『追放者達』、隠し事が発覚する
「……おう。そなたらにのみ、こんな危険な任務を押し付ける様で心苦しいが、流石に我らも日々増え続ける魔物の相手で手一杯でな。我が前線に出ても良いならばともかくとして、そうでない以上は回せる戦力が無いのだ」
「まぁ、言っちゃあ悪いが最適な判断だよ。
金で雇えて、それ相応の技量が在る奴が空いてるなら、そいつに押し付けるしか無いだろう?
なら、そこは依頼主としてビシッ!と命令してくれれば良いのさ。まぁ、それ相応に報酬は出して貰うけどな?何せ、こちとら冒険者だ。名誉で飯を食える騎士様とは違って、俺達は無料じゃあ働けないからよ?」
「……ふっ!そんな事、重々承知しておるよ!
取り敢えず、後でこのミョルニルに在る冒険者支部を通して、正式にそなたらに対して指名依頼を出しておくから、安心しておけ。
報酬は……悪いが緊急事態につき、この程度しか出せないが、別に構わぬか?」
「…………また随分と奮発したな?
まぁ、お前さんがソレで良いならソレで良いさ。
じゃあ、早速行くとしようかね」
徐にガシャンダラ王が手を差し出し、何本かの指を曲げた状態にてアレスへと提示する。
すると、ソレを見て驚きの声を挙げるアレス。
端から見ていても良く理解出来ないやり取りながらも意味は通じているらしく、二人でがっしりと握手を交わしてから残っていたジョッキの中身を飲み干すと、決まったのだから早速、と言わんばかりの様子で席を立ってしまう。
それに伴い、セレンやヒギンズと言った他のメンバー達も、口では文句を述べたり、渋々と言った感じで席を立つが、その表情には拒む色は無く、やるべきモノが定まったのだから、と言ったやる気に満ち始めている事が窺えた。
しかし、ソレを遮る形で、それまで沈黙を貫いていたドヴェルグが口を開く。
「…………済まぬが王よ。ソレは、明日からではならぬのか?」
「……別段、そうでなくてはならない、と言う事では無いと言えば無いが、急いで欲しいのが正直な状況だ。
流石に、大叔父殿の言葉でも、それ相応の理由無くして聞き届けられる様な状態では無いのだが?」
「いや、そうは見えておらぬであろうが、こやつらは大迷宮に挑んだ帰りに儂に捕まってのぅ。故に、ここ一月以上は碌に休息らしい休息を取ってはおらぬ。
流石のこやつらでも、そんな状態では成せる事も成せはすまいよ?お主とて、此度の任務は絶対にしくじれないのであろう?なれば、万全の準備にて必成の覚悟を持って事に当たって然るべきでは無いのかのぅ?」
「……そうだったのか?」
「まぁ、否定はしない。
しないが、別段物資を運び回って、そのついでに避難民を誘導して、軽く原因を調査する程度ならまだ行けるぞ?
もっとも、今すぐ原因を突き止めてどうにかして来い!とか言われると、流石にちと厳しいが、どうにかならんことも無いとは思うがね?」
「…………いや、ソレは流石にアンタだけだからね?
少なくとも、アタシは今の状態だと結構疲れてるからあんまりやりたくはない。
まぁ、多少無茶すればどうにでもなるだろうし、出来ない事は無いだろうから、仕事ならやるけどさ?」
「……まぁ、贅沢を言うのであれば、流石に当方も休みたいのが本音であるな。戦時下、と言っても良い程の状況だとは理解しているのであるが、こればかりはどうにもならぬよ」
「オジサンはまだどうにかなるけど、やっぱり女の子達には少し無茶なんじゃないのかなぁ?
まぁ、流石に一日二日遅れた程度でアッサリ滅ぶ程、脆弱な国家じゃ無いでしょう?なら、少し休ませて貰おうよ、ね?」
その言葉により、改めて各自の顔を見回すアレス。
ソレにより、己を含めた全員が、その表情に隠しきれない疲労を溜め込んでいた事を改めて確認させられた。
…………何せ、アルカンターラへと到着し、その当日に旅の疲れを癒す処か埃を落とす暇すらなく強行軍を開始し、途中で碌に休息を取る事すらもせずに急ぎに急いでこのミョルニルまで最短にて到着したのだ。
アレス本人にしても、気力にて無理矢理誤魔化しているが、やはりその無茶な道中の疲労は全身を蝕んでおり、既に先程摂取した酒精の働きも在ってか気を抜けばその場で眠り込んでしまいそうになっていた。
ならば、と回復役たるセレンへとアレスが視線を向けるが、それらの疲労はセレンの手による回復魔法でも如何ともし難いらしく、微笑みを浮かべた状態で首を横に振られてしまう。
そして、そんなやり取りをしているのをバッチリとガシャンダラ王には見られてしまっている為に、ドヴェルグが口にしていた事が真実であると言う何よりの証拠となってしまう。
「……はぁ、なら、仕方在るまい。
アレス、そなたへの命は変更だ。
目標はそのまま据え置きだが、一日二日程度はこのミョルニルにて確りと身を休め、体調を万全のモノとしてから事に挑む様に。
これは、王としての命だ。違える事は、許されないからな?」
「……いや、しかし、そうすると事態がより悪化する事に……」
「だとしても、だ。
そもそも、そなたらをこのまま送り出して、もし万が一何の情報も持ち帰れずに現地で散られでもすれば、それこそこのガンダルヴァは終わるのだぞ?
