『追放者達』、報告する
評価して下さった方に感謝です(^^)
セレンによる治療費を後出し的に請求するテクニックにて労働力を手に入れた『追放者達』は、砦の中に在った倉庫に残されていた品々を回収し、倒したままで放置する形になっていた豚鬼の死体を回収すると、救出した人達を護衛する形にて砦を後にする。
本来であれば、即座に火を放って焼き払う処なのだが、今回受けた依頼はあくまでも『街道に出た豚鬼の群れの討伐』であり、その規模も只のはぐれが群れを作っていただけ、と言ったモノしか想定していない。
故に、アレスのアイテムボックスに仕舞われている『豚鬼君主』の死体と言う動かし様の無い証拠が在ると言っても、それに加えての何らかの証拠が在った方がやはり信憑性は高くなる。
それ故に、今の処は焼き払う様な事はせず、敢えて残す事で揺るぎ無い証拠とする事にしたのである。
流石に、依頼の内容と実際の現場が異なる、と言った風な報告が入ったのならば、ギルドの方から迅速な調査が行われるハズだ。
万が一、調査が行われるよりも先に、山賊の類いがこの砦を発見して住み着く様な事が在ったとしても、それは『追放者達』の責任とは言えないだろう。何せ、彼らは証拠を残しておいただけなのだ。それを、関係無い第三者に抑えられたとしても、流石に彼等に責任を追求するのはお門違いと言うヤツだろう。
そんな訳で、街道から砦を目指した道筋を逆に辿りつつ、分かり難い場所に分散して隠しておいた豚鬼の死体を回収しながら進んで行く。
時折、斥候として出ていた残りの豚鬼や、その他の関係無い魔物等とも遭遇したりもしたが、大半がアレスとガリアンによって返り討ちにあい、残りは一行の人数やらを見た途端に尻尾を巻いて逃げ出して行った。
そうして、行きは『追放者達』のみで一時間程で踏破した道のりを倍ほどの時間を掛けて通り抜け、無事に街道へと到着する。
流石に昼近くにもなれば、大きな街道であった事もあり、人の往来も多くなっていた。
その為、森から出てきた上に、過半数の人間がボロボロの身形で在りながら、それでいて武装した数名に護衛されている、と言う絵面は中々に興味を引くらしく、四方から視線が殺到する。
しかし、セレンは嘗て聖女であった時に、そうした不躾な視線に晒される事には慣れていたし、アレスはアレスで『連理の翼』の二人と行動を共にしていた時は、しょっちゅう『腰巾着』だの『寄生虫』だのの呟きと共に様々な視線を向けられていた経験が在るので、既に気にはならなくなっていた。
ガリアンも一応は貴族の家の出自である為に、人から見られる、と言う事には慣れきっているので気にしていない。
唯一貧民街出身で、その手の視線に慣れる余裕の無かったタチアナは、最初こそ怯んだような様子を見せていたものの、他の面々が特に動じた様子を見せていなかった為に、ここでビビってはいられない!と持ち前と勝ち気さを発揮して奮起し、周囲には動じていない、と見られる様に振る舞い始めた。
そんなタチアナの姿を微笑ましく眺めながら街道を突き進み、昼頃には首都であるアルカンターラへと帰還した一行。
預けているモノがモノであるし、証言もして貰う必要も在ったが為に、取り敢えず冒険者ギルドへと向かって移動する。
そして、特にハプニングが起きる事も無くギルドへと到着し、朝に手続きを行ったパーティーのリーダーでもあるアレスが代表として受け付けへと向かって行く。
「失礼。依頼を片付けて来たんだが」
「畏まりました。では、依頼票の方をお願い致します」
「ほいほい」
促されるままに、今朝受け取った依頼票を提出するアレス。
「拝見致します。
……おや、この依頼票……あぁ、あの時の。もう、戻られたのですか?」
「…………ん?って、良く見たら、今朝手続きしてくれたお姉さんじゃん!?」
「覚えて頂き有難うございます。私、受付担当のシーラと申します。以後、お見知りおきを。
それで、依頼ですが、討伐の証拠として証明部位の提出をお願い致します」
「あぁ、そうそう。その件なんだけどさ……」
そこで一旦言葉を切りながら、アイテムボックスから予め削ぎ落としてから集めておいた豚鬼の右耳がパンパンに詰まった袋を取り出すと、特に声を潜める事はせずに続きを言葉にする。
「その件なんだけど、どうやら依頼の内容が不十分だったみたいなんだ。だから、報酬だとか後始末だとかの相談がしたいんだけど構わないよね?」
「……え?それは、いったいどう言った……?」
「アレ?まだ分からない?
