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6 歓迎会②

 私は無礼を働いた馬鹿に説教をしている。


「デーデル! 貴方は何を考えているの! 踊っている相手にダンスを申し込むなんて! それもアルムエルグ様と踊っているミリアリア様に!」

「ベルファルト殿下の許可は貰っていた! それに私の方がミリアリア様のパートナーに相応しい! ディーア姉さんもそう思うだろう!」

「馬鹿! アルムエルグ様はミリアリア様の婚約者なのよ! パートナーはアルムエルグ様に決まっているでしょう!」


 昔はこんな馬鹿ではなかったのに。私の従弟であるデーデルは一体どうしたのでしょうか?

 デーデルは昔から記憶力があり、勉強も良く出来たし、魔法も私よりも才能がある。欠点と言えば運動神経が悪いくらいでしょう。

 しかし自分よりも格下の相手を見下すようになったのは何時からだろうか? 

 デーデルはベルファルト殿下と同じ学友だったアルムエルグ様を見下して苛めをした事が、父親であるゲックハルト宰相に知られて罰を受け教育をやり直させた。

 私の伯父であるゲックハルト宰相は当時、アルムエルグ様に命を救われた事があり、アルムエルグ様は何度も王国を救ってくれた小さき守護者だ。子供であるが伯父上はアルムエルグ様を命の恩人として信用信頼している。

 それなのにデーデルはアルムエルグ様を虐めていたなんて……。伯父上から聞いたときはデーデルをぶん殴ろうと思いました。私が尊敬する小さき守護者であるアルムエルグ様を虐めるとは不届き千万です!

 学院の入学を見合わせようと考えていたらしいけど、他の親族から説得されて教育中だったデーデルを入学させた。


「……デーデル。最初のダンスの最中に、パートナーがいる相手にダンスを申し込むのはマナー違反というのは知っていますか?」

「相手があの無能のアルムだ。むしろミリアリア様の為に私は!」


 駄目だこの子。アルムエルグ様を下に見ている。伯爵家の子が公爵家の子を見下しているなんて。……教育失敗しています。


「デーデル。貴方は家に帰りなさい。他の皆に無礼を働かない様に」

「ディーア姉さん! 何言っているんだ! 父上はこの国の宰相で私は伯爵家の者だ!」

「その伯爵家の人間で伯父が宰相の私が言います。貴方は頭を冷やす為に屋敷に帰りなさい!」


 権力にモノを言わせるとは。教育がなっていない。本当に教育をやり直したのかしら?

 デーデルが文句を言うので頭を殴って静かにした後、騎士の人達に手伝ってもらって馬車に乗せて屋敷に帰した。

 ……今回の件を伯父上に伝えないといけませんね。

 昔は可愛い子だったのにどうして変わったのかしら。





 私は無礼を働いた馬鹿な弟に説教している。


「ラーブス! 貴方は馬鹿なの? 踊っている相手にダンスを申し込むなんて! それもミリアリア様に!」

「ベルファルト殿下の許可は貰っている! 私の方がミリアリア様のパートナーに相応しい!」

「寝言は寝て言いなさい!」


 昔から馬鹿だったけど今は輪をかけて馬鹿になった。分家の悪ガキと遊んでいたせいだ!

 弟のラーブスは騎士になる事を決めており、昔から剣の訓練をしていた。頭が悪いがその分、剣の腕前は同年代ではトップだと思う。

 しかし性格がゆがんでいると知ったのはいつだったか。

 ラーブスが剣の訓練という名目でアルムエルグ様を虐めていると知った時だった。

 その時の父上の怒りは恐ろしいモノだった。弱き者を守る騎士が苛めをしていたと知った父上は、ラーブスに剣の訓練を禁止させて勉強させ続けた。

ついでに分家の悪ガキ達にも説教したらしい。

 学院の入学を見合わせようと考えていたらしいけど、他の親族から説得されて教育中だったラーブスを入学させた。


「……ラーブス。最初のダンスの最中に、パートナーがいる相手にダンスを申し込むのはマナー違反というのは知っていますか?」

「相手があの無能のアルムだ。むしろミリアリア様の為に私は!」


 公爵令息のアルムエルグ様を下に見ている。子爵家の子が公爵家の子を見下しているなんて。……教育失敗しています。父上の苦労は一体何だったのでしょうか?


