『追放者達』、話し合う
「…………気配や姿を隠す『ハインド』からの、奇襲やら意識の外側からの攻撃の威力を上昇させる『バックスタブ』まで使って、更に大魔導級炎属性魔法である『業火の纏身』で業火を宿した刃で急所への攻撃をぶち当てたんだから、流石に今ので死んだよな……?」
若干不安げに呟きながら、そっと足音を忍ばせる様にして倒れ伏す『豚鬼君主』へと近付くアレス。
倒れた際に一度は離れたものの、死んだフリをしているだけ、と言う可能性も無くはなかったので、こうして恐る恐る確認する為に再度近付いている、と言う訳だ。
とは言え、その背中には未だに強襲した際に突き立てた彼の長剣が心臓を貫いて刺さったままになっており、大概の生物であれば確実に死に至っているハズなので、そこまでの心配は必要ない。
……必要ないハズなのだが、どう見ても過剰に警戒している様子のアレスに、他の面々も不思議に思って声を掛けて行く。
「……これこれ、アレス殿よ。高々息が在るかどうかの確認でしか無いのだから、その様に腰の引けた振る舞いをするモノでは在るまいよ」
「そうですよ。私の目から見ても、確実に心臓を貫いておりますので、間違いなく死んでいるハズです。
慎重になられるのは悪いことでは無いですが、流石にそこまで警戒される必要は無いのでは……?」
「アンタが何考えてそんな事してるのか知らないけど、確認するならさっさとやっちゃいなよ!端から見てると、ただ単にビビってる様にしか見えないんだけど?」
半ば揶揄する様なその声に、特に反論するでもなく、寧ろ肯定する様にして沈黙で返すアレス。
そんなアレスの一種異様な姿に、改めてガリアンが問い掛ける。
「……なぁ、アレス殿。そなた、何をそんなに警戒しておる?それは、既にそなたの手で止めを刺しているであろう?…」
「…………以前、俺はあいつらに連れ回された依頼の中で、何度か死にかけた事が在る。
その中の一つに、確実に殺した、と思っていたヤツが実は死んだフリをしていて、俺が気付かずに無防備に近付いて殺されかけた、って事が在ってな……。
後で調べてみたら、そいつは上位種だったみたいなんだが、その時に俺は心に誓ったんだよ。もう二度と、確実に、絶対に死んでいるヤツ相手でなければ無防備、無警戒に近付いたりは絶対にしない、ってね」
「……では、その様に警戒しておるのは……?」
「あぁ、そう言う事さ。
本当は死んでいない、かも知れない。
心臓から僅かにそれている、かも知れない。
実は心臓が幾つか在る、かも知れない。
心臓を潰したとしても死なない造りになっている、かも知れない。
そんな不安が、常に頭から離れないのさ。
上位種なんかを相手にした時は、尚の事、ね……。
……まぁ、コイツはもう確実に死んでいるみたいだから、もう大丈夫だけど」
そう言って、背中側から突き出している柄を握り、捻る様にこじってから得物を引き抜くアレス。
その際に、軽く頭を蹴り飛ばして確実に死んでいる事を確認し、刃を振るって血糊を落としてから鞘に納める。
「それで、どうする?取り敢えず、依頼に在った『豚鬼の討伐』はもう終わったって考えても良いと思うけど?」
「うむ、であるのならば、このまま『豚鬼君主』を解体して持ち帰るか、もしくはここに在る分と道すがら倒して来た豚鬼を回収してくるか、それとも砦を漁ってみるか、と言った処か?」
「……そう、ですねぇ……。
幸いにして、私達は大なり小なり魔法を扱う事が出来る人材の方が多く居ます。ですので、スキルとして『アイテムボックス』を習得はしているハズです。
であるならば、頑張れば総数が何体になるのか不明な豚鬼を全て回収する事も可能でしょう。
ですが、その場合は私か、もしくはアレス様とタチアナ様のお二人か、もしくは全員が魔法の行使が出来なくなるか、または大幅に行使に対して制限が付く事になりますが、如何なさいますか?」
「『アイテムボックス』って便利だけど、容量が最大魔力量で決まる上に、入れている物の量に応じて魔力の最大量を占有するから、使い処が難しいんだよねぇ……。
あと、言っておくけどアタシを頼りにしないでよ?アタシは『魔人族』だけど、あんまり最大魔力量多くないから、そこまで入らないわよ?」
「俺は容量はそれなりだと思ってるけど、帰りの戦闘とかも考えるとあんまりパンパンに詰めるとかは無理だからな?
