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3 ベルファルト殿下の学友

 バルテハイム王国の国王が住まう王城。大きさに目を奪われてしまう。屋敷よりも大きいのは当然だよね。

 この城には貴族達や使用人が働く王宮。その隣には宮廷騎士団や宮廷魔法師団が働く施設。そして王族が住まう宮殿ととても広く多くの人達が働いている。

 オレも王宮で働くことになったのだ。一人前の男と認められた様な気分で少し嬉しい。

 父は公爵だから王宮への出入りは許可が簡単に下りる。貴族でも下位の男爵や子爵などは許可が下りるまで数日、遅いときは数ヶ月かかるそうだ。上位貴族万歳!


「後で王宮に自由に出入りできる許可証を渡す。今度からはお前一人で行かなければならないからな。しっかり覚えるように」

「わかりました」


 向かった先は王様の執務室。事を大きくしない様にと父が言ったそうだ。

 執務室に居るのはバルデハイム王国の上層部の人達。

 体を鍛えている筋肉隆々な赤髪のダムボックス騎士団長。

 頭の毛が少ない理知的なゲックハルト宰相。

 そして父と同じくらいの年齢のダルムフレット バルテハイム国王陛下。

 父に紹介してもらった。


「お初にお目にかかります。ドックライム公爵家次男のアルムエルグと申します。この度ベルファルト殿下の学友として選んでいただき嬉しく思います。陛下の信頼に答える為に全力を尽くします」

「よくぞ来てくれた。アルムエルグよ。私の息子の学友になってくれて感謝する」

「ベルファルト殿下と共に勉学に励み、共に高みを目指す事を陛下に誓います」

「ありがたい言葉だ。ドックライム公爵よ、良い子に育てたものだ。流石だな」

「ありがたき幸せ。ですがアルムはまだまだ勉強不足です。殿下の足を引っ張らないかと心配です」

「謙遜するな」


 ハハハと笑う陛下。挨拶は大丈夫だったようだ。


「それでベルファルト殿下の学友になるのだが剣術の方はどうなのですか?」

「運動神経は悪いのであまり……」

「最悪の場合は殿下の盾になってもらう事がある。その覚悟は出来ているか?」


 ダルムフレット騎士団長がオレに言う。


「覚悟は出来ています。身を挺して殿下をお守りします」

「口だけでない事を信じよう。殿下と一緒に剣術を学び強くなれ」

「はい」


 ダルムフレット騎士団長が手を出して握手を求めてきたので笑顔で握手をする。騎士団長も笑顔だ。信頼を得られたようだ。


「学友に必要な基準は満たしている様だな。しかしドックライム公爵家の次男は欠陥魔法使いと聞いている。その事を責められるかもしれんが覚悟は出来ているか?」

「勿論、覚悟は出来ています。その程度で私の意思は変わりません」

「……ドックライム公爵家は子息に恵まれているな。長男は学校で優秀な成績を修め、次男は殿下の友人として将来は役職に就くだろう。私の一族に同じ年頃の女が居れば紹介したのに」

「ゲックハルト宰相。勝手に婚約者を決めないでくださいよ。私の許可よりも妻の許しが無いとダメですから」

「相変わらずの愛妻家だな」


 執務室に笑いが響く。初対面の挨拶は成功した様だ。……良かった。

 その後、大人達の話し合いに耳を傾けるだけだった。内容は自分達の子供の事や教育方針で、騎士団長の子供の将来の夢は親と同じ騎士団長と言って親を喜ばせて今では剣術の修行を頑張っているそうだ。宰相の息子も親に似て良く本を読んでいるそうだ。ジャンルは問わずいろんな本を読んで今では宰相の屋敷の本を全部読破して親族の家に所蔵してある本を探しているそうだ。陛下は王子と姫の話で王子がいかに自分に似ているのか、姫が可愛くてたまらないとか言っている。

 オレは親馬鹿達の会話を聞くだけで疲れが溜まってきたが失礼な態度を取らない様に姿勢を正して聞いている。……早く終わらないかな。

 そんな事を話しているとドアからノック音が聞こえる。


「失礼します。ベルファルト殿下がお見えになりました」

「入らせよ」


 ドアの前に子供がいる。この方がベルファルト殿下だな。陛下と同じ色の髪でヤンチャっぽい子供だ。


「父上、私と一緒に勉強をする者が来たと聞きました」

「ベルファルトよ。まずは宰相達に挨拶をしろ」


 父親に怒られてムッとする殿下。宰相達に挨拶をして最後にオレを見て言った。


「お前がオレと一緒に勉強をする者か。名前は何と言う?」

「初めまして、ベルファルト殿下。私の名前はアルムエルグ=ドックライムと申します。

親しい者はアルムと呼びますので殿下もアルムとお呼びください」

「アルムだな。よし今日は私が王宮を案内してやろう。光栄に思うが良い」


 想像以上に偉ぶる王子様だな。王子だから偉いのは当然か。


「ありがたき幸せ。殿下に教えていただけて嬉しく思います」

「そうか!よしでは行くぞ!」


 そう言って執務室を出るベルファルト殿下。オレは陛下達に一礼をして。


「それでは学友として殿下と共に王宮を見学に行きますので失礼いたします」

「ベルファルトを頼んだぞ」


 陛下の許しを得てオレはベルファルト殿下が待っている執務室の廊下に出た。

……殿下が居ない。どこに行ったの?

