十二歳⑤
城で陛下と会ってローデンファング公国に戻ると伝えた。そして長男であるオーラムヴェル兄上が屋敷を管理させる為に王宮魔法師団の寮生活から屋敷に戻して通勤させる許可を貰っていた。
兄曰く。「寮生活は大変だった。父上に感謝しなければ」と言っていた。何が大変なのだろうか?詳しく聞いてみた。
「寮生活では先輩が煩くてな、挨拶をしろ! 掃除をしろ! 飲みに行くから付き合え! オレの酒が飲めないのか! 代わりに仕事をしろ! なんていろいろ言われたんだ!特に酒の付き合いが一番きつかった。あまり酒が強くないのに飲ませるから気分が悪くなって吐いたものだ。そして吐いた分だけ飲め!って言われて飲んで吐いて飲んで吐いての繰り返し。本当に殴ってやろうかと思ったぞ」
「……大変だったんだね、兄さん」
「大変だった。爵位なんて関係なしで絡んでくるからな。下っ端が辛い事は知っていたが此処まで酷いとは思わなかったぞ。本当に死ぬかと思った」
「屋敷ではそんな事はないから安心して良いよ」
「そうだな。そう言えば寮生活を抜け出したいと思ている同期がいるのだが、そいつらも此処で生活させるか?宿代は屋敷の管理の手伝いとして……。離れの家に住ませれば大丈夫だろう。父上に聞いてみるか」
「そこはオレが住んでいるから他の所にして」
「……公爵家の次男がそんな所に住ませる訳がないだろう。お前は自室に戻る事は決定している。逆にどうして離れの家で生活していたか聞きたい」
「オレって屋敷に居ない事が多かったからね。だから経費削減の為に離れに住んだ方が良いと叔父から言われたんだ」
「そんな理由で移り住んだ弟が心配になる。なんでも言う事を聞いてはいけないぞ! 疑問を持て!」
そんな事を兄と話し、兄は屋敷で生活を始めた。オレは王宮で寝泊まりをしているから特に問題ない。そして母と妹が王都に帰って来たと兄から聞いたのでその時は帰った。
「久しぶりね、アルム。元気だった? 周りに迷惑をかけていない? 殿下と仲良くしている? 体調に気を付けてお腹を出して寝ていない? 変な物を食べていない? 好き嫌いをしないで食べている?」
父と同じような事を言っている。夫婦だから考える事が同じなのだろうか?
「ミリアリア様と仲良くしている? 心の傷は大丈夫? 変な事を言われていない?」
「大丈夫です。それにラルーシャも久しぶりだね。元気だった?」
……無視されて侍女と一緒に屋敷に入った。まだ嫌われているんだな。
「どうしてラルーシャに嫌われているのでしょう」
「あれは恥ずかしがっているのよ」
ミリアリア様が毒舌を言うのと同じなんだね。ラルーシャもミリアリア様と同じで嫌われているのか。妹に嫌われるなんてへこむ。
そして今日は家族そろって、父は居ないけど家族みんなで食事を取った。兄は家族に王宮魔法師団の事を話し、母は妹とローデンファング公国に居た事を話す。オレは学友の事や先王陛下の事を話した。先王陛下の暇つぶしの話し相手になっていろんな話を聞いた事をみんなに話す。
「アルムもあと半年もすれば学院に入るな。殿下の学友として悪い成績は取れないな」
「大丈夫よ、オーラムと違ってアルムは勉強できるから。でもドジな所はなかなか治らないわね」
「なにそのくらい大丈夫だ。そういえばミリアリア様は神殿で神聖魔法の修行をしていると聞いているがアルムは何か知っているか?」
「何かが分からないけど。なんの事?」
「学院でミリアリア様が本当の婚約者を探すという噂だ。ほら、アルムって仮の婚約者と言われているだろう。だから学院に入ってアルムよりも素晴らしい者を見つけて婚約者にするって事になっているぞ」
「あら、その様な噂が出回っているの?」
「学院の後輩から聞いた話です。アルムは知らなかった様だな」
「王宮ではそのような噂は聞いた事ありません」
「……明日、ミリアリア様と会う為に神殿に行きましょう。ラルーシャも行きますよ」
「分かりました。お母様」
久しぶりに妹の声を聞いた。オレにだけ喋ってくれない妹に本当に嫌われているのだと実感した。
※
次の日になると母と妹は外出して、兄も王宮に仕事に出かけた。父は屋敷でする事があると言って執務室で仕事をして王宮に行く予定らしい。オレはというと深夜に屋敷に侵入した暗殺者を退治して簀巻きにして寝不足だ。朝食の時間に遅れて怒られたよ。そして本日は王宮に行く日なので父と一緒に馬車で行く事になった。
「簀巻き暗殺者が吊るされていて朝から大変だったぞ。それなのにアルムは寝ているのだから。噂の小さき守護者が捕まえてくれたのだろうな」
「そうですね、聞いたときは私も驚きました」
「小さき守護者は先王陛下の手の者と聞く、礼を言わなければな。アルムも先王陛下に会ったら礼を言うのだぞ」
「はい、わかりました」
小さき守護者と言われるけど、小さい小さい言わないでくれ! 成長して大きくなるのだから!
