2 公爵家次男アルムエルグ
自己紹介をしよう。
オレの名前はバルテハイム王国のドックライム公爵家の次男で名前をアルムエルグと言います。家族や親しい人はアルムと呼んでいます。年は今年で九歳になりました。得意魔法は身体強化魔法です。
尊敬する人は兄のオーラムヴェル兄上です。子供の時に魔法が使えないで嘆いていたオレに救いの手を差し伸べてくれた兄上。兄上のお蔭で今のオレが居るのは間違いないでしょう。
両親も大事に思っていますよ。ライドクリフ父上とディアエルナ母上は魔法が使えない欠陥魔法使いだとわかってもオレを大事にしてくれています。優しく大切な家族です。
そして二つ下の妹、ラルーシャ。現在は王都から離れた公爵領に居て祖父たちと一緒に生活しています。今年、神殿で魔力を授かり王国の魔法使いになると言って両親を驚かせていました。両親は妹を淑女に育てたいと思っていたのですが、魔法を勉強すると言って勝手な事をしたそうです。魔法を使い自室を燃やそうとして怒られ罰を受けました。反省の為に祖父母の所に預けられました。
妹の事が心配です。昔は良く遊んでいましたが、修行で遊ぶ機会が減ったので。
オレと違って魔法の才能が有るから大丈夫だろうと思っていましたが魔法を使って部屋を燃やしました。
才能ある妹だとは思っていましたが、妹に魔法を教えた者は罰を受けて屋敷を去り、妹も魔法を使った罰を受けて泣きながら公爵領に行きました。
……絶対に身体強化の魔法を覚えた事を喋らない様にしよう。オレだけではなく兄にも罰が下りて迷惑をかけてしまう。ガクブル!
両親はお淑やかな子に育てたいみたいなので、祖父母に礼儀作法や常識を妹に教える様頼んだそうです。
ある日、オレは父上の執務室に呼ばれた。部屋に入り貴族の挨拶から始まり父から要件を聞く。
「陛下の御子息のベルファルト殿下の学友にアルムが選ばれた。ベルファルト殿下の側近候補として選ばれたのだ。名誉ある事だ」
ベルファルト殿下。現国王の息子で王位継承権上位にいる方。年齢はオレと同じ年だと聞いている。
「ベルファルト殿下は家庭教師と一人で勉強をされているが、そこに競い合う相手としてアルムが選ばれたのだぞ。アルムも競争相手がいる方が良いだろう」
……別に一人でも勉強は出来るんだけど。
「王宮に上がれるくらいの必要最低限の礼儀作法は教えたがまだ不自然さが残る。王宮に行くまで日が無いが礼儀作法を重点的に教えるぞ!お前は偶に何もない所でこけるからな。そのドジを治せれば良いのだが……」
礼儀作法は苦手なのだがな……。こける事も理由があるからなんだけど……。
「それからこれは内密の任務だ。良く覚えておくように」
内密の任務?なにそれ楽しそう!子供心をくすぐる言葉にワクワクする!
「ベルファルト殿下は人と競った事がない。そして勉強が苦手の様だ。アルムはベルファルト殿下の気分を持ち上げて勉強をさせて良い気分で習い事をさせるように」
「……ベルファルト殿下の御機嫌取りですか?」
「そうだ!アルムはベルファルト殿下よりも勉強が出来ている事は教師から報告を受けている。今日からお前はベルファルト殿下よりも勉強が出来ない出来の悪い子供になるのだ」
「勉強だけですか?」
「勉強だけではなく剣術や礼儀作法やダンス。総てにおいてベルファルト殿下よりも不得意だと演じるのだ。そしてベルファルト殿下の気分を持ち上げる。良い気分で授業をさせるように仕向けるのがアルムの任務だ!」
大変な任務を受けてしまった。オレに出来るだろうか……。
「出来る自信がありません。どのような行動をとれば良いのですか?」
「まずは殿下よりも勉強が出来ない事。これは質問されたら分からないと答えろ。だが全部解りませんではいかんぞ!殿下が知っている事は答えて、知らない事は解りませんと言えば大丈夫だろう」
まずは殿下の学業レベルを調べないと。
「それから剣術やダンスだな。お前は不器用だから殿下よりも下手に見えるから大丈夫だろう。礼儀作法はそのままで良い。殿下の真似をすると王宮で無礼となるからな」
とても大変な任務を請け負ってしまった。オレに務まるのか?
