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4 ミリアリア王女

 ベルファルト殿下の学友になって数日が過ぎた。

 オレは二日に一回のペースで殿下と共に勉強をしている。

 殿下の勉強はオレよりも遅れているので、勉強をやる気にさせるのがオレの仕事になっている。

 今日も上手く殿下を持ち上げてヨイショして機嫌を良くする。

 でも教師の人、殿下の機嫌を悪くさせないでくれよ!知っていて当然の様な顔しながらオレ達に教えているから殿下の機嫌が良くないのに。

 そのせいで勉強から逃げたよ。

 だからオレは殿下を護衛している騎士達と手分けして殿下の行方を探している。

 王宮は広いから簡単には見つからない。

 でも……あっち方角だな。強化魔法で聴力を強化してベルファルト殿下の声を聞き取る。

 しかしあっちは王族が住む宮殿だった。

 宮殿の入り口の前に来て途方に暮れる。堅牢な門の正面には門番の騎士達がいる。説明しても入れてくれる事はしないだろう。どうしようか考えていると後ろから声が聞こえた。


「何をしているの?」


 女の子の声がしたので振り返ると奇麗なドレスを纏った可愛い女の子だ。後ろの方には侍女や女性の騎士達がいる。


「何をしているのか聞いているのに聞こえないの?なにをしているの?無視しているの?王族を無視するなんて不敬な事するのなら牢獄に招待しましょうか?それとも最前線の戦場が良いかしら?早く私の問いに答えなさい。そのパッとしない顔に付いている耳は飾りかしら?聞こえないなら捨てた方が良いわよ。捨てるのなら焼却しなさい」


 ……天使の様な可愛い子が毒舌を吐いてオレの心をえぐる。ショックで頭下げて謝りそうになる。


「ミリアリア様、この子供はベルファルト殿下の学友のドックライム公爵家の御子息です」


 後ろに控えている侍女がオレを知っているようなので説明した。

 会った事は無いがベルファルト殿下や周りの者達から聞いた事がある。ベルファルト殿下の双子の妹で神から加護と祝福を授かった姫様。どのような祝福なのかは知らないが加護魔法の使い手で近いうちに加護魔法の上位魔法である神聖魔法を使えるようになる方と聞いた。

 ミリアリア様は慈愛に満ちた方で誰にでも好かれる素晴らしい方と聞いていたのだけど……。


「なるほど、お兄様の学友ね。本当にパッとしない顔ね。そんな顔でもお兄様の学友になれるなんてどうなっているのでしょうか?この程度の者が王族の学友になれるなんて貴方は恥ずかしいと思わないの?もう少しまともな人材はいなかったのかしら?聞けばドックライム公爵家の次男は欠陥魔法使いで母親のお腹の中に魔法の才能を忘れて生まれてきた能無しと聞いたわ。その能無しが王族の住まう宮殿の入り口に何用なのかしら?今度は聞こえたかしら?聞こえたなら答えなさい」


 毒舌にショックを受け心にダメージを負ったが何とか気を取り直して答える。……噂は当てにならないようだ。


「申し訳ございません。初めましてドックライム公爵家の次男……」

「自己紹介は良いから私の質問に答えなさい。貴方の頭の中どうなっているの?機能しているの?顔も頭もパッとしない無能ね。聞かれた事に答えなさい。これが最後よ」

「ベルファルト殿下を探していてこの場所まで来ました。殿下を見かけませんでしたか?」

「……なるほど。貴方は兄上を探しに来たのね。それならそうと言いなさい。全く無能と話すとこっちまで無能になりそうだわ。こんな所に兄上が居る訳がないでしょう。何を考えてここに来たのか解りませんが、此処は誇りある王族の住む場所の入り口です。貴方の様な無能が近づいて良い場所ではないのですよ。それに兄上を探すのでしたら他にあるでしょう。貴方が探す場所は馬小屋や牢獄などでここに来る事自体間違っています。他の場所を探しなさい。ついでにゴミ箱の中とかを探すのですよ。貴方にはお似合いです」


