『追放者達』、地下都市の王へと謁見する
「…………うむ、良くぞ来てくれた。『追放者達』の面々と、我が友アレスよ。
大叔父殿から聞いているであろうから説明は省くが、このガンダルヴァは大変な危機に直面している。
故に、是が非でもそなた達の力を借りたい。了承してくれるな?」
そう、威厳に満ちた声を数段高くなっている玉座から降らせるのは、このガンダルヴァを統べる王、ガシャンダラ=スィデラス・ガンダルヴァその人であった。
岩人族としては異様な程に体格が良い長身(通常1.4メルト程度が岩人族の平均だが、彼は1.8メルト近く在る。最早巨人の類い)で、服の上からでも容易に判断出来る程に鍛え上げられ、全身に纏う鋼の様な筋肉からは、国王と言うよりも歴戦の最前線の将軍、と言った様相であり、未だに黒々として豊かに繁っている髪や髭と言ったパーツからも、とても『国王』としてイメージ出来る様な外見はしていなかった。
しかし、何故か面識が在るらしいアレスと、元々こう言う場面を多く経験した過去の在るヒギンズを除いたメンバー達は、そんなガシャンダラが無意識的に放っているのであろう『王気』とでも呼ぶのが相応しいのであろう謎の圧力により、自然とその謁見の場の床に膝を突いてしまっていた。
…………何故か、到着して早々にこの謁見の間に衛兵達によって連行され、旅の埃を落とす間も無くこうしてガシャンダラ王と対面する羽目になって困り顔を浮かべていたアレスだが、本人から直接そうやって声を掛けられた事もそうだが、内容が内容であった為に周囲がざわめき始めた為に、内心で溜め息を吐きながら王へと答えて行く。
「……そう言って頂けて、光栄の極みにございます、王よ。
この身は既に、かの天鎚ドヴェルグ師に雇われてこの地を訪れました。なればこそ、この地を踏むと決めた時には既に、この地に降り注がんとしている災害を祓う為に、この身を捧げる覚悟は済ませて御座います。
卑賤なる冒険者たるこの身では御座いますが、必ずや王の望みに沿った結果を御届けする事をお約束致します」
「……うむ、流石は我が友と認めた者よ。
先日、そなたがまだ所属している、と偽ってこの国へと入って来た者共とは、置ける信頼が文字通りに雲泥の差であると言うモノよ。
……大儀であった。聞けば、まだ来たばかりとの話。下がって、旅の疲れを癒すが良い」
「……はっ!承知致しました」
そう言って頭を下げるアレスの姿を、若干の寂しさを混ぜた視線にて見ていたガシャンダラ王だったが、取り敢えず満足したのかアレス達へと下がる許可を出し、自らも衣装の裾をたなびかせながら謁見の間から退出して行く。
ソレにより、形だけは跪いて見せていたアレスとヒギンズと、ガシャンダラ王が放っていた圧力によって半ば反射的強制的に跪かされていた四人も立ち上がり、謁見の間を退出して行く。
「……うむ。お疲れ、と言ってもおこうかのぅ」
「あぁ、本当に疲れたよ。次が無いに越した事は無いけど、是非とも次は余計な気配りが必要無い様にして頂きたい処だよ」
「そいつは済まぬ事をしたのう。しかし、儂の我が儘で招いて於いて申し訳無いが、次はこちらじゃ。着いてきてくれい」
そして、その出口にて待機していたドヴェルグと合流すると、形だけの労いの言葉を投げ掛けて来てから、彼らへと背中を向けてノシノシと通路を進んで行く。
地下都市、と言う構造上、ミョルニルには他の首都の様に、分かり易く『王城』と呼べる様な建築物や施設が在る訳ではない。
精々が、地下の上下左右を縦横無尽に走っている中でも最も深く安全性の高い区画を関係者以外立入禁止として隔離し、そこを王族や国の重鎮達が執務を行ったりするスペースとして確保している、と言った程度でしか無い。
