも表現するべきロジックがソレの中で組まれているのかは定かではないが、自身の回復よりも彼女が襲う事を上位の優先度に据えたのには間違いは無い。
しかし、そうして狙いを付けられたアリサであったが、自らへと肉の槍が殺到しようとしているにも関わらず、その場から退く事も逃れる事もしようとはせず、ただひらすらにその場に立ち尽くして祈りを捧げる格好を崩そうとしない。
……いや、正確に言えば『その場から動くことが出来ない』と言うのが正しいだろう。
何せ、彼女がいま行っているソレは、全神経を集中して行う極限のルーティーンにして一種の魔法儀式にも近しいモノ。
ソコに『その他の事柄』に対して意識を割く余裕なんてモノは当然在りはせず、僅か数分程度の間とは言え完全に無防備な状態になってしまうのだ。
大方、これまでの経験から積極的に喰らいに来る事は在っても、それは最寄りの存在に対してのみだ、と思い込んでこんな無防備な状態で始めたのだろうが、予想が甘過ぎたのだ、としか言い様が無い。
……しかし、ここで彼女を守らないと言う選択肢は、彼女が溜めている技の威力からも、戦力が低下する、と言う観点からも容易に見逃せる様な事柄では無かった為に、アリサへと赤い流動体の槍が突き立てられる寸前にてアレスとガリアンが割って入り、向けられていた無数の槍を切り払い、打ち払って防御して行く。
基本的に、無機物だろうと有機物だろうと関係無く取り込み、消化して自らの栄養へと変換してしまう巨大『粘性体』。
その特性を目にする機会に恵まれ無かった(?)彼らであったが故の行動だったが、それによりまるで何かに動揺した様な振動がソレの巨体へと伝播し、中途半端に柔らかな全身を震わせて行く。
…………そう、何故なら、二人が手にしていた得物を、取り込む事が出来なかったからだ。
ソレが今まで取り込む意思の元で触れてきたモノは、須くして取り込まれて養分と化していた。唯一の例外は、あの建築物にて自身が詰め込まれる事となったガラスケースだけ。
……しかし、今回こうしてアレスの長剣やガリアンの盾に補食を阻まれ、ソレを『邪魔なモノ』として認識した巨大『粘性体』は、その次に触手を叩き付けた時には最初から取り込むつもりで振るっていた。
その為、普通であれば二人は得物を喪い、成す術も無く背後に庇っていたアリサ共々取り込まれて消化されてしまうハズだったのだ。
だが、この地上に於いて最も頑丈な物質の一つとして数えられる魔導金属である神鉄鋼を、当代随一の腕前を誇る職人である『天鎚』ドヴェルグが心血を込めて加工した逸品であったが為に、流石の巨大『粘性体』も取り込む事が叶わなかったのだろうと思われる。
とは言え、そんな事は欠片も知らず、想像も出来ない巨大『粘性体』は、その巨体に反比例するかの様に僅かしか存在していない知性にて『取り込む事が出来ない』と一応認識し、その事実に衝撃を受けていたものの、だからと言って彼らの背後にて存在感を増しているアリサの事を取り込むのを諦められる程に理性は発達しておらず、また先に負った負傷を修復した分の栄養も足りていなかったので、その場で愚直に二人に対して触手の槍を伸ばす事しかして来なかった。
それ故に、彼ら二人はひたすらにアリサ目掛けて延びて行く触手を捌いて行く羽目になる。
彼ら自身の力量もさる事ながら得物の性能が高い事も相まって、普通に振るうだけでも取り込まれる事無く切り裂けるのは良いのだが、『取り敢えず取り込めればソレで良い』と言う思考回路のままに物量的に激しく攻め立ててくれている為に、流石の彼らでももうこれ以上防ぐのは難しい、と言う状況にまで追い込まれたその時であった。
それまで祈りを捧げる様にして得物を掲げていたアリサが、祈っていた体勢を解除してその手にしていた得物を正眼に構えて一言警告を発する。
「……よし!準備完了だ!
二人とも、ソコどけ!巻き込まれても知らないからな!!」
その言葉に従い、二人は直前にて伸ばされた流動体の槍をそれぞれで切り払い、打ち払ってから左右へと別れ、特に指示された訳でもないままに彼女の正面を空けておく。
すると、そうして空けられた空間へと、未だに巨大『粘性体』との距離はソレなりに在ると言うにも関わらず、アリサは手にしていた得物を渾身の力にて巨大『粘性体』に対して振り下ろすのであった。
「……はっ、これでも喰らいな!『断空』!!」
その一撃により、巨大『粘性体』の身体は誰に観測されるよりも先に真っ二つに切り裂かれてしまったのであった……。
一応、次で戦闘も終わる予定
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