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重戦士、過去の因縁に釘を刺す

 


 大迷宮『アンクベス』の中層域にて敵の大群を撃破したアレス達『追放者達(アウトレイジ)』は、その足を弛める事無く奥へ奥へと突き進んで行く。



 半ば自らの先頭を買って出ている『引き裂く鋭呀』の二人を前面へと押し出しての行軍ではあるが、その足取りは最初のサクサクと進んでいた頃と比べると、驚く程に慎重かつゆっくりとしたモノとなっていた。




「…………その三歩左にずれてから直進して、壁際まで下がってから戻ってこい。そうでないと、丸焦げの死体が一つ出来上がる事になる」



「……罠、ですか……しかし、それならば、自分を、使い捨てにすれば……面倒な、解除もしなくて……すむのでは……?」



「……黙って言うとおりにしろ。後五秒で行動を開始しないと、お前の足元に在るトラップの起点が変化して、お前諸ともに俺達まで火だるまになる羽目になるんだが?」



「……承知、致しました……!しかし、そう言う事は、もう少し……早く、言って頂かないと……!」




 アレスの指示の通りにぎこちなくステップを踏んで壁際まで待避し、その後アレス達の方へと戻ってくるグズレグ。



 それと入れ替わりになる形でアレスが前へと進み出て、スキルを発動させて床を凝視しながら腰のポーチから道具を取り出し、仕掛けられているトラップを解除せんとして挑んで行く。



 床へと直接膝を突き、額に汗を浮かべて作業をする彼の背中を、理解不明なモノを見る様な視線にて見詰めるグズレグとサラサ。


 ……そう、彼らには、アレスの行動原理が理解出来ないでいたのだ。



 最初こそ、彼らを先頭へと押しやって進ませ、遮蔽物の影から飛び出す魔物への疑似餌として扱ったり、わざと引っ掛からせる事でトラップを強引に解除させたり、と言う事を彼らへと課していた。



 しかし、浅層を抜けて中層域に踏み入ったが為に魔物の強さが増し、トラップも下手をしなくても死にかねない様な凶悪なモノが増え始めると、彼らを下げてアレスが自ら先頭を務める様になって行ったのだ。


 そして、魔物と遭遇しての戦闘時か、もしくは先程の様に誤って前へと出てしまった場合を除き、『引き裂く鋭呀』の二人を最前線へと押し出す様な真似をしない様になっていた。



 最初の扱いと、彼らから掛けられた『赦されたなんて思ってないだろうな?』と言う言葉から、確実に道中にて使い潰される、と覚悟していた二人は、その扱いに未だ彼の真意を図りかねている、と言うのが正直な処。


 もっとも、ソレはナタリアと従魔達を除いた他のメンバー達からの当たりも同じ様に変化している為に、より一層戸惑いが強くなってしまっている、と言うのも彼らの本心の一部であったりもするのだが、未だソレを問う事も、その真意を探る事も出来ずにいた。



 そんな彼らへと、歩み寄って声を掛ける人影が一つ。



 この場で最も彼らと深い縁が在り、今ではその縁も『因縁』と呼ぶのが相応しいモノへと彼らの手で貶めてしまった相手である、グズレグの兄にしてサラサの元婚約者であったガリアンだった。




「…………解せぬ、と言いたげな顔をしている様であるな。

 そなたらにとっては今の方が都合が良かろうが、何がそんなに不可解なのであるか?」



「…………兄、者……」



「……差し詰、そなたらの扱いが変わった事に戸惑っているのであろうが、何か不都合でも在ったであるか?

 何も無いのであれば、黙ってリーダーの指示に従うのが良かろうよ。ソレこそが、今のそなたらの仕事である故に、な」



「…………ですが、私達の扱い方は、今のままで良いのでしょうか……?

 私達は、例え肉壁として使われようとも、罠避けの小鳥として使われようとも構わない心積もりにて、恥を承知で参加させて頂きました。そして、最初の扱いは正にその予想の通りでしたので、私達も『そう扱われるのだろう』と認識していたのです。

 ……しかし、ソレが今になって……」



「……変わって来たが故に不安になった、であるか?」




 二人揃って無言で首肯するガリアンとサラサ。



 そんな二人へと、どう説明したものか……と言わんばかりの様子にて頭を掻きながら溜め息を吐き、少し考え込んでから再び口を開いた。




「…………まず最初に、コレだけはそなたらの誤解を解いておくが、別段彼らはそなたらを苦しめたりして楽しむ様な、そんな外道な趣味を持っている訳ではない。

 むしろ、その様な境遇に在る者を放置して通り過ぎる事が出来ない性質(タチ)の持ち主だ。揃ってな」



「「………………え……?」」



「…………うん、まぁ、そう返事したくもなるのは、分からぬでも無い。そなたらの実際の扱いを鑑みれば、自ずとそうなると言うモノよ。

 しかし。しかし、だ。そなたら、一つ重大な事を既に忘却しているのでは無いか?」



「…………大事な、事……?」



「それは、一体……?」



「…………いや、そなたら、当方の事をたった一人でパーティーから追放し、不要な命の危機に晒してくれたであろう?

