支援術士、実力を示す
「かっはっはっはっは!!何だこれは!?何なのだこれは!!?
身体が軽い!装備がまるで、紙ででも出来ているかの様だ!!
これでは、まるで普通の支援術とは別物ではないか!タチアナ嬢を追放した連中、とんだ逸品を手放したモノだ!ただの愚か者ではないか!!!」
突っ込んだガリアンに続く形で砦へと踏み込んだアレス達が最初に目にしたのは、砦の馬車回しに該当するであろう広場にて十数体の豚鬼相手にノリノリで笑いながら大立回りを演じているガリアンの姿であった。
元々、ガリアンは豚鬼程度であれば歯牙にも掛けずに叩きのめせるだけの強さを持っていた。
それは、先程の戦闘を見ていれば、自ずと理解出来たハズだ。
……しかし、それはあくまでも盾で防いで受け止め、時に受け流しながらも一体ずつ確実に仕留めて行く、と言った性質のモノであった。
例外的に、助走を着けた突撃攻撃であれば数体を巻き込んでの交通事故を故意的に起こす事も可能ではあったが、それは助走在りきでの攻撃である為に、そうそう連続して繰り出す事が出来るモノでは無い。
なので、本来であれば、多少派手に豚鬼の死体が撒き散らされる事になったとしても、それは一対一を無数に繰り返して行く形になるハズなのだ。
……しかし、アレス達の目の前で無双を繰り広げるガリアンは、正しく『無双』と言う表現が相応しいであろう戦働きを繰り広げていた。
相手の攻撃を盾で受け止めた状態から、殴り付ける様にして振り抜いて相手をそのまま吹き飛ばし。
手にした戦斧を振り回せば、それを受け止めた棍棒ごと持ち主の胴を薙ぎ払って真っ二つの泣き別れに。
両手を振るってしまったが為に晒された隙に関しては、棍棒を振りかぶって来る相手を蹴り飛ばし、反対側の壁へと吹き飛ばして明らかに戦闘不能な様子にためり込ませる。
そんな、それまで見せていた戦い方からはかけ離れた、とてもでは無いが同一人物のソレとは思えない様な動きによって、襲い来る豚鬼達に対して蹂躙を繰り広げて行くのであった。
「…………なぁ、アレってやっぱり、あんたの支援術の効果、だよな……?」
「……え、えぇ、まぁ、多分……?」
「……いや、そこは断言しとけよ。自分でやった事なんだから、そうなのか違うのか位は分かるだろうよ?」
「そ、そんな事言ったって、今まで使った限りじゃあ、ここまで強化された事なんて無かったんだから分からないわよ!」
「……え、えぇ~、なにそれ……。
最低限、自身の能力位は把握しておけよ……」
「……そ、そんな事言われたって……。
今の今まで、基本的に『役立たず』だの『居なくても変わらない』だの『居るだけ無駄』だの言われてたし、支援術を掛けてやっても大した効果が出ている様には見えなかったんだもの!
あんなに大きな効果が出てるのなんて、アタシだって初めて見るんだよ!それなのに、分かる訳無いじゃんか!?」
「まぁまぁ、ここは一旦落ち着いて、ね?
アレス様も、能力の把握は大事ですが、今は戦闘の真っ只中です。なので、取り敢えず今は置いておいて、目の前の敵を掃討してしまいましょう?能力の検証は、後でも出来ますから、ね?
タチアナ様も、仕方の無かった事とは言え、やはり能力の把握は大事です。特に、自身に何が出来て何が出来ないのかを把握する事は。ですので、手早くこの掃除を終わらせてから色々と試してみましょうか。そうすれば、自分は何が出来るのか、何処までなら出来るのかが分かります。ソレって結構楽しいですよ?如何ですか?」
「まぁ、それもそうか。
じゃあ、俺も行ったほうが良いかな?そうなると、完全に護衛が居なくなるけど、どうする?」
「……まぁ、豚鬼程度なら、アタシでもどうにかなるから、行っても大丈夫じゃない?
