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初恋の痛み  作者: 海星
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キースの企み(キースSIDE)

ブックマークありがとうございます。


それではよろしくお願いします。

「なあ、ロイ。こんなに調べても出てこないっておかしくないか?」


 メーベルト伯爵家にいいようにはされないと、相手の弱点を探り始めたが、上手くいかない。相手は多少強引な手を使っても、法には触れないように巧妙にやっている。

 だが、エミリアとともに違う意味で名の知れたメーベルト。一つくらいは穴があってもおかしくないはずだ。それはロイも同じようで、しきりに首を傾げている。


「火のないところに煙は立たないからな。あるとは思うんだが……」

「そうだよな。でもこれなら噂を探るよりは、直接噂の被害者に事実を確かめた方がよくないか?」

「いいかもしれないが、話してくれると思うか?メーベルトを敵に回すんだぞ」

「そうか……」


 メーベルトが手を出すのは、自分よりも弱い立場の者たちだ。二の足を踏むのは仕方ない。 

 結局八方塞がりかと思った時、キースは閃いた。


「ならこれから罠を仕掛けるのはどうだ? それなら当事者である俺たちが関与できるから証拠だって揉み消せないだろ」

「ああ。それならいいな!」


 キースの提案にロイも乗り気だ。二人で顔を見合わせて頷いた。


「それなら決まりだ。後は協力者と舞台が必要だが、どうするか」

「それは俺に任せろ。ぴったりな人がいる。あの人なら喜んで協力してくれるだろうよ」


 ロイはニヤリと嫌な笑みを浮かべた。


「わかった。それはお前に任せるとして、俺もその人に会ってみたい。それは大丈夫か?」

「うーん。直接お前と会うとメーベルトに勘繰られそうなんだよな。まあ、マクファーレンの屋敷で偶然会った風を装えば大丈夫かもな」

「よし。それで行こう。もし会う日時が決まったら手紙でもいいから連絡をくれ」

「ああ。アリアの手紙にでも紛れ込ませとくよ」

「わかった。それで頼む」


 これでひとまずやることは決まった。キースは指折り数えながらその日を待った。


 ◇


 ようやく会う日が決まった。当日の夜、キースはマクファーレン家にやってきた。今ならまだ婚約しているから、もしメーベルトに怪しまれたとしても、婚約解消の話をしにきたとでも誤魔化せばすむ話だ。隠れることなく堂々と正面から入った。


「よう、キース。あちらはもう着いてるぜ。とりあえず俺の部屋な」

「ああ、行こう」


 二人で向かっていたら、聞きたいと思っていた声が聞こえてきた。


「お帰りなさい、お兄様」


 キースは焦がれるあまり、幻聴を聞いたのかと思った。


 アリアだった。彼女はこちらに近づいてくる。


 気持ちを自覚しただけで、こうも違うのか。

 声を聞くだけでは足りなくて、彼女の姿が見たい。

 だが、実際に姿を見るとそれだけでは足りなくなる。自分はこんなに欲深い男だっただろうかと、キースは怖くなった。

 それに、今までは意識していなかったが、これまで会った誰よりもアリアが魅力的に見えるのだ。

 思わずアリアに見惚れてしまい、慌てて気を引き締めた。アリアにはまだ悟られてはいけないのだ。


「お兄様、ちょっと相談があるんだけど……」

「おう、アリアか。今日のお茶会はどうだった。いじめられなかったか?」


 ロイはそうやってアリアをからかった。だが、いつもならいじめられてないと言い返すアリアは、キースをちらりと見て眉を下げた。


「そのお茶会のことで相談があるんだけど。今、忙しい?」


 ロイが答える前に、キースが答えた。


「いや、俺は後でいい。ロイ、アリアの話を聞いてやってくれ。俺は先にロイの部屋に行ってるよ」

「ごめんなさい、キース」

「いや、いいんだ。だが、もし困ったことがあるなら、俺でよければ力になるからいつでも相談してくれ」

「ありがとう、キース」


 そう言ってアリアはふわりと笑った。


 そして今度はその笑顔に見惚れた。

 つくづく恋とは厄介なものだとキースは思う。

 恋に溺れる男を見て、他人事だから馬鹿だなと笑っていたのに、今なら彼らの気持ちがわかる。理屈ではないのだ。


「それじゃあな、アリア」

「ええ、またね」


 再会を約束する言葉に、キースは嬉しくなった。アリアは自分を信じてくれているのだと。

 二人のために絶対に負けられないと改めて感じ、力強い足取りでロイの部屋へ向かった。


 だが、廊下の角を曲がった後、ロイの素っ頓狂な叫び声が聞こえた。


「はあ? 婚約を申し込まれたあ⁈」


 キースはその内容に思わず振り返った。立ち聞きは良くないと思いつつ、足音を立てないように二人の声が聞こえる位置まで引き返した。


「そうなの。相手はキースと同じ第三騎士団のルーカス・ハーシュ男爵よ。キースと婚約解消して行き場がないだろうって申し込んでくれたの。返事はまた今度って言われたんだけど、キースがしていることを知られる訳にいかないし、どう断ればいいかわからないのよ」