王宮で父と別れてオレは用意されている部屋に行く。学友だけどベルファルト殿下に会っていないな。勉強を頑張っているらしいけどどうしているのか。陛下や先王陛下から面会禁止と言われているから会っていないけど少し気になるよな。
「おや、こっちに居ましたか、アルムエルグ殿」
ベルファルト殿下の事を考えていたらゴーイングさんが部屋に来た。どうしましたか?
「陛下が至急に書類を郵送してほしいとの事です。書類の出し忘れがあり、どうしてもと言われています」
流石に断る訳にはいけないよな。承諾して陛下の元へ向かう事にした。
「すまない、この書類をルックナー砦に渡さないといけないのだ。すまんが頼めるか」
「アルム殿には迷惑をかけます。今後はこんな事が無いようにしますのでお願いします」
陛下と宰相に言われて断る事は出来ません。今は昼前だから夕方には王都に戻れるな。でも父から帰りも一緒に帰る約束をしているんだけど。
「なるほど。……任せておけ、お主が戻るまで時間を潰させよう。大丈夫だから安心して書類を届けてくれ」
陛下が胸を張って言うのでオレは書類を受け取ってルックナー砦に行く事にした。
直線距離で山を越え谷を越え三時間くらいでルックナー砦に着く。書類を机に置かないと……。
砦の責任者のマクガイア将軍はミリアリア様の学友のファムさんの父親らしい。前のお茶会でそのような事を聞いた。マクガイア将軍を遠目で見た事があり、大柄のゴツイ人でファムさんとは全く似ていない。ファムさんは母親似なのだろう
マクガイア将軍の執務室には誰もいない事を確認して窓から入って書類を机に置く。返信用の書類は……これだな。書類を手に取って王都に戻ろうとしたら、急にドアが開く。ビックリして天井に張り付いた。
武器を持って入って来たマクガイア将軍だ! 驚いた。
「……気のせいか、誰かが居た気配がしたのだが」
そう言って執務室に入り机に座る。机に陛下からの書類がある事に気づいてため息をついた。
「陛下専属の配達人か……。いつの間に部屋に入って来たのだろう。陛下も私にくらい謎の配達人の事を教えてくれたら良いのに……」
愚痴を言いつつ書類に目を通す。その後、書類の整理を始めた。……オレはその机の上の天井に張り付いてる。執務室から出る事が出来ない。どうしよう。将軍が部屋を出るまで待つしかないのか……。
「……まったく、偶には帰りたいな。愛しい妻と娘に会いたい。後処理があるとはいえ帰らないとエリスとファムに顔を忘れられていたら悲しくて泣くぞ……。娘達は元気にしているかな……」
ゴツイ将軍がため息をつきながら愚痴っている。声にも覇気がなくて、気のせいか大柄な体が小さく見える。机の引き出しから手紙を出してそれを読む。見てはいけないと思っても差出人が目についた。エリスさんとファムさんの手紙だ。
「……パパは頑張るからな。可愛い娘の為に絶対にこの砦を守るから」
パパって……、ゴツイ将軍がパパって、ヤバイ、笑いそう。気配が漏れそう。笑いを堪えていると執務室に誰かが入って来た。
「マクガイア将軍! そろそろ時間です」
「わかった」
手紙を机の引き出しに戻して将軍は執務室から出た。……気配が無くなった事がわかると天井から降りて笑いそうになる。……あの将軍がパパって! マジで笑いそうだった! でももうすぐ夕方だから急いで王都に帰らないと! でもパパって……吹き出しそう!
