『追放者達』、ミョルニルに一時帰還する
ガシャンダラ王からの依頼にてベルーダへと赴き、ソコでの依頼を果たした『追放者達』。
ベルーダの安全が確保された事を確認した彼らは、出された依頼に従って順次城塞都市や砦と言った施設を巡り、時に物資を補給し、時に避難民を誘導し、時にベルーダの時と同じ様に大群を成していた魔物を蹂躙して行った。
そして、幾度目かのミョルニルと各都市とのピストン輸送の後に、アレス達は再び謁見の間にてガシャンダラ王と面会を果たしていた。
「…………それで?此度はどの様な用向きだ?
精力的に活動し、方々からも諸君を称える声が我の処にも届いておる。それは、誉めて遣わそう。
……しかし。しかし、だ。
そなたは未だに、我が出した依頼を十全にこなしている、とは言えぬ状況であるハズだ。何故に、この様な事を成そうとした?」
「はっ、陛下。
未だに道半ばにしてこの様にお顔合わせ頂く等と言う事になりましたのには、恥じ入るばかりにございます。ですが、依頼に在りました『今回のスタンピードの原因を判明させる』と言う事に関しまして、手掛かりとなる……かも知れない事が分かりましたので、早急にご報告致したく、この様な形を取らせて頂きました」
「…………ほう?その言葉嘘偽り無き事実であろうな?
口からの出任せ等では無く、純然たる確証と証拠を持ってして口にしている言葉だと、そう言うのだな?アレスよ」
「はっ!勿論です!」
アレスの言葉にピクリと眉を動かしてガシャンダラ王が反応を示し、同じく謁見の間に居た各方面の重鎮達にもざわめきが走り抜けて行く。
そして、ソレを確認し、嘘ならば赦さない、と言う言外に伏せらたガシャンダラ王の言葉を理解した上で力強くアレスが肯定の言葉を発した為に、暫しの間謁見の間は人々が口々に言い合う言葉によって作られるざわめきの支配下に置かれる事となってしまう。
……まぁ、そうなるのは仕方の無い事、寧ろ当然の事態だと言えるだろう。
何せ、これまで特に手掛かりが無く、碌に前兆すら無いままに発生し、ガンダルヴァ国内に多大な被害を出しているスタンピード。
その直接的な原因と確定出来た訳ではないにしても、その手掛かりとなる……かも知れない情報が手に入ると言うのだから、この様な公的な場所であったとしても、身分と言う衣をかなぐり捨てて一縷の光明にすがりたくなったとしても、何ら不思議な事では無いだろう。
そんな彼ら彼女らが発するざわめきを静める為に、ガシャンダラ王が一つ咳払いを溢す。
すると、案の定水を打ったかの様に一瞬で全員がその口を閉ざし、謁見の間はそれまでとは打って変わって静寂に支配される形へと回帰して行く。
そんな中で、本人もその瞳の中に好奇心と光明への期待感を強く滲ませつつ、姿勢も若干前のめりになりながらガシャンダラ王が口を開く。
「…………して、冒険者アレスよ。
そなたが言う処の『証拠と成りうるモノ』とは一体、どの様なモノなのか、この場で申してみよ」
「……はっ!
では、恐れながら皆様、コレをご覧下さい」
そう言って、アレスが自身のアイテムボックスから取り出したのは、例の余程のモノで無い限りは物理攻撃を吸収して無効化してしまうゼリー状の身体をした魔物の死体だ。
死してなお生前と変わらぬ弾力を誇るその毒々しい赤に染まった身体は、取り出されて床へと投げ出された衝撃によってフルフルと揺れ動き、初めて目にする者にも既に見知っている者にも、等しく嫌悪感を与えてしまっていた。
ソレによって挙げられた動揺の声を呼び水として、再び喧騒が謁見の間を支配しそうになったが、ガシャンダラ王が力強く玉座の手摺に拳を振り下ろした事によってそれは未然に防がれ、緊迫した雰囲気のままにガシャンダラ王がアレスへと問い掛ける。
「…………確か、それは此度のスタンピードで多く確認された、厄介な性質を持つ魔物であったな?
