14 予期せぬ出来事
ドックライム公爵家の結婚パーティーからの帰り道。ジャルブランド公爵家当主である私ことシロムバルコは、養子であるワレーンドルと同じ馬車内でドックライム公爵家について情報交換をしている。
「どうだった? ドックライム公爵家は」
「次期当主オーラムヴェルは優秀で、王宮との繋がりもあり、派閥も我々よりも上です。現在はドックライム公爵家と対抗するのは難しいと思います。シロムバルコ様」
「父上で良いと言っているだろう、ワレーンドル」
「申し訳ございません、父上」
「次期当主のオーラムヴェルはお前と同じくらい優秀のようだ。そしてドックライム公爵も陛下や宰相、先王陛下に信頼されている。やはりワレーンドルの考え通り協力して信頼を結ぶ方が得策だな」
ニヤリと笑って養子に言う。ワレーンドルも微笑みを浮かべた。……悪役的な微笑だな。
「ドックライム次期公爵との件はお前に任せる。お前の好きにして良い」
「ありがとうございます。絶対に上手く行かせます。そしてベルファルト殿下の信頼を得ましょう。妹の婚約者なのですから」
「そうだな。私の娘であればベルファルト殿下の信頼などすぐに得られる。それから王妃である妹に頼んでミリアリア様のお茶会にも参加させよう」
私の妹は王妃だ。いとこ同士のお茶会など頼めばすぐに段取りをしてくれるだろう。次世代の者達に信頼されるように娘は教育したから心配はない。
「私も王宮に登城できるから繋がりも増える。そしてドックライム公爵はローデンファング公国に行く予定だから、その分の仕事が私に回ってくるだろう。まずは地盤を固める時期だな」
「私もジャルブランド公爵家の次期当主として父上の仕事を手伝いたいと思います」
「ジャルブランド公爵領はワレーンドルに任せる。頼んだぞ」
ワレーンドルにはジャルブランド公爵を継がせないつもりだ。昔の誓いの為に私は今まで水面下で動いていたのだ。先王陛下には内密で陛下や王妃と手紙のやり取りをして、やっと王宮に戻れるようになった。これもある人物のお陰だ。
「そういえば、王弟クックスライド様と御子息テオドールはどうしますか?」
「クックスライド様も昔とは変わって真人間になっている。テオドールも優秀だと聞いている。二人からも信頼を得たいが……」
現在のクックスライド様を人となりを聞くが『本当にクックスライド様なのか?』と思う。しかし彼は絶望の中で宝物を見つけて性格が変わったようだ。
テオドールと入り口で少し会話したが、なかなかの少年だ。同年代の者達よりも群を抜いている。しかし能力があるがまだ子供だ。現在ではテオドールはそこまで注意しなくても良いだろう。
そして信頼されている人間にドックライム公爵家のアルムエルグが学友だ。この関係が分からない。
アルムエルグは無能の欠陥魔法使いで同年代の貴族令息令嬢から嫌われているが、先王陛下や陛下から信頼されている。妹である王妃もアルムエルグを信頼しており、手紙で『ドックライム公爵家のアルムエルグ殿と仲良くしてください』と書いてあった。
「アルムエルグか……」
独り言のように放った言葉をワレーンドルは難しい顔をして答える。
「アルムエルグと会話をしましたが、なんというか……馬鹿なのか肝が据わっていると言うのか。噂通りの無能なのか確認のために会話したのですが、挑発しても笑って流されました」
「……なるほど。同年代からいろいろ言われて、挑発にはなれているかもしれんな。貴族としてはどうだ?」
「礼儀作法や知識、立ち振る舞い等は王宮で習っていたので問題ありません。欠陥魔法使いでなければオーラムヴェルと同じくらい素晴らしい貴族になっていたでしょう」
アルムエルグは思ったほど馬鹿ではないのかもしれないな。そして王族から信頼されている何かしらの秘密があるのかもしれない。この辺は探りを入れてみるか。
