表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初恋の痛み  作者: 海星
6/26

二人のそれから(過去)

よろしくお願いします。

 それからキースは自分で身を立てると決めて、騎士団に入団した。もともと体を動かすのが好きだったキースには、それがあっていたようだ。少しずつ力を付け、頭角を現し始めているらしい。


 一方、アリアはあの怪我の後、リハビリと静養のために領地へ戻った。というのは表向きで、本当はキースに合わせる顔がなかったのだ。


 キースは責任をとって婚約しただけで、アリアには妹以上の気持ちは持てないだろう。それは婚約を申し込まれた時に薄々感じた。だから、それからずっと本当にこのまま結婚してもいいのか悩んでいた。



「ふう……」


 傷が塞がり、だいぶ歩けるようになったアリアは、その日も領地の屋敷の中を歩いていた。


 あれからもう一年近く経つが、その間キースには一度も会っていない。あんなに一緒に過ごしたのが嘘みたいだ。しかも友人の妹から婚約者に格が上がったというのに。

 毎日そんなことを思っていたから、アリアはこの時、幻を見たのかと思った。


「よう、久しぶり」


 玄関ホールにいたのは、以前よりも子どもらしさが減って精悍な顔つきになったキースだった。思いがけない出会いにアリアは立ち尽くした。


「おい。やっぱりまだ調子が悪いのか?」


 近づいてきたキースはアリアの顔を覗き込んできた。久しぶりに会った上に間近で見た彼の顔にときめいた。それでも何でもない振りでキースの言葉を笑い飛ばす。


「何言ってるの。私はもうすっかり元気よ。まさかキースがいるとは思わなかったから驚いただけ」

「ああ。休暇に入ったんで、忘れられないうちに婚約者様に顔を見せないとまずいと思ってな」

「婚約者……ね」


 アリアは自嘲気味に呟いた。口にしても現実味がない言葉だ。ずっと妹扱いをされてきたアリアにはどうしてもキースと結婚した後の想像ができなかった。だから、思い切ってキースの気持ちを聞いてみた。


「ねえ、キース。あなたは本当に私と結婚してもいいの?」

「今頃なんだ?よくなかったらそもそも婚約しようなんて言わないだろうが」

「それはそうなんだけど……」

「確かに今お前のことを好きかって聞かれたらわからない。お前は友人の妹だし、俺からみたらまだ子どもだ。俺にはそういう性癖はないからまだそういう対象には思えない。だけど俺は責任を取るって言っただろ?」

「……やっぱりそうだよね」

「馬鹿。話をちゃんと聞けよ。俺はまだって言ったんだ。これからのことなんて今からわかるわけないだろ。結婚するまで後四年もある。その間にお前だってもっといい縁談があるかもしれない。傷があるからって気にしない、それでもお前と結婚したいっていう男がいて、お前も結婚したければそっちに行ってもいいんだ。確かに俺は責任を取るとは言ったが、お前の幸せが一番だとは思ってるんだ」


 キースの顔は真剣だった。でもアリアにとっての幸せはキースと一緒にいることなのに。キースの優しさが痛かった。


「……うん、わかった。ありがとう……」


 アリアは痛む心を隠して笑った。その笑顔は不自然なものだったかもしれないが、幸いにキースは気づかなかったようだ。


「それじゃ、昔みたいに遊ぼうぜ。ここにロイがいればもっとよかったのにな」

「……お兄様は今、忙しいから」


 兄のロイは今、王都の屋敷にいる。これから社交界デビューも控えているし、跡継ぎとして学ばなければいけないこともある。

 そうやって皆変わっていくのに、アリアだけがずっと取り残されている。


 キースを好きな気持ちは変わらないのに、本当にこのまま流されて結婚してもいいのかという迷いは、それから少しずつ膨らみ始めた。



 それからもキースは休暇になると、アリアに会いに来てくれたが、相変わらず二人の関係は変わらなかった。

 このまま変わらないと思っていた二人の関係が変わり始めたのは、アリアが十四歳になり、社交界デビューのために王都へ行ってからのことだった。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