王都への帰還
よろしくお願いします。
「なんだかすごく久しぶり」
アリアは王都の屋敷の玄関ホールで周囲を見回した。もうあれから四年も経ってアリアは十四歳だ。それなのにこの屋敷はあの頃と変わらない。
「おかえり、アリア」
声のした方を見ると、兄が階段を降りて来ていた。兄とは領地にいた頃も会っていたから、それほど久しぶりではないはずなのに、男の人は成長が早い。兄の身長は前に会った時よりも高くなっていた。
「ただいま……お兄様、身長伸びたわね。私なんかまだこんな感じなのに……」
そう言って特に気になる部分に視線を落とす。悲しいかな、身長は伸びたのに胸はまだ発展途上だった。
兄も同じように胸を見て神妙に頷く。
「こりゃ、キースがかわいそうだな」
「どこ見てるのよ! それにキースがかわいそうって、そんなことを言われる私が一番かわいそうじゃないのよ」
「はいはい。でもお前、婚約者とはいえ、努力しないとキースに捨てられるぞ。お前は知らないだろうが、あいつ、今出世頭ってことで人気あるんだし」
「え、そう、なの……」
伯爵家の三男とはいえ、騎士団での評価は高い。外見だって整っているのだ。当然だろう。
そんな人が自分の婚約者なのだと思うと、誇らしい反面、本当に自分でいいのかと思ってしまう。
アリアがわざと怪我をしたわけではないが、それを理由に自分に縛りつけているのだ。アリアだってキースの幸せを望んでいる。
だからもしキースに好きな人ができた時は辛いけど婚約は解消するつもりだ。
複雑な顔をしているアリアに、兄は慌てて言う。
「ま、まあ、お前は付き合いも長いし、そんなに心配するな」
「……でも、お兄様。私はキースを縛りつけたくはないの。キースに好きな人ができたらそれはそれでいいと思うのよ」
「そうしたらお前はどうするんだ?これ以上いい縁談なんてないだろう?」
「……そうね。その時は修道院にでも入ろうかしら。職業婦人も考えたけど、私にはそんな優れたものがないから無理だろうし……」
アリアの言葉に兄はぎょっとした。
「修道院はやめてくれ。あそこは厳しいから貴族育ちのお前には無理だ。それにそんなことしたら、父上と母上が悲しむだろうが」
「だから、もしもの話でしょう?キースとの結婚が無くなったらってお兄様が言ったんじゃないの」
「ああ、そうだったな。驚かせるなよ」
とはいうものの、アリアは半分本気だった。先のことなんてわからない。だからこそ今から考えておこうと思っていた。そんなことは兄には言えないが。
「そんなことよりキースは元気?しばらく忙しいって手紙が来てたけど」
「ああ、そうなんだ。今、北の辺りがきな臭くてな。ウルムの奴らと戦になるかもしれない。それで、あいつも任務で北に行くことになると思う」
「え……」
ウルムというのは隣国で、常にこの国の領土を脅かしている。
それを聞いてアリアは青褪めた。手紙にはそんなこと書いてなかった。頭の中に色々な想像が浮かぶ。軽い擦り傷くらいですめばいいが、最悪は……と考えてアリアは叫んだ。
「そんなの、嫌!」
「お、おい。どうした、アリア。あいつだって騎士団の一員だ。こうなることはわかってただろうが」
「それはそうだけど……」
そうは言ってもそこまで危険な任務があるとは思わなかった。いつも休暇には笑顔で会いに来てくれていた。その笑顔が見られなくなるかもしれない。不安でたまらないアリアに兄は言った。
「なあ、アリア。それならあいつに会ってみたらどうだ。まだ出発はしないはずだし、前もって手紙で会いたいって言えば、少しくらいは時間を作ってくれるんじゃないか?」
「そうね……そうするわ。やっぱり心配だもの」
そうしてすぐに手紙を送ったら、少しなら時間が取れると返事があったので、夕方会いに行くことにした。
ありがとうございました。