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天然な人外勇者

作者: NNN

「なあ、ここどこだよ」


「東世界の端っこ、ガンゴートリーのまた端っこだな。目的地ブラマプラタの源流……までは後少しだ。頑張れ」


「頑張れっつってもなあ」


 眼前に広がるのは真っ白な世界である。雪ではない。確かに地面は凍ってる雪っぽい何かだが目の前を塞いでるのは雲だ。だが首都カトマンズで見るようなまるで手が届けば綿あめのように食べられそうだな、と一度は思ったことがあるであろうただの雲ではない、標高およそ6000mの雲の中は水と雪と氷の欠片を冷凍庫の中でミキサーにかけたような状態だ。つまりどういうことかというと、地肌を出したらかき氷で削り殺される。


「寒いならもっと近づけ。なんなら背中にくくりつけていこうか」


「近づいただけじゃどうにもなんねーよ。あと背中に背負ったリュックの上に俺を乗せるつもりか?よけー寒そうだなおい」


「いや、お前は地肌の上だ。服とリュックはその上だな」


「圧死するわボケ」


「貧弱な……」


「体力無尽蔵人外お化け女のお前と一緒にすんじゃねー」


「減らず口叩くならもっとペース上げられるな、よしわかった。お前に合わせてると日が暮れるからな仕方ないなよし」


「やめてください神様仏様フェーヤ様。すいませんでした、ごめんなさい」


 フェーヤというのはコイツの名前だ。本名は「ドラなんとかかんとかなんとかかんとかフェーヤ」らしいが覚えるのがめんどくさかったのでラストネームだけ覚えている。コイツのことお化けと言ったが本当はお化けすら足出して逃げるくらいの化け物である。砂漠の中でも極寒の極圏でも生きていける無茶苦茶なサバイバリティを持っていて様々なところに冒険するのが趣味というか生き様だ。俺も何度もつきあわされて何度も殺されかけている。今回のマイナス30度の冒険はその中でもひときわやばいが。


「つか割とマジでそろそろ限界近いぞ」


 誰も行ったことのない世界最大級の川の一つブラマプラタの源流に行くと言われてスタートしたのが1月前だ。そこから散々歩き倒してそれからこの雪山に入ったのが1週間前である。この化け物が背負っている先祖代々伝わってきたとか言う2m近いお化けリュックに水と食料はまだ入っているがこの寒さでは飯なんぞ体温の足しにならないのである。おやつに持ってきたバナナを食べるのにナイフを使う羽目になるとは思わなかった。固すぎて手で剥けないんだもんな。


「雪山って言われたら絶対ついていかなかったのに。川の源流に行くなら、砂漠の真ん中にある岩を目指すとか世界で一番高いところにある樹に行くとかジャングルの奥地にある湖に行くとかよりマシだと思ってたのに!」


