『追放者達』、言い寄られる
「……ナタリア!やっぱりナタリアじゃないか!
ギルドの会誌で見たよ!Aランクのパーティーに所属しているなんて、凄いじゃないか!でも、何でこんな処にいるんだ?
ここの宿が、一泊で幾ら取るのか君も知らない訳じゃないだろう?」
そう言いつつ、表面上はさも『かつては仲の良かった元仲間に対して再会を祝っている』風に見える動作と表情をしながらも、その瞳の中には確実にナタリアの事を見下す色が見え隠れする森人族の男が、両手を広げながら彼らの方へと近付いて来る。
その迷い無い足取りと、彼らが既に橇から降りていた事からして、恐らくは彼女の事しか目に入っていない状態なのだろうと思われるが、当のナタリアの表情からしてあまり良い感情を持つ相手では無く、推測としてはやはり元パーティーメンバーなのだろうと思われた。
故に、ある程度の距離まで近付かれた段階でガリアンが二人の間に割って入り、その巨体でナタリアを不躾な視線から遮って覆い隠してしまう。
「なっ……!?いきなり、なんですか貴方は!?
俺はただ、貴方の後ろにいる彼女と、久し振りに再会した事で旧交を暖めようと……!」
「……『旧交を暖める』と言う割には、その相手である彼女の表情は浮かんではいない様子であるが?」
「……だとしたら、なんだと言うのですか!?
そもそも、これは俺と彼女との話です。失礼ですが、無関係な貴方に割って入って来られるのは迷惑です!
お引き取り願いたい!」
「……残念ながら、無関係では無いのだが?」
「………………は?」
ガリアンの返しが予想外に過ぎたのか、間の抜けた声を出しながら固まる元パーティーメンバーと、彼の背後遠くから彼らの事を伺っていた彼の仲間と思わしき男女二人。
そんな彼の様子を尻目に、いつの間にかナタリアの近くへと移動しつつ、油断無く腰に差していた得物の柄に手を置いていたアレスへとガリアンが視線を向けると、さも当然だ、と言わんばかりの鷹揚さにて一つ頷いて見せてくる。
それにより、心得た!と言わんばかりに力強く頷いたガリアンは、鎧も無く盾も背負ってはいないものの、それでも護身用に、と後ろ腰に差していた手斧の柄に触れながら、威圧感たっぷりに言葉を放つ。
「……そう言えば、自己紹介がまだであったな?
当方の名はガリアン。彼女が所属しているのと同じ冒険者パーティーである『追放者達』に所属する、ただの盾役である。
彼女は現在、当方らの大事な仲間となっている。故に、彼女に対して危害を加える可能性の在るそなたらを、黙って見過ごす事は、戦闘時に於ける当方の役割としても、彼女のパーティーメンバーとしても、到底看過できる事では無い故に、こうして介入させて貰っている。
これでも、まだ『無関係故にでしゃばるな』と言えるのであるかな?」
「なっ……!?まさか、本当に……!?
……となると、もしかして他のメンバーも……?」
「あぁ、当然いるぞ?」
聞く者が聞けば、確実に苛立ちを感じている、と言う事が理解できるであろう冷たい声色にて告げたアレスが、得物の柄に手を掛けながら残りのメンバーと共にガリアンの横に立ち並び、ナタリアとを隔てる為の急造の壁を作り上げて行く。
「……悪いんだけど、その『旧交を暖める』ってやつはまたの機会にしてくれないか?
見ての通りに、俺達はこの街に着いたばかりで疲れているんだ。それに、明日からは例の森で色々と採取するつもりでね。
それに備えて早く休みたいんだけど、そんな俺達の邪魔をしてまで暖める必要の在る旧交が、本当に君達の間には在ったのかな?」
「……な、なら!ナ「ちなみに、ならナタリアだけ置いて行けば良い、とか言う意見を聞くつもりは無いぞ?」……ですが……!?」
「ほらほら~、あんまりワガママ言わないで貰えないかなぁ~?