ヤバくなったら叫ぶ何なりとするから、その時は早めに助けてくれるんでしょう?」
「ふふふ、では決まりですね。
あ、そうだ。タチアナ様、サンプルとしてアレス様にも掛けて差し上げたら良いのでは無いですか?
支援術ならば、掛けられても無駄にはなりませんし、何よりガリアン様と同様の働きが出来るのであれば、もっと早く終わる事になるかも知れませんよ?」
「なら、掛けておこうかな。どれが良い?」
「……なら、素早さとか上げられるか?無ければガリアンと同じヤツで良い」
「分かった。じゃあ、行くよ?『迅さよ、駆け巡れ!『速力強化』』!
これでどう?」
「…………え?えぇ?マジで?まだ駆け出してもいないけど、超身体が軽くなってるんだけど?
……悪い。ちょっと試して来る!」
そう言い残したアレスは、ガリアンが豚鬼を蹂躙している処を目指して走り出す。
しかし、そうして走り出したと思った次の瞬間には、アレスの姿はガリアンの程近くに居た豚鬼の背後に出現して刃を振り抜いており、ソレによって早速豚鬼の首が一つ宙を舞っていた。
その速度は驚異的の一言であり、前衛としてある程度の高速戦闘にも慣れていたハズのガリアンですら朧気に影が見えただけであり、当のアレスを見送った二人に至っては、最早目の前で彼の姿が突然掻き消え、その次の瞬間には別の処から出現して豚鬼の首を跳ね飛ばしていた、と言った感じに見えていた。
当然、その突然の挙動は味方だけではなく敵である豚鬼達にも動揺を与える。
むしろ、ある程度は何をするつもりなのかを知っている味方より、何も知らない敵の方が当然の様に動揺は大きく、混乱と恐怖はガリアンが一人で暴れていた時よりも更に素早く波及して行く。
「かっはっは!アレスよ、さてはそなたもタチアナ嬢から支援術を掛けられたな?その素早さ、先程とは見違えるぞ?」
「そう言うあんたこそ、その剛力は何なんだよ!自分よりも背丈も横幅も大きな豚鬼を殴り飛ばしておいて、自分は正常だ、とか寝言を抜かすつもりじゃないだろうな?」
「さぁな!それは当方こそが知りたい処よ!
然れど、何かしらの制約が在る訳でも、何かしらの負債が在る訳でも無い強化であるのならば、それを利用しない手は無かろうよ!
それが味方からの援護であると来るのならば、尚の事な!」
「……はっ!違いない!
それにしても、分かってはいたが数が多いな!『凍れ立ち貫け!『凍結の逆刺』』!」
ガリアンが物理的な力のみで豚鬼達を相手にしている脇で、アレスが地面に手を当てて呪文を詠唱する。
すると、それに従う様にして、彼が地面に突いた手を中心として数メルト程の範囲が薄く凍り付き、そこから天へと目掛けて氷柱が逆しまに急速に延び上がり、近くに居た豚鬼を貫いて凍てつかせ、まとめて十体程を磔にしてしまう。
既にガリアンが十数体、これでアレスが十体程を葬った事になるが、未だに砦の中からは豚鬼達が途切れる事無くアレス達へと殺到してきている。
時折、微妙に頭の回る個体が、彼ら二人を迂回してセレンとタチアナに目掛けて強襲を仕掛けようと試みるが、その大半が前衛を務めるアレスとガリアンに防がれて二人の得物の錆びと化し、残りのごく少数である偶然二人の警戒網をすり抜ける事が出来た個体も、近付く前にセレンの魔法によって撃ち抜かれるか、もしくはタチアナの短剣の錆びになるかの二択を迫られるのであった。
相手からの攻撃は届かず、効かず。
しかし、彼らの攻撃は一撃にて命を刈り取る威力を秘めた状態にて、ほぼ確実に相手へと炸裂する。
そんな戦況を暫く続け、彼らの周囲に転がり貯まって行く豚鬼の死体が五十に近しい数字となった段階にて、彼らの眼前に聳え立つ砦の奥の方から地面を揺らす様な咆哮が聞こえて来るのであった。
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