「挑発と言えば、神殿での出来事はなんですか? 誓いの場で乱入者を用意するなんて酷い事をしましたね。私達が疑われる可能性があるのですよ」
「なに? ワレーンドルが用意したのではなかったのか?」
新郎新婦を略奪しようと乱入者が来たと聞いたときは、なかなかのサプライズだと大笑いするところだった。
「私はそんな事はしません。父上が『ちょっと嫌がらせをする』と言っていたので、乱入者は父上が用意したのだと思っていました」
「嫌がらせをしようと思ったが、王妃から許可が下りなかったのだ。ベルファルト殿下やミリアリア様を結婚パーティーに招待して、アレコレするつもりだったのだがな」
いろいろと用意したモノが使えず仕舞いだった。……半分祝福、半分遊びのような嫌がらせを計画していたが。
しかし乱入者は誰の差し金だ? 息子と首を傾げた。
そんなときだった! 馬車が急に止まり、周りが騒々しくなった。部下の騎士の一人が馬車の外から声をかけた。
「シロムバルコ様、前方で何者かが簀巻きになり倒れており、そして仮面をかぶった小さき守護者らしき人物がいます」
部下の声に私はワレーンドルと一緒に馬車を出た。小さき守護者を見る事が出来て、会話する機会があるのだから。
マントを纏い、仮面を被っている小さき守護者の後ろには簀巻きにされている者達が倒れている。全員が気絶をしているようで数は多い。数十もの簀巻きが地面に転がっている。
この人数が私達を襲おうとして待ち伏せしていたのだろう。この人数から襲われていたら、私達も無事では済まなかったかもしれない。しかし小さき守護者が先んじて簀巻きにして助けてくれた。先王陛下の命令で私達を救ってくれたのだろうか? それとも……。
しかしこの人数を気絶させて簀巻きにするとは……。これがこの国の守護者と言われる英雄か。
感謝を述べようと思い、私は小さき守護者に近づこうとした。小さき守護者は仮面越しに私達を見つめている。私達に何を思っているのだろうか?
言葉をかけようとしたら、そして小さき守護者は素早く走り出して、私達の前から姿を消した。
「……小さき守護者に借りが出来たな」
「そうですね。さすがは王国の守護者と言われているだけはあります」
息子も同様に小さき守護者に感謝している。この借りは必ず返すぞ! 小さき守護者。
気絶して簀巻きにされている者達を起こして事情を聞かなければならないな。
※
日が暮れて、夜会が始まろうとしている時間帯。
客人達は帰る者もいれば、夜会に参加する者もいる。
エリスさんやディーア、ゴーイングさんは夜会まで参加し、テオドールは未成年という事で夜会には参加しない。
オレもラルーシャも未成年なので夜会には参加しない。
そういえば従弟のクルックスはどうしたんだろう? 叔父のガガーロンもパーティーに見た記憶がない。二人は他の場所に居たのかな?
ラルーシャは疲れたみたいで部屋に戻った。オレも「疲れたので部屋で休みます」と言って部屋に戻る。
肉体的ではなく精神的に疲れた。オレを見ると皆が小声で侮辱的な言葉を発しているからな。「無能力者」とか「低能令息」とか「変態貴族」とか他諸々。……変態貴族ってなんだよ!
耳が良いと聞きたくない悪口まで聞こえるのはキツイな。
夜会でもオレの話題になると「ミリアリア様の婚約者に無能は勿体ない」とか「ベルファルト殿下の学友も出来ない愚か者」とか「先王陛下の媚びを売った男娼令息」とか他諸々。……男娼ってなんだろう? 今度、テオドールに聞いてみるか。
夜会の話は聞きたくないので屋敷外に耳を傾ける。……屋敷の外でもオレの話題が出ている。夜会に参加しなかった貴族達はドックライム公爵家とジャルブランド公爵家の事について会話している。
どちらに付いた方が有益か? 勝ち馬に乗れるか? 利益を得る事が出来るか?
