10 ダンスの約束
何とか無事に終わらせる事が出来た。ディーアさんに手紙を書いて貰って、露店で昼食を食べて帰る予定だ。
男爵領は凄い騒ぎだ。小さき守護者が来て、男爵家を救ってくれた。他国の魔の手から助けてくれた。と領民が騒いでいる。
商店街では『小さき守護者が立ち寄った店』というフレーズで商売している露店、商店がある。……確かに露店で串肉を買ったから嘘ではないな。
そして『小さき守護者が引いた馬車』の見物客が多い。金払ったら乗車できるみたいだけど、……長蛇の列が並んでいるな。その馬車って本当にオレが引いた馬車? 八台あるけど……。
なんにせよ、王都に帰るか。今回は失敗らしい失敗はしてない。……大丈夫だと思う。
王都に走って帰っている最中に思い出した。明日がパーティーだけど準備はしてないな。今から準備して間に合うかな? 前に作ったパーティー用の服も成長して体が大きくなったから着れるかな?
そんな事を考えていると、王都に着いた。城に行き先王陛下のもと向かう。……先王陛下は陛下達と会議中らしいから、少し待つか。
中庭で時間を潰そうと思って向かっていると、ミリアリア様が学友の二人と一緒にこちらに向かってくる。……まだ毒を吐かれるのだろうか。覚悟して挨拶をする。
「ミリアリア様、こんにちは」
……もっと気の利いた事が言えないのか! オレは!
「ご機嫌よう、アルム様」
身構えるオレ。この後に何を言われようとショックを顔に出さないように! ……あれ? 何も言ってこない?
「お久しぶり、アルムエルグ様。明日はパーティーですけど準備は出来ていますか? ミリアリア様も準備をしていて、ドレスはそれはもう綺麗ですよ。ね、コレート!」
「そうですね、とてもお綺麗でした」
隣にいたファムさんとコレートさんが話しかけてきた。返事をしないといけない! 身構えていたから反応が遅れた!
「そ、それは、パーティーで見るのが楽しみです」
どうして、オレは気の利いた言葉が出てこない! ミリアリア様からそろそろ毒を吐かれるぞ!
「アルムエルグ様には、是非、ミリアリア様と踊って頂こうと思っています。婚約者なのですから問題ないはずです!」
「そうですね、踊って頂きたいです」
ファムさんが話題を出して、コレートさんが同意する。ミリアリア様は笑っている。笑顔に迫力が……。
「わ、私でよろしければ……」
ミリアリア様の笑顔が怖い。学友二人の背後から『断ったらどうなるか分かっているか?』という思いが伝わっている。……断れない。それ以前に王族の提案を断るなんて出来ない。
「ありがとうございます! 明日が待ち遠しいですね! 私達も明日を楽しみにしています!」
「そうですね、楽しみです」
「それでは私達は失礼をします」
三人と別れた。……怖かった。今までで一番怖かった。ゴーイングさんが殺されそうになった時よりも怖かった気がする。
明日はミリアリア様と踊るのか……。真正面で毒舌を聞かないといけないのか? でも今日は毒舌を聞かなかったな。ミリアリア様と挨拶しただけだし、後はファムさんとコレートさんと会話していただけだったからな。
……オレと会話するのを諦めたのかな? 話すだけ無駄と思っているのかもしれない。……毒吐かれるよりも楽だから良いか。
そんな事を考えながら中庭で時間を潰した。
※
「ファム、コレート。今回は大丈夫でしたか?」
「大丈夫です! 踊って頂く約束も出来ましたし、毒も吐いていません! 合格です!」
部屋に戻って学友のファムとコレートに確認してもらう。ニッコリ笑いながら挨拶だけする練習の成果が出ました! ファムから合格も貰えて嬉しいです。
ファムや側近達との作戦で『毒舌を言わせない作戦』が成功しました。でも少しくらいお話ししたかったな。
