6 王領での事件①
今回の旅の予定は夕方頃神殿に着いて王族の方々は墓参りをして神殿で夕食・宿泊して次の日に帰路に就く予定です。早く目的地に着きたいです!早く屋敷に帰りたいです!
現在、オレは先王陛下と一緒の馬車に乗って王領に向かっている最中です。馬車の中には騎士の人が一人、ベルファルト殿下と模擬戦をしたときの審判の騎士の三人と一緒に乗っています。
どうして先王陛下と一緒の馬車なんだよ!
「久しぶりだな。ゴーイングよ。息災でなによりだ」
「先王陛下も体調を崩されたと聞いたときは心配しましたが、御快復されてなによりです」
「まだまだ生きるからな。生きてワシを年寄り呼ばわりする者を小突き倒す事がワシの生きがいだ。当分は死ねん。しかしお主は副団長になったそうだな。ワシが王ならばお主を騎士団長としてワシを守らせたのだが」
「私も年を取りましたからそのような重大な任務は若い者が就くべきです。それに平民の私が副団長まで出世したのですから、これ以上はバチが当たります」
先王陛下はゴーイングさんのお蔭で機嫌が良い。助かったよ。
出発時に先王陛下に無理やり同じ馬車に連れられて、その途中で騎士団長がゴーイングさんを先王陛下の護衛として紹介したから機嫌が良く二人で話している。……上方の相手と会話の勉強は為になるな。オレが思いつかない方法で相手を盛り上げて気分を良くしている。
しかしゴーイングさんは平民だったんだ。平民なのに騎士になって副団長まで出世するなんてどんな事をしたんだ?
「して、この小僧はいつまで黙っているつもりだ?」
ついに目を付けられた!どうしよう!
「先王陛下とご一緒の馬車なのですから緊張しているのでしょう。私も若い頃に先王陛下の護衛の任務を受けた時の夜は緊張で寝る事が出来ませんでしたから」
ゴーイングさん!ナイスフォロー!さすがは年の功!
「まあ良い、目的地までまだ時間がある。ゆっくりと話そうか。緊張が解けるまで」
猫がネズミを玩具として見るような、肉食動物が草食動物を見るような雰囲気でオレを見る。顔が怖い!そんな感じでオレを見ないでくれ!
「先王陛下、アルムエルグ殿は立派に殿下の学友を務めていると聞いています。勉強でも教師に迷惑をかける事も少なくなったそうです。模擬戦でもベルファルト殿下と一緒に訓練に励んでいます」
「……ほう、馬鹿なりに少しは努力しているように見えるのだな」
これでも頑張っています。勉強だって殿下の教育内容を吟味して殿下のわからない事は前もって会話の内容に入れたり、殿下が聞いているときに知っている者に聞いたりしています。
剣術の訓練だって頑張っています。手加減が下手な殿下の木刀を文字通り体で受け止めています。騎士の人達に心配されていますが大丈夫です。手加減しているように見せていますから。
「その程度出来て当然だ。お前は何が得意なのだ?」
得意な事?オレの特技は……身体強化魔法です! なんて言える訳がない!
未成年者が未成年者に魔法を教える事は禁止されている。国が決めた事を無視して兄と一緒に魔法を覚えた事がバレたら兄共々、いや一族全員罰を受ける事になる。
他に得意な事……手加減かな? ベルファルト殿下よりも下手に見せる事が上手いです! そんな事言えるか!
何もない所で転ぶ……それは特技ではなく欠点だ!
身体強化の魔法を使っているときに偶に力加減が狂ってしまう事がある。いきなり変な所に力が入ってバランスを崩して転倒するのだ。身体強化の魔法を覚えた時は力加減が分からず良く転倒したものだ。今でも転倒しているけど。
それよりも特技は……。
「どうした?なにを黙っている?質問に答えぬか!それとも特技なんてない無能なのか?」
「アルムエルグ様の特技は殿下の事を思っていて優しい事でしょう。良い友人になると思います」
ゴーイングさんナイスフォロー!フォローの天才だ!