さっきリーダーも言ってた通りに、オジサン達着いたばっかりだから疲れてるんだよねぇ~。
だから、あんまりそうやって自分達の都合だけを押し付けようとしてくれてると、流石にオジサン達もちょ~っとばっかり『イラァッ!』と来ちゃうかも知れないからさぁ。
ここは、君らの安全の為にも、大人しく引いておきなよ。でないと、基本的に温厚なオジサンも、仲間を守る為に君らを排除する方向で考えなきゃならなくなるんだけど、ねぇ?」
「…………ぐっ……!?」
ヒギンズの言葉に込められた断絶の意識と圧力により、言葉に詰まる誰かさん。
膝は笑い、手は震え、顔面は蒼白になりつつあったが、それでも尻尾を巻いて逃げ去る事をしようとはせずにその場に留まり続けるだけの何かを発揮していた。
それが、精神力なのか、それともナタリアに対しての執着心なのかは杳として知れないが、その背後に居る二人組も同じ様に堪えている以上は何かしらの企みが在るのだろう、と判断したアレスは、こちらに危険が及ぶ前に、と思いきって排除する方向で動き出そうとする。
が、ソレとタイミングを同じくして、ヒギンズの威圧を食らっていたハズの誰かさんは何かを思い付いたのか、それまで青ざめさせるだけであった表情を明るいモノへと変化させると、こんな事を口にし始めた。
「…………で、でしたら!俺達を雇いませんか!?
聞いた処、ここに来られた目的は例の『賢者の森』でしょう!?
俺達は、あそこを狩り場として居る冒険者の中では随一の腕前を誇っています!それに、あそこに俺達以上に詳しい者は存在しません!
彼女もあそこには詳しいでしょうが、実際に採取行動や討伐を行っていたのは、全て俺達です!なら、そんな俺達をガイドとして雇ってみては如何でしょうか!?
必ず満足させて見せる事を、お約束致しましょう!!」
「…………あ゛?」
その、自分達を持ち上げたいが為にナタリアを貶す様な言動に、半ば反射的にドスの効いた低音を漏らしつつ、サブウエポンの手斧を引き抜いて未だに名も知らない誰かさんへと殺意を持って詰め寄ろうとするガリアン。
自身も目の前の下郎の言動には苛立ちを覚えていたアレスとヒギンズだが、こうも人の目が多く、更に言えば宿の人間も見ている場面での流血沙汰は流石に不味いだろうし、何より今回の話題の中心人物であるナタリアが『どうか止めて欲しい』と視線で訴えて来ていた為に、アレスが背後から羽交い締めにして抑え込み、ヒギンズが前へと回り込んでソレ以上進まない様に宥めて行く。
「……はいはい、どうどう。
……まったく、一体どうしたんだい?普段の紳士ぶりから変わりすぎて、オジサン我が目を疑う羽目になっちゃってるんだけど?
あの程度の若造共を挽き肉にするのなんて、オジサン達にとっちゃ軽くこなせる程度の事でしか無いけどさぁ、だからってこんな場所で実行しようとしないでよねぇ。ナタリアちゃんだって怯えちゃってるみたいだからさぁ」
「そう言う事だ。馬鹿な事考えて無いで、取り敢えず落ち着け。殺る時はちゃんと人の目が無い時を選んで殺る事だ。
…………それと、あんたら。あんまり、俺達の仲間を見下して馬鹿にするのは止めて貰おうか?でないと、俺達自身もこいつと同じ様にならない、とは保証出来かねるんでね。
あと、あんたらが勝手に言ってた雇う雇わないとか言う話だけど、既にこっちにはナタリアが居る。
土地勘の在る彼女が居る以上、道案内は不要だし、楽なだけの採取ポイントだなんて知りたくも無い。だから、あんたらは要らない。雇うこともしない。
だから、もう俺達の前に現れるな。ハッキリ言って不快に過ぎる」
「…………なっ、なっな……!?」
辛辣な迄の拒絶の言葉をアレスから投げ掛けられた誰かさんは、あまりにも自らの予想とかけ離れた現実を受け入れられなかったのか、意味も無い呟きを溢しながら口をパクパクと開閉させるのみとなってしまう。
そんな彼の事を放置して、未だに殺気立った様子にてグルグルと唸っているガリアンを押して宿へと入って行く一行。
ソレを呆然と見送る彼へと、他のメンバーと共に宿へと入って行くナタリアが、決別の意味合いも込めて言葉を投げ掛けるのであった。
「…………トッド。君が何を思ってこうして来たのかは知らないし、知りたくも無いのです。
ですが、既にボクは君達に追放されて、リーダーに拾って貰った身なのです。なので、もうボクと君達は赤の他人。
だから、もうボクを見付けても話し掛けないで貰えるのです?それに、元々そこまで言葉を交わして親交を深める様な、そんな間柄じゃあ無かったハズなのですよ?」
そして、そんな言葉を残して目の前の高級宿へと入って行くナタリアの背中を見送った、彼女が元所属していた『森林の踏破者』のリーダーであるトッドは、血が出る程に強く唇を噛み締め、その瞳にドロドロとした感情を宿らせて彼女の背中を見送るのであった。
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