12 墓参り
代々の王族が眠るという王領の神殿。
久しぶりに来た。懐かしい。
亡き先王陛下、亡きゴーイングさんとの墓参りした事を思い出す。
この場所での出来事から先王陛下に信頼されたんだ。
花が添えられている墓の前に着くと涙が出て来た。
……先王陛下。お守りできず申し訳ございません。ですが仇はきっと取ります! それからゴーイングさんと仲良くしてくださいね。お疲れさまでした。
墓に花を添えて黙とうする。……あと今度のお茶会でミリアリア様が怒り狂っていない事を願った。……先王陛下。代々の王族の方々、私の願いを聞いてください!
……黙とう中にオレの隣に誰か来た気配がする。
先王陛下に墓参りに来た人だろう。
黙とうを止めて目を開けると隣には、
「アルム様、お爺様に会いに来て下さりありがとうございます」
ミ、ミリ、ミリアリア様! 神殿に居るのでは?
「今日はこちらの神殿で祈りを捧げていました。……お久しぶりです、アルム様」
「はい、ミリアリア様。お久しぶりです」
「体調不良で長い間お休みでしたが、お元気そうで何よりです」
今のミリアリア様は毒を吐かない毒絶状態だ。
さすがに代々王族の墓の前で毒を吐く事は出来ないだろう。
あ、ミリアリア様の学友のファムさんとコレートさんが走ってこっちに向かって来る。
「ミリアリア様! いきなり居なくなって! ってアルムエルグ様!」
「お久しぶりです、ファムさん、コレートさん」
「お、お久ぶりです、元気になられて……。あ! ちょっとお待ちください! コレート! 時間稼ぎお願い!」
ファムさんがミリアリア様の手を引いてオレの隣から移動させる。
代わりにコレートさんがオレの隣に来た。
「お久しぶりです、コレートさん。お元気でしたか?」
「はい、元気にミリアリア様の学友に務めています」
「……今日はこちらの神殿に来ていたのですね。王都の神殿に居ると思っていました」
「はい、基本的に王都の神殿ですが、今回は先王陛下のお墓参りの為に王領の神殿へ来ました」
「……今日は良い天気ですね」
「はい、良い墓参り日和です」
……会話が止まってしまった。何を話す? ……そういえば、
「あの、ファムさんが『時間稼ぎお願い』と言っていましたが、どういう意味ですか?」
あ、今度はコレートさんが固まった。……触れてはいけない話題だったのだろうか?
「申し訳ありません、アルムエルグ様。ミリアリア様の御髪を直していました!」
「コレート、アルム様のお相手ありがとう」
ミリアリア様とファムさんが戻ってきた。……髪型は変わっていないような?
「アルム様、明日、お茶会を……」
「駄目ですミリアリア様。明日から数日間、ずっと用事が埋まっています。長期休みが終わる前日なら大丈夫です。だからその時にお茶会は如何でしょうか? アルムエルグ様」
「はい、大丈夫です。お茶会楽しみにしています」
本当に大丈夫かな? でもミリアリア様の嬉しそうな表情を見たら、断る事が出来なかった。
ファムさんもため息をついて「では後日招待状をお送りいたします」と言う。
「そういえばアルム様、お願いがあります」
え! ミリアリア様がオレにお願い? 嫌な予感が!
「その、今度ですけど、劇に行きませんか? 王都に有名な劇団が来るらしくて」
「はい、予定を空けておきます」
王族のミリアリア様の言葉を否定する事は出来ない。……頑張って予定を空けないと!
「劇を観た後に、少しだけ王都を散策しませんか? ファムが美味しいお菓子屋さんを知っているの。そこで一緒にお菓子を食べませんか?」
「は、はい、私でよろしければ!」
王都を散策するのもお菓子屋さんでお菓子を食べる事も断れない。
「嬉しいです、その時が楽しみです!」
ミリアリア様の嬉しそうな表情。ファムさん達の諦めた表情の落差が凄いな。……学友の二人は何が不都合な事が有るのだろうか?
「王都の散策中は私が雇った暗殺者からネズミの様に逃げ回り、お菓子屋さんの毒入りクッキーを食べて惨たらしくナメクジの様に死ぬアルム様を見るのが楽しみで仕方ありませんわ」
……オレ殺されるの? 劇を見終わった後に?