そんなモノを一々持ち出して、如何なる弁明をするつもりだ?ソレが此度のスタンピードに関わっているのであろう等と言う事は、戦場に出ていない様なモノでも容易に想像が着く事であるぞ?」
「えぇ、それは勿論。
さて、では前提条件と致しますが、この魔物、仮に『粘性体』と呼称すると致しまして、コレが現在スタンピードの脅威に晒されている都市や砦のほぼ全てにて発見の報告が上がって来ている、と言う事は把握なされておりますか?」
「うむ、当然である。
ソレを、そなたの言う通りに『粘性体』として呼称するのであれば、確かに我の処にもその我々としては非常に厄介な性質を持つ事も、多くの場所にて目撃されている事も我は把握しておる。
それが、どうかしたのか?」
「えぇ、ソレを知っている事が前提となる説ですので。
そうでなければ、理論を飛躍させ過ぎている、と言われかねない話ですので、一応確認させて頂きました。ご容赦を」
「うむ、良い。続けよ」
敢えて前提条件をその場の全員に確認したアレスへと、その意図を察したらしいガシャンダラ王が、瞳の中に悪戯好きな子供の様な光を宿しながら、手振りでアレスへと続ける様にと促して行く。
ソレを受けたアレスは、軽く頭を下げて謝意を伝えながらも、ガシャンダラ王と同じ様であって更に黒い笑みを一瞬だけ浮かべると、次の瞬間にはそれまでのモノと同じ表情へと整え、顔を上げてから仮称『粘性体』を指差しつつ、唐突に謁見へと参加していた大臣と思わしき人物に対して視線を向け、唐突に問い掛ける様にしながら言葉を続ける。
「失礼、そこの貴方。確認なのですが、この魔物はこの近辺には元々生息してはおらず、目撃さえもされておりませんでした。その近縁種ですら、です。
しかし、そうであるにも関わらず、この魔物はこのガンダルヴァ全土……と言うのは些か語弊が在るかも知れませんが、取り敢えず今回のスタンピードによって、ほぼそれに近しい範囲にて確認されております。
そうですよね?」
「…………う、うむ、そうだな?
しかし、その程度の事は、既に我々で把握していて……」
「えぇ、そうでしょう。しかし。しかし、です。
それは些か不自然に過ぎませんか?」
「……なに?不自然、だと?」
「えぇ、そうです。
このガンダルヴァが現在直面しているスタンピードは、様々な要因によって引き起こされる魔物の暴走行動の総称です。
言わずもがなですが、その原因は何処かの未管理ダンジョンから魔物が溢れて来たのかも知れませんし、特定の種の魔物が何らかの原因によって大量発生したのかも知れません。
逆に、何らかの魔物の数が極端に少なくなってしまった事が原因となったのかも知れませんし、何らかの魔道具が放置された結果引き起こされた現象と言う可能性も否定は出来ません。
つまり、『コレだ!』と言う原因を特定出来るまでは、様々な可能性を考慮しなくてはならない事になります。
…………ですが、どんな事が原因になっていたとしても、自然に発生したスタンピードであるならば、必ず共通する事が在ります。それは、お分かりですよね?」
「……当然だ。無いモノは発生し得ない。つまり、ソコに元々存在していたモノしか、スタンピードを起こしはしな、い…………!?」
「…………お気付きになられた様子ですね。
そう、今回のスタンピードが本当に自然に発生したモノであるのならば、この『粘性体』はもっと早く発見され、認知されていて然るべきなのですよ。少なくとも、この様な皆さん岩人族にとって都合が悪く、相性が著しくよろしくない相手であるならば、この様な存在が確認された、と言う事は、今回の様な非常時に初めて遭遇した、なんて事にはならず、もっと早く共通の認識となっているハズです。違いますか?」
「……それは、確かに……!?
だ、だが……偶々発見例が無かった魔物であった、と言う可能性も在るのでは……!?」
「えぇ、勿論、それも否定は出来ません。
ですが、そうであると言う可能性も考慮して捜査するのと、それは有り得ない、と断定して捜査するのでは思考の柔軟性にかなりの違いが出て来ますのでね。流石に、それは避けた方が良いでしょう」
「…………話は理解した。では、そなたはコレが此度のスタンピードの原因であり、かつ何かしらの方法にて産み出されたモノである、と考えている、と言う事であるか?」
アレスと大臣との会話の流れからその終着点を察したのか、ガシャンダラ王が言葉を投げ掛けて来る。
「はっ!その可能性は、安易に否定してはならない程度には高いかと思われます。
また、実際に自分がパーティーを率いて各都市を巡って得られた情報によりますと、各都市にて『粘性体』が出現した時期やその量にも差異が在る様子でした。
ですので、それらを元に鑑みれば、大雑把ですが探るべき方向も見えてくる…………かも、知れません」
「……ほう?では、ある程度であれば、既に予測は立てられている、と言う事か?」
「はっ!確証足りえはしませんが、しかしながら現段階では最も可能性が高い処であれば、目処を立てる事には成功しております」
「ふむ。して、その場所とは何処なのだ?申してみよ」
何となくガシャンダラ王ならば既に察しているのでは?と感じられたアレスであったが、一応は公的な場所であった為にその感想をどうにか飲み込み、それまで得られた情報によって導き出された都市の名前を挙げるのであった。
「では、恐れながら申し上げます。
此度のスタンピードにて最も激しい戦場と化している、最南端の城塞都市『シュピーゲル』の更に向こう。
空白領域に程近い辺りが怪しいのでは無いかと、自分は睨んでおります」
取り敢えずスタンピードに関しての初めての説明と、新たな単語が出現!?
面白い、かも?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価等にて応援して頂けると励みになりますのでよろしくお願い致しますm(_ _)m




