親友から、大切なことを教わりました。
気が付くと、私は家の前にいました。どこをどう通って帰ってきたのかも覚えていません。きっと上の空になってしまっていたんだとおもいます。
私は部屋のベットに身を投げました。とにかくその時は頭の中がぐちゃぐちゃで、何もする気が起きなかったんです。それから八時くらいまでそのまま寝てしまいました。目が覚めたのはスマホの着信音のおかげでした。その時三人からラインでメッセージが届いていたんです。「明日は頑張ろうね」って。
それを確認した時、コウスケ君に言われてしまったことを打ち明けようか悩んだんです。でも結局、打ち明けられませんでした。
これまでもすごいいろいろ振り回してしまいましたけど、明日はみんなにとっても大切な日ですし、コウスケ君だって本気で私のことを好いてくれたからこその言葉だと思います。
だから、私はそのまま一言だけ「がんばろうね」って送り返しました。
二週間前からの、もっと言えば告白された日、三人に相談したその時からの私の宿題だったんです。きっとここで結論を出すことができなかったら、もう二度と結論を出すことなんかできないって、そう思いました。
「考えなくっちゃ」
私は一度頬を張って起き上がりました。
私は一度自分の気持ちをリセットするために夕食を食べてお風呂に入りました。お風呂の中でも悩んで、結局はわからなくて上がって、そして部屋に戻った時、また二つほどラインでメッセージが届いていることに気づきました。
一つはコウスケ君からでした。
「明日、頑張ろうなお互い。あと、キスの件だけど一方的に言ってごめん。もし嫌なら、断ってくれていいから」
もう一つはサキちゃんからでした。
「これを見たら電話して」
三十分前に送られてきたラインでした。電話してとメッセージにはありましたが、時計を見ればもう十時になりそうな時間です。ラインならともかく電話は迷惑ではないかとあれこれ考えているうちに、サキちゃんから電話がかかってきました。
そして電話に出ると、耳をつんざくような怒声で怒られました。
「ばかぁ!!」って。
なんでも、「明日は頑張ろうね」という内容のラインが既読になったのにすぐに返信してこなかったことを不思議に思ったサキちゃんが、コウスケ君に何か変なことを言ったんじゃないかって問い詰めたらしいんです。すごく怒られました。ちゃんと相談しなさいってあれほど言ったのにってすごく怒られました。
そしたら不思議なんです。サキちゃんの声を聴いていると、涙がこぼれてきたんです。
どうしてでしょう。サキちゃんの声を聞いて安心してしまったんでしょうか。その時の感情はわかりませんでした。でも、涙をこぼしながらサキちゃんに怒られているうちに、こう漏らしたんです。
「サキちゃんだったら、すぐに好きって言えるのになぁ」
するとサキちゃんは少し優しく声をなおして、こう言ってくれました。
「私もナナだったらすぐに好きって言えるよ。友達としての好きと、恋人としての好きは全く別物なの。悲観的になる必要なんてないよ」
そこから、サキちゃんは少し私とコウスケ君がどう見えていたのか話してくれました。お似合いと言ってくれたことには素直に嬉しかったんですけど、少しコウスケ君に対して辛口の意見が目立った気がします。そこだけは少し残念です。
そんな話をされて、私も少し話をしました。どんなことを話したのかは覚えていないので、きっとたわいない話だったと思います。少しだけそんな時間を過ごして、ありがとうと一言言って電話を切ろうとした時、サキちゃんが言ったんです。
「考えて悩んで、それでもどうしようもなかったときは、コウスケ君が好きって、言ってみなさい」
サキちゃんとの電話が終わった後、私はベットに横たわって、サキちゃんの言っていたように口ずさんでみました。
「コウスケ君が、好き」
そうすると、別にコウスケ君がいるわけでもないのに無性に恥ずかしくなって、頬が焼けたように熱くなってしまって、枕に顔をうずめました。
けれどどうしてだったんでしょう。そう口ずさむのを、やめられませんでした。
私は顔を枕にうずめながら、何回も「好き」と、「コウスケ君が好き」と言い続けました。
そして、その時になってやっと気づいたんです。私「コウスケ君のことが好き」と言ったのは、その時が初めてだったということを。
そのことに気づいた時最初はなんでそのことに気づけなかったんだと自分に嫌気がさして、自分にバカバカと思いながら、やけくそのように「すき」を連呼しました。
そうやってひとしきり叫んだ後はまた力なくベットに横たわって、今度は自分の胸に問いかけたんです。
「私、コウスケ君が好き」
すると胸の奥から湧き出てくる感情がありました。でも、その時は不思議と嫌な気持ちがしなかったんです。
「コウスケ君が、好き」
もう一度確かめるように、私はそう声を出しました。そしたら胸の中に漂う感情が呼応するように大きくなるのを感じたんです。その瞬間はまだその感情が何なのか、確証は持てませんでした。
でも、私はコウスケ君が好きだって呟くと、どうしてか心の不安が和らいで落ち着いたんです。
その感情が何なのか確信が持てたのはもう少しだけ後でした。
次の日、私が教室につくと、先に来ていたコウスケ君が神妙な顔をして近づいてきました。私はそんなコウスケ君の手を取って階段の踊り場まで連れ出しました。他の人がいるところだと、さすがにまだ恥ずかしかったんです。
そしてまだ面と向かい合って言うのは恥ずかしかったので、コウスケ君には後ろを向いてもらって、コウスケ君の背中に私は言ったんです。
「コウスケ君が、好きです」
言葉自体は昨日連呼したせいもあって変につっかえることなく出てきてくれました。
けれど目の前にコウスケ君がいるのにそう言ってしまった恥ずかしさが後になってこみあげてきて、少しパニック状態にもなってしまいました。
でも、私はその時初めて、自分の気持ちが、コウスケ君が好きだって気持ちだって自覚することができたんです。