じゃあ、ついでにコレも見て貰おうかな」
わざと他の冒険者達からも見える様に、受付カウンターの上にアイテムボックスから『豚鬼君主』の死体を取り出す。
当然の様に、突然目の前に山の様な死体が出現した為に、受付嬢であるシーラの悲鳴がギルドに響く。
それにより、遅めに出てきた冒険者や、早めに依頼を片付けて帰還した冒険者達の視線が集中するが、それに構う事無く言葉を続けるアレス。
「いやね?俺達って、『豚鬼の群れの討伐』って依頼を受けていたでしょう?内容も、『街道に出現した豚鬼の群れの討伐』ってなってたし、現に依頼書にもそう書いて在りますよね?
なのに、いざ現地に行ってみれば、豚鬼共は『群れ』って規模を遥かに上回る数が居たし、気になって調べてみたら森の奥には巣として砦が出来ていたし、そこにはボスとしてこの『豚鬼君主』が居た上に、更に拐われたと思わしき人達まで居たじゃないですか!
これは、明らかにギルド側の認識不足による調査不備だったんじゃないですか?」
「……し、しかし、この依頼はあくまでも緊急依頼でして……。
情報の確実性よりも、解決までの速度を重視したモノとなっておりますので、突発的な事態が起きる可能性も在る、とは事前にご説明したハズですが……」
「えぇ!えぇ!確かに、それは受けました。えぇ、受けましたよ?
ですが、その上で、聞いているのですよ。
今回俺達が受けたのは『Dランク』の依頼です。ですが、こうして実際に出てきたのは『Bランク』に分類される『豚鬼君主』です。
幸いにして討伐出来はしましたが、Cランクの冒険者であるガリアンとセレンが居て漸く、と言った形です。到底、他の平均的なEランクパーティーが挑んでいたとして、達成出来たとは思えませんねぇ」
「…………それは、否定致しません。
未だに確認の取れていない事柄では在りますので明言は出来ませんし、まだ証拠が足りませんので確定では在りませんが、確かに確認不足でランク不相応の依頼を発注してしまった様です。
心より、お詫び致します」
「言葉だけじゃ腹は膨れない、って言いますけど?」
「もちろん、報酬は増額させて頂く事になると思われます。
……ただ、未だそちらのお話が全て本当だ、と言う確認が取れておりませんので、追加の報酬を今すぐお支払する、と言うのは些か難しく……」
「えぇ、構いませんよ。誤魔化さず、はぐらかさず、確実に支払って頂けるのでしたら、ね?
後、今回の依頼で、俺達はランク不相応の実力が在る、と示す事が出来たと思いますけど、そこら辺はどうお考えです?」
「……突発的な事態であった事も鑑みれば、私の立場では確約は出来かねますが、恐らくはパーティーランクの昇格と、Eランクのタチアナ様とDランクのアレス様には昇格試験への受験資格が与えられる事になる可能性は高いかと、思われますが……」
「今回の依頼で最も貢献したのは、Cランクであるお二人なのですが?」
「……ですが、ガリアン様とセレン様にとっては、突発的な遭遇戦であったとは言え、適正範囲内の事ですので、今回の依頼にて受験資格が与えられるかどうかは、流石に……」
「…………ふむ。まぁ、良いでしょう。流石に、そこまで望んでも叶わないでしょうから、今回はそれで良しとしておきましょう。
では、通常の報酬と素材の換金、並びに解体もお願いしますね?」
「…………かしこまり、ました。
では、向こうの部屋にて、換金なさる分と解体なさる分の提出を、お願い致します」
こうして、最初期こそはお互いに無表情かつ事務的に開始されたやり取りは、結果として『目的を成し遂げた満面の笑み』と『苦虫を噛み潰した様な苦々しい顔』と言う対極的な表情と成果によって決着を見るのであった。
面白い、かも?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価等にて応援して頂けると励みになりますのでよろしくお願い致しますm(_ _)m