『追放者達』、攻撃を開始する
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「…………ふむ?こんな処だろうか」
戦斧の刃に付いた血を振り落としながら、ガリアンがそう呟く。
彼の周囲には、つい先程まで動いていた『豚鬼だったモノ』が散乱しており、端から見ればかなりスプラッタな光景が広がっていた。
とは言え、それはあくまでも周囲を濡らす流血が多い、と言うだけの話し。
本当の意味合いでのスプラッタな光景を作り上げるであろう内臓の類いをぶち撒ける様な事にはあまりなってはおらず、そう言う意味合いでは先のアレスの戦闘跡の方が余程スプラッタな状態となっている、と言えるだろう。
しかし、そんな状態となっている場へと近寄って行く足音が三つ。
言わずと知れた『追放者達』の仲間達だ。
「……成る程、ねぇ。俺が言うのもなんだけど、決して弱くはないハズの豚鬼相手にこれなら、あの時言ってたジャイアントやドラゴン相手でも防ぎきってみせる、って言葉は嘘じゃ無さそうだな」
「……ふっ、当然であろう?当方、冗談の類いは飛ばしても、嘘や流言はせぬし出来ぬ気性でな。基本的には本当の事しか口にはせぬよ」
「そうかい。なら、ついでに一つ質問だけど、やっぱり盾だけじゃなくて、斧に関してもスキル持ってるだろう?やっぱり『王』級か?」
「……いや、当方としては、そろそろ上がってくれても良いのでなないかと思っておるのだが、斧に関してはまだ『豪』級でな。盾に関しては既に『王』の域に在るのだが、こちらの方面ではまだまだ精進が足らぬと見える」
「……いやいや、アンタらのそれも大概だからね?
当然知ってるとは思うけど、その手のスキルの昇格って、それに合致している職を『教授の儀』で得られた者が、並外れた努力と経験の果てに辿り着く一種の偉業なんだからね?」
「えぇ、その通りです。現在では、ある程度その道筋が解明され、効率の良い修練方法等も判明しておりますので、一度昇格させて俗に言う『豪』級までは上げる事が可能ですが、言ってしまえばその程度。
重戦士として盾にも適性の在られたガリアン様が『盾王術』を習得なされたのは元より、斧の方面でも『斧豪術』を習得なされている事も、職としての適性が低いハズの『暗殺者』にてアレス様がその若さにて『剣王術』を習得なされている事も、本来であれば讃えられるべき偉業に近しい事実なのですよ?」
「ふむ、ついでに言えば、近接系の『豪』『王』『聖』に対応した魔法側の昇格順である『魔導』『大魔導』『魔奥』で言う処の『大魔導』級の魔法を扱えると言うのも、割りと異常と言えば異常であるな。
少なくとも、当方としてはそなたの年頃にて剣術と魔法との両方にてその域に在る者は聞いた事が無いな。これは、誇っても良いのではないのか?」
「…………とは言っても、なぁ……。
身近に、今の俺以上の剣術と魔法とを最初から扱えた奴らが居て、それをずっと見せ付けられていたからなぁ……。
正直な話、そんな事言われても実感なんぞ欠片も無いんだよねぇ……」
「……それは、困りましたね……。
そう言う実力に関しては、他者との比較が一番分かり易いモノでは在りますが、元より圧倒的に格上だった者が近すぎる位置に居たとするならば、そうなっても仕方の無い事なのかも知れませんね……。
因みに、私の扱える回復魔法は『魔奥』級を超える『魔神』級等と規定されておりましたが、攻撃系の光属性の魔法としましては精々『魔導』級程度しか扱えません。その代わり、今まで魔力が切れた事が無いのが自慢です。
ですが、そんな私よりも余程戦力面では頼りにされて然るべき実力である、と言えば少しはご理解頂けますか?」
「因みに因みに、アタシは短剣の方は一応『短剣豪術』にはなってるけど、本命の支援術の方はまだ『魔導』級にも達して無いからね?なのに謙遜だとか、卑下だとかされると、アタシの立場ってモノが欠片も無くなっちゃうんだけどそこの処はどう責任取ってくれるつもりなのかな?ん??」
凄絶さすらも感じさせる笑みを浮かべながら、それでいて一切笑っていない瞳にて詰め寄って来るタチアナの姿に、思わずドン引きして引き吊った顔をしながらひたすらに首肯して見せるアレス。
そんな二人の姿を、何か微笑ましいモノでも見るかの様な視線にて見守るセレンと、何かしら後でからかってやろうと悪い笑みをニヤニヤと浮かべているガリアン。
そんな彼らではあったが、取り敢えずノルマとして定めていた分の豚鬼は倒してしまったので、これからどうするのかを軽く話し合う。
「取り敢えず二択だな。このまま巣を攻めるか、もしくは撤退してギルドに報告するか。
前者は一定の危険が在る代わりに報酬の上乗せは確定。評価もソレなりに上がるハズだ。
後者の場合は確実に安全だ。特に、分かってるとは思うけど、あんた達に取っては絶対に確保したい類いの安全は保証される。それなりの報酬と共にな。その代わりに、それなり以上の報酬は望めないし、ギルドからの評価も微妙になるだろう。まぁ、巣を見付けた事を黙っているよりはましだろうけど。
さて、どうする?」
「当方としては、当初の予定通りに殲滅でも構わぬ、と考えておる。
このまま戻っても、この街道近くまで二組も斥候が出てくるのであれば、ギルドが討伐隊を組むよりも先に被害が出るだろう。
そうなると、適正ランクを上回っている冒険者が二人もいたのに、巣を殲滅させずに尻尾を巻いて逃げ帰って来る腰抜け共、と言う謗りと中傷を当方達が受ける事になりかねん。
それは流石に面白くは無いし、そうやって侮られるのも当方はあまり好きでは無いのでな」
「私としましても、攻め入る方向の方がよろしいかと。
このまま放置して無辜の方々が被害に会われるのを静観するのは、これまでの生き方として到底出来る事では在りません。
それに、他種族の女性を拐って乱暴して数を殖やす畜生を、一部とは言え根絶やしに出来る機会を不意にするなんて、私にはとてもとても……」
「…………まぁ、アタシの意見としても、そこの真っ黒聖女サマと大体同じかな?
