『追放者達』、聞き取りをする
「…………と言う訳で、ガリアンがぶら下げてるのがガリアンのかつてのパーティーメンバーにして彼を追放し腐ってくれた愚弟で、かつての婚約者でそこの阿呆と共謀して彼を追放してくれたバカタレだ。
一応、当事者たるガリアンが決めたからこそこうして連れてきた訳なんだから、取り敢えず問答無用で挽き肉にしようとするのは辞めておこうか?まぁ、既にヤりそうになった俺が言っても説得力は無いだろうけど、取り敢えずは落ち着け。
殺るとすれば、ソレは後で、だ!」
そんな言葉と共に、ガリアンの手によって襟首を掴まれてぶら下げられている二人に対し、短剣を手に飛び掛かろうとしていたナタリアと、既に本来の姿へとその身を戻して彼らを粉砕せんといきり立つ従魔達が揃って飛び掛かろうとしてくるが、ソコに説明をしていたアレスが盾に成る形で彼女達を抑え込んで行く。
他のヒギンズ、タチアナ、セレンの三人は、取り敢えず得物を抜いたり攻撃の意思を示したりはしていなかったが、それでも彼らへと向けられる視線には敵意が混じり、雰囲気にも苛立たしげなモノが含まれており、自身の意思でそれらを辛うじて抑え込んで行動には移さない様にしているのであろう事が容易に感じ取る事が出来た。
しかし、リーダーであるアレスがソレをせずに我慢している(実際には既に暴走した後だが)事と、当事者として最も彼らに直接手を下したがっているであろうガリアン本人が『まずは詳しく話を聞いて、処断はそれから』と決めて手を出していない事から、彼らも実行せずにただ見詰めるだけに留めている、と言う訳だ。
……とは言え、それもガリアンが彼らからの聞き取りを終えるまでの話。
その内容にも寄るであろうが、あまりふざけたモノであれば例え途中であろうと彼らによって断罪の刃が振り下ろされるであろうし、最終的に彼が判断を下すよりも先に彼らの手によって始末される可能性すらも在るのだから、あまり堪えられていると言う訳でも無いのだろうけど。
そんな、殺意とも悪意とも取れない彼らの考えが何かしらの波長として放たれていたのか、未だにガリアンに襟首を掴まれてぶら下げられている二人は顔を青ざめさせたり、身を震わせたりしていたが、取り敢えずこのままでは話も碌に出来はしまい、との判断から、ヒギンズへと目配せして宿なり休める場所なりへの移動を指示するアレス。
ソレに対し、今いる空き地じゃダメなのかい?とヒギンズも視線で応じたが、未だに身分としては『不確定』であり、この後どう転がるのかも知れてはない、と言う事に思い至ってくれたらしく、彼にしては珍しい事に凄まじく嫌そうな表情を浮かべながら軽く手を振ると、彼らを先導する形で再度歩み始めた。
そうして周囲からの視線を悪い意味で集めながら進むこと暫し。
彼らは、とある広場の様な拓けた場所へと到達していた。
そこは、差し詰テント村と表現しても良いであろう程に大小や種類が様々なテントが広げられており、先程の露店街とでも表現するべき場所の活気在る陽気な雰囲気とは異なり、こちらは宿屋や密集した住宅と言ったモノと似通った、どちらかと言うと落ち着いた存在感とでも言うべきモノが漂っている場所となっていた。
「そら、着いたよぉ。
ここには、宿屋何て小洒落たモノは無いし、そんなモノをわざわざ開こうなんて物好きもいないからねぇ。こう言う場所で、各自テントを張ったりして寝床を確保するのさぁ。
ちなみに、広げる場所も広さも決まりはあんまり無いけど、他の人のテントにうっかり入らない方が良いよぉ?
昔、ソレで盗った盗ってないって口論から始まって、結果的にその辺りにテント張ってた冒険者総巻き添えで殺し合いに発展したらしくてさぁ。ソレ以降、暗黙の了解として『知り合い以外が勝手に入ってたら取り敢えず殺しておけ』ってのが出来てるみたいだから、あんまり紛らわしい事はしない方が良いよぉ。死にたくなかったら、ねぇ……?」
「……だ、そうだ。
取り敢えず、あの辺空いてるみたいだから、いつぞや買っておいた大天幕出して、その回りに個人のテント張るって形でどうだ?
