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初恋の痛み  作者: 海星
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キースの友人

よろしくお願いします。

 夕方、騎士団の訓練を終えたキースに会うために、騎士団の宿舎に向かった。王城の敷地内にある宿舎に行くにはまず、門を通らなければいけない。


「あの、マクファーレン子爵の娘、アリアと申します。本日は婚約者のキース・カルヴァレストに会いに来たのですが……」


 アリアがそう言うと、厳つい門番二人は顔を見合わせた後、一人がどこかに行ってしまった。しばらく待つように言われ、待っていると、もう一人がキースを連れて帰ってきた。


「よう、来たな。ここではなんだし、ついてこいよ」


 そうしてキースは門番にお礼を言って、敷地内に入っていくので、アリアは後をついていった。


「とりあえず面会室で話すか。立ちっぱなしは足が辛いだろ?」

「ありがとう。でもそんなに心配しなくても大丈夫よ。今は暖かいせいか、傷は痛まないし、少し引きずるくらいですんでるの」

「そうか。大分よくなったんだな」


 キースはほっとしたように笑った。

 キースが先程からアリアの歩く速さを気にしながら歩いていたことにアリアは気づいていた。キースのこういう優しいところは昔から変わらない。

 だからこそ、ずっと彼が好きなのだと胸が暖かくなった。


「うん。心配してくれてありがとう」

「それで、今日は突然どうしたんだ?」

「うん。ちょっとお兄様から話を聞いてね……」

「ロイから?何のことだ?」

「それが……」


 アリアが話を続けようとしていたら、誰かの声が割り込んできた。


「おい、キース!」


 騎士団の制服を着ていて、遠目で見ても足が長くてスタイルのいい男性が、慌ててこちらへ向かってきていた。彼はアリアたちの前にくると深呼吸して息を整えた。短めの銀髪に紫紺の瞳を持った目の前の男性は、キースとは違って、中性的で綺麗な人だった。


「そんなに慌ててどうした?今日は約束してないだろ」

「まあ、そうだけど……水臭いじゃないか。お前の婚約者が来てるって聞いて、これは是非とも会わなければ!と思ってな」

「ただ面白がってるだけだろうが……」


 キースはウンザリした顔をしている。でもその気安いやりとりから彼とキースが親しい間柄であるのはわかる。アリアは笑顔で彼に挨拶をした。


「はじめまして。アリア・マクファーレンと申します」

「あ、ああ。すみません。私はルーカス・ハーシュと申します。同じ第三騎士団に属していて彼の友人です」

「突っ込みたいところが、ところどころあるんだが……」

「何を言っているんだい、キース君。私と君は友人であり、戦場ではお互いに背中を預けられる仲間ではないか!」


 おどけるルーカスの綺麗な顔とのギャップがすごくて、アリアは最初呆気にとられた。だけど、そのうちにおかしくなって吹き出した。


「ふふ。キースとルーカス様は仲がよろしいのですね。なんだか羨ましいです」

「そういうアリアさんだってキースと仲が良いってキースから聞いてるよ。昔からの付き合いなんだろう?幼馴染で婚約者……くぅ〜羨ましいねえ」

「……そうですね。幼馴染ですから」

「ルーカス、本当に邪魔するな。今日はアリアが話があって会いに来てるんだ。もうじき出発するのに準備はいいのか?」


 キースの言葉に、アリアは目的を思い出した。


「そうよ、それで来たの! ねえ、キース。戦になるかもしれないって本当なの? それでキースも戦に行くって本当なの?」


 焦ってキースに詰め寄ると、キースはたじろいで後ろにのけぞった。


「あっ、ああ。だから忙しいって手紙書いただろ?」

「でも戦に行くとは書いてなかった!」

「まあ、そうだけど。そんなこと書いたら心配しそうだし」

「…っ、そんなの、何も知らずにいる方が嫌に決まってるでしょう! 私はキースの何なの……?」


 冷静になるにつれて、今度は悲しくなってきた。俯いたアリアに、ルーカスが慌ててフォローを入れた。


「まあまあ、アリアさん。こいつは鈍感だからアリアさんのそういう気持ちがわからなかっただけだと思うよ」

「……キースが鈍感なのは確かに今に始まったことじゃないけど……」

「そうでしょ?期待するだけ無駄だよ」

「言われてみればそうだわ」


 初対面とは思えないほど、ぽんぽんと言い合う二人に、キースは苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「……お前ら。人のことをそんなに言いやがって」

「あら、事実じゃない」

「そうだよ」


 そうしてアリアとルーカスは顔を見合わせて笑った。


「アリアさんって、貴族のお嬢様なのに気取ったところがないんだね。何だかほっとするよ。良かったら、僕とも友達になってくれる?」

「ええ。キースの友達は私の友達だもの。こちらこそお願いしたいわ」

「……おい。お前ら、俺のこと忘れてるだろ」


 黙って二人のやりとりを見ていたキースが面白くなさそうに話に割り込んだ。


「忘れてないわよ。でもこっちに帰ってきて初めてできた友達だもの。嬉しくって。でも、二人とももう行っちゃうのよね……」


 嬉しい気持ちが一気に萎んでしまった。キースはもちろん心配で仕方ないが、こうして知り合ったルーカスだって傷ついて欲しくない。


「二人ともお願いだから、なるべく怪我をしないでね。ルーカス様、キースは向こう見ずなところがあるから、危ないことをしないように見張ってて欲しいのだけど……」

「ルーカスでいいよ。僕もアリアって呼んでいい?」

「ええ」

「アリアに言われなくてもキースは大切な仲間だから守るよ。安心して」

「ありがとう。もちろんルーカスも気をつけてね。それじゃあ、今日はそろそろ帰るわ。また二人が出立する時に見送りに来るから」

「ああ、気をつけて帰れよ」


 キースとルーカスに手を振って、アリアは屋敷に帰った。二人に会ったことでアリアの心は少しだけ軽くなったが、これからのことを考えると不安になるのだった。

ありがとうございました。

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