 ソレが、彼らにとってはこの上無く不快かつ不愉快な事であり、その事実のみでそなたらの処遇は家畜以下となるのは決定された、と言っても間違いでは在るまいよ」



「…………あっ……!?」



「…………成る程、ソレは確かに……!

 ……ですが、ソレとコレとでは大分事情が異なると思うのですが……」



「……まぁ、最初こそ、そのまま使い潰すつもりであったのは、否定出来ぬがな。現に、そなたらが口先のみで反省の意を唱え、この大迷宮内で当方らを亡き者にせんと企んでいたのであれば、恐らくは予定通りに適当な処で使い潰す事となったであろう。当方の意思に関わらず、だ。

 しかし。しかし、だ。どうやら、リーダー達にはそなたらが口にした言葉が、少なくともあの時は本心からの言葉であったのだ、と判断されたのであろうよ。

 故に、そなたらの扱いが『家畜』や『道具』から『人間』程度に格上げされる事となったのでは無いか?まぁ、今の扱い方を見るに、まだまだ『仲間』や『客分』には大きく届かず、精々が『使い潰せる奴隷』程度である可能性は否定できぬのであるがな」



「…………それは、あまり……変わっていない、のでは無い……だろうか……?」



「…………失礼を承知で申し上げますと、私にもイマイチ違いが理解出来ぬのですが……」



「……では、言葉を変えるとするのである。

『使い捨てにして構わない道具』から『使い続ける程度には愛着の湧いた奴隷』程度には重要度が上がっている様子であるから、またしても彼らの中で格下げされぬ様に努力するのであるぞ?

 ……流石の当方でも、この様な環境下でそなたらに引導を渡すのは御免被る故に、な……」



「…………それは、承知、致して……おります」



「心得て、ございます……」



「…………どうだか、な……。

 あぁ、それと、もう一つ伝えておかねばならぬ事が在ったのである」



「……伝えて、おかねば……ならぬ、事、ですか……?」



「うむ。先もそなたらには話したとは思うが、リーダー達はそなたらの事を赦した訳では無いのである。

 ただ単に、当方がそなたらの首を落とす事を今は(・・)良しとしなかったが故に、こうして生かして使っていると言うだけの話である。そして、こう言ってはなんだが、当方とてそなたらを赦した訳では断じて無い」



「「…………!?」」



「…………なんだ?よもや、実は赦していたから身内の情にて助命していた、とでも思っていたか?

 なれば、身体だけではなく頭の方も、随分と腑抜けた状態となっていた様であるな?

 身内故に裏切り、追放等と言う処分を下してくれたそなたらを、当方のみが『身内だから』と言うただソレだけの理由で助けるハズが無かろうよ?」



「「………………」」




 既に身内としての情は無い。



 そう、ガリアンの口から直接言われた二人は、衝撃の余り言葉を失う。



 ……何だかんだと言って情に厚く、一度自らの懐へと入った者を見捨てる事を良しとしないのが、ガリアンと言う武人を構成する要素の一つである。


 であるが故に、元々その庇護を最も強く受けていた彼らは、何だかんだ言ってもその対象から自分達が外れるハズが無いし、彼も自分達の事を見捨てるはずが無い。そんな風な考えが、彼に対してあの様な仕打ちをした後であるにも関わらず、彼らの心の奥底には未だに存在していたのだ。



 ソレを、彼らの関係性を知らないか、もしくは知っていても浅くしか知らないであろう相手から告げられるのであればまだしも、当の本人であるガリアンから告げられるのでは、その衝撃は計り知れない程に大きなモノであり、彼らの心に少なくない衝撃を与える事となったのだ。



 そうして今更ながらに衝撃を受け、何処かうちひしがれている様な姿を横目に見つつ、何を今更……!と無言のままに罵りながらも、内心にて僅かばかりに胸の痛みを感じていたガリアンだったが、隊列の先頭にてトラップを解除に取り掛かっていたアレスから解除できた、との知らせを受け、二人に背を向けて歩み去って行くのであった……。





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[気になる点] ガリアン追放時は宿・町とかせめてキャンプ地・セーフティエリアで解雇通告ではなく、例えるなら戦場の真只中で置き去りにしたとか?それ見つけしだい報復されても文句は言えまい!
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