「どうしてお前が言う?」
「特技なんて今から覚えるものです。将来どんな特技を覚えるのか楽しみですね。アルムエルグ様は何がお好きなのですか? やはり剣術でしょうか?」
「剣術は苦手です。体を使う事はどうも……」
「大丈夫ですよ。今から体を動かしていれば剣術だって上手くなります。騎士団長が才能あると言っていましたから。自身を持ってください」
「ゴーイング様!ありがとうございます。頑張ります!」
「私の事はゴーイングとお呼びください。ただの平民ですから」
「ではゴーイング殿と呼ばせて戴きます。騎士団の副団長なのですから」
ゴーイング殿マジで良い人!苦労をしたんだな。それからオレはゴーイング殿と話をした。好きな食べ物とか、どうして騎士になったのかとか、途中で先王陛下を無視して二人で話していた事も思い出してそちらを見たけど先王陛下は目を瞑って座りながら寝ていた。
……失敗した。接待出来なかった。オレが反省しているとゴーイングさんが言う。
「先王陛下は優しいお方です。その程度で怒るなんてありませんよ。今回はアルムエルグ様が殿下の学友としてどんな人物なのか見る為ですから」
「大丈夫でしょうか?学友として合格だったのでしょうか?」
「……失格だったら今頃、馬車の外に居るでしょう。今のところは失格ではないようですね」
「先王陛下から合格を貰う為に頑張ります!」
合格貰わないと家族に迷惑がかかるかもしれないからな。
※
ゴーイングの奴め!私が寝たフリをしている事を知っているな!全く。
ドックライム公爵家の次男のアルムエルグは私の見立てでは悪くはない。良くもないがな!
噂は聞いている。ドックライム公爵家次男は欠陥魔法使いだと。そしてベルファルトよりも学力も剣術も劣っている無能と聞いている。
会って話してみるとこやつは相手をもてなす事が上手い。相手の機嫌が悪くなる事は言わずに相手の言った事を相槌して褒める。ゴーイングの奴と会話していると肯定したり褒めたりしている。私にももてなそうとしていたからな。
だが私は先代の国王だ。接待やもてなし等は経験済みですぐに分かる!この程度のもてなしで私の心を掴むなんて百年早いわ!
その後、寝たふりを止めて三人で話す。アルムエルグは相変わらずの接待でゴーイングは良く子供をフォローしている。
そんな事で時間を潰していたら目的地に着いたようだ。
私は孫達を連れて王族が眠る墓に行く。
「お爺様、ここにお婆様が眠っているのですね」
「そうだ。そして儂もここで眠る事になるだろう。その時は墓参りを頼むぞ」
「そんな事を言わないでください。お爺様。あと五十年は生きてください!」
ベルファルトもミリアリアも大きくなったな。妻よ、父上母上、そして先祖よ。孫を見守ってください。
その後、孫達と夕食を取り三人で団欒する。子供が寝る時間は早いし旅の疲れが溜まったのだろう、孫達を寝かせて私も早めに寝室に入る事にした。
その一時間後、深刻な顔をしたゴーイングが部屋にやって来た。
「先王陛下、この手紙を」
手紙の内容は「先王陛下に告ぐ。姫の命が欲しければ騒がずに裏門の方に来る事。騒ぐのは禁止でゴーイングと来る事」と書いてある。どういう意味だ?
「ミリアリア様の寝室には誰も居ませんでした。侍女もミリアリア様がお休みを取ったので廊下で待機していたそうです」
「ではミリアリアはさらわれたのか!誰に!」
「わかりません。騒ぎ出すと姫が危険だと思い、黙らせています。姫をさらった者達は先王陛下と私を要望しているようです。私が命を懸けて先王陛下と姫の身を守ります!ですから……」
「それ以上は言わんで良い。囮だな?」
「後の事は信頼できる者に頼みました。すぐに対処出来ます!」
「わかった。準備をするから暫し待て」
……どこの誰が可愛い孫娘をさらったのだ!八つ裂きにしてくれる!
用意をしてゴーイングと二人で裏門に行く。少し待っていると声が聞こえた。
「お二人ともこんな時間に何をしているのですか?」
……アルムエルグよ。どうしてお前がそこに居る。するとアルムエルグの後ろにいつの間にか男が立っていて頭を殴り気絶させた。
「子供がどうしているのか分からないが人質は多い方が良いでしょう。姫の元へ案内しますから着いて来てください」
神殿にいる神官が気絶したアルムエルグを持ち上げて首筋にナイフを当てて我らを森の方へ歩かせる。
……アルムエルグよ。どうしてここに来たんだ!あっけなく気絶して我らの負担を増やした馬鹿者め!
こいつはベルファルトの学友に相応しくないのではないか?