事件です事件です、大事件です。
私の中学生活の始まりはそんな日からスタートしました。
小学校から中学校に上がりましたが、しばらくはそうそう変わったこともありません。
変化があるとしたら二つ。
一つは手芸部に入ったこと。
もう一つはサキちゃんと私に加えて手芸部で初めて知り合ったマナちゃん、マナちゃんの小学生時代からの友達で陸上部のユイちゃんとよく一緒に行動するようになったこと。
わずかに日常に変化がありましたが、慣れてしまえば日々はあっという間に過ぎていくようになりました。
少しだけ増えたお小遣いを使ってカフェに行ったりユイちゃんの応援にみんなで行ったりと、そういう日常を過ごしました。
けれど、他のみんなも私と同じように変化のない日常を過ごしているわけではないと気づくのには、もう少しだけ時間が必要でした。
サキちゃんは中学に入学してたった半年で、新しく彼氏ができました。なんでも二年生のサッカー部の先輩だったそうです。
サキちゃんは背が高くて、かわいくて、勉強ができて、女の子らしい。そんな男子の理想の彼女像を体現したかのような子なのですから、彼氏ができたことにはそこまで驚きはありませんでした。
ただ、内心ちょっと心配もしていました。サキちゃんに彼氏ができることで私たちとの関係が疎遠になってしまうかもしれないと考えてしまうこともあったからです。
けれど知っての通り、そんな心配は無用でした。
学校や、彼氏との用事が入っていない休日にユイちゃんマナちゃんも含めて四人で過ごす時間はしっかりと取ってくれました。
小学生の頃と何も変わりませんでした。サキちゃんに彼氏ができても親友ということに変わりはありませんでした。
だからでしょうか、その時はまだ特に強く彼氏という存在を意識することはありませんでした。
ですが、そこからさらに三か月ほど過ぎたころ。ユイちゃんにもマナちゃんにも彼氏ができ、サキちゃんはキスまで済ませたという報告を聞いた時、私は友達はみんな大人へと成長していることに気づいたのです。
正直言えばショックでした。いつまでも友達同士同じ子供だとどこかで思っていたのだと思います。
ですが、それは大きな間違いでした。
みんなそれぞれに同じだけの時間があって、私がどれだけ子供のままでいてほしいと願っても、みんなそれぞれの生きざまで成長していくのですから。
だからでしょうか、恋愛というものに、少々焦りのようなものを感じていました。
私にも彼氏という存在に焦がれ始めたのは、きっとその時だったと思います。
二三日は悶々とした日々を過ごすことにもなりました。
ですが、当時クラスの男子をそういう目で見てはこなかったので、いきなりそんな目で見ることはできませんでしたし、一目見ただけで心を持って行かれるような体験がなかったこともまた事実です。
それに、サキちゃんのようなかわいい子よりもドジで地味な私のことを好いてくれる人がいるとはとても思えませんでした。
三日も経てば、現実を見ることができるようになりました。
ダメです。無理です。私に彼氏なんてできません。先ず私のことを好きになってくれる人を見つけること自体が不可能に近いです。同じクラスにサキちゃんのようなかわいい子がいるのに私なんかに彼氏ができるとは思えませんでした。
だから、私はその時一度恋をあきらめました。
何も恋だけが成長を意味するわけではありません。だから私は私なりの日常で成長していけばいいとそう割り切ったんです。
私が恋をするのはそういう人が現れた時でいいと、そう思うことにしました。
もちろん恋に焦がれる気持ちはあったんですよ?
うらやましいなって、親友のことを妬んだこともありましたよ?
でも当時の私は、自分を好いてくれる人がいると思うほど自分に自信がなかったんです。
割り切った私は、以前と同じ日常に戻りました。
小学生の頃と変わらず愚痴を聞くことが多かったですが、時には顔を覆いたくなってしまうような話を聞かされたこともあります。
そんな話をされるたびに心の端っこで「私もこんな話ができたらな」なんてかなわない夢を想いながら日々を過ごしました。
そんな中、大事件は起こったのです。
それはまさしく大事件でした。一世一代の大事件でした。
その事件が起きたのは去年の秋。夏休みが過ぎてすぐのことでした。
「君のことが好きです、つきあってください」
同じクラスのコウスケ君に、私は告白されたのです。