暗殺者、実力を示す
戦闘描写あり
依頼内容の説明から、急いだ方が良さそうだ、と判断した『追放者達』の四人は、手早く準備を整えると、アルカンターラを囲む外壁に在る四方向へと延びて行く街道に合わせて作られた四つの門の内、南の門へと向かって行く。
流石に、距離が在るならば重装備のガリアンの事も考えれば、ここは大人しく馬車でも借りて行くのが良いのだろうが、一時間程も歩けば着く場所である事と、本人曰くその程度であれば装備したままでも特に問題は無い、と言っている為に徒歩で向かう事となっていた。
とは言え、もちろん歩いて行く訳ではない。
それでは流石に時間が掛かり過ぎてしまい、知らずに通った人間が襲われて被害が嵩む事になりかねない。
『追放者達』の四人としては、別にそうなったとしても構いはしないと考えている。
これは、元々孤児であったアレスや貧民街育ちのタチアナに限った考えではなく、聖女としてこれまで慈善活動の類いを行ってきてセレンや、領主となるべき見識を広めていたガリアンとしても同じ考えを抱いている。
既に彼ら彼女らは棄てられた側の存在だ。
であるのならば、自らに被害が出たり、自分の手を汚す羽目になるのでなければ、他人がどうなろうとも基本的には知った事ではない。
そもそも、知らずに進んで被害を受けるのは事前の情報収集を怠ったただの間抜けであるし、知って進んで被害を受けるのはただの自信過剰な馬鹿者だけだ。
そんな連中の為に急がなければならない理由は存在していない。
が、しかし、そうやって二次的に被害が広がってしまった場合、責任の追求に晒されるのは誰になるのか、と言う事に着眼してしまうと話は大きく変わってしまう。
そう、言わずとも理解して貰えたとは思うが、そう言う場合の責任の所在は冒険者ギルドへと向けられる事になり、それは同時にその依頼を受けた彼らの評価に直撃する事になる。
幾ら他の連中の事なんてどうでも良くて、英雄なんて欠片も目指していなかったとしても、所属している組織からの評価を下げる様な行いは、極力避けなければならない。
……何故なら、彼ら彼女らは、冷遇される際にどの様に感じるのか、と言う事を、嫌と言う程身を持って知っているのだから……。
それに、依頼に失敗したと言う事で受ける謗りであればまだ受け入れられもするが、全くもって関係の無い様な間抜け共が被害を受けたからと言って罵られる様な事態は避けたい、と言うのが正直な話だろう。
そんな訳で、急いで南門を潜り抜けた四人は、大なり小なり装備をした状態のままで駆け足で街道を突き進んで行く。
一時間程も走り続けていれば、流石に劣悪な環境下にて酷使されてきた彼らの息も僅かながらに上がり始める(『普通の冒険者』であれば精々もって三十分程であり、その場合は止まると同時に倒れ込む事になるので文字通りに『使い物にならなくなる』)が、まだまだ戦闘を行う余裕の在る状態にて依頼書に記されていた現場へと到着する事に成功する。
その現場には程近い場所に丘があり、更に近くには森が街道に隣接している。
恐らく、丘を崩す労力を厭って道を迂回させた結果、森に近くなりすぎる事になったのだろうと思われる。
まぁ、とは言え、当時の事情なんて彼らには欠片も関係は無く、ただただ目の前の如何にも『ここで襲撃を仕掛けて下さい!』と主張しているような地形に腹を立てるのみである。
が、しかし、仕事は仕事。
確実に片付ける必要が在るし、あまり時間を掛けすぎるのも良くない為に、手早く済ませてしまうのに越した事は無い。
なので、元々斥候職でもあり、その手の事柄は得意中の得意であったアレスが本気を出す。
「……仕方無い。多少面倒だけど本気を出すか。
『索敵』『気配察知』『敵意察知』後は……ついでに『生命力感知』も使っておくか………………よし、見付けた」
「……ふむ。随分と多くのスキルを習得しているだけでなく、同時に扱えるとは流石、と言っておくべきかな?」
「なんだ?俺の話し、信じてなかったのか?」
「いや?信じていなかった訳ではないが、だからと言って鵜呑みにするのは危険であろう?故に、多少は疑って掛かっていた、と言うだけの話しよ。実際、上位の冒険者ともなれば、同時に複数のスキルを発動させるのは当たり前の様だからな。
処で、先程の『見付けた』とは何を指しての言葉なのか、差し支え無ければ聞いても良いかな?」
「そんなの、決まってるだろうよ。依頼に在った豚鬼を捉えた。
だけど、良い知らせと悪い知らせが在る。どっちから聞きたい?」
「……えぇ~?良い知らせならともかくとして、悪い知らせまであるの……?」
「ですが、手早く片付ける為にも、聞いておく必要は在るでしょう。
では、取り敢えず悪い知らせからお願い致します」
「了解。まず、悪い知らせだけど、あっちの森の奥に、割りと本格的な豚鬼共の巣が在るみたい。
だから、適当にこの辺を彷徨いている奴らを狩って帰ったとしても、後日調査不足だとかの不評を受ける可能性在り」
「…………なんとも、面倒な……。
しかし、良い知らせも在るのだろう?そちらは、どの様な知らせなのだ?」
「良い知らせの方としては、上位種はボスを除けば居なさそう、って処だな。それに、まだ出来て日が浅い巣だからか、そこまで頭数は多くなさそうって事だな。多くても数十程度だから、百は居ないと思ってくれて良いぞ」
「…………それ、本当に『良い知らせ』なの……?」
「……?そうだろうか?十二分に、良い知らせの範疇だと思うが?」
「そうそう。クソ面倒な上位種はほぼ居なくて、その上にソレなりに数が居てくれるって事は、即ち稼ぎ放題って事じゃないか。
なら、良い知らせの範疇だと思うけど?」
「……いや、そっちも十二分に悪い知らせでしょうに……」
「いえいえ、考え方によっては十分良い知らせかと思われますよ?
