1 欠陥魔法使いの子
とある大陸。その一つの王国。バルデハイム王国の貴族令息の出来事。
「兄上!お願いです!助けてください!魔法が使えないのです」
そう言った子供は自分が一番信頼している兄に助けを求めた。
魔法……それはこの世界の人間なら誰でも使える能力で、王族でも貴族でも平民でも犯罪者でも誰でも使える神から与えられた神秘の力の事である。
この世界は三種類の魔法があると言われており世界の常識となっている。
魔力を体の外に出して火や石・水や氷を出したり、突風を吹かせたり、土の表面を動かす事が出来る放出魔法。これは習えば得手・不得手はあるがすぐに覚える事が出来る。
神に祈りを捧げその与えられた魔力をつかい怪我を癒す加護魔法。神殿に仕える神官や信仰深い者達が修行をして使う事が出来る。
最後に魔力を外側に放出しないで体の内側で発生させる身体強化魔法。力や早さ等を二倍から三倍に増やす魔法で極めると五倍くらいになり、これも誰でも出来る魔法で騎士や戦士・力仕事をする者達が主に覚えている魔法である。
この世界の人間は魔力を体の外に出して生成する放出魔法や加護魔法などの魔法を使う事が出来る。しかし魔力を外側に出せない特殊な人間が生まれて来る事がある。その者は魔力を内側で発生させる身体強化魔法しか使えなく、その者は欠陥品と馬鹿にされて欠陥魔法使いと言われる。
先日、公爵家の七歳の子供がお披露目をされた。その子供は明るくて頭も良く優しい子供で家族や公爵家で働く人達にも人気者だった。
この世界では七歳になる子供は神殿に行き、神から魔力や加護や祝福を授かる儀式を受ける。
魔力を授かった者は放出魔法、上位の構築魔法が使う事が出来る。
加護を授かった者は加護魔法、上位の神聖魔法を使う事が出来る。
ごく稀に神から祝福を受ける者がいて、その祝福を受けた者は神に愛された者として大切にされる。
しかし公爵家の子供は魔力を解放出来ない、加護も祝福も授からない欠陥魔法使いだった。
子供の両親は抱きしめて慰めるが、周りの子供やその両親から馬鹿にされ嘲笑うような眼をされている事に気づく。
屋敷に戻ると使用人達から憐れみの目で見られる事になった。その視線を感じた子供は自分が悪いのだと思い子供心に深い傷を負った。
子供は思った。魔法が使えないからみんなが僕を変な目で見るのだと。だったら魔法を使えるようになれば良い。
そう思って魔法を学ぼうとしたが誰も教えてはくれなかった。両親に頼んでも、屋敷の使用人達に頼んでも、勉強を教えてくれる教師に頼んでも誰も教えてくれるものはいなかった。
途方に暮れた子供は兄に頼む事にした。兄は自分よりも年上で学院に行っている。きっと魔法の事もわかるはず!
「お前は魔力を外に出す事が出来ないだろう。魔力を生成して石を出したり、火を出したり、水や氷を出したり出来ないだろう」
魔力を体の外に出す事が出来ないから石や火や水や氷を出す事は出来ない。
「突風を吹かせる事や畑を耕す魔法も出来ないだろう?加護魔法も無理だろう?」
自分の無能に泣き出す。
「な、泣くなよ。でも身体強化の魔法は使えるんだろう?騎士達が使っている。それを覚えたら良いだろう?」
「……でも」
「その魔法を覚えれば国の騎士になれるぞ!強くなれるぞ!騎士は強くてカッコイイんだぞ!みんなに尊敬されるぞ!」
「僕に出来るかな?」
「オレの弟だろう!出来るさ。オレも簡単な身体強化魔法は使える。お前はオレよりも強化魔法を極めるんだ!そしたら強くなれるぞ!」
「でもやり方が分からないよ」
「オレが教えてやる!まずは基本的な事からだな。この本を読んで身体強化魔法を覚えるんだ!それから……」
「それから?」
「学校で身体強化魔法の修行法を調べておくからまずは基礎からだ!オレの言う通りに訓練をするんだぞ!」
「うん!頑張るよ!」
「それからオレから魔法を習っている事は内緒だぞ。本来学生が魔法を教える事は禁止されているのだから。見つかったら罰せられるからな!」
