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君と僕の幸せを掴むため。  作者: 獅子印
4/8

自己紹介

「さ、これに乗るといい」


 指差されたのは車だった。黒塗りでなんか高そうだ。っていうかヤクザっぽいなあ。


「……これに乗ったら中で消されたりとか」

『ないない』


 ハモった。

 なんだろう、なんかムカつく。


「殺し屋って言ってもそんなに野蛮じゃないよ?」

「僕に話しかけられた瞬間に殺しに来たくせに……」


 僕は根に持つタイプである。

 舞は苦笑いしつつ黙った。八重歯がちらりと見えてかわいい。


「顔、顔」

「あ、あはは」


 和服の人に指摘されて僕は慌てて顔を鎮める。照れ笑いするのは仕方の無いことだと思う。

 車に乗り込んだ。着物の人が運転、伊織が助手席、僕と舞が後部座席に座る形だ。


「さて、アジトに着くまで暇だし、自己紹介でもしようか」

「おお……アジト!なんか夢に溢れた響きだね!」

「……話の主軸は自己紹介なんだけどね」


 こほん、と咳払いして、着物の人がまず自己紹介をした。


「僕はげん。一応チームのリーダーをしてる。歳は23。よろしくね」


 源に続き、年長者だからか伊織が口を開いた。


「……伊織いおりだ。専門は潜入と暗殺。歳は19。よろしくする気はねえが、まあ……がんばれや」

「あれでも実力は認めてるんだよ。素直じゃないよねえ」

「うるさいぞ舞!次はお前だ!」

「あー、怖い怖い」


 舞はわざわざこっちに体を向けた。シートに正座する姿は年齢以上に幼く見えて、やっぱり可愛い。


まいだよ。専門は事故の偽装と広域殲滅。……あ、あとあんまりやらないけど陽動?歳は13。同じくらいの歳っぽいし、よろしく」

「……よろしく」

「舞にだけ返事するのはどうなんだい?君」


 肩をすくめて首を振る源。お願いだからハンドルもって、前見て。あと突っ込まないで。

 そして僕に視線が集中した。どうやら次は僕の番らしい。


「……須藤すどうかなめです。歳は13。専門っていうか……向かい合っての戦闘が得意、かな?」

「あ、やっぱ同い年だった!」


 無邪気にはしゃぐ舞とは対照的に、源は渋い顔をしていた。ちなみに伊織は既に寝ている。ほほう、僕の自己紹介にそんなに興味がないと?


「どうしたの?源」

「ん……いや、なんでもないよ。少し気になることがあってね……あ、もう着くよ」


 そう言われ、見た先にあるのは。

 普通のアパートだった。


「……えー」

「おや、残念そうだね」

「いやー、だって……」


 本当にただのアパートだ。古くも、ボロくも、カッコよくもない。特徴を上げるなら……そう、5つものキャンピングカー、3つの黒塗りの車が停められていることだ。

 とてもアジトという雰囲気ではない。

 ちなみに、部屋は4つ。僕を抜きにしても既に一部屋足りていない。地下でもあるんだろうか。


「まあ、残念ながらロマンを重視していないからね。車が多いから目立つし、外装くらいは地味じゃないと」

「あー……まあ、そう聞いたら分かるけどさ」

「ちなみに、家も兼用だよ」

「それもなんとなく分かってた」

「源は薫と、伊織は聖と同じ部屋なんだよ」


 私だけ一人部屋なんだ、と舞は笑った。どうやら一部屋は空けているのか、共用スペースのようだ。

 ……ん?


「あ、要は今日から舞と同じ部屋に住んでもらうから。舞もいいね?」

「はーい」

「ちょ、ええ!?」


 やっぱそうなるの!?でもいいの!?


「源!僕健康な13歳なんだけど!」

「知ってるけど?」

「間違いとかあったらどうするの!?」

「え、起こせば?」


 なんと、間違いが起こるのを悪いことと思っていない。日常的に人殺してるとこんなことになるのか。

 ……って、え?


「舞、まさか……」

「生娘だよ。安心しなさい」

「心を読むな!」


 あと舞と会話させて。僕さっきから源としか喋ってないんだけど。

 ていうか生娘って。

 古いよ、表現が。


「そら、一番左の部屋だ。入りなさい」


 どうやらその部屋は集会所のようなものらしかった。

 思ったよりも広い部屋に、ホワイトボード、机、椅子、棚と大量の箱だけが置いてある殺風景な部屋だ。必要最低限、なのだろう。

 その中の椅子二つに、彼らは座っていた。

 一人は、白かった。

 歳はたぶん高校生くらい。しかし、何もかもが白い。肌も、服も、髪も。

 服は、ナポレオンコートのような形だがとにかく白い。素材的に元は軍服だと思われる。

 髪も肌も脱色したかのように白く、顔にかけた派手なサングラスだけがーーー黒い。対照的だからか、ぽっかりと穴が開いたようにさえ見える。


 もう一人は、女だ。

 後ろで三つ編みにした髪は黒く艶やかで、それでいてどこか荒々しい。おそらく武器に使うのだろう。

 切れ長な目がこちらを見た。ぞくりと背中が冷えた。


「源。誰よこの子」

「新メンバーだよ。須藤要くんというらしい」

「ふうん……ん?須藤……?」


 女性も源と同じく、僕の自己紹介を聞いてーーー僕の名字を聞いて、考え込んだ。

 何かあるのかと思ったが、彼女は「まあよくある名前ね」と納得して、僕に向き直った。


「あたしは薫。基本的に司令っていうか……まあ参謀?みたいなことをしているわ。源とは幼馴染よ。よろしくね」


 ウインクまで飛ばすサービス精神。しかし、それはいまいち僕に向けたものではない気がする。

 ちらりと後ろを見た。源の視線が少し熱を帯びている。そういえば源と一緒に暮らしてる人は薫というんだったか。

 ……ほほう?

 僕は気付いてしまったけれど、なにも知らないふりをすることに決めた。またからかわれたときにでも使おう。


 薫が隣の少年(といっても僕より年上だけど)に目を向けた。それを受けて彼は喋り出す。


「……聖といいます。歳は16歳です。……ちょっと、サングラスは外したくないかな」


 目でも見えないのかな?

 少し疑問に思ったけれど、まあ突っ込まない。何にせよ気軽に聞いちゃいけないことだろう。

 というか敬語が気になった。少し壁を作っているのかもしれない。こうなると全く敬語を使わない僕もどうかと思わなくもない。


「さて、全員自己紹介は済んだね」

「え、ちょっと。あたしたちはその子のこと名前しか知らないんだけど」

「それは任務のときにってことで」

「いや、あたし作戦さんぼ……」


 聖が薫の腕を掴んだ。言っても無駄だということだろう。源、意外に独裁者だ。


「よろしくね」


 フォローの意味も込めて、僕は二人に手を出した。


「……よろしく」

「……うっ、ちょっと可愛いじゃない」


 二人はそれぞれ僕の手を握ってくれた。

 握手と言うのは結構好きだ。なんだか、仲間になれたような気がする。

 

 僕が握手の感触に浸っていると、パーカーのフードが引かれた。源だ。


「要はこっちだ。他のみんなは部屋にでも戻っといて。彼には誓約書を書いてもらおう」


 誓約書?

 なにやら不穏なワードに僕は警戒する。が、そんなことは構わず源はさっさと行こうとするので必然的にフードを掴まれている僕も行くことになった。


「じゃ、じゃあまた後でね」


 それを言うのが僕の精一杯だった。

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