「他国と戦争中ですから死んでも問題ありませんよ。ネズミやナメクジがゲフッ!」
ミリアリア様がファムさんに殴られて口を塞がれた。
「申し訳ありません、アルムエルグ様。ミリアリア様がアルムエルグ様とデート出来る喜びで、言葉の使い方を忘れてしまったようです」
ミリアリア様が頷いている。……とても嬉しいと言葉の使い方を間違ってしまうのか。
「デートプランは私達が! ミリアリア様の側近が責任もって! 全力で取り組みますので! 王妃様の御力をお借りして素晴らしいデートプランを作成します! ですからアルムエルグ様は楽しみにお待ちください!」
「は、はぁ」
「そろそろ仕事に戻る時間ですので、私達は失礼します! ミリアリア様も『では失礼します』と言っていますので失礼します!」
ファムさんに口を塞がれているミリアリア様が『フゴッフゴッ!』言っているのでその通りなのだと思いオレも「失礼します」と言って別れた。
……ミリアリア様とお茶会、後日に劇を観て散策か。念の為に暗殺者に注意して、毒入りクッキーの為に解毒ポーションの用意をしておこう。
王領の神殿から王都に戻る。
オレの足ならあっという間だ。
もう夕方だから屋敷でゆっくりしよう。
そういえばオレは体調不良で別宅で寝込んでいるから、寝るのは別宅の方が良いかな? そんな事を考えながらオレは別宅で休む事にした。御飯もあるし。
今日はゆっくりしよう。おやすみ
オレは、久しぶりのベッドを満喫した。気持ちよく眠ることが出来た。
朝食を食べて、テオドールの手紙を読む。
手紙の内容はアスタテスラ国の状況、エルドラージ王国との戦場状況、国内の情勢などいろいろと書かれている。
休みを返上して、小さき守護者として情報収集をした方が良いかな? と考えていると玄関からノック音が聞こえる。
誰だろう? 侍女長のマーサかな?
ドアを開けると、エルドラージ王国のコンキデムス王太子が居る! どうしてバルデハイム王国のドックライム公爵家の別宅に居るんだ!
「やあ、先日振りだね、小さき守護者」
どうして此処に居る!
※
「ひーめーさーまー!」
「ファム、怒らないで! だってこんな場所でアルム様とお会いでして、凄く嬉しくて、だから……」
「だからって勝手に決めないでください! お茶会だけならまだしも王都デートですか! 私達を過労死させる気ですか!」
「だって……」
「だってではありません! それになんという毒舌ですか! 暗殺者に狙われてナメクジの様に逃げ回る! 毒入りクッキーを食べてネズミの様に毒殺ッ! マジで引きますよ! どんなデートの誘い方ですか!」
「……ごめんなさい。あとネズミとナメクジが逆です。暗殺者に狙われてネズミの……」
「そんな些細な事はどうでも良いんです! それよりも! 祝福封じの魔法の効果時間は後二十秒あったはずですよ! なのにどうして毒を吐いたのですか!」
「嬉しさのあまり祝福封じの魔法が解けたのかも……」
「……なんて事でしょう。嬉しさのあまり魔法が解除されるなんて。これでは魔法を信用できないではありませんか!」
「だって久しぶりにアルム様と会ったから。やっと会えた事で嬉しくて嬉しくて嬉しくて……」
「……もう嫌だ。学友止めたい」
「ファム、頑張ってください。私だけではミリアリア様の制御できません」
「コレート、私、頑張っているよね……。でももう無理かも……」
「大丈夫ですファム。無理ではありません。頑張れます! 今度お休みをいただきましょう。疲れを癒すために休みましょう」
「……そうですね、コレート。休みをいただきましょう。エリスお姉様も許してくれるわ」
「そうですね、王領の神殿の仕事が終われば学院の長期休みの前日まで休暇を許可します。ファム、コレート。お疲れ様でした」
「……ミリアリア様。原因は貴方だと分かっていますか?」
「もちろんです、ファム。私も神殿の仕事を減らして少し休みますから」
「外出禁止ですよ。ドックライム公爵家に行くのは禁止ですよ!」
「も、もちろんです。城でゆっくり過ごしますよ」
「……信じられません。やはり休みはミリアリア様と一緒に過ごしましょう。おかしな行動を取ってエリス姉様達に迷惑をかけてはいけませんから!」
「ファム、信じて。おかしな行動なんてしないわ」
「信じてほしいのでしたら、お茶会などアドリブで動かないでください。いつもアドリブで動いて大変なのですよ!」
「……ごめんなさい」
「……ファムが休まないのなら私も休みが取れないですね」
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