「ラーブス! 貴方は家に帰りなさい! これ以上迷惑をかけないように!」

「誰がお前の命令なんて聞くか!」


 本当に教育失敗しています。こんな乱暴な性格になって。誰に似たのでしょうか?

 今日は楽しい新入生の歓迎会なのに私は楽しくありません。弟のラーブスは言う事を聞かないし、ミリアリア様のフォローは大変だし、パートナーが見つからなかったのでダンスも踊れていません。

 ラーブスは私の言葉を無視して広間に戻ろうとする。……父上からラーブスが馬鹿な事をしないように注意してくれと言われていましたが、私には難しいです。出来る事は父上に報告をする事だけです。


「ラーブス君。コレート嬢の言う事を聞くべきだ。君と一緒にマナー違反をしたデーデル君は屋敷に戻った。君も戻った方が良いだろう」


 え? ウエルス生徒会長が私達に話しかけてきて、ラーブスを諭します。生徒会長がどうして?


「君の父君である騎士団長にこれ以上叱られないように屋敷に帰るべきだ」

「うるさい! 何故お前の言う事を聞かなければならない!」

「私はダムボックス騎士団長に君の事を頼まれていてね。それから謹慎期間、君の家庭教師だった兄からも頼まれているのだ」


 ラーブスが謹慎中の家庭教師ですか! 口よりも手が早い過激な家庭教師の弟さんが生徒会長だったとは。

 家庭教師の過激な体罰を思い出したラーブスは顔を引きつらせています。


「早く屋敷にお戻りになった方が良い」

「うるさい!」


 ラーブスが生徒会長を殴りかかろうと動くが、生徒会長は腕を掴んで投げ飛ばしました。地面に叩きつけられ痛みで声が出ないようです。

 ……ラーブス、父上と知り合いなのですから生徒会長は騎士希望の方と思わなかったのですか? それに強さも貴方以上ですよ。

 私と生徒会長はラーブスを馬車に乗せて屋敷に帰らせました。そして、


「手伝ってくれて感謝いたします、ウエルス生徒会長」

「コレート嬢が居ないから捜していたら、こんな事になっているとは」


 え? 私を捜していた? どうしてでしょうか?


「パートナーが広間から居なくなったからね。……どうしたんだい? 私が君のパートナーだと聞いていないのかい?」

「は、初耳です……」


 私はずっとミリアリア様と一緒に居たのでパートナーを探す暇がありませんでした。


「コレート嬢。広間に戻りましょう。そして私と踊って頂けませんか?」


 優雅に手を差し伸べる生徒会長に私は無意識に手を取りました。……とても嬉しいです! 人生で、生まれて初めて凛々しい男性に誘われました!

 ミリアリア様の事を忘れて私は生徒会長と一緒に広間に戻り、ダンスを楽しみました。





 私は学院の生徒会長であるウエルス。

 数日前にパートナーに決まった騎士団長のご令嬢であるコレート嬢とダンスを踊っている。

 コレート嬢は私が希望する就職先である騎士団のトップであるご令嬢で、ミリアリア殿下の側近だ。そのような女性とパートナーとなれた事は嬉しく思う。

 本来は歓迎会を円滑に勧める立場であるので、パートナーとなったコレート嬢と一緒に踊る事は出来ないのだが、命令だから仕方がない。

 昨日、私は学院長と一緒に王宮に呼ばれた。学院長も事情を知らないようで『生徒会長と一緒に来るように』としか聞かされていないらしい。

 そして案内された場所は王宮の庭園で、その場所には先王陛下が居た。


「呼び出してすまないな。お主達に頼みたい事があるのだ」


 私と学院長は先王陛下に跪く。いったいどんな頼み事なのだ? それ以前にどうして一介の学生である私まで呼ばれたんだ?