「バカだなあお前は。川の源流は山の中って相場が決まってるだろう」


「雪山って先に言っとけこのボケ。つかなに?今回の旅は俺を本格的に殺すための旅か?」


「そんなわけ無いだろ。お前を殺すならもっと面白い方法でやる」


「まじかよ楽しみにしとくわ、んで、理由は?」


「……そうだな。簡単に言えば探しものだだ」


「……ここ初めて行くんじゃねーの?」


「私の探しものではなく、いや、私達の探しものだな」


「まて俺はこんなところで失せ物してない。もっと失くすのに命かからないところで失くすから絶対」


「いやまあ私の先祖代々の探しものでな、なんか誰も行ったことのない、なにもないところにそれがあるらしくてな」


「はー」


「それで長い長い間それを探してたんだが、だれも結局見つけられなかったんだ」


「ひー」


「多分見つからなかったら私が最後になるからな、是非とも探し当てなければならない」


「ふー」


「……」


「へー」


「…………ほー」


「とるなよ」


「ふんっ、もうちょっと真面目に聞いてくれてもいいだろう」


「いや……めんどくさそうだったから」


「バカ」


「あー、それで、なんで誰もいないところで何もないところ探すんだ?何もないとこ探してもやっぱり何もないだろう」


「それが私達の生き様だからだ。趣味だ。もっと言えば好みだ」


「……趣味のもの探してんの?俺付き回して?こんな世界のやばいところばっかり?」


「ああ」


「……やっぱり超弩級ウルトラサイケデリック&トロピカル+メンタルヤベーめんどくさいやつ&やつらじゃねえか!」


「ひどい言い様だな」


「あーくそ、くそ……」


「――どうした?」


「暑い」


「は?」


「クソ暑い。さっきまでは確かに寒かったんだが今猛烈に暑い」


「お、おい!大丈夫か」


「あー、無理、暑すぎて無理」


 何かがおかしいというのはわかっている。ここは雪山で極寒で暑いわけがないというのは理解している。だが実際暑いものは暑いのだ。なんだこれ。


「お前、服を脱ごうとするな!死ぬぞ!」


 大丈夫だ。マスクを外しただけだ。顔にガリガリ雪やら何やらがあたっているが暑いのには代えられない。でもまだ暑い。というか全然冷たくない。やはり上も脱ぐしか――。


「やるしかないか!」


 何かに後ろを取られた。嫌な予感がして振り返ろうとしたが遅かった。


「悪い」


 首を締められたと思ったら世界が暗転した。


 …


 ……


 …………


 暖かかった。寒いのでもなく、暑いのでもなく、心地いい暖かさである。まるで真冬の布団の中のような、いや、やはり少し暑い、というかすごい暑い。シーツとか布団とか毛布とか何枚もかぶって熱の逃げ場がないあの感じである。外は寒いのに起きたら汗まみれになってるあれ。しかも重い。人が乗ってるような重さである。つーかこれって……。


「フェーヤさん!暑い!重い!つか裸で抱きついてんじゃねえ!ぶっ殺すぞおらぁ!」


 目の前にはフェーヤの長いまつげと閉じたまぶたと小さめな鼻とぷるっとした口があった。マジか。


「ううーん」


 ううーんじゃねえ。体中汗でべったべたである。胸とかも向かい合わせで抱きつかれてて胸と胸で圧し潰されていい感じの膨らみ(C~D相当多分)がいい感じになっている。だが暑い。汗やばい。いや汗臭くはない。むしろ新鮮な汗は無臭でどっちかというと何か匂い立つヘロモンみたいな(誤字にあらず、こんな状況でフェロモンなんぞと言ってたら正気ではいられない)何かが芳しく感じる。だがよろしくない。なんせ気絶する前の記憶ははっきり残っている、俺はあの時おかしくなっていた、だから一旦俺を気絶させてどこかに避難したのだろう。つまりこの状況が生命危機回避のための何かであるというのは明白である。故にいやらしい気持ちなぞ持ってはいかんのである。だが、だが、適齢期の女体の素肌というのはもうそれ自体が究極にいやらしいとは言えんだろうか(反語)。しかも横見たら目をつむった女の子の顔である(こっちはA相当の美人)。更には触ろうと思えば胸もその下(お腹)もそのもう一つ下も(言えない)も触れるのである!さわらないが(最後の一線)!!もうめちゃくちゃになるというかしてしまいたくなる。つまるところこの状況でやることは一つである。


「起きろフェーーーーーーーヤアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」


 人生18年で一番大きな声だったと思う。


 …


 ……


 …………


「全く、危ないところだったぞ、お前」


「ああそうです。色々本当に危ないところでした本当に感謝してますが本当にお前も気をつけるべきだと思いますが!」


「あれが一番効果的だったからな」


「めっちゃ含むところありありな返答でめっちゃいやらしいんだけど!」


「いやなに、なかなか固くて具合良さげで私の見る目は正しかったのだがな。体の方は」


「ぶっ殺す」


「心の方はまだもう少し発展の余地があるな」


「ぶち殺す」


「……私の体は魅力的ではなかったか?」


「……いやまあそういうわけではまったくなかったが――」


「なら襲えばよかったのに」


「ぶっ殺す!!」


「ほれ、お茶でも飲め」


「……」


「…………」


「………………サンキュ」


「ところで話は変わるのだが」


「なに」


「お前、私のお腹にあたってたアレはいわゆる朝立ちとかいうあれか、それとも私に欲情しての――」


「おい話変わってねえぞこのクソアマァ!!」


「冗談だ」


「お前俺を憤死させたいならいい感じだぞお前精一杯面白死してやる、そろそろメーター振り切れるからな!」


「むう、困るな。ようやく探しものが見つかったんだ。お前も一緒じゃないと困る」


「はーそれは良かったですねえ、で、ここから帰るんだろ。もう俺動きたくねえぞまたあの雪山下ってたら今度こそ死ぬわ」


「いや、その必要はないぞ」


「は?」


「というか私の探しものが何かわかっていなかったのか?」


「お前の話真面目に聞くつもりなかったぞ俺」


「……まじか」


「いや、単純にお前がどこかに行くって言って俺が面白そうだから付き合ってただけだし」


「お前、それでここまでついてきたのか」


「あー、うん」


「……お前のセリフだがな、こんな世界のやばいところばっかり行ってる奇天烈な女にただ面白そうだからでついてきたのか?」


「まあ、そうだな」


「本当にそうか?本当にそれだけか?」


「あー、まあ、それだけではないか」


「じゃあ、それは何だ」


「あー、あー、フェーヤさん美人だから愛欲、いや、肉欲?」


「さっき襲いかからなかっただろう。自分で言うのは何だがさっきは完全に据え膳だったぞ」


「いや。だってあれ俺のこと助けてくれたからでなあ」


「煮えきらんなお前は。なら言うが、私はおまえが好きだぞ」


「はあ」


「ぶち殺すぞお前」


「いや、人好きになるってよくわからんし」


「お前なあ……」


「あー、ごめん?」


「謝るな!ガチでへこむ!」


「……」


「黙るな!あーもう、しょうがない!アプローチを変える!」


「はあ」


「さっき、私の体見たよな」


「うん」


「どうだった?」


「すごかった」


「触りたくないか?」


「触りたいけど」


「触っていいぞ」


「……ガチで?」


「……お前なああ!どんだけ天然なんだよ!さっきの状態で裸で抱き合ってたんだぞ!オッケーに決まってるだろうが!」


「許可もらって触るのと不可抗力で触るのと自発的に触るのは違うと思ったんだが」


「女にとっちゃ全部一緒だわバカが!」


「そっか、そうなのか……」


「なんでわかってないのかなコイツは」


「男の裸とか体ってそういう性的権力が低いから、裸見られても自発的に見たり見られたりするのと不可抗力でそうするのの価値違うから」


「抗弁すんな」


「はい」


「まあそういうわけでだ。私はお前が好きだ。お前はどうだ?」


「まあ好――」


「好きだって言い切ったらお前のしたいこと好きにさせてやる」


「好きです」


「愛してるか」


「まあ愛――」


「愛してるって言い切ったら以下略だ」


「あー……」


「……なんだ?」


「…………」


「なんだ、お前、はよ言え」


「………………」


「……お前、言えないのか」


「……………………」


「お前、本当は私のこと嫌――」


「――フェーヤってホントに勇者だよな」


「なっ――!」


「――チュ」


「!!!!!」


「……。愛してるのチューだ」


「フェーヤの強引なところ、好きだしそういう勇者みたいな無茶苦茶勇気と行動力あるところ好きだからな。これから宜しく」


「……」


「なに」


「…………」


「なんか言えよフェーヤさん」


「えー、どうしよっかなー」


「お前なあ、そういうのなあ」


「お前が先に意地悪するのが悪い」


「大事な選択は先に伸ばして流れに流されたいタイプだから俺」


「バカなやつだ。まあいい」


「でさ、今更だけどここどこ?」


「私達の探しものの在り処」


「だからそれ何?」


「ふふーん。普通は探しものってのは何かがあるからその何かを探しに行くよな」


「まあそりゃそうだ」


「私達の探しものはその逆だよ」


「はあ?」


「私達は何もないところを探してたんだよ。もっというと人がいないところ。この世界における最後の神秘が残されてる場所を探してたんだ」


「はあ」


「それがここ。東世界の最西端、東世界を満たす始源ブラマプラタの生まれる土地ラクトバレー」


「……ホントに何もないけど」


「でも探しものはここさ。ここにこれから作るんだ私達の国を」


「マジ?」


「ああ、私は竜の最後の末裔『ドラコ・ディーウァクァエダム・ニュムパ・ネライダ・アダ・フェーヤ』私はお前とここに楽園を作るんだ」


「逃さないぞ私の勇者様」

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