※
私は先王陛下の護衛を務めているゴーイング。部屋には陛下と宰相と先王陛下がアルムエルグ殿の父親のライドクリフ殿と向き合って話をしている。話の内容は王国で噂される小さき守護者の事だ。
「小さき守護者の事は出張先のローデンファングでも聞こえています。王都での治安にも手を出しており良い者らしいですな。私もその恩恵を受けたのであまり悪くはいえません。深夜に賊が屋敷に侵入していましたが簀巻きで吊るされていました。使用人達は小さき守護者だと言って英雄のような話を聞いていますよ。私にも小さき守護者が何者なのか教えてもらいたいですな」
ライドクリフ殿の言葉に困る先王陛下。小さき守護者は貴方の息子ですと言っても信じられないだろうからな。困るのは仕方がないだろう。
「昨年のローデンファングで起きた事件にも小さき守護者が介入されていませんか? 調べてみると情報収集力は小さき守護者と酷似しています。そして先王陛下が祝賀会に出席したときにエスコートした若い女性がいましたね。その女性は何者ですか? ローデンファング出身の貴族ではない事だけは調べました。私はその女性が小さき守護者と関係があると思っています」
ライドクリフ殿の考えは正しい。良く調べていると感心をする。しかしその若い女性が変装した貴方の息子だと知ったらどう思わるのでしょうか?
「その若い女性は身を挺して暗殺者のナイフを受け止めて撃退したと聞きます。そこで考えると小さき守護者とは複数いるのではないかと思ったのです。情報を集める者達と賊を退治する者達。その者達が小さき守護者と呼ばれる組織ではないのでしょうか?」
自信を持って言うライドクリフ殿。……途中までは合っていましたが組織ではありません。一人で情報収集から護衛まで全部こなしています。
「そして組織となると誰がトップなのかですが、先王陛下だと思いますが、私は違うと思っています」
私を見るライドクリフ殿。……まさか!
「ゴーイング、お前が小さき守護者という組織のトップなのではないか? 先王陛下の助力があれば陰でいろいろ出来るからな。その見返りに何を求めたのだ?」
吹き出す先王陛下。そしてお腹をかかえて笑い出す。陛下も苦笑いだ。私も苦笑いをしているだろう。
「ライドクリフ、その、考えは、間違い、だ」
笑いすぎて息切れを起こしている先王陛下が言う。先王陛下、大丈夫ですか、水を飲みます?
「ライドクリフ、その考えは間違っている。ゴーイングは組織のトップでもないし、小さき守護者の関係者ではない。……正体を知っているから関係者かな? 私も知っているから関係者に入るな」
笑いながら陛下はライドクリフ殿に間違いだと伝える。
「申し訳ありませんが、口止めをされていますので正体を伝える事は出来かねません。お許しください」
ライドクリフ殿に頭を下げる。ライドクリフ殿は何が間違いなのかを考えている。ライドクリフ殿は真実に近い事を考えていた。しかし無意識にある人物の事を考えていない。それは先王陛下と一緒にローデンファングに行ったアルムエルグ殿の事だ。それを考えたのなら優秀なライドクリフ殿なら答えがわかるはずだ。しかしアルムエルグ殿は欠陥魔法使いだから無意識に候補から外したのだろう。
「ライドクリフよ、お主にも近いうちに小さき守護者の正体を教えよう。まだ時期ではないからもう少し待っていてくれ」
笑いすぎて息切れから立ち直った先王陛下が伝える。……確かに正体を教えるのにはそれ相応の事が、アルムエルグ殿が小さき守護者だと確信が必要だから今すぐに言っても信じる事は出来ないだろう。
先王陛下の言葉を聞いてライドクリフ殿はため息をついて正体を知る事を諦めた。その後、退出する。
「ライドクリフはローデンファングの事件にアルムが介入した事に気づいていたとは。……流石に頭が切れる奴だ」
独り言を言うように先王陛下もため息をつきながら言う。しかし私が組織のトップとは……。面白い話だった。
「正体がアルムだとは気づいてないようだったな。流石に自分の息子が噂の守護者とは思わなかったようだ」
「アルムエルグ殿は欠陥魔法使いですから。守護者だと思わなかったのでしょう」
陛下が私の思っていた事を言う。欠陥魔法使いという事でアルムエルグ殿は苦労をしている。しかしそんな事が関係ないくらいに身体強化の魔法だけは極めていると言っても良いだろう。私や他の者達もアルムエルグ殿と同じ事は出来ない。
しかしアルムエルグ殿がまだ戻ってこない。本来なら戻ってきてもおかしくない時間なのに。何かトラブルでもあったのか?
