テスト
最初だから更新早いです。だんだん遅くなっていくからお気をつけて。
彼は本気だった。
流石にプロ、僕に毒が効かないと認め、針でなく靴本体で戦い始めた。固そうな踵部分から繰り出される、重そうな蹴り。
「ははっ、どうした!威勢の割にさっぱり攻撃しねえじゃねえか!武器のひとつでも用意してやろうか!?」
「……どうしたの?さっきから随分親切だけど。毒を抜くとかなんとか言ってたし」
「そりゃそうさ!俺たちは殺し屋だ、本気を出せる仕事なんか滅多に回ってこねえから、な!」
ごしゃ、と蹴りとは思えない音。見ると、コンクリートが砕けていた。
これは受け止めるのは無理そうだな。
僕はそう思って一度下がった。
「なんだ、怖じ気づい……」
「てないよ」
僕は生えている街路樹の枝からできるだけ太く、長く、真っ直ぐなものを折りとって縦に振るった。男は下手にそれを受け止めようとはせず、横にかわす。轟音が響いた。枝が彼の頬に引っ掛かって血が出るが、大したアクションもせずこっちを見据えている。
やはり、手強い。
さて、どうするか。奥の手はもちろんあるけど、あんまり使いたくないんだよね……
そんなある意味状況に則さないことを考えていると、男が妙なことを言い出した。
「……一介のガキがそんなの振り回すかよ、すげえ膂力だな、おい。ーーーてめえ、何者だ?」
「……何者?」
僕は聞き返した。
もしや、あらぬ誤解を受けてないか?
「聞き方変えてやろうか?どこ(・・)の回し者かって聞いてんだよ」
「ちょ、僕は別にそんなんじゃ……」
「じゃあ何か?プロの殺し屋と渡り合える中学生が常人だって言うのかよ?それなら俺たちの商売は成り立っちゃいねえぜ」
「いや、常人じゃないかもしれないけどーーー」
「もしどこの者でもない表の世界の奴だってんなら、すげえのはお前の師か、あるいは」
遺伝子か?
男はおどけるように言った。きっと冗談のつもりなんだろう。
しかし、僕はその言葉に、
頭が、真っ白になった。
「……あ?なんだよ、壊れたか?」
不用意に近づく男。彼はしかし攻撃をすることもない。さっきの言葉通り、こんな機会滅多にないのだろう。こんなところで終わらせたくないらしい。
しかし、その願いは叶わない。
「おわっ!?」
手にした棒で男の顎をかち上げる。少しかするだけでクリーンヒットはしないが、僕にとってはそれでよかった。
勢いのまま、僕は跳んだ。そこからの上段下ろし。重力を含み、大きく衝撃を高めたその攻撃は、しかしひらりとかわされた。
「馬鹿の一つ覚えかよ、そんなの当たるわけが……」
そうして、彼の言葉は止まった。気づいたらしい。
さっきはあった轟音が、今は起こっていないことに。
僕の一撃が、地面を砕いていないことに。
エネルギーが、まだ生きていることに。
「う……うおおおおお!」
回転しつつ、すれすれで地面に当たらないよう棒は動いた。そして、そのまま僕が回転し、頭を下にして後ろを向いた瞬間。
彼は、襲ってきた。
「馬鹿がぁっ!どんな理由でも、敵に背中を見せるってのがどういうことか、わかってねえのかっ!」
男の足がこっちを狙う。
先端の針は、僕の首筋を狙う。狙って、あわや届くかというところで。
止まった。
「な……!?」
「須藤流ーーー」
攻撃と攻撃の間で、後ろ手にものを投げる技。
「『彗星』」
男の軸足には、先程|舞という少女から奪った(・・・・・・・・・・)ナイフ(・・・)が刺さっていた。
そして、当然の帰結として棒はそのエネルギーのまま、男の頭に吸い込まれーーー
斬れて、落ちた。
「……うちの伊織が悪かったようだね。それに、邪魔をしてすまない。こいつは馬鹿な男だけれど、殺されちゃ困るんだ」
伊織というのは、さっきまで戦っていた男のことだろうーーーなんて、考える余裕は無かった。
僕からすれば、来た男は新手だ。二対一はまずい。舞という少女が起きると三対一。勝てる気もしない。
男は和服を着ていた。袴に羽織。剣客、といった格好で、事実腰には短い刀を帯びている。あれは小太刀だろうか?
男は柔和な笑みを浮かべつつ、僕に話しかけた。何だ?命はない、か?口を封じる、か?
「どうだい、君。僕たちの仲間にならないか?」
「……は?」
……殺し屋とは、こんな適当でいいのか、と思う次第だった。