表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初恋の痛み  作者: 海星
13/26

大切な人

ブックマークありがとうございます。


よろしくお願いします。

 翌日、早速キースはアリアを誘いに来た。

 だが、いくら兄に言われたからといって、どうして朝から来るのか。


「ねえ、キース。私の気のせいじゃなければ、まだ朝で、私はこれから朝食なのだけれど?」

「ああ、そうだな。俺のことは気にするな」


 気にするなと言いつつ、向かいで食べるのをじっと見ていられると落ち着かない。家で食べてこなかったのだろうか。


「お腹空いてるなら、キースの分も用意してもらいましょうか?」

「ああ、いや、それならそれをくれ」


 そう言って指を指したのは、アリアが持っている食べかけのパンだった。


「いやいや、これは食べかけだから……」

「それでいい」


 どんな嫌がらせだ。

 よりにもよって好きな人に、自分の食べかけを食べさせるのは、とアリアは躊躇(ためら)った。

 それなのにキースは全く気にする素振りを見せず、立ち上がってアリアの手を掴むと、パンをそのまま口に入れた。


「ちょっ……キース!」


 もぐもぐと咀嚼して、キースは頷いた。


「うまいな」

「……そういう問題じゃないと思うんだけど……」


 アリアの心臓はバクバクだ。顔も火照って赤くなっているだろう。朝からこんなに刺激の強いことはやめてほしい。


「なんだか食欲がなくなったわ。ごちそうさま」


 完全に空気になっていた給仕の者にそう言って、アリアは立ち上がった。


「なんだ、もういいのか?」

「……ええ」


 誰のせいだと思っているのか。涼しい顔のキースが憎らしくて、思わず睨んだ。だが、キースはそんなアリアに何処吹く風といった感じだ。


「それならもう行くか。しばらく街を回って向こうで昼食にしようぜ。ロイにオススメの店を教えてもらったんだ」

「へえ、お兄様がね」

「ああ、誘いたい女性がいるんだと。で、俺たちに偵察してきてくれだとさ」

「お兄様もいい加減一人に決めたらいいのに……」


 子爵家の跡継ぎで、見た目も悪くない兄はそれなりに人気がある。縁談の申込みも多いが、恋愛よりも政略に重きを置いているせいか、特定の相手が決まらない。より得がある方がいいと切って捨ててしまうのだ。

 アリアとしては、兄のいいところをわかってくれる女性がいいと思うのだが。


「まあロイにも考えがあるんだろ。俺たちがどうこう言える問題じゃないしな」

「そうね。というか思ったんだけど、お兄様も誘ったらいいんじゃない?お兄様自身が店の雰囲気を知ることができるんだし」


 今までも三人で出かけることはあった。だから今度もキースは頷くと思ったのだが。


「……いや。二人がいい」


 キースは真剣な表情でアリアを見ていた。思いがけない言葉にアリアの頭は一瞬真っ白になった。

 その後ひょっとしたらという期待と、特に意味はないだろうという諦めが交互にアリアの心を駆け巡る。

 聞くのが怖かったが、アリアは恐る恐る聞いた。


「ねえ、キース。どうして……?」


 キースは聞かれると思ってなかったのか、目を瞬かせてから気まずそうに視線を逸らした。


「……昨日、言っただろ。ずっと一緒にいられるかわからないって。俺は馬鹿だから言われるまで気がつかなかったんだ。で、戦場にいた時のことを思い出した。人はいずれ死ぬ。それが早いか遅いかはわからない。でも俺は騎士である限り、早い可能性が高いだろうなって。それなら今この時を大切にしたいと思ったんだ。あ、だからといってロイが大切じゃないという意味じゃないぞ」


 少し照れ臭そうに話すキースにアリアは嬉しくなった。恋愛での好きではないかもしれないが、キースの中でアリアは大切な存在なのだと思ってくれているのだ。


「……うん。わかってる。ありがとう、キース」

「なんで礼を言うんだ?」

「キースは気にしなくていいの」

「ふうん……変な奴」

「なんとでも言って」


 アリアは嬉しすぎて顔がずっと緩みっぱなしだった。そんなアリアをキースは不思議そうに見ながら、二人は馬車で街へ出かけた。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