なれば、王としても友としても、そなた達を最低限一人位は撤退してきて情報を持ち帰れる事を確約出来る様な状態にしておく必要があるのだ。なれば、このまま送り出す訳にも行くまいよ。
それに、そなた本当に理解しておるのか?そなたらがしくじれば、もう時間的にも人員的にも、どうにもならなくなるのだぞ?」
「…………それは……」
「ほれ、ガシャンダラもそう言っておるのじゃし、もう決まった事なのじゃから、あまりグダグダ言うでないわ!
取り敢えず、今のお主の仕事は身体を休め、次の仕事を確実にこなす事なのじゃから、さっさと行くぞ!約束した通りに、このミョルニルでも最高級の湯が沸く宿に案内してやるからのう!」
未だに渋るアレスの背中(実際の位置的には腰だが)をグイグイと押し、部屋から半ば強制的に退出させて行くドヴェルグ。
そんな彼が放った言葉により、以前から興味を持っていた女性陣は当然としても、日常的に鎧を着込む関係から肩や腰への負担が大きなガリアンや、本人曰く加齢による身体のガタツキが激しいらしいヒギンズも、同じ様に歓声を挙げて二人を後ろから押し始める。
そんな彼らを眩しそうに嬉しそうに眺めるガシャンダラ王は、彼らへと軽く手を振って別れの挨拶としてから残されていたジョッキの中身を飲み干すと、然して酔いが回った様子も見せずに得物を肩に担ぎ上げ、部屋の隅に控えていた使用人に手振りで片付ける様に指示を出してから、自らも部屋を後にするのであった。
******
「ほれ、ここが儂イチオシの宿じゃよ」
そう言ってアレス達を誘導していたドヴェルグが指すのは、ミョルニルでは珍しく建築物としての姿を顕にしている建物であり、その外観から想像出来る温泉の内容に女性陣が黄色い歓声を挙げ、男性陣は洗練された赴きに感嘆の声を漏らす。
基本的に地下都市となっているミョルニルに於いて、大雑把な区画分けやプライベート空間の確保は当然されていはするものの、岩山や地下をくり抜く形で作られたこの都市に於いては壁は同時に柱であり、即ち未だに手付かずとなっている空間(未だに掘り進めていない空間)である事を示している。
それ故に、わざわざ建物としての外見的な様相を整える事も、またそうしたモノを作る為に巨大な空間を用意する事も、本来であれば不要な作業であり、岩人族の気性としてもその手の無駄な行為は好かないハズなので、根本的な事を言えば不要な施設ではある。
……では在るのだが、流石に他の国からの来訪者や、極少数とは言えこのガンダルヴァにて暮らしている岩人族以外の種族の者にも、そう言った感性を求めるのは不毛だろう、ついでに宿泊施設も必要だろう、と用意されたのが、この手の施設であったと言う訳だ。
とは言え、別段この施設に、外部からの来訪者が全て押し込まれている、と言う訳でもないので、彼らとしても余計な接触を避けたい相手と遭遇しなくても済むだろう、と言うドヴェルグの計らいでもあるのだが、ソレはまた別のお話、と言うヤツだ。
「儂の権限と王からの勅命で、この宿の一角は貸し切っておる。故に、例え従魔達を元の姿で放そうとも、決められた空間内部であれば咎められもせぬから安心して良いぞ。
まぁ、設備を壊したりすれば、その分の補償は必要になるがの?」
そんな気遣いを感じさせない様におどけて見せたドヴェルグの背中に続き、彼らもその宿へと足を踏み入れて行くのであった。
「……………………アレス……?本当に、アレスなの……?
……でも、だとしても、隣の女は一体……?」
…………その姿を遠くから目の当たりにしていた人物にも、その呟きにも彼らが気付く事すら無かったのであった……。
面白い、かも?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価等にて応援して頂けると励みになりますのでよろしくお願い致しますm(_ _)m