「王族から三人、公爵家から二人が学院に入学する。これは極めて稀な事だ」


 その通りだ。王族が子供を産んだら、他の貴族達も子を産んだり、養子を取ったりする。王族と同級生にする為に入学を遅くしたりもする。その結果、今年の入学者は去年よりも多い。


「そのせいでいろんなトラブルが起き、お主達には苦労をかけるだろう」


 現在進行形でトラブルが起きつつある。それは派閥関係だ。王族である殿下が入学した事で派閥が出来上がった。そして次期王太子のベルファルト殿下の派閥は教師を含めて一番多い。その結果、学院内で格差が広がり平民が蔑まれつつある。


「学院の事やベルファルトの事を聞いている。やり過ぎないように注意せよ。学院長の言ったように学院では身分は関係ない。貴族平民共に平等に接しろ」


 先王陛下がベルファルト殿下をやり過ぎないように見張れとの事か。生徒代表である生徒会長の私も学院長と一緒に呼ばれたのか。


「テオドールは王族になって日が浅いが王宮での仕事がある。休む事が多くなるから公休にせよ」


 王弟クックスライド様の御子息であるテオドール殿下は、学力テストでは満点という成績を収めている。彼の問題は派閥関係に無頓着な事だ。爵位の低い男爵や騎爵位や平民の学生がテオドール殿下の派閥に入ろうとしている。しかしテオドール殿下は派閥など作らないようにしている。この辺を後日聞いてみないといけないな。


「ジャルブランド公爵令嬢も問題は無いだろう。今のところ問題を起こしていないらしいからな」


 ……先王陛下には学院にも情報網を持っているのか? 学院長が怯えている。私も先王陛下が少し怖い。


「問題がミリアとアルムか。ミリアは婚約者のアルムが好きすぎて興奮して言葉使いがおかしくなる。その辺は側近がフォローするが、それ以外は大丈夫だろう」


 ミリアリア殿下。慈愛と加護の祝福を持つ王女。成績も優秀で優しき姫が問題? 先王陛下の言葉の意味が少し分からないのだが……。


「アルムはワシの相談相手だから、休みが多いからテオドールと同じく公休扱いだ。それとアルムの噂の件だ。学院長、どうなっている?」


 アルムエルグ君の噂。魔力を放出できない無能令息。公爵家の伝手で王族に取り入ミリアリア殿下と婚約者となった横暴者。無知無能でベルファルト殿下の学友を外された低能貴族。他にもいろいろあるが、基本的にアルムエルグ君を蔑んだ噂ばかりだ。


「私も努力をしているのですが、なにぶん悪意の噂を信じる者達が多く……」

「では他の噂で上書きをするかのう。学院の教師の何人は辞職するだろう。他にも学院生活を満喫している令息令嬢が自主退学となる可能性もあるな」


 本気で先王陛下怖ッ! どれだけの情報網を持っているんだ! この人が王国の影の支配者か! 学院長がマジで怯えているよ!


「学院の生徒会長のウエルスだったな。確か、シティアル伯爵家の者だったな」

「はい、シティアル伯爵家の三男のウエルスと申します。学院では生徒会長を務めさせて頂いています」

「文武に優れ成績優秀らしいな。将来は騎士団に入る予定なのだろう」


 どうして知っているの! 先王陛下は一介の学生の就職先まで調べるのか!


「お主はアルムの噂を知っているか? 学院でも聞いた事あるだろう」

「私の尊敬する先輩であるオーラムヴェル先輩の弟であるアルムエルグ様の噂は聞いています。数年前に噂が消えましたが、再度湧き出てきました。誰かが噂を広めているのだと思われます」


 緊張した! とても緊張した! 一気に喋って息が苦しい。

 先王陛下の私を見る目が、私を見定めるような視線が更に怖い!


