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16 十六年前の事件

 十六年前。バルデハイム王国の王族は三人いた。

 長男のダムフレット王太子。次男のクックスライド王子。そして長女のシルヴィアーナ王女。

 

 ダムフレット王太子は婚約者のジャルブランド公爵令嬢のエルリーシャと結婚した。

 クックスライド王子は父である国王の逆鱗に触れて、アドームル男爵領に謹慎された。

 シルヴィアーナ王女の婚約者は決まっていなかったが、ときのドックライム公爵の次男のガガーロンを婚約者に押していた。王太子の婚約者がジャルブランド公爵令嬢なので、シルヴィアーナ王女の婚約者はガガーロン・ドックライム公爵令息となると世間では言われていた。


 シルヴィアーナ王女は自分が王女という立場を理解していて、政略結婚だという事を知っていた。

 そして兄であるダムフレットと婚約者のエルリーシャも政略結婚にも関わらず、お互い愛し合っている事を羨ましく思っていた。

 シルヴィアーナはエルリーシャと仲が良く、姉のように慕っていた。お茶会では恋バナややり取りを聞いており「私もエルリーシャのように婚約者に好かれたい」と思っていた。


 しかしドックライム公爵令息のガガーロンはあまり好きではなかった。見た目は美男子だけど雰囲気が怖かった。外面の性格は穏やかだけど、虚言や偽言が多い王宮で暮らしているシルヴィアーナはガガーロンの内面を理解していた。


 そんな人間と結婚するかもしれないと思うと気が滅入り落ち込みそうになる。

 落ち込んでいるシルヴィアーナを救った者が居た。エルリーシャの護衛騎士だった。彼はジャルブランド公爵家の親族だったが騎士となり当主に認められてエルリーシャの護衛となり、ダムフレット王太子からも信頼されていた。


 彼は落ち込んでいたシルヴィアーナを持ち前の明るさで慰め元気づけた。

 そしてシルヴィアーナは彼の事が好きになり、エルリーシャも二人の事を応援しようと考える。

 エルリーシャは王太子に協力を願い、二人の仲を取り持つように願った。

 ダムフレットもシルヴィアーナが幸せになってほしいので、シルヴィアーナと騎士の仲を取り持とうとした。


 しかしドックライム公爵に二人の仲がバレた。

 ドックライム公爵はガガーロンとシルヴィアーナとの婚約を強引に進める。

 そしてシルヴィアーナ王女と騎士の関係を知ったジャルブランド公爵がそれを阻止する。

 ジャルブランド公爵は王太子のエルリーシャとの結婚をさせて発言力を強くしようと考えた。

 ドックライム公爵は騎士とエルリーシャが深い仲という噂を王宮中に流した。

 王宮での噂は王都中に広がり国王陛下の耳にも入る。


 フルブルーグ・バルデハイム国王は事情をダムフレット王太子、エルリーシャ公爵令嬢から聞く。

 シルヴィアーナ王女を可愛がっている国王だが、ドックライム公爵とジャルブランド公爵のバランスを考えていた。本来なら次男のクックスライドがドックライム公爵家の令嬢と結婚させるつもりだった。しかしクックスライドが謹慎中なのでシルヴィアーナ王女が代わりとなる。


 フルブルーグ国王は私情を押えてシルヴィアーナ王女に命令して、ドックライム公爵令息ガガーロンと婚約者になるように命令をした。

 そして噂の騎士はエルリーシャの護衛から外すように命令を下そうとした。

 

 護衛から外すだけの罰では温いと考えたドックライム公爵は王宮を騒がした騎士に更なる罰を求めて、国宝強奪計画をしているとでっち上げた。

 騎士は国宝など聞いたことなく、無実を主張したが、ドックライム公爵は「国宝を盗もうと考え、王太子の婚約者で守るべき将来の王妃に想いを寄せていた者は死罪が望ましい」と言い放った。

 フルブルーグ国王は騎士が国宝を盗もうとしたとは思っていない。しかし計画書があり、動機もあった。隣国からの手紙で『バルデハイム王国の国宝を盗んだら、大金と母親の病を治す薬を渡そう』という手紙だった。

 騎士は手紙など知らないと言うが、ドックライム公爵がその手紙を書いた隣国の貴族を調べ上げていて「騎士と手紙のやり取りをしていた。騎士が隣国の貴族に渡していた手紙です」と言って証拠を国王に差し出す。