「ダンスの約束が出来て何よりですが、今回のパーティーでは陛下から、「ミリアリア様のエスコート役にはアルムエルグ様がする」と言われています。私達もフォローしますから毒を吐かないように、喋らないように!」
お父様たちからアルムエルグ様にエスコートしてもらえる事を聞いたときはとても嬉しかったです。
しかし反対意見もありました。「アルムエルグに毒舌を吐いて、周りに迷惑をかけるなら、エスコートはさせない方が良いのでは」という意見がアルムエルグ様の両親から言われましたが、頑張って説得しました。……最終的には御爺様が頭を下げて「アルムにミリアのエスコートをさせてくれ」と言ったので、なんとかなりました。
「エスコート、ダンスのパートナー、パーティーでの話し相手。この三つをフォローするのが私達の務めです」
ファムの姉であるエリスが、みんなに言います。今回のパーティーでは私達の側近や学友は全員出席して私のフォローをする事になりました。それ以外にも御爺様やお母様も協力してくれます。
アルム様のお母様であるディアエルナ様は、他国の令嬢達のホスト役ですが、協力してくれる事を約束して頂いています。
「エスコートでの順番はベルファルト殿下がエスコートする女性はエルドラージ王国の令嬢達の前です。私達もギリギリまで近くでフォローする予定ですから、アルムエルグ様に毒を吐かないようにお願いします。絶対に喋ってはいけません!」
ベルファルトお兄様はお父様からエルドラージ王国の令嬢達をエスコート役に任命されました。でも大丈夫でしょうか? 失敗しなければ良いのですけど。でもお兄様のフォローは、お兄様の側近に任せましょう。
そういえばお兄様の婚約者はまだ決まっていません。本来なら決まって良いはずですが、両親は決めかねているそうです。どうしてでしょう?
「アルムエルグ様とのダンスでは陛下達、事情を知っている者達に囲まれて踊ります。毒舌を言っても周りに聞こえないようにする為です! 本当は音楽隊の近くで踊って、音楽で声が聞こえない様にと思っていましたが、王族が壁際で踊るのは駄目だという事で却下されました」
「質問があります、エリスお姉様。踊る時間帯と回数は?」
「時間帯は予定表に書いてある通りです。回数はミリアリア様もアルムエルグ様も他の人と踊る可能性があります。他の貴族令息とミリアリア様と踊る事も考えられます。その場合はミリアリア様にお任せする予定です。承諾するも拒否するもミリアリア様の御判断して頂きます」
「勿論、拒否します。婚約者のアルム様としか踊りません」
「ですが、どうしても断れないときは「次は先王陛下と踊る約束をしています」と言ってください。先王陛下にはその件を伝えています」
さすがはエリスです。御爺様と踊ると言えば他の者達も強くは言えないでしょう。御爺様と踊るまでは他の者と踊る事が出来ないのですから。
「最後にその他の時間帯です。 貴族達の挨拶回りや対応とか談笑の時間ですね。基本的に陛下や先王陛下達と一緒に居るでしょう。アルムエルグ様も近くにいるはずですから、ミリアリア様は絶対にアルムエルグ様に毒を吐かないで下さいね!」
「頑張ります」
お母様も側近達も居ますから大丈夫です。
「今回は台本がありません。今まで培った経験がモノを言います! アルムエルグ様を悲しませない様に、私達はミリアリア様のフォローに全力を尽くしましょう! ファムもコレートもミリアリア様が毒舌を吐く前に行動するように!」
「わかりました」
ファムとコレートが力強く答えます。
「そして貴族達にはアルムエルグ様はミリアリア様の仮の婚約者と思っている者達もいます。そのような噂を払拭する為にも、二人の仲が良好だと見せつける場面です! みんなで頑張りましょう!」
「はい!」
「そして成功した暁には、祝宴を開いて、みんなで飲みましょう!」
みんなの祝宴の為にも私も頑張ります! 絶対に成功させましょう!