 執務室の外側に居る騎士の人に聞いたら指をさして先に行ったと言った。行動の早い人だな。少しくらい待っていろよ!

 急いで殿下が向かった先に行く。その途中で殿下が待っていた。


「遅いぞ!何をしている!」

「申し訳ありません」

「全く、では行くぞ。まずは剣術の訓練場だ。私も毎日訓練している所だぞ」

「殿下は毎日訓練をしているのですね。それでは私よりもお強いでしょう。私は剣術が苦手ですから殿下に強くなるコツを教えて頂きたいです」

「そうか!では今度教えてやろう。なに剣術なんて簡単だ。相手を殴れば勝つからな」

「なるほど!私も殿下の様になれる様頑張ります」


 殿下を持ち上げて気分が良くなっているな。ムスッとした顔から子供らしい笑顔になっている。まあヤンチャっぽい顔だけど。

 殿下の案内で訓練場に着く。広い訓練場で何人かの騎士達が模擬戦をしていたり素振りをしている。


「アルム!お前の剣術の腕前を確かめてやる」


 と言って訓練をしている騎士に木刀を用意しろと命じる。


「殿下、今は鍛錬の時間ではありません。騎士団長の許可が必要です」

「何を言っている!オレが持って来いと言ったんだ!早く持って来い!」

「しかしですね」

「命令が聞けないのか!」


 ……なかなか暴君のようだ。騎士の人達も困っている。助け舟を出すか。


「ベルファルト殿下、許可を取らないといけないのでしたら許可を取れば良いのです。騎士団長はまだ陛下と会談中ですが許可は取れるでしょう。そうだ!陛下にもお越しいただいて殿下の腕前を見せましょう。訓練して強くなった殿下を見て頂くのはいかがでしょうか?」

「……ふむ。そうだな。父上に私がどのくらい強くなったか見てもらおう。そこのお前!騎士団長と父上に訓練場に来てもらう許可を貰って来い!」


 そう言って狼狽える騎士に命令をする。その騎士の後ろから年配の騎士が殿下の前に来た。


「わかりました。許可を取ってきましょう」

「急げよ!」


 そう言って年配の騎士は訓練場を後にする。本当はオレが行こうと思っていたが年配の騎士が伝えに言った。そして殿下は近くの騎士に命令をして持ってきてもらった木刀を手に取る。その騎士の人にお礼を言う。


「よし始めようか」


 早いよ!まだ許可も下りてないし、陛下達も来ていないんだよ!


「殿下、まずは準備運動からです。体を温めて陛下達が来てから模擬戦を始めましょう。私も体を温めて準備します」


 少し不満げな顔をしたがオレが準備運動を始めたので殿下もそれにならって準備運動をする。これで少しは時間がかせげる。

 早く許可を持ってきてくれ!年配の騎士さん!

 準備運動をしていると訓練場の入り口から陛下達が来られた。宰相や騎士団長や父も一緒だ。その事に気づいた殿下は陛下に向かって。


「父上、いまからアルムと模擬戦をします!どれだけ強くなったか見ていてください!」

「陛下、殿下との模擬戦をお許しください。私達の今まで培った訓練の成果を見せたいと存じます」


 陛下はオレ達を見てため息をつき言った。


「よかろう。審判はゴーイングだ。二人の訓練の成果を見せてもらおう」


 年配の騎士さんがオレ達の間に立つ。この人がゴーイングさんか。


「では陛下のご命令により私が審判を務めます。二人とも模擬戦のルールは解っていますね?」

「勿論!」

「……知りません」


 模擬戦のルール?知らないよ?公爵家で剣術を習って模擬戦を見た事あるけど寸止めルールしか知らない。子供だから模擬戦禁止なんだよね。初めての模擬戦だな。


「模擬戦のルールは目潰し・金的・関節技の禁止。素手で殴る事や蹴る事も禁止。純粋に剣術で勝負する事。そして寸止めをする事」

「わかりました」


 殴る蹴る関節技の禁止か……。剣術だけの試合か。

 ……殿下よりも弱く見せないといけないが出来るだろうか?それも見物人が多いから上手く手加減を出来るか心配になってきた。


「では始め!」


 考え事をしていたらいつの間にか始まった。

 殿下はオレに向かって上段から撃ち落とす。オレは剣を頭上にかかげて受け止める。

 ……なるほどこのくらいのスピードと力だな。今度はオレが殿下の木刀をはじいて横一線に打ち込む。ギリギリの間合いで当たっても服に掠るように調整して殿下と同じくらいのスピードで打ち込ん だが、殿下は後ろに避ける。

