『追放者達』、ボスを討伐する
「はっはー!コイツは良い!素晴らしいな!こんなに凄い支援術も、妨害術も見たことが無いぞ!!」
「かっはっは!全くもってその通りよ!
この様な素晴らしい支援術士であるタチアナ嬢を追放した者共の眼は節穴だったと見える!当方らとしては、感謝せねばならぬがな!!それ、『フルカウンター』!!」
「確かにな!タチアナのヤツには悪いけど、そうして追放されてくれたお陰で、こうして俺達があいつの支援を受けらているんだから、な!!
『撃ち抜き凍れ!『凍結の槍』』!」
びぎぃぃぃぃぃいいいいいいいい!?!?!?
周囲へと、『豚鬼君主』の悲鳴が響き渡る。
盾役の重戦士が好んで使用する、相手から受けたダメージを等倍にして跳ね返すスキルである『カウンター』。
その『カウンター』の上位スキルであり、受け止めた攻撃によってもたらされたであろうダメージの二倍を相手に跳ね返す、盾役にとっては必須かつ必殺技になりうるスキルと同時に、アレスが放った大魔導級の氷属性魔法であり、高い威力を誇る『凍結の槍』が同時に炸裂したのだ。
平素であれば、まだそれでもそこまでの悲鳴を挙げる様なダメージでは無かったかも知れない。
しかし、現在『豚鬼君主』はタチアナからの妨害術によってその筋力と頑健さを大幅に下げられており、それまで食らっても平気であったハズの攻撃ですら、大きなダメージを受ける様になっていた。
それまでは羽毛の様に纏い、小枝の様に振るっていた武具が、今は重くのし掛かる拘束具と化しており、『豚鬼君主』の動きを大きく制限している。
おまけに、得物として振るっていた長柄斧の重量も今は重くのし掛かっており、それまでの様に軽やかに素早く振るう事が出来ず、命を預ける相棒から足を引っ張る重荷へと変貌を遂げていた。
更に言うのであれば、タチアナからの支援術だけでなく、セレンが掛けた回復魔法である『天の恵みによる強壮』と『天の奇跡による治癒』が二人に地味に堆積しつつあった疲労と細やかな負傷を回復し、気力も快方させていたために二人の士気は鰻登りに高まっており、一方的に蹂躙され始めて気力が減衰し始めている『豚鬼君主』と比べると、その差は歴然であった。
しかし、そうであっても未だに倒される事も無く、健在なままで斧を振るう『豚鬼君主』。
自らが群れのボスであると言う矜持からか、それとも彼らに倒された部下達への弔いか。はたまた、ただ単に『死にたくない』と言う恐怖からの行動なのかは不明だが、それでも未だに二本の足で地に立ち、かつてとは比べる迄も無い程の低速ではあるが前衛の二人に向かって斧を振るい続けていた。
が、それに何時までも付き合ってやるつもりも、相手の心意気を汲んで撤退してやるつもりも、一欠片たりとも持ち合わせていない二人。
「……なぁ、そろそろ飽きて来たんだけど、もう仕留めるか?」
「ふむ、そうだな。タチアナ嬢からの支援術の具合も大体把握出来たし、そろそろ頃合いであろう。
最初こそ驚きはしたものの、慣れてくれば支援無しでもどうにかならなくも無い、程度の強さでしかなかった様子であるし、これ以上続けても得られるモノはあまり多く在るまい。
それに、そろそろ昼時だ。今から戻れば、飯屋で昼餉を頂けるだろうよ」
「そうだな。他の豚鬼を解体して持ち帰るよりも、コイツ一頭持ち帰った方が高値が付きそうだしな!
と言う訳で、さっさとくたばれ!『焼き焦がし裁断せよ!『業火の刃』』!ついでにこれも食らっとけ!『凍れて裁断せよ!『凍結の刃』』!そらそらそら!!!」
「当方も行こうか!ぬぅえい!!!」
大魔導級魔法である『業火の刃』と『凍結の刃』の業火と冷気の刃を至近距離から浴びせた上に、高速機動のままで無数に切りつけて行くアレス。
そんなアレスの動きに合わせる様に、少し距離を取ってから全力で加速して突撃攻撃を仕掛けたガリアンが、衝突の直後には既に戦斧を手にして盾と共に殴る斬るのラッシュを仕掛けて行く。
ぶぎっ、ぶぎゃあああぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!
