アリアの憂鬱
こちらでは始めましてです。つい最近、書き始めた素人ですが、暖かい目で見ていただければと思います。
不定期で更新するのでよろしくお願いします。
「はあ……」
美味しそうなケーキを前に、アリア・マクファーレン子爵令嬢はため息をついた。傍に控えていた侍女のジェニーが心配そうに声をかける。
「お嬢様、そのケーキはお気に召しませんか……?」
自分の思考に没頭していたアリアは、ハッとして慌てて否定する。
「いえ、違うのよ。もうすぐ私の誕生日だから、色々と考えてしまって……」
「そうですか。お嬢様も十五歳……社交界デビューが待っていますからね。でも、お嬢様なら大丈夫ですよ。幼い頃からお仕えさせていただいていますが、贔屓目なしに立派な淑女になられました。自信をお持ちください」
「ありがとう、ジェニー。だけど、この足ではダンスもまともに踊れないし、エスコートをしてくれるキースに申し訳なくて……」
アリアは話しながら自分の足を見る。ドレスに隠されてはいるが、アリアの右腰から太腿にかけて、大きな傷痕がある。その上、傷を負ったときの後遺症で足を引き摺るようになってしまった。ダンスなんてもってのほかだろう。
ジェニーも痛ましそうにアリアの足を見ている。怪我を負った事情を知っている彼女には、どんな慰めを言っても結局アリアにとっては辛くなることがわかっているのだろう。口を開いたものの、何も言わずにつぐんでしまった。そんなジェニーの思いやりにアリアは感謝した。
「聞いてくれてありがとう。こんなことでは駄目ね。社交界デビューが終わったらキースと結婚するというのに……」
「そんなことないです。お嬢様が淑女教育だけでなく、キース様のお役に立てるようにと色々なお勉強をされていることも知っています。それに、私たちのような使用人にも心を砕いてくださって感謝しているんですよ」
「ありがとう、ジェニー。私も貴方のような優しい侍女がいて嬉しいわ。もちろん、この屋敷で働いている皆にも言えることだけど」
ジェニーの言葉に破顔する。
そう、アリアは社交界デビューが終われば、幼馴染で三歳年上のキース・カルヴァレスト伯爵家令息との結婚が決まっている。彼は三男なので伯爵家を継ぐことはまずないだろうが、自身は騎士団に属していて、先の戦の戦功として準男爵位を叙爵する予定の将来有望な男性だ。少し癖のある茶色の髪に、感情を映しくるくると回る茶色の瞳は、愛嬌があって可愛いと、年上の女性に人気がある。
そんな彼がどうしてこんな自分と結婚しなければいけないのか。それを考えるといつもアリアの胸にやりきれない思いがよぎるのだ。
ありがとうございました。
8/31 キースの爵位を変更しました。