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君と僕の幸せを掴むため。  作者: 獅子印
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質問(しに行く感じではない)

 舞は部屋から出て、隣の源の部屋の扉を開けた。中で源は料理を作り、薫は小皿で味見をしている。こうして見ると新婚の夫婦のようだ。案外お似合い。


「源ー、ちょっと出てくるね」

「あれ、どこに行くの?」

「リンさんのとこ」


 舞の言葉に源は若干顔をしかめた。……え、そんな人のとこ行くの?


「……ふーん、行ってらっしゃい。夕飯までには帰るんだよ」

「はーい」


 お母さんのような言葉を聞くと、舞は満足して扉を閉め、倉庫キャンピングカーへと向かった。


「要もどこか行くときは源に報告するようにね。源が居ないときは伊織でもいいよ。そのときは一応最年長だし」

「あれ?薫じゃないの?」

「源が居ないときは大体薫も居ないか任務中だよ」


 ちなみに薫はサブリーダーも努めているらしい。リーダーが居ないときにサブリーダーもほぼ居ないってそれ何か意味あるのか。

 そうこうしていると倉庫に着いた。舞は扉を開ける。


「好きなの選んで」


 ……僕は絶句した。あまりにも多くの武器があったからだ。

 しかしよく見ると武器の種類はあまり無い。それに保存状態が良くないのかあまり質がいいとは言えなかった。

 っていうか銃を持っていきたいんだけど、手入れしてない銃って怖すぎじゃない?弾もなんか適当に放られてるし。

 僕は少し考えて、一本の刀を抜いた。多少状態は悪いが、使えないほどじゃない。


「舞。何か試し切りできるものとかない?」

「んー……そこの壁とか?」

「日本刀過信しすぎだと思う」


 絶対斬れない。折れる。切れ味がどうとかいうレベルじゃない。

 と思ったら刀傷があった。これがダマスカス鉱とやらの力か、ひたすら源の腕か。

 多分両方だろうな。


「はぁ……まあいいや、これと……これかな?」


 僕が手に取ったのは三段ロッド。軽くて硬くて携帯が楽という武器。そして刃物と違って手入れの影響が小さい。

 見ると砥石もあった。時間あったら研いどこう。


「あ、そうそうこれも持っていって」


 渡されたのはリュックサック。タグに小さく『蜂』と書いてある。


「……いやいや、これ伊織のでしょ」

「いいよ別に。そもそも任務の時には持っていくことになってるから君に拒否権は無いよ」

「あ、扱いは任務なんだ……」


 本格的に準備するべきかもしれない。

 舞はそのまま黒塗りの車に乗り込んだ。


「……舞?運転手とか居ないの?」

「え?ああ、大丈夫だよ。この車、私たちが運転しててもわからないように色々細工されてるから」

「ふうん……え?僕が運転するの?」

「そうだよ?」

「……」


 さあ、どうやって断ったものか……


「……運転代わってもらっていい?僕この刀研ぎ直さなきゃ」

「ああ、それならしょうがないね。ついでにリュックの中も見といてね」


 セーフ!

 僕は運転の勉強をすることを心に固く誓った。

 せっかく代わってもらったので、言った通り刀を研ぐ。とはいっても何年ぶりだろう。僕もそんなに経験があるわけではないので丁寧にやる。

 ほんとはあのポンポンやるやつが欲しかったなあ……まあ今回だけの付き合いだしいいけど。

 十分ほど研ぐと刃こぼれも直り、いい具合に仕上がった。本当はもっと色々行程があるらしいけど、今は切れ味以外必要ないからこれでいい。

 真っ直ぐになった刃を見つつ、車に乗ってから初めて僕は口を開いた。


「あとどれくらいで着くの?」

「んー?今半分くらいかな」

「結構遠いんだね……うえっ!?」


 僕はずっと研磨をしていた。

 これ以上無いほど集中していた。

 だから許して欲しい。僕に罪はない。

 車は法定速度を数十キロ越えていた。高速道路のやつだ。


「ちょ、捕まったらどうすんの!?」

「え、大丈夫だよ。私の運転技術って割と高いし、黒塗りってだけで馬鹿な警察はヤクザだと思って近付いてこないからね」

「でも中身は違うじゃん!」

「中身はもーっと危険だからねー」


 舞には緊張感の欠片もない。暗殺者って意外と適当なんだろうか。

 舞は「それよりリュックの中身見た?」とこっちを見て言う。お願いだから前を見て欲しい。


「うん、まあ……携帯食、ワイヤー、錠開け、ピッキングツール……色々あるね」

「ピッキングはできる?」

「一応」


 一通りは勉強している。もっとも、使用法はまったく逆として教わったけど。


「それで、リンさんってのは何者なの?」

「ああ……あはは、それ聞いちゃう?」

「そりゃ聞いちゃうよ。気になるし」

「着いてからのお楽しみって思ってたけどね……そうだなあ、一言で言うと『エリート』かな」

「エリート?なに、暗殺者にも学校とかあるの?」

「ああいや、そうじゃなくて……源から聞いた?あたしたち、『チームZ』の話」

「ああ……個人主義だからちょっと外れてるとかいう」

「そうそう、だからZって組織のために動いてるんじゃないんだよね。つまり、『反逆者予備軍』なわけ」

「……なるほど」


 多分、言いたいのはこういうことだろう。

 「チームZは他のチームから嫌われている」と。


「それで?リンさんとそれがどう関係してくるわけ?」

「うーん……リンさんって、だから異端な存在でね。考え方はこっち寄りなんだけど、それを一切見せないで向こうに居る……中立みたいな存在なの。つまり」


 不意に車を停めた。バックして駐車場に入れると、舞は車から降りた。僕は刀を吊るして三段ロッドを懐に忍ばせる。

 目の前には、宮殿があった。

 大きな、宮殿。

 都内にこんなものがあったなんて。


「情報統制がかかってるし、立ち入り禁止区域にあるからバレないんだけどね」


 舞が宮殿を見上げつつ口を開いた。


「リンさんはエリート、チームBのリーダーです」


 僕はやっと、これほどまでの装備をしていく意味がわかった。

 ここはもう、敵地だ。

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