「ただいま戻りました」
窓から侵入して仮面とマントを外す。そして陛下に書類を渡した。
「ご苦労だった。ルックナー砦はどうだった? 問題はなかったか?」
陛下がアルムエルグ殿を労い、砦の事を聞くと吹き出すように笑う。どうしたのだ?
「すいません、将軍が休みを取りたいって愚痴ってました。娘達に顔を忘れられそうだからって」
ルックナー砦の責任者であるマクガイア将軍が愚痴るとは……。しかしそれだけなのか? アルムエルグ殿が笑いを堪えている。
「そうか……。しかし交代は難しいな。もう少ししたらルックナー砦も落ち着くと思うが……」
「そうだな。それでアルムよ。愚痴っていただけか? 他にも何か言っていたのではないか? ……例えば「娘の為にお父さんは頑張るぞ」とか」
「ど、どうして知っているのですか! フルブルーグ様!」
「なんじゃ、当たりか。あのゴツイ顔が子煩悩で家族達を大事にしているのは知っていたが。当たりだったとは……、もう少し面白い事があったのだと思っていたが」
先王陛下はニヤリと笑う。マクガイア将軍で遊ぶネタが出来たと喜んでいる顔だ。……オレのせいで先王陛下からいじられる事になり申し訳ないと心の中で謝る。
「それよりもアルムエルグ殿。そろそろ帰宅の時間ではありませんか? 時間は大丈夫ですか?」
「そうでした。すぐに準備をします。それでは今日は失礼をします」
そう言って部屋から出ようとするとノック音が聞こえてライドクリフ殿が入って来た。どうしたのだ?
「失礼しました。アルムがいなかったので先王陛下にお聞きしようと思っていましたが、どうやら行き違いだったようですね。アルム、先に馬車に戻っておきなさい。私もすぐに行くから」
そう言ってアルム殿は部屋を出る。そしてライドクリフ殿はため息を付きながら言った。
「先ほどからドアの前に居たのですが、アルムが小さき守護者だと聞こえました」
……アルムエルグ殿に気づかせないように気配を消せる人だったとは。先王陛下と陛下は失敗したという表情だ。どう説明をすれば良いのか考えている。
「仮に小さき守護者がアルムだとしても息子は魔法が使えません。憶測ですが小さき守護者は身体能力の加護を持つ魔法の使い手だと思っていました。だから魔法が使えないアルムではないと確信していたのですが、どういう事ですか?」
「ライドクリフよ。アルムは魔法が使えないのではなく魔法を放出出来ないのだ。魔力を体の外に放出は無理でも、身体強化魔法なら使えるだろう」
「確かにそうですが、身体強化の魔法を極めている者でも数倍しか……。まさか身体強化の魔法に特化した者が小さき守護者の正体なのですか!」
「そうだ、アルムは外に魔力を放出が出来ないが他の者達よりも数十倍の身体強化が出来ている。他にも遠くの声が聞こえる聴力強化や遠くの場所が見える視力強化も出来るそうだ」
先王陛下がライドクリフ殿に説明をしている。彼は本当に頭が切れる人だ。
「欠陥魔法使いと言われる者は身体強化の魔法を極める事が出来る。……アルムの他に欠陥魔法使いは身体強化の魔法を極める事は出来るのですか?」
「わからん、貴族の欠陥魔法使いは監禁されて居ない者とされ、平民の場合は早死にをする。ワシもアルム以外に欠陥魔法使いを見た事がない」
「なるほど……。私も調べてみましょう。それからアルムの事を詳しく聞きたいのですが」
「ライドクリフ殿、アルムエルグ殿の話なら少し長くなります。馬車ではアルムエルグ殿が待っているので、説明は明日の方が良いのではないでしょうか」
長くなりそうだと思い、私は話を中断させる事にした。
「そうですね。では明日の午前中に伺います」
「わかった。それからアルムや家族にも小さき守護者の正体を知った事は内緒だぞ」
事実を知った事を息子に話さない。反論しようと何かを言おうとしたライドクリフ殿は少し考えて先王陛下の言葉を承諾した。
「では明日の午前中に詳しい話をお聞かせください」
そう言って部屋から出る。……子供の正体が親にバレたな。ライドクリフ殿もいろいろと思う事があるだろう。
「……バレたからには仕方がない。アルムの事を知っている者達にも参加させるか」
「宰相と騎士団長も話に加えさせます」
「そうですね」
「明日の話し合いは面白くなりそうだ」
先王陛下は面白がっている。陛下はため息をついて天を仰いだ。……私も参加する事になるのだろうな。マクガイア将軍ではないが私も休みが欲しくなった。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




