初恋を自覚した時(過去)
よろしくお願いします。
キースと知り合ってから兄のロイも含めて、三人で遊ぶようになった。まだ貴族令嬢としての礼儀作法がしっかりしてない頃からの付き合いだったせいか、お互いに遠慮がない付き合いになり、喧嘩しながらも仲良くやっていた。
そしてアリアが十歳で、キースが十三歳になった頃。
「なあ、ロイ。お前はマクファーレン家を継ぐんだろ?」
唐突にキースが言い出した。キースは伯爵令息とはいえ、三男だ。これからのことを考えなければならないのだろう。
選択肢としては、これから自分で身を立てるために職を見つけるか、どこかの家の跡継ぎの娘の入り婿になるかのどちらかしかアリアには思いつかない。
迷っているから兄に相談したいのかもしれないとアリアは思った。
「ああ。俺は長男だからな。とりあえず領地経営と社交術の勉強か。そういうお前はどうするんだ?お前は跡を継げないだろう?」
「……ああ、そうなんだ。それで迷ってる。実は、俺に縁談が来てるんだ。入り婿に来ないかと。そうすることでカルヴァレスト家と繋がりが出来るからというのと、その、縁談相手の女性が何故か俺を気に入ったらしくて……」
キースの言葉にアリアはショックを受けた。これまでもこれからもずっと一緒にいられると錯覚していた。でも、彼もこうして変わっていく。いずれ離れてしまうことに気がつかなかったのだ。
ずっと一緒にいて欲しい。
それはアリアが初めて気づいた思いだった。突然自覚した思いに恥ずかしくなり、キースの顔を見られない。そんなアリアの様子に気づかず、キースはアリアに話しかける。
「なあ、アリアはどうするんだ……といっても嫁に行くしかないのか。女性が手に職をっていうのは難しいもんな」
動揺しながらも、キースに言われたことについてアリアは考えた。この時代、職業婦人は数少ないがいた。だが、それは止むに止まれぬ事情を抱えている女性だけだ。
「そうね……多分政略結婚になるんでしょうね。ただ、私をもらってくれる人がいるのかしら?」
もらってくれるならキースがいいけど、と言う言葉は飲み込んだ。こんなことで関係が壊れてしまうのは嫌だった。
それにアリアの容姿は普通だ。唯一自慢できるのは、指通りのいいサラサラの金髪。透き通った青い瞳は海の闇に似ていて吸い込まれそうで怖いと言われたことがある。
綺麗だったらキースに選んでもらえるのだろうか。それなら頑張って綺麗になる努力をする。だけど、それにはキースがそれまで待っててくれないといけない。
「……ねえ、キース。それで、結局縁談はどうするつもりなの?」
アリアはドキドキしながら答えを待った。キースは少し考える様子を見せて困ったように言った。
「やっぱり断るかな。確かに入り婿って手もあるんだろうが、正直、俺自身の手でやっていきたいというか。入り婿になったら相手にも頭が上がらなくなりそうだし、ちょっとな……」
キースの言葉にアリアの気持ちは浮上した。それなら自分にもチャンスがあるから頑張ろうと決めた。
でもまさか、あんなことが起こるとはアリアにも想像できなかった──。
ありがとうございました。