 そして今度は殿下が上段や中段に右から左からと連続で打ち込んできた。オレはそれに対応して防御する。


「アルム、なかなか強いな」

「殿下も強いです。打ち込みが力強くて防御だけで手一杯ですよ」

「ならこれはどうだ?」


 今度はフェイントを入れた攻撃だな。なかなか上手いフェイントだ。


「これも受ける事が出来るか!すごいな!アルムは」

「受けるのが精一杯で反撃出来ませんでした。今度は私から行きますよ!」


 そろそろ終わらせるか。殿下の剣術の癖も分かったし。オレが上段から打ち下ろした木刀を殿下が受け止める。力加減もこの程度で良いな。殿下に無理をさせない力加減だ。

 そして今度は横から打つと見せかけて上段からの肩を狙った打ち込みをする。

 殿下はオレが横から打つフェイントに引っ掛かりそうになる。でもフェイントと分かってオレがワザと作った隙に乗じて横なぎの一線をオレに叩き込んだ。木刀がわき腹に当たってオレはその場に倒れこむ。

 ……寸止めだよね。きちんとルールを守ろうよ。身体強化の魔法で体を硬くしていなかったら大変だったぞ。


「アルム!」


 父がオレに向かって走り出す。わき腹に木刀が当たったからな。心配して駆け寄ってきた。殿下も顔が青い。もろに当たったからな。初めて人に当てたのかな?陛下も心配している。そして殿下を怒りそうだ。これはヤバイな。殿下が陛下に怒られる。


「アルム!大丈夫か?」


 何事も無かったように立ち上がって父に笑いかけながら言った。


「大丈夫です。当たる寸前に殿下が止めてくださいました。当たりましたがそんなに痛くありません。殿下!素晴らしい一撃でした。また稽古をつけてください」

「アルムよ。脇に木刀が当たったようだが……」

「殿下が手加減をしてくれましたから。陛下、殿下は私より強い人です。また殿下と一緒に訓練する許可を頂きたいと思います」

「……分かった。また二人の模擬戦を見物しよう。ベルファルトよ、強くなったな」

「ありがとうございます父上!」


 ……なんとかなった。陛下も殿下も機嫌が良い。見物人にも手加減をしている事がバレていないようだ。騎士団長や審判の騎士の人にもバレなくて良かった。

唯一の失敗が父の前で怪我を負った事だな。


「アルム!本当に大丈夫か?医務室に行くか?回復魔法を使うか?気分は悪くないか?お腹を打ったから吐き気はしないか?」


 過保護な父の前ではなるべく模擬戦をしないように心がけよう。





 訓練場で二人の騎士が話している。


「殿下とアルムの模擬戦が上手く終わって良かった」

「審判役はヒヤヒヤでしたよ。万が一の事を考えたら平民の私は首が飛びますから」

「陛下もいきなり学友を模擬戦させて怒っていたが二人の間に絆が出来て結果良好で良かった」

「アルム殿がベルファルト殿下をお納めくださいましたか。今回は良い結果になりました。騎士の皆もアルム殿には感謝しています」

「そうか、それにしてもアルムに怪我が無くて良かったぞ。殿下も手加減を覚えてくれて良かった」

「……騎士団長にはそう見えましたか」

「どういう事だ?」

「私は審判として一番近くで見ていました。殿下が放った最後の一撃は手加減している攻撃には見えなかったのです」

「しかしアルムは何事も無いように立ち上がっていたではないか」

「そうなのです。私も不思議に思っています。あの一撃を受けて何事もなく平気な顔をしていたのですから」

「公爵がアルムの傷跡を見ていたぞ。当たった形跡がなく傷もついていない奇麗な体だった……。確かにおかしいな?軽くでも当たった所は皮膚が赤くなりそうなものだ」

「確かに木刀がわき腹に当たっていました。力を抜いて木刀を当てたと言っても結構な速さで打ち込んだのです。それなのに皮膚が赤くも青くもなっていません」

「お前や私くらいの技術なら出来るかもしれないが殿下の手加減では……」

「無理ですね。殿下は手加減など出来ません」

「なら相手が手加減させたと見せかけた?」

「アルム殿は殿下と同じ年齢ですよ。そんな事出来る訳がありません。あの一撃をどうやって無効化するのですか」

「……そうだよな」

「それが本当なら、私達と同じくらい強い子供ですよ。私達に気づかれない様に手加減をした子供ですよ。……私たちよりも強いかもしれませんね」

「ハハハ、そんな事有る訳ないだろう」


 ハハハと笑う声だけが訓練場に響いた。


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