丁度、私達の個々人での力量を公開したり、パーティーとして活動する際の連携を図ったりと、出来ることはソレなりに多いかと。折角の機会ですので、利用しない手は無いですよね?
それに、数が多いと言う事は、アレス様の言う通りに稼ぎ放題なのですから、良いではないですか。幸いにも、豚鬼程度であれば如何様にも出来ますしね♪」
「おやおや、随分と聖女サマは自信満々に見えるな。
なら、そこの群れは俺が貰っても良いかな?」
そう言い残すと同時に、腰の長剣を抜き放ちつつ駆け出すアレス。
その視線の先には、丁度街道に隣接していた森から姿を現した五頭程の豚鬼の姿があった。
恐らく、街道への偵察にでも来たのだろう。
愚鈍で重鈍。
大きく張り出した腹と、女と見れば種族に関係無く血走る目を見れば分かる通りに、頭の中身の大半を性欲と食欲に支配された害獣。それが豚鬼だ。
豚鬼と言う存在は本来であれば、小数の群れを形成し、女性と食料を求めて人を見掛けたら襲い掛かる、と言う程度の行動しかしない。
その為に、村の近くに出現されると厄介な事になるが、比較的簡単なトラップにも普通に引っ掛かるので、男手さえ揃えられれば非戦闘員の村人達でもどうにか討伐出来なくもない。
……が、その豚鬼が巣を作り、群れを率いるボスが出現すると話は大きく異なってくる。
細々とした相違点はソレなりに在るのだが、最大のモノを挙げるとすれば、やはり頭を使い始める、と言う点に在るだろう。
それは、例を挙げるとすれば、仕掛けられたトラップを理解して回避したり。
或いは、こうして特定のポイントにたいして斥候の部隊を派遣したり、と言った感じにだ。
とは言え、変化したと言っても精々がその程度。
あくまでも、多少知恵の回るボスが指示を出して行動をし始めると言うだけの事であり、普通の豚鬼までもが知的になっている、と言う訳ではない。
現に、アレスがスキルを発動させる事で感知していたその斥候と思われる部隊も、まさか自分達が気付かれているとは思ってもいなかったし、何より街道に出た直後にこうして襲われるとは露ほども考えていなかったが為に、呆気に取られて固まってしまっていると言う訳だ。
もっとも、最初から彼らを狩り尽くす事を考えて行動していたアレスが、そんな事情を汲んでくれるハズもなく、抜き放った長剣を右手に逆手で構え、姿勢を低くした状態で彼らの命を刈り取らんと距離を詰めて行く。
「……っ!?ぶ、ぶぎゃっ「遅せぇよ」べっ!?」
なので、アレスがほぼゼロ距離にまで接近してきた事で正気を取り戻した豚鬼の一頭が、ボスから出されていた『人間を見付けたら声を挙げろ』と言う指示を実行しようとするが、その時には既にアレスが懐へと踏み込んでおり、それと同時に放たれた鋭く弧を描く銀閃により咽を切り裂かれ、濁った呟きを放ちつつ咽をかきむしりながら地面へと倒れ込む事になる。
「ぶぎゃっ!?」「ぷぎぃ!?」
「戸惑ってる時間が在ったら、さっさと攻撃しろよ間抜け共。
『貫き焦がせ『業火の矢』』!」
「「びぎゃあっ!?!?」」
突然の事態に、倒れた仲間を助けるべきか、それとも目の前の脅威に対応した方が良いのかの判断を迫られた二頭は混乱し、ただただ戸惑いの声を挙げるだけであった。
それを呆れながらも隙だと認識したアレスが、呪文を詠唱して業火の矢を作りだし、前後に並んでいた二頭の胴体を纏めて撃ち抜き焼き焦がす。
「ぶがぁぁぁぁぁああああああ!!!」
「おうおう。勇猛なのは良いけれど、当たらないと意味は無いぞ?」
「……ぷぎ?…………ぶ、ぶぁぁぁあぁ……」
着弾した位置から即死したであろう二頭に紛れる様にして接近を試みていた一頭が、咆哮と共に手にしていた棍棒をアレスの頭目掛けて振り下ろす。
しかし、当然の様にそれを察知していた彼は、アッサリとその一撃を回避すると、そのまま背後へと回り込んで脇腹の肉の薄い部分から刃を突き入れて直接心臓を抉り抜く。
勇猛だった割には、気の抜ける様な鳴き声を挙げて崩れ落ちる豚鬼から刃を引き抜き、残りの一頭へと視線を向ける。
するとそこには、仲間がアッサリと殺された事による恐怖にて腰を抜かし、粗末な腰布を失禁にて濡らしながら這いつくばって逃れようとする豚鬼の姿。
見苦しいまでに生き足掻くその姿に、内心での嫌悪感を隠そうともせずにその背に歩み寄り、無情にもその白刃を振り下ろす。
そうして彼は、遭遇から僅か数分程度の時間にて、普通のDランクの冒険者であれば、パーティー単位にて集まって死闘を演じる必要が在る豚鬼の群れを、他の仲間達が介入する暇を与える事無く素早く仕留めて見せるのであった。
私事ですが、中華異聞帯の王にてギリシャ異聞帯の王を打倒する事に成功しました
……出来ると思ってなかったですが、案外と出来るモノですね
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