 その手紙は騎士が書く文字とそっくりだった。騎士は国宝の窃盗未遂で死罪となった。


 シルヴィアーナはドックライム公爵に頭を下げた助命を求める。「ガガーロンと結婚しますので助けてください」と言ってドックライム公爵に騎士の助命を求めた。

 しかし国宝を盗もうとしたので死罪は免れない。処刑から毒酒による自殺に変わっただけだった。

 騎士の関係者であるジャルブランド公爵、ダムフレット王太子、エルリーシャ公爵令嬢は恩赦を願った。

 フルブルーグ国王もドックライム公爵が何か仕掛けたのだと思っていたが、後手後手に回ってしまい挽回は難しい。


「陛下。私に考えがあります。毒酒の毒を仮死状態にする毒にして、死んだと見せかけてはどうでしょうか?」

「……騙すのか? ドックライム公爵を」

「奴にも罪をでっち上げてドックライム公爵領の田舎に住まわせ、二度と王都に行くことを禁じますので、命だけは助けてください」

「父上! 私からもお願いします」

「陛下、お願いしたします」

「……分かった」


 ジャルブランド公爵達の願いを聞き入れたフルブルーグ国王は、騎士を助ける事を決める。

 そして処刑の日。フルブルーグ国王の前で、ジャルブランド公爵やドックライム公爵、関係者の貴族、護衛する騎士がいる前で、騎士は仮死状態になる毒酒を飲み干した。

 騎士には前もって、毒は仮死状態になる毒と伝えていたが、騎士は覚悟を決めて飲み干す。

 床に倒れて仮死状態になる騎士。後はフルブルーグ国王の側近であるゴーイングが騎士を運び出せば終わりだった。


「国を混乱させた無能な騎士めが! これはお前に対する罰だ!」


 ドックライム公爵が騎士の胸に剣を突き刺した!

 意識もなく仮死状態で動けない騎士は、心臓を貫かれて死亡する。

 ゴーイングが止める間もなく、ジャルブランド公爵が声をかける間もなく、ドックライム公爵は騎士を手にかけたのだ!

 ジャルブランド公爵が、そして隠れて見ていた王太子、公爵令嬢、王女は我を忘れて騎士の所へ駆け寄る。

 心臓を貫かれて死んだ騎士。それに寄り添って泣き叫ぶシルヴィアーナ王女とエルリーシャ公爵令嬢。


「ドックライム公爵! この場を血で汚し! 騎士を侮辱した! そして私の前で剣を抜くとはどう

いうことだ! 騎士達よ! ドックライム公爵を捕まえよ! 牢屋に入れて誰も面会させるな! 私の命令に背いた者は処罰する!」


 顔を真っ赤に染めて怒りを露わにするフルブルーグ国王はドックライム公爵の言葉を無視して牢屋に連れていかれた。

 フルブルーグ国王は目の前で泣いているシルヴィアーナを見て、何が間違っていたのか考えていた。娘の幸せを考えて騎士と一緒にさせるべきだったのだろうか?

 思考がまとまらないフルブルーグ国王は、シルヴィアーナの行動を見落とすことになる。

 シルヴィアーナはジャルブランド公爵が持つ短剣を奪い自らの喉に刺そうとした。

 ジャルブランド公爵は間一髪で喉に刺すのは阻止したが、手元が狂い短剣はシルヴィアーナの頬を深く切り裂いた。

 頬から血を流すシルヴィアーナは狂ったように、ジャルブランド公爵が持つ短剣を奪おうと動く。

シルヴィアーナは頬を深く切っており王女の血で床が汚れ、ダムフレット王太子が王女の体を抑えつけた。

 騎士ゴーイングがポーションを王女の頬の傷にかけようとしたが、シルヴィアーナがポーションを払って床に落ちて割れてしまった。

 シルヴィアーナは王太子の束縛を振りほどいて、騎士にすがり泣き叫んだ。

 その場にいる誰もが、お淑やかな王女の行動とは思えなかった。それほどまでにシルヴィアーナは騎士を愛していたのだと皆が思った。


 

 ドックライム公爵は国王の前で剣を抜いて血を見せた事で、当主変更とドックライム公爵領内に隠居という名で幽閉されて、ドックライム公爵は二度と王宮には登城できない。

 ジャルブランド公爵は自身が持っていた短剣でシルヴィアーナ王女に消えない傷をつけたという事で、自主的に王宮登城禁止を願った。

 シルヴィアーナは頬の傷の治療を受けたが、時間がたっていたこともあって頬に傷が残った。そして傷を隠すようにベールで顔を隠し、口数が減り低い声で数口しか話さなくなった。そしてシルヴィアーナ王女は顔に傷がついた事を理由に、ジャルブランド公爵領にある神殿で一生を終えると言って、ジャルブランド公爵と愛する騎士の死体と共に王都から出て行った。

 フルブルーグ国王はこの件について箝口令を出した。そして口にした者は処罰すると言って関係者全員の口を封じた。

 ダムフレット王太子は騎士の刺殺したドックライム公爵家にもっと重い罰を願ったが、ドックライム公爵家の権力を使わないと国が保てなくなるとの理由で、これ以上の罰を与える事が出来なかった。

 次代のドックライム公爵であるライドクリフは真実を知らない。シルヴィアーナ王女と愛する騎士を助ける為に、王族達が動いた事を知らない。

 ライドクリフは先代である父から騎士が国宝とエルリーシャ公爵令嬢を盗もうとしたと聞いたが、自身で調査して真実を知った。箝口令が敷かれているので謝罪することも出来ない。ライドクリフは父が、先代当主が行った事を反省して、王家に尽くすことにした。

 そして騎士がエルリーシャ公爵令嬢を横恋慕するために他国の貴族の力を借りた。という噂が王宮から王都へ、王都から国中へ流れた。

 しかし誰も口に出すものはいない。口に出したら国王から処罰されるのだから。




誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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