閑話 姫様頑張る ドックライム公爵夫人視点
神殿の訓練施設でミリアリア様に神聖魔法を教えている私は休憩中に「アルムのどんなところが好きなのですか?」と聞きました。
「アルム様の楽しい顔、笑った顔、困った顔、泣いている顔、怒りを露わにしている顔、喜んでいる顔などどんな表情でも好きですし、ちょっとした仕草でも私は嬉しく思います。最初出会ったときは、『身分でお兄様の学友になった普通の子供』だと思っていましたが、私達が捕まっていたときには、優しく接してくれて上着を着せてくれました。その時に思ったのです『優しくて頼りがいがある人』だと思いました。そしてお爺様を助ける為に賊に無双する姿は誰が見ても惚れてしまうくらいカッコイイのです! その時のアルム様を見て私は『この人が運命の男性だと!』と思いました。お爺様にも信頼されているアルム様を私の婚約者にして頂いて本当に感謝しています」
本当に好かれているのですね。しかし毒さえ吐かなければ素晴らしいのですけど。
「最初のお茶会では少し緊張してしまって、変な事を言ってしまい、本当に呪いが恨めしく思います。早く呪いを解かなければいけません」
……あれが緊張して変な事? アルムに毒を吐いて、間接的に私も毒を受けましたよ。流石に無礼と言って退席する事が出来ないので、どうすればお茶会を終わらせる事が出来るか本気で考えました。
あの時のお茶会は偶に夢で見るくらいの悪夢です。本気でキレようと思いましたが、隣には私以上に毒を受けていたアルムが居たので我慢できました。
「お爺様に祝福に呪いがあると言われて、本当に祝福を恨みました。でもアルム様のお母様に封じる方法を教えて頂いて感謝しています」
本当にアルムがいなければ毒を吐かない可憐な姫様なのに……。祝福の呪いのせいで二人とも苦労をしています。神様はどうして二人に試練を与えたのですか?
「アルム様は私と釣り合う為に日夜努力して、今では小さき守護者として国を守っています。私も婚約者として精一杯頑張らないといけません」
アルムが小さき守護者だと聞いた時は驚きました。魔法が使えない子供が、身体強化魔法しか使えない子供が、周りの者からは欠陥魔法使いと言われている子供が小さき守護者として活躍をしているのですから。母親として嬉しく思う反面、無茶な事をしないで欲しいと思う事があります。
そして私達がローデンファング公国に行っている間、アルムは屋敷の離れの家で一人生活していたのですから。それを指示した義弟に怒りを感じましたが、アルムは何も思わず、素直に従っていたのですから呆れていました。
アルムは良い子に育ったと思いますが、ちょっと素直で謙虚すぎると思います。騙されたりしていないでしょうか?
「欲を言えばアルム様に、強気でいて欲しい場面がありますね。強気なアルム様……、とても凛々しくてカッコイイでしょうね」
ミリアリア様が何を想像しているのか分かります。姫様といっても年頃の女の子ですね。
……あ、素直で謙虚な原因がちょっと分かった気がします。素直なのは生まれつきの性格としても、謙虚なのはミリアリア様の毒舌でアルムが落ち込み、卑屈になり自分の評価が出来なくなっているのではないのでしょうか?
毒を食らい続け自分に自信が持てないので謙虚に育ってしまったのではないでしょうか?
それに欠陥魔法使いと言われ続け、自分が他の人間よりも下だと今でも思っているのかもしれません。
早急に性格矯正しなければ、卑屈に育ってしまう可能性が……。貴族として自信が持てず虐められたらどうなってしまうのでしょうか? 夫と相談した方が良いかもしれません。
「どうされましたか?」
息子が卑屈になってしまう元凶が目の前にいる事に、どうすれば良いか考えますが全部、祝福の呪いのせいでミリアリア様のせいではありません。
私に出来る事は一日でも早く、ミリアリア様の祝福を封じる神聖魔法を覚えさせる事です。その為に、アルムの幸せの為に頑張らないといけませんね。
「なんでもありません。そろそろ休憩を終わりにしましょうか」
「そういえば今度、お茶会を開きたいのでアルム様を誘って良いでしょうか?」
「……その為に祝福の呪いを封じる魔法を覚えましょう」
「今度は絶対に毒を吐きませんから! 根性で呪いを封じますから!」
「駄目です! 前回もそんな事を言っていたでしょう!」
「今回は大丈夫です! アルム様に対する愛をもって呪いを封じ込めますから!」
前回もこんなやり取りをして結局は、ミリアリア様のアルムに対する愛情に負けて承諾したのよね……。絶対に毒吐いてアルムを落ち込ませると分かっているのに。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