それには堪らず悲鳴を挙げ、周囲に居たハズの豚鬼へと助けを求める『豚鬼君主』。
しかし、残されていたハズの豚鬼達は、その叫びに呼応する事無く、周囲にはただただ自身の苦鳴と『追放者達』の二人が挙げる哄笑だけが響き渡る。
何故!?どうしてだ!?
そんな感情と共に動かされた『豚鬼君主』の視線の先には、既に討ち取られて屍を晒すかつての部下達の姿。
その周辺には、得物である短剣を手にし、その上で自身へと支援術を掛けて身体能力を強化して接近戦を挑んでいたタチアナと、自称としては『拙い』と呼称しはするものの、それでも魔導術級の攻撃魔法にて援護に徹しているセレンの姿が。
「……なんか、今アレと目が合った気がするんだけど……」
「さぁ?気のせいでは?
それよりも、もう討ち漏らしは居ないですよね?大した事は無いとは言え、割って入られると面倒ですからね。
一応とは言え、手の空いている私達が先に倒しておくのが良いでしょうね」
「まぁ、もう殺っちゃってる訳だけどさ。
処で、こっちのヤツらって、アタシらで頭割りで良いのかな?そうしたら大儲けじゃない?」
「そうなさりたいのなら構いませんが、そうなりますとここでの討伐の大半はアレス様とガリアン様で分ける事になりますし、あの『豚鬼君主』の買い取りや報酬も彼らでの分配になりますが、それでも構わない、と言う事でしょうか?」
「やっぱり頭割りが一番ね!頭割り最高!!」
そんな会話を繰り広げる二人の姿と、その足元に転がる部下だったモノの数々に、それまで辛うじて支えられて何かを失い、僅かに四肢から力が抜け落ち意識が目の前の敵から逸れる『豚鬼君主』。
その時間、僅かにして、数秒にも満たない刹那の間。
しかし、そんな僅かな時間であれ、元より生物の意識の隙間を抜い、気付かれる事無くその命脈を絶つ事に特化した職に就くアレスが見逃すハズも無く、それまで使用する事無く戦闘を進めて来たが、ここで初めて『暗殺者』としてのスキルである『ハインド』を発動させる。
それにより、唐突に、アレスの姿が掻き消える。
物理的な姿はもちろんの事として、その気配や匂い、体温と言った、彼が『そこに存在している』と言う証拠の類いの一切が、そのスキルの発動と共に世界から消失した。
当然の様に、唐突に目の前から自身を苛んでいた敵の片割れが消えた事により、先の絶望よりも大きな意識の空白が発生する『豚鬼君主』。
本能的に危機を察したからか、身体への負荷を無視して無理矢理に得物を振るい、張り付いていたガリアンを弾き飛ばして距離を空けさせる。
その際に、全方位に対して大きく振り回した為に、何処に行ったのかは不明だが、取り敢えずの危機は脱した、と認識しかけたその時であった。
炎を纏った刃が、背後から『豚鬼君主』の胸の中央、絶対の急所である心臓を貫いてその胸板から切っ先を覗かせて来たのは。
その場に居た全員が驚きにより目を見開き硬直する中、徐々にその姿を顕にするアレス。
存在を現した事によって背中に貼り付くアレスに気が付いた『豚鬼君主』は、ゆっくりと首を巡らせて恐怖と驚愕に満ちた視線を向ける。
「悪いね。コレは使うつもり無かったんだけど、面倒になってさ。
まぁ、こんな処で、こんな時期に巣を作ったのが運の尽きだったと思って諦めな。あばよ!」
そんな囁きを、嘲笑に満ちた嗤い顔と共に目の当たりにさせられた『豚鬼』は、最後に自らを貫いていた刃を捻られた事によって大きく身体を痙攣させ、とうとうその命脈を絶たれると同時に、大きな地響きと共に地面へと沈み込むのであった。
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