「わかった!絶対に誰にも言わない!」
そうして兄から魔法を習う事になった。しかし兄は強化魔法の修行法など基礎しか知らず、学校の勉強に忙しくて調べる事が出来なかった。だから弟には適当な事を言ってその場を濁した。
「力が足りないぞ!もっと強化するんだ!もっと強化しろ!」
「皮膚を鉄の様にするんだ!剣を弾く鉄の皮膚に!」
「速さだ!スピードを強化して音よりも早く動け!」
「反応が遅い!もっと反射神経を強化するんだ!」
「信じるんだ!自分は強くなると信じて魔法を使え!」
「身体強化の魔法を使い続けろ!寝ている間も体を強化し続けるのだ!」
兄は弟に修行法を説明して「用事があるから」と言いその場を去って行く。身体強化の魔法の修行などわからず、途中で質問されると説明出来ない事がバレそうだから、兄は最初に指示をして立ち去るのだ。
そんな兄弟の秘密の修行から一年後……。兄は言った。
「基礎はこんなものだろう……。後は日々の修練のみ。オレが教える事は何もない。後は自分で頑張れ」
段々と弟の面倒を見るのが面倒になり、修行のネタが尽きて丸投げをした。学校の勉強もおろそかになり、父から説教を受けた次の日だった。弟に適当な事を言うだけ言って後は自分で頑張れと言う。
「ありがとう!兄さん!」
弟は兄に感謝した。そう言って弟は身体強化の修行をすると言ってその場を後にした。
……走るスピードが速いな。身体強化の魔法で速さが三倍くらいになったかな?もう弟の姿が見えなくなり兄は呟く。
「あいつも成長したな……」
思えばいろんな事をした。
力を身に着ける為に重しを付けて運動させたり、速さを身に着ける為に岩を背負って走らせたり、反射神経を養う為に石を近距離から投げたり、魔法の的にさせたり、耐久性を身に着ける為に木刀で叩いたり、精神を鍛える為に寒い日に湖に落としたり。
「さて、今まで遊んだ分、勉強を頑張らないとまた父上から怒られる」
そう言って兄は屋敷に戻った。兄は遊びと思っていたが弟は真面目に修行をしていた。その勘違いがこの国に何をもたらすのかはまだ誰も知らない。
※
それから一年後。兄に言われて一人で身体強化魔法を使い修行を続けた弟は屋敷で働く使用人たちから変な目で見られ続けている。
剣術の訓練では素振りの最中に木刀を飛ばし、走り込みをすれば転ぶ、模擬戦では気後れして相手に負ける。
日常生活でも歩けばよろける。食事中にフォークやスプーンを落とす。勉強中も集中できないのか他のページを開いている。
そんな生活を続けていて屋敷で働いている者達から欠陥魔法使いの愚図で間抜けな子供として認識されていた。
しかし頭の回転は速く物覚えも良かったので教師の者からは「日常生活ではドジな子供だが優秀です」と両親に言っている。
両親はドジな性格を直そうとして礼儀作法に力を入れ貴族として公爵家の子供としてギリギリのレベルまで教育をした。
その理由は国王から王太子の学友として一緒に勉強をする様に言われたからだ。
国王が王子に友人を作らせるためにまず年齢が同じで上位貴族の子供を調べた。
その条件に合った者が公爵家の次男だった。信頼できる公爵家の子供で礼儀作法も王宮に上げる事が出来るように鍛え上げた。頭も良いと教師からも言われている。しかし欠陥魔法使いなので両親は国王にその事を話した。
「そのような事など心配せんでも良い。そのような考えは間違っているから訂正をしないといけないな。公爵の子供は魔法が使えないが優秀と聞くぞ。魔法など使えなくともその勤勉さを息子が見習えば良いのだが……」
「殿下は勉強が苦手なのですか?」
「一人ではやる気が出ないようだ。なので学友を作って勉強をさせようと思ってな」
「……なるほど。分かりました。学友の件、お受けいたします」
「良く言ってくれた!」
国王と父の話し合いの結果、公爵家次男は王子の学友として王宮に行く事になった。
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