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初恋の痛み  作者: 海星
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苦いプロポーズ(過去)

よろしくお願いします。

 アリアの意識が戻ったのは翌日の夜で、気づいたら自室のベッドの上にうつぶせで寝ていた。どうしたのだろうかと体を動かそうとして、腰から足に激痛が走り、アリアは呻いた。


「うっ……わたし、どうして……?」


 その呟きに反応した侍女が慌てて部屋から出ていくと、ばたばたと誰かが走ってきて、アリアは寝そべったまま顔を向けた。


「アリア、よかった。気がついたんだな」


 そう言って入ってきたのは、兄で、その後に両親が続いていた。皆が心配と安堵の表情を浮かべているのを見て、何があったか思い出した。


「あ、そうか……私、馬車の荷台に……って、キースは!?……いっつぅ……」


 叫ぶと痛みが走って、それ以上は言葉にならなかった。


「キースならお前が庇ったおかげで無事だったよ。あいつもお前が目を覚ますまで側にいると言ってたんだが、お前がいつ目を覚ますかわからないから、目を覚ましたら連絡するって言って帰ってもらったよ。これから連絡入れるから明日には来るんじゃないか?」

「そう……よかった……」

「よくないだろう!お前は女の子だぞ。こんな大怪我して!」

「そうよ。その上貴方は目を覚まさないし、本当に心配したのよ」

「それに護衛はどうした。側にいたはずだろう」


 ほっとするアリアに、父、母、兄の順で厳しい言葉が投げかけられる。


「……だって、あのままだとキースが危なかったから……」

「そんなこと言って、お前はわかっているのか?あまりにも酷い怪我だったから、医者が言うには傷痕も残るし、深く抉れたせいで神経を痛めていたら歩くのにも支障をきたすかもしれないと」


 父の言葉にアリアは青くなった。ただでさえ、淑女は怪我を負うような、はしたないことはしない。その上、体に傷跡があると嫁の貰い手は一気に減る。それはこの国の常識だった。

 アリアの知り合いでも、傷が原因で結婚できずに修道院に入るしかなかった女性がいた。そのくらい致命的なことなのだ。


「とりあえず話はここまでにしましょう。アリアも傷が痛むでしょうし、休ませてあげないと」

「……そうだな。今日はゆっくり休みなさい。傷が痛むようなら呼ぶんだぞ」


 ショックで黙り込んだアリアに、母と父が声をかけて出て行き、兄はチラチラと様子をうかがいながら、その後に付いて出て行った。


 皆が出て行くとアリアの目から涙が溢れ出した。

キースを庇ったことには後悔はない。でも、これまでずっとキースのお嫁さんになりたいと努力してきた。

 妹みたいにしか思われなくても、いつかはと夢見ていたのに。こんな形でその望みが絶たれるとは思わなかった。


 キースに会いたい。でも会うのが怖い。


 彼に笑って会えるように、アリアは思い切り泣いた。もうこれ以上流す涙はないくらいに──。



 翌日、昼過ぎにキースはやってきた。アリアは未だに身動きが取れない。そのことに気づいたのか、キースはアリアと話しやすいように枕元に椅子を持ってきて腰掛けた。


「よう」

「うん……一昨日はごめんね」

「何でお前が謝るんだよ」

「だって、せっかく連れて行ってくれたのにこんなことになっちゃって……」

「いや、謝るのはこっちの方だ。お前は俺を庇ってこんな怪我を……本当にごめん」


 真剣な表情でキースは頭をさげる。アリアは自由に動かない頭を左右に振った。


「キースのせいじゃないもの。あれは私が勝手にやったこと。でもキースが無事でよかったよ」


 それはアリアの本心だ。ほっとしたように笑った。でも、キースは傷ついたように顔を歪めた。


「違う! 俺がちゃんと周りを見ていなかったから……謝ってすむことじゃない。だから、今日はその話もあって来たんだ」

「何の話?」


 思い当たる話がなく、アリアは首を小さく傾げる。


「婚約しよう」

「……え」


 全く予想していなかったことを言われ、アリアは狼狽した。そんなアリアに気づいたキースは慌てて、説明を始めた。


「ああ、いや、これはちゃんとお前の両親と、俺の両親どちらにも話してあるんだ。うちの両親はお前に傷を残した責任を取れって言ってるし、お前の両親はお前にこれ以上にいい縁談がこれから望めるかわからないからと了承してくれた。それにこれは俺自身のけじめでもある」

「……」


 少しでも好きになってもらえたなんて思ってなかったが、はっきりとけじめと言われると辛い。アリアが黙って目を伏せると、キースがアリアの手を握った。


「本当にごめん。ただ、まだ俺は成人もしてない頼りない男だ。お前が成人するまでに、自分で身を立ててお前に不安な思いをさせないようにする。だから、それまで結婚は待ってて欲しい」


 そんなことを言われても、アリアには何も言えるはずがない。もうすでに家族への根回しは終わっている。

 嬉しいはずなのに、悲しい。それでも悲しそうな顔を見せてはいけないと、アリアはぎこちなく笑った。


「……わかったわ」

「ああ、とりあえずお前はあまり気にせず傷を治すことを考えろ」

「うん……ありがとう」

「それじゃ、今日はとりあえず帰るな。ちゃんと話をしておきたかったんだ」


 そう言ってキースは帰って行った。その顔には憂いは見えなかったが、内心は嫌なんじゃないかと思う。

 思いがけず、アリアはキースに重荷を背負わせてしまった。こんな風に責任を盾に結婚を迫るつもりなんてなかった。ただ、キースを守りたかっただけだ。なのにどうしてこんなことになってしまったのか。


 これからキースとの関係が変わってしまうのではないかと不安になるアリアだった。

ありがとうございました。

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