 はあとアリアのため息が聞こえる。

 まさかルーカスがそんなことをするとは。掴み所のないルーカスの顔を思い浮かべて、殺意が湧きそうになった。


「そうだよな。せめてそれまでにこっちの決着がつけば婚約解消せずに済むし、裏取引も知られずに済むから万々歳なんだけどな」

「……でも焦ってキースに危険が及ぶようなことはやめてね。私は修道院行きでも構わないけど、キースだけは……」


 自分のことよりもキースの身を案じるアリアの姿に、キースの胸は締め付けられた。

 この気持ちを何と形容したらいいのか。

 切なくも恋しくて、愛しい。初めて味わう色々な感情が入り乱れるが、それは嫌なものではなかった。

 その感情に突き動かされて、今すぐ出て行ってアリアを抱きしめたいという自分と、それは今は駄目だと止める理性的な自分がいる。


 早く決着をつけないとそのジレンマにおかしくなりそうだ。


 これ以上聞いていたら、堪らなくなりそうだと思ったキースは、静かにその場を去った。


 ◇


 ロイの部屋の扉をノックすると、どうぞと返ってきて、キースはゆっくり扉を開けた。

 そして中にいる人物を見て驚いた。


「貴方は……リーネルト卿じゃありませんか。お久しぶりです」


 そこにいたのは、キースの父と変わらない年齢の男性だった。金髪の中に薄っすらと白いものが混じり始めているが、眼光は昔と変わらず鋭いままだと、キースの父が話していた。

 そして、リーネルト卿とメーベルト卿は政敵で、お互いに反目し合っているとも父が話していた。


「ああ、久しぶりだね。まさかこんな形で会うとは思ってなかったよ。まあ、元気そうで何よりだ」

「ありがとうございます。リーネルト卿も壮健そうで何よりです」

「それじゃあ、ロイ君はいないが、早速話を始めるとするか。君はメーベルトを罠に嵌めたいんだってね。それはどうしてだい?」

「ロイから聞いているのではないのですか?」

「私は君の口から直接聞きたいのだよ。どれくらいの覚悟があるかもわからないのに、危険な賭けにのる馬鹿がいると思うかい?」


 キースを試すようでいて心の奥底まで見抜くような眼光に、リーネルト卿の底知れなさを感じた。

 だがそんな人を味方につけたらこれほど心強いことはない。

 キースはリーネルト卿から目を逸らさずに、慎重に言葉を選びながら心の内を明かした。


「……ご存知の通り私は伯爵家の三男で、家を継ぐ可能性はほとんどありません。そのため、政略的な結婚をする必要がなかったので、マクファーレン子爵令嬢と婚約をしました。ですが、叙爵が決まったことで、メーベルトが私とご令嬢の結婚を企んでいます。

 実家に言われるならまだ納得できます。だが、メーベルトはあくまで第三者です。横槍を入れられる謂れはありません。それだけ私を見くびっているのなら、あちらに意趣返しをすることで私の力を見せてやるのも一興だと思っています」

「……そうか。だけど、私はそんな建前よりも本音が知りたいんだがね」


 この方はそこまでわかっているのかとキースは内心で舌を巻いた。本音はあまりにも私情に流されていて言いにくいが、話すまで許してもらえないだろう。観念したキースはそれも話した。


「私自身がマクファーレン子爵令嬢と結婚を望んでいるからです」

「まあ、そうだろうと思ったよ。そうじゃないと彼女にこだわる意味がないからね。だけど、それなら君がそのために何を考えているか知りたいね。今回はどうして弱みを握って脅そうと思ったんだい? 他の手段もあるだろうに」

「そうですね。メーベルト卿を失脚させることも考えたのですが、それは今の状況ではまずいと思いました」


 リーネルト卿の目が(すが)められて、キースは一瞬躊躇してしまった。それをリーネルト卿は面白そうに口元を歪め、先を促す。


「それで?」

「はい。もし仮にメーベルト卿が失脚したら、貴族の勢力図が変わってしまう。そうすれば貴族同士で争いが起こりかねません。結果、政治がうまく機能しなくなれば民の不満につながり、国内に混乱を与えてしまいます。そんな時に王が危惧しているように敵国が攻めてきたら対抗できないでしょう。先日もウルムが戦を仕掛けてきたので、ないとは言い切れません。ですが私はそんなことは望んでおりません。そのため、メーベルト卿を動けないように脅すという手を選びました」


 リーネルト卿は笑って頷いた。


「よし、合格だ。君が情に流されるだけの愚かな男なら私は手を貸すつもりはなかったよ。だが、君は情に流されているところもあるが、冷静に状況を見極めている。君になら協力してもいい」

「ありがとうございます……!」


 カルヴァレスト伯爵家のおまけとしてお世辞で褒められることはあったが、今回は自分自身を認めてもらえた。やっていることは褒められたものではないが、それでも今回の方が嬉しかった。


 それもこれもこの場にいない親友のおかげだ。自分だけではうまくいかなかったはずだ。改めて自分は人に恵まれているのだと周りの人たちに感謝するキースだった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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