……聞いている限りではジャルブランド公爵家が少し有利みたいだ。理由は無能力者であるのオレがドックライム公爵家の足を引っ張っているとの事だ。
オレってかなり嫌われているんだな……。魔法が使えないだけでここまで嫌われるなんて……。
落ち込んでいるときに、襲撃情報を耳にした。相手は……ジャルブランド公爵だ!
ドックライム公爵陣営の者達がジャルブランド公爵を襲う計画を立てていたのだ!
計画犯は「ドックライム公爵の為になる」と言って勝手に襲撃を計画して、パーティーからの帰り道でジャルブランド公爵を襲撃するそうだ。
敵対関係にあるジャルブランド公爵だが、パーティーに参加してくれて兄上を祝福してくれたのだ。そんな人が結婚パーティーからの帰宅中に襲撃されるのは好ましくないし、ドックライム公爵家にも嫌な印象を与える。
オレは急いで小さき守護者の衣装に着替えて現場に向かう! 間に合うかな?
現場は武器を持った賊達が隠れており、ドックライム公爵とは対峙していないようだ。
オレは賊達を無力化していこうとしたが、運悪く木の枝を踏んで音を立ててしまい見つかった。……失敗した。
「お前は! 噂の小さき守護者か! 私達は主命の為に動いている。邪魔をするな!」
と言って賊達は襲ってきた。……いっぱい居るな。百人くらい居ない?
そんな賊達を無力化していったが、数が多いが強くない。暗殺者のように怖くもない。オレを囲んで一斉に攻め込んできた賊達ですら脅威に思わなかった。
一人一人気絶させていく。魔法を使う賊が居たが、魔法を躱して近付いて気絶させる。剣で切りつけようとした賊を気絶させる。
賊の数が少なくなり、逃げ出す賊も居た。最終的には半分が逃げ出して、残った半数は気絶した賊達だ。
オレは気絶した賊達を簀巻きにして、逃げ出した賊を追おうと思ったが、ジャルブランド公爵の馬車が現地に着いた。
先頭の騎士達が簀巻きにされている賊達に驚き、馬車から降りてきたジャルブランド公爵とワレーンドル様も驚いている。
公爵がオレに近寄ろうとしてきたので逃げ出した。ゴーイングさんから『ジャルブランド公爵には注意しろ』と言われたからな。近くに寄らない方が良いだろう。
姿を消して近くに隠れる。ジャルブランド公爵の騎士達が賊の正体を明かそうとしているが、気絶している賊の意識が戻らない。やっと一人の賊の意識が戻り事情聴取を開始した。
賊の正体はドックライム公爵家の陣営の者で、十年くらい前にジャルブランド公爵家にちょっかい出して、逆にボコられた事を恨み続けていたそうだ。
ドックライム公爵家次期当主の結婚パーティーに参加したとき、急遽参加したジャルブランド公爵の護衛兵が少ないのでチャンスだと思って、恨みを晴らす為に討ち取ろうと考えたようだ。
……自分からちょっかい出して返り討ちにあって十年前の恨み続ける事も愚かだけど、ドックライム公爵家の結婚パーティーに参加した人を襲う事も愚かだけど、逆恨みでジャルブランド公爵の命を狙おうと思った貴族はとてつもなく愚かだな。
ドックライム公爵家陣営の貴族だけど、こんな愚かな貴族を助けるほど父上はしないはずだ。
賊の正体に呆れて、後処理をゴーイングさんに頼もうと思って屋敷に戻った。
しかしゴーイングさんは王城に帰っており、ディーアさんもお酒に酔っていて頼むことが出来なかった。
……ま、良いか。報告書を作成して明日、ゴーイングさん達に伝えよう。
そして報告書の報告書を作成していると、お爺様の部屋辺りが騒がしい事に気付いた。
何事かと思って、耳を澄まして聞いてみると、
「旦那様。先代公爵が亡くなっています」
……なんだって! お爺様が死んだ? いつ? なんで! どうして!?
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