「どうだ?出来そうか?この任務はとても大変な任務だ。でもアルムなら出来ると信じている」
「公爵家の者として必ずその内密の任務を達成します!任せてください!」
父がオレを信頼して言ってくれた任務だ。絶対にやり遂げるぞ!
「流石は私の息子だ。良くぞ言ってくれた!」
「それでは任務にあたりお願いがあります。殿下の学業レベルはどの程度でしょうか?殿
下の趣味や特技、食べ物の好き嫌いも教えてもらいたいのですが」
「わかった。すぐに調べよう。アルムも良く気が付いた。流石は公爵家の者だ」
父に褒められて嬉しい。父に褒められるように頑張ろうと決めた。
※
私の名はライドクリフ=ドックライム公爵。
先日、我がバルテハイム王国の国王陛下から重大な案件を承まった。
陛下の御子息であるベルファルト殿下の学友に私の息子アルムを推薦された。傍から見たら名誉ある事だが私は知っている。
ベルファルト殿下は負けず嫌いで嫌な事があると不機嫌になる困った子供なのだ。
最初はベルファルト殿下の双子の妹であるミリアリア様と一緒に勉強をしていたのだが、試験で殿下がミリアリア様に負けて不貞腐れた。そしてミリアリア様に負け続けた殿下は勉強嫌いとなったと聞いた。今では分かれて勉強をしているがミリアリア様と比べられるとヘソを曲げて不機嫌になる。そのような我儘な子供に私の大切な子供を生贄に出すなんて……。
推薦をした奴を呪ってやると謁見の間で何度も思った。
息子は欠陥魔法使いで何もない所でこける少しドジで困った子供だが頭は良いと教師から話を聞いている。偶に勉強とは関係ない本を読んでいるそうだ。知識を蓄える事は良い事だ。
話を戻す。その事を私は親しい友人に相談をした。
「……私の子供はまだ礼儀作法の勉強中だ。それに比べて君の子供はなんて優秀なのだ。その歳で王宮に上がれるなんて名誉な事じゃないか!」
「しかしその結果がこのような事になってしまった」
「……そうだな。殿下を勉強させたい気分にさせたらどうだ?」
「どういう意味だ?」
「殿下は機嫌が悪いとすぐにヘソを曲げる。剣術の訓練でもそうだった。だから私は殿下よりも下手な者を用意してそいつを貶して叱った。そして殿下の方が上手いとか、殿下の真似をしろと言って殿下を見本にさせたのだ。頼られて気分を良くした殿下はその者に手取り足取り教えてその日の訓練は気分良く終わったぞ」
「王宮の親衛隊の訓練場によくそんな剣術の下手な者を用意できたな」
「その者は私の親族で運動が出来ないもやしっ子でな。偶々王宮に居たから鍛えようと思って連れて来たんだ」
「ちなみにだがその者の歳は?」
「二十歳だ」
「大人に子供を見本にさせたのか!その者は大丈夫だったのか?傷ついてないのか?」
「……傷ついたよ。ずっと部屋から出ずに引きこもっている。大人よりも子供を用意するべきだった」
「可愛そうに。その者に同情するよ」
「そういう訳で、殿下よりも能力が劣る子供で殿下の心も持ち上げる者なら学友になれるのではないか?」
「その子供が私の子供なのだぞ!息子に馬鹿なフリして勉強をしろと言うのか!殿下の気分を持ち上げてゴマすりしろと!」
「……最初はそれでそうやって仲良くなり、少しずつ能力を上げればどうだ?殿下に負けない様に頑張ったとか言って」
「それまで私の子供は馬鹿にされるのか……」
「きつい事だと思うが将来の為だ。今を耐えて将来は競い合う者達になるのなら国の為になるのではないか?」
他に妙案が浮かばず友人の案件をアルムに伝える。私は冷静な態度で伝える。欠陥魔法使いと言われて今度は殿下の道化として王宮に上がる。なんて不憫な子供なのだ!
しかしアルムは私の心情が分かっているのか快諾をしてくれた。そして公爵家の為に任せてくれと言って私は涙が出そうになった。
この事は私とアルムの秘密だ。内密の任務として口止めをした。
これもバルテハイム王国の繁栄の為に、国の未来の為。私は息子を犠牲にした。