預かれたとして……多分そこの『豚鬼君主』一頭分位か?」
「当方は、その手の技能にはからきし故に、戦力には成れなさそうだな。
一応、物理的に担いで行けなくもないが、それでも豚鬼の一頭か二頭程度であろうよ。
それに、戦闘になれば必然的に振り落とす事になる故に、売却の際の品質はあまり期待せぬ様にして頂きたいのだが……」
「……そうなりますと、大半は私が運ぶ事になりそうですねぇ……。
まぁ、私は最大魔力量にも自信が在りますし、何より私は回復役。常に魔力を使用する事が前提になる訳では無いですから、アレス様やタチアナ様の容量を潰すよりは、戦力の低下は防げるでしょうし、それで行くとしましょうか」
「ふむ、じゃあ、取り敢えずアレは俺がしまっておくとして、あっちの砦本体はどうする?
強奪された品々の類いが残ってる可能性も在るし、報告が上がって来てない被害者の類いが囚われてる可能性も無くはないから、一応覗くだけは覗いて行くか?それとも、大した品は無いと見切りを着けて、さっさと火でもくべておくかね?」
「……まぁ、面倒が無くて、胸糞の悪い思いをしなくても良いのは後者であろうよ。どのみち、こんな建物残しておいては、何処ぞの魔物や盗賊の類いに利用されんとも限らんしな。
焼いておくに限るであろうよ」
「ですが、被害者の方が居られないとも限りません。まだ生きて居られるのであれば、私がいる限りは助けられます。
それに、五体が遺されているのであれば、私であれば甦らせる事も可能です。
……ソレを望まれない可能性も多大に在るのは、存じておりますが……」
「……じゃあ、取り敢えず中を見てみる、って感じで良くない?生き残りがいたら助ける。そうでなければさっさと焼く。
もしくは、外からアレスが少し前に使ってた『気配察知』だとかで外から探ってみるとかで良いんじゃないの?」
「……それもそうか。じゃあ、取り敢えず。
『気配察知』『生命力感知』ついでに『罠察知』っと……あ、いた。運が良かったのか悪かったのか。まだ生きてるのが何人かいるみたいだ。
どうする?助ける義務は無いけど、助けておくか?」
「救えるのなら、救いましょう。それが、神より『聖女』の職を賜った、私の使命でもありますから」
「…………その、『救うべき子羊』に追放されたのが俺達なんだが、そこら辺はどうなんだ?」
「……それでも、です。彼らは彼ら。そして、教会の者は教会の者、です。
彼らへの怨みを、今傷付いている無辜の方々に向けるのは、流石に違いますからね」
「…………あっそ。あんたがそうやって割り切れてるんだったら、別に良いか。
じゃあ、さっさと済ませて早いところ帰るとしますかね。
そら、こっちだ」
ひょいっと肩を竦めたアレスが、その場でクルリと反転し、一人先頭に立って砦の中へと入って行く。
その背中へと
「……全く、素直では無いな……」
だとか
「男の照れ隠しなんて需要無いわよ?」
だとか
「…………ふふふっ。ご心配頂き、有難うございますね、アレス様♪」
だとかの呟きが溢されていたが、ソレを彼が耳にしていたのかは定かではない。
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