 ……実の兄が居る所が馬小屋とか牢獄とかゴミ箱の中とかすごい場所を探させるな……。

この双子は仲が悪いのか?それにしても姫様は本当に口が悪いな。慈愛に満ちた姫様という話だったが……。


「何をしているの?早く探しに行きなさい。ついでに医務室に言って貴方の使えない耳も切って貰いなさい。ついでに頭を見てもらって機能しているか確認してもらいなさい。殴って貰ったら少しは良くなるのではなくて?どうしたの?私の後ろに何か……」


 姫様が毒舌を吐いている最中で門が開いてそこからベルファルト殿下が現れる。


「どうした?アルム、ミリア。二人で何をしているのだ?」

「お兄様こそどうしたのですか?勉強の時間でしょう?」

「お爺様に用事があったから会いに行ったのだ。それでミリアはどうしてアルムと居るんだ?」

「私は宮殿に戻る最中で、宮殿の門で変顔のみすぼらしい格好をしたアルム様が居たので声をかけたのです」


 ……アルム様? 新手の毒舌か?


「アルムはどうして此処に?」


 ベルファルト殿下も変顔のみすぼらしい格好という毒舌になにも思わないのか?


「勉強の時間が過ぎてもベルファルト様が来られなかったので皆で手分けして探していました」

「わかった。苦労を掛けたな。……そういえばミリアには紹介していなかったな。オレの学友のアルムだ」

「先程紹介されましたわ。お兄様をよろしくお願いいたしますね、変顔さん」

「はい」


 ……なにこの王女?裏表が激しくない?ニッコリとオレに笑いかける。先程の会話はなんだったのだろう?夢でも見ていたのかな?


「では行くぞ」

「はい、それでは失礼いたします」

「お兄様、いってらっしゃいませ。勉強を頑張ってくださいね」


 それから小声で姫様は言った。


「無能はお兄様の引き立て役になっていれば良いのよ。分かっているわね、この底辺」


 ……これがオレとミリアリア様が初めて会った日の事だった。この出会いは何度も夢にまで見て生涯忘れる事の出来ない悪夢の思い出となった。





 ミリアリア様が自室に戻りソファーに座る。そしてお茶を入れてくれた侍女が聞いてくる。


「ミリア様、どうしてアルムエルグ様にあのような事を言ったのですか」

「だってお兄様がいつもいつもいつもいつもアルムの事を話しているのよ。食事中も団欒中でもお茶会でも」

「だからってあのような言葉は……」

「……だって、どうしてなのか知らないけどアルム様の顔を見たら……」

「私達も聞いていてドン引きしましたよ。よくあの様な毒舌を言えますね。私もあそこまで酷い事は言われた事ありませんよ」

「だって……」

「だってではありません。あの場には護衛の者や門番も聞いていたのですよ。王妃様の耳に入って怒られるのは確定です」

「ウー」

「そんな顔で唸ってもフォローは出来ません。逆にアルム様を支持します。あそこまで酷い事を言って可哀そうではありませんか!」

「だってお兄様が……アルムの事ばかり話しているからどんな人かと思って見てみたら……」

「好みじゃなかったから毒舌を吐いたのですね」

「……毒舌を吐きやすい顔だったから」

「それは理由にはなりません!挙句にドックライム公爵夫人の事まで悪く言ったのですよ!王妃様が聞いたら激怒では済みませんよ!お二人とも学生の時からの御友人なのですから」

「……どうしよう」

「先に王妃様に謝った方が良いと思います」

「……でも」

「覚悟を決めてください。私達も一緒に説教を聞きますから。……遅かったようです」


 私の部屋に無表情の母親が入って来た。王妃ともあろう御方がノックを忘れて入って来るなんて礼儀作法の勉強を復習した方が良いと思うの。


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