「……学院で噂の払拭は出来るか?」

「やってみます」

「頼んだぞ、ウエスル生徒会長」


 先王陛下に『できません』とは言えない。でも先王陛下に名前を呼んでもらった! 覚えてもらった! ちょっと嬉しい!

 頑張ってアルムエルグ君の噂を払拭しなければならない。その為にはアルムエルグ君の良い行いを広めて……、


「そういえば、ウエスル生徒会長に頼みがあったのだ」


 え!? 頼み?


「アルムから聞いたのだが。ミリアの側近のコレート、ダムボックス騎士団長の娘だが、歓迎会のパートナーが居ないらしい。お主がコレートのパートナーになってくれんか?」

「は、はい、コレート嬢のパートナーを務めさせて頂きます!」


 本来は生徒会長である私がパートナーになるのは駄目だが、先王陛下の命令だから仕方がない。先王陛下の顔を潰さないように完璧にコレート嬢のパートナーを務めなければ!

 ……それよりも先王陛下は本当にアルムエルグ君の事を信頼しているな。彼の事を私も詳しく調べないといけないな。そして悪意ある噂の払拭をしなければいけないな。

 先王陛下との非公式の会談が終わり、帰りの馬車の中で学院長と相談をした。


「学院長。先王陛下に命令されたアルムエルグ君の噂の件ですが……」

「私は教師達を通じて噂の払拭にかかる。ウエスル生徒会長は生徒を通じて噂の払拭してくれ」

「それだけでは難しいでしょう。アルムエルグ君の良い行動を皆に広めてみては?」

「その程度では噂の払拭は出来ん。何度も何度も噂の払拭を図ったのだ。しかし誰かが噂を広めている。この数年で事件を起こして教師が辞職したのを知っているだろう。その噂でアルムエルグ君の噂が無くなりかけたが無理だった。誰かが噂を広めているのだ! 主犯を捕まえないと無理だ!」

「主犯は分からないのですか?」

「……候補は居る。ドックライム公爵家とジャルブランド公爵家だ。そしてその二つの派閥の者達」


 二つ足したら王国の貴族ほぼ全員だ。……それは候補ではないと思うのだが。


「なので誰が噂を広めているのか分からない。だから私も苦労しているのだ」


 王国貴族全員が主犯候補とは……、探しようがない。


「それよりもウエスル生徒会長は大丈夫なのか? 先王陛下に命令されただろう。ミリアリア殿下の側近の子のパートナーに」

「急いで準備をします。何とかなるでしょう。しかし歓迎会の仕事が……」

「その辺は生徒会役員で頑張ってくれ。私は教師を派閥に入る事を禁止させる。そしてアルムエルグ様の噂を払拭しないといけないのだから」


 ……その後、学院に戻って生徒会役員の皆に王宮での出来事を説明する。


「会長ズルい! 新入生のパートナーになるなんて!」

「それもミリアリア殿下の側近の子!」

「相手は騎士団長のご令嬢!」


 男性役員達からは羨ましがれ。


「会長はダンス下手でしょう! 大丈夫ですか?」

「ダンス中の話題は持っていますか! それよりも準備出来ているのですか!」

「制服で行くしかありませんね。あ! 制服にしわが! 急いでしわを取らないと!」


 女性役員からはロマンスを感じたのか盛り上がっている。

 ……アルムエルグ君の話題を忘れてしまったように皆が歓迎会参加に向けて動く。

 私の事よりもアルムエルグ君の噂の払拭の方が大事なんだが……。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 歓迎会①を見た時は「国の上層部は何をやってるんだ?」と思いましたが、ちゃんと小さき守護者に配慮して動いてるようで安心しました。
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