……しかし、そうだったとしても、通路の各所には地下や閉所での戦闘に特化させた岩人族謹製の武具を携えた衛兵達が目を光らせている上に、その区画へと繋がる通路やその内部も道案内無しには容易に通り抜けられない程に複雑に組み合わされており、セキュリティの面でもかなりの厳しさを誇っている事が窺える。
そんな、移動の関係で謁見の間から程近い位置に在る立入禁止区域へと、特に躊躇う様子も見せずにズカズカと入り込んで行くドヴェルグと、ソレを追い掛けるアレス達『追放者達』のメンバー達。
時折、通路を巡回している衛兵達が彼らに気付き、立ち止まらせて詰問しようとする、と言った場面に多々遭遇する事となったのだが、先頭を行く人物がドヴェルグだと言う事を判断して無言のままに通路の端に寄って道を空け、その背後に続く人影へと目をやって、ソコにアレスが居る事を目の当たりにして驚愕に目を見開く、と言った反応をそれと同じだけの数を見せられ、最後の方には反応の種類とタイミングをメンバーの内部で予想する、と言った遊びをする迄となっていた。
「……でも、こんなにアッサリ通しちゃって良い訳?
ドヴェルグのオッチャンはともかくとしても、確実にアタシ達は不審者の類いよね?なら、取り押さえなくても良いのかしら?」
「あぁ、その事?なら、一応は心配しなくても大丈夫じゃない?
俺、こう見えてもこの国じゃあ、それなりに顔が売れていてね?だから、って訳でも無いんだろうけど、基本的には何処に行っても顔パスで入れるのさ。当然、限度は在るけどね。
そして、少なくとも、此処では絶対に止められないのさ。俺とドヴェルグのオッサンが同行している以上は、ね」
「…………アンタが?一体、何をやらかした訳?」
「……やらかした、って失敬な。そもそも、何で俺がミスった前提なんだよ……。
理由としては至極単純なモノさ。ただ単に…………」
そこまで口にしたアレスだったが、先頭を行っていたドヴェルグがとある一角にて足を止めた為に、ソレにならって自らも足を止め、一旦言葉を切ってしまう。
その続きを気にする様子を見せるタチアナを始めとしたメンバー達と、何となくオチが予測出来ているのか苦笑いを浮かべているヒギンズを尻目に、ドヴェルグが目の前の壁へと無造作に手を掛け、そのまま手前へと引き抜いてしまう。
……突然の事態に驚愕する一行だったが、引き抜いて見えたのは見間違いであり、壁に見えていたのはどうやら部屋のドアであったらしく、長方形に切り取られた内部から照明の光が薄暗い通路へと溢れ出て来るだけでなく、出来立てと思われる料理の匂いと酒と思われる芳醇な香り、そして隠れるつもりが欠片も無いと言わんばかりに存在を主張する人の気配が、彼らの元へと届いて来る。
そんな、半ば隠し部屋と化していたその場所へと、先導していたドヴェルグとアレスが躊躇も無く入って行ってしまった為に、他のメンバー達も躊躇いながらもその部屋へと足を踏み入れる。
……するとソコには、岩人族にしては異常に体格が良い長身で、髪も髭もまだ黒々とさせた若々しさに溢れながらも、それまで纏っていた覇気の代わりに親しみやすさを纏い、先程迄の豪奢な衣装からは一変させて簡素な衣服へと着替えたとても見覚えの在る人物が、手にしたジョッキを掲げて彼らを出迎えたのであった。
そして、ソレを唖然としながら眺める彼らへと向けて、アレスは一旦閉ざしていた口を再び開き、言葉の続きを放つのであった……。
「で、俺が止められない理由だけど、このガシャンダラと個人的に友人同士であって、こいつが俺の事を普通に通すように、って命令しているからさ。
納得して貰えたかな?」
衝撃の事実?
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