こいつらへの聞き取りをするのは、その後ってことで」
ヒギンズからの説明を聞いた上で下されたアレスの号令に対し、それぞれで了承の返事をしてから各自行動を開始する『追放者達』。
ナタリアが預かって運搬していた大天幕を纏めていた状態から素早く展開すると、中央に立てる大黒柱の先端に天幕の布を引っ掻けてガリアンとヒギンズの二人掛かりで真っ直ぐに立ち上がらせて固定し、ソレを支える柱を手早くアレスが立てて天幕としての形を確立させて行く。
女性陣も、その天幕を固定する為の杭を打ったり、ロープを周囲に結んだりするだけでなく、立てられた大天幕の上から露避け用の防水布を掛けたり、調理する際に必要になるであろう竈を天幕の程近くに設置したりして行く。
そんな彼らの手際に驚いている様子の二人を尻目に、共用の部分の設営を手早く終わらせた彼らは、今度は個人用のテントを各自で取り出すと、先に設営を終わらせた大天幕の周囲に思い思いの距離や位置にて展開して行く。
アレスは大天幕のすぐ側に開き、セレンはアレスのテントに隣接させて組み立て始める。
ナタリアは従魔達の関係上少し大天幕から離れた場所に開き、ガリアンはナタリアと大天幕の中間付近に。
ヒギンズは用心も兼ねて大天幕の後ろ側に設置し、タチアナもその付近に設営を開始して手早く終わらせたヒギンズに手伝って貰っていた。
瞬く間に共用の大天幕と個人用のテントを組み立て終えて見せた彼ら『追放者達』は、事前に言っていた通りに大天幕へと『切り裂く鋭呀』の二人を通すと、予めアイテムボックスにしまっていた椅子を取り出してから全員で腰掛け、地面に直接座らせた二人をジロリと睨み付けながら『事情』とやらを吐く様に促す。
そうして促された事により、グズレグとサラサの二人は、現在こうしている理由を語り始めた。
昔から、様々な事に対して才能を発揮し、初めて行う事でも無難にやり遂げてしまう彼に、二人ともコンプレックスを抱いていた事。
そんな彼が家の後継に指名され、更に幼馴染でもあった『巫女』と言う生国では特別視されていた天職を授かった彼女を許嫁として付けられた事で互いに愚痴を溢し合い、それまでよりも互いに気持ちが通じると同時に『彼をどうにかしたい』と言う共通認識が芽生えた事。
それ故に、家訓として決まっていた漫遊の旅に同行し、監査役を買収して少しずつ彼の活躍を自身らのモノへとすり替え、やってもいない悪行の類いを報告させて行った事。
その結果、望む通りの結末として彼を家からもパーティーからも追放し、彼の後釜に座って彼女も婚約者として得る事に成功した事。
……しかし、そうして彼を追い出してから、目に見えて依頼を失敗する事が多くなって行った事。
監査役を買収していても隠しきれない程に失敗が嵩み、それぞれの家から叱責の手紙が届く様になっていった事。
ソレによる不安と、依頼を失敗する事に対する苛立ち等から最初は酒、次いで女、最期には禁制の薬にまで手を出す様になっていった事。
そして終には彼を意図的に追放した事、報告を改竄していた事等が発覚し、半ば強制的に現実に引き戻された上に『目に見える功績を挙げない限りは絶縁する』と言う書状を送られて来た事。
その時には既に、それまでの功績は彼がいた為に得られたモノであった、と言う事を認識していた為に通告は受け入れたが、それまでの不摂生を超えた生活によって身体がボロボロになってしまっており、到底そんな事は叶いそうに無い事。
取り敢えず、監査役の目を誤魔化す事も含め、不名誉に追放されて野垂れ死ぬよりかは、家命によって強敵に挑んで討ち死に、と言う形に落とし込みたかったが為に、この『アンクベス』へと挑むと決めた事。
既にそうしてダンジョンに挑んで散る事を覚悟している為に、命を惜しんでいる訳ではないが、最後に一つだけ心残りとして『彼に謝罪したい』と願っていた事。
こうして見えられた事だけでも自分達は満足故に、後は煮るなり焼くなり好きに憂さ晴らしをして貰って構わない事。
…………それらを、極力自身の感情を交えず、事実としてアレス達『追放者達』へと滔々と語り続けたグズレグ。
その隣にて彼と同じ様に地面へと直接座り、時折痩せ細った彼の事を気遣わしげに視線を向けたり、ガリアンに対して罪悪感を抱いている様子を見せるサラサ。
そんな二人の様子と語った内容に、それぞれの内心では罵倒や殺意が飛び交っていたが、断罪するべき当事者であるガリアンが無言を貫いていたために、誰もソレを大っぴらにはしないでいた。
そうして、無言が大天幕内を支配して暫し経ってから、それまで沈黙を保っていたガリアンが組んでいた腕を解き、重々しく口を開いて二人へと告げるのであった……。
ガリアンが告げた言葉とは……?
面白い、かも?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価等にて応援して頂けると励みになりますのでよろしくお願い致しますm(_ _)m