もっとも、まだアタシの実力を示す機会が与えられていないから、その機会を不意にするのが勿体無いってのと、後は支払われるであろう報酬が美味しそうだから、ってのが正直な話かな?
それと、全女の敵は、殲滅するに限るでしょう?」
「さいで。なら、満場一致で殲滅と行こうか?
まぁ、無いとは思うけど、一息に殲滅出来ない様な規模だったりすると困るから、取り敢えずは巣を見るだけは見に行ってみようか。
既に位置は把握してある。こっちだ。着いてきて」
アレスの先導により、街道を離れて森の中を進んで行く『追放者達』一行。
時折出会しそうになる豚鬼の斥候部隊や森の恵みを採取しに来ているモノ等をやり過ごしたり手早く片付けたりしながら(死体は一応隠してある)、一路豚鬼達の巣を目指して突き進んで行く。
合間合間にてセレンの手によって掛けられる回復魔法『天の恵みによる強壮』によってその足は鈍る事を知らず、どんなに森に慣れていた者の足でも数時間は掛かったであろう道筋を僅か一時間足らずで踏破し、遂には目的地へと到達した。
アレスの斥候としてのスキルによって探った気配を頼りにした行軍の果てに辿り着いたその先には、荒く粗末な作りながらも『砦』と呼称しても間違いではないであろう物体が鎮座していた。
斬り倒したのであろう木を、樹皮も剥かずに並べただけの壁。
遠目に見ても、どうにか形を整えた、と言った風体の今にも崩れそうな門。
壁の周囲に設えられた、太めの枝を蔦にて括って作ったのであろう柵。
本来であれば、知能と呼べる様なモノは欠片も持ち合わせていないハズの、豚鬼達が築き上げたのであろう砦が、彼らの前へと立ち塞がっていた。
「……さて、どうする?
一応言っておくと、中に捕まっている人間が居るっぽいし、建材として使われている木材もまだ生木みたいだから火計は使えないので悪しからず」
「まぁ、元より森の中だ。流石に乾期では無いとは言え、あまり褒められた方策とは言えぬであろうよ」
「流石に、助からないから、と介錯して差し上げるのでしたら兎も角として、まだ助かるかも知れない、と言う方々を見捨てるのは寝覚めが悪くなりますからね。
それに、それが露見した場合、ギルドからの評価も大きく下げられてしまう羽目になりますから、やはり止めておいた方が良いでしょうね」
「なら、もう一つしか残って無いわね!
正面突破!真っ正面からの殴り込みこそ、喧嘩の華ってヤツでしょ!!」
「なら、取り敢えずガリアン任せた。あの在っても無くても変わり無さそうな門、ぶち壊して開戦の狼煙にしてやれ!派手にな!!」
「応ともさ!此度の戦の一番槍、務めさせて戴こう!!」
砦を観察するために隠れていた茂みから、盾を構えたガリアンが飛び出して行く。
その背中に、念のためとタチアナが
「『力よ、漲れ!『筋力強化』』!」
と支援術を掛けて援護する。
「万が一負傷されても、私が完璧に治して差し上げますので、遠慮なさらずに突っ込んでしまって下さいな♪
私達の護衛役は、アレス様がして下さいますので、どうかお気になさらず♪」
「……こうやって考えてみると、やっぱりもう一人位は欲しいよな。攻撃型の前衛か、もしくは遊撃補助みたいなヤツ」
「そんなの、そうほいほい都合良く居る訳無いでしょう?それに、居たとしてもアタシ達の仲間にして良い訳?アタシ達、『追放者達』でしょう?」
「…………まぁ、それもそうか」
後ろの方でそんな会話が繰り広げられている事を知ってか知らずか、特に構う事も無く、盾を構えたままで門へと突っ込み、強烈な突撃攻撃を慣行するガリアン。
……ドガンッッッッッッッッッッッ!!!
「かっはっは!我こそは、ガリアン=ウル・ハウル!貴様らを駆逐する者なり!!
さあ、死にたいモノから掛かって来るが良いぞ!!」
そして、その一撃にて粉砕された門を踏み締め、戦闘への昂りを抑える事もせずに高らかに宣言したガリアンの背を目指し、待機していた残りの三人も砦の内部を目指して駆け出すのであった。
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