恋との対面
その週末の休日からはコウスケ君と出かけることが多くなりました。
でもだからと言ってサキちゃんたちと会う時間を減らしたわけでもなく折り合いはつけていました。
コウスケ君と出かけることは新しい発見の連続でした。
私が一人では入れないようなお店をいくつも回りました。一番衝撃だったのはあれです。ラーメン屋です。そういう女の子一人ではなかなかいけないようなところに行ってみたいと思っていたことがあって、思い切ってコウスケ君に頼んでみたところ快く連れて行ってくれました。
注文した品は普通の醤油ラーメンです。ラーメンは全く食べたことがないというわけではありませんでした。何度かファミレスとかでも食べたことがあります。ですがさすが本場のラーメン屋さんで食べるラーメンは違います。とってもおいしかったです。
他にもコウスケ君の劇を見に行ったこともあります。普段は私と手を繋いで、時にはあどけない顔で笑うコウスケ君が、舞台の上に立つととても堂々と演技をしていました。大勢の観客の前でスポットライトを一身に浴びて、身振り手振りで感情を表しながら舞台の上で舞うコウスケ君を見て、とても感動しました。彼が私の彼氏なんだと思うと、少しこそばゆく思うほどでした。
そんな新しく楽しい日常を過ごすうちに、私は間違いなくコウスケ君に引かれていきました。
コウスケ君とデートに行くたびに、コウスケ君が私のことを好いてくれていることがわかって、それがとても嬉しかったんです。
けれど、ある時から、私は不安に駆られるようになりました。
それはコウスケ君が私に何かをしたとか、そんな話じゃないんです。私自身の問題です。
私は、コウスケ君のことが好きと思えているのか、それが分からなかったんです。
始まりはふっとした時に、私はコウスケ君のことをちゃんと好きになれているのだろうかと自問自答したところからです。
たぶん、そう考えた時にはもうすでにコウスケ君のことを好きになれていたような気はするのですけれど、当時の私は答えが出せなかったんです。
私はコウスケ君のことが好きなのでしょうか。
そう胸に問いかけると、もやもやとした感情が顔を見せるんです。その感情のことについて考えだすと、どうしてか胸が苦しくなりました。
その感情を、恋だとは思えませんでした。
その問題は日に日に私の中で大きく育っていきました。
心の中にそんな問題を抱え込みながら、彼に対して取り繕うような笑みを向けると、彼は眩しい笑顔を向けてくるんです。
そんな顔を向けられるたびに、私の心はどんどん冷たくなっていきました。
コウスケ君が私の手を引いて私のことを好いてくれているとわかる度に、私の心がどんどんコウスケ君から遠ざかっているのではと思えて仕方ありませんでした。
コウスケ君との日々を過ごしていくうちにどんどん心の中では罪悪感のような感情ばかりが積もっていったんです。
コウスケ君のことを好きと思っているのかどうか自問自答するたびに、好きという感情がどんどん分からなくなってしまいました。
私は私の気持ちを信じられるほど、私に自信がありませんでした。
付き合い始めてから三か月ほどたった頃、我慢できないところまで来てしまった私は、親友三人を集めて、相談を持ち掛けました。
「ねえ、好きって、どんな気持ちなの?」
その時の三人の反応はあまり思い出せません。きっと、私が俯いていたんだと思います。
その頃の私はひどいもので、学校でも家でも好きとはいったいどういうことだろうと考えるようになってしまっていて、だいぶ沈んだ時期でした。
私が感じている感情は恋なのか。
そんな疑問をずっと自分にぶつけていましたが、私は私の気持ちが恋だとは思えませんでした。
だってもしも私が恋に落ちていたら、もっとサキちゃんみたいに彼氏の愚痴を言う時ですらニヤニヤが止まらなくなるはずで、ユイちゃんみたいにキスのような話に積極的になりたいと思うはずで、マナちゃんみたいに学校でもイチャイチャしていたいと思うはずだと考えていたからです。
四六時中コウスケ君のことばかり考えるようになって、なんやかんやで友達よりも彼氏の方が大切な存在になっていくんだろうって思ったんです。
でも、そうはなっていませんでした。
私はコウスケ君のことを好きになりきれていない。
何回か思考して、その結論に至ってしまった時、とても胸が痛くなってしまうのです。
痛くて苦しくて、涙が出てきてしまうんです。
今ならわかるんです。私は私の気持ちを信じられるほど私に自信がなかった。たったそれだけのことでした。
でもそれは今だからこそわかることで、当時の私ではたどり着けないことだったんです。
私はとにかく三人の言葉を聞きたかった。
「いつからみんなは、自分の気持ちが好きだって気持ちだって、思えるようになったの?」
三人とも私のようにぐずぐず悩んだりはしてしません。みんなそれぞれの彼氏と仲良く青春しているのは日々の愚痴を聞いていればよくわかるんです。
三人とも彼氏のことをちゃんと好きだと思っているんだということが言葉の節々から伝わってくるんです。どうして彼氏のことを好きと思えるのか、どうやって自分の気持ちが好きという気持ちだと知ることができたのか、それを知りたいと思いました。
でも三人の答えからその答えを知ることはできませんでした。
「私は、みんなから見て、ちゃんと恋ができているのでしょうか?みんなは、私を見て、私がコウスケ君を好いているように思いますか?」
私は一度そう問いかけました。それには少々みんな悩みながらも頷き返してくれました。
でも、みんなの頷きも私は一瞬疑ってしまいました。無意識のうちでした。
でも、私が三人のことを疑ったことを自覚した時、私は何を信じたらいいのか分からなくなってしまったんです。
ちょっとしたメンタルクライシスな状態に陥ってしまって、気が付いたらぽろぽろと涙をこぼしていたんです。
さすがにみんなも驚いていました。
サキちゃんなんか私に抱き着いて、全然悪くないのに「ごめんね」って何回も謝ってきたんです。
その後は、私が泣き出してしまったこともあって、「別れることも真剣に考えた方がいい」と三人に言われてしまいました。
実際に好きであったとしてもそれが自覚できるようになるまでは距離を置いた方がいいという判断だったようなんです。
でも、それには嫌だと、きっぱり言うことができました。
私の勝手でコウスケ君に一方的にしばらくの間別れてくださいと言って、好きだと自覚したらまた付き合ってくださいなどと言うようなことはコウスケ君のことを考えるとどうしても嫌だったんです。
結局その相談後は、様子見ということになりました。
なんやかんやで、その時に一度相談をしてしまってよかったと思います。
一度みんなに話したためか、感情がいっぱいになって涙を流してしまったせいか、話し終わった時には少し落ち着いていたんです。
三人もその後はもっと私たちのことを注意深く見ると言ってくれました。
その日からまだ心の中ではぎすぎすとはしながらも日常に戻ることになりました。
しかしその日から二日後、私の中学人生における